第13話 重さ・空間・距離・方向
三つの石の試練が始まって、10日はすぎただろうか。
グラグラあちこちへ流れる石を揃えることに疲れ果てた頃。
私はふと、気がついた。
もしかしたら。
私は考え違いをしていたのかもしれない。
いつもの庭先。
拳大の石が三つ。
地面の上に並んでいる。
目を閉じて石の存在を魔力で感じ取る。
持ち上げる、のではない。
支える。
師匠の言葉を思い出す。
魔力を押し出すな。
支える。
息を吸う。
ゆっくり吐く。
石の重さを意識する。
土の冷たさ。丸み。密度。
(……重さが、ある)
当たり前のことに、初めて気づいたような感覚。
今までは「石を動かす」ことばかり考えていた。
でもそうじゃない。
そこにあるのは、石だけじゃない。
石があって、空間がある。
距離があって、重さがある。
その間を意識する。
石と空間の関係をとらえる。
石はそこにある。
そこに「足りない分だけ」魔力を置く。
動かすのじゃなくて、位置を変える。
石が浮いた。
驚かない。
喜ばない。
集中を切らさない。
浮いている、というより
――そこに、「あるべき場所に留まっている」感覚。
(これだ)
胸の奥で何かが繋がる。
二つ目の石を浮かせる。
決めた位置までの移動。
止まる。
三つ目。
目指した位置へ決められたスピードで移動する。
止まる。
三つの石が空中に並ぶ。
揺れない。
落ちない。
呼吸と一緒に、魔力が流れている。
師匠が何も言わない。
それが、成功している証拠だった。
指を少し動かす。
石がゆっくり回り始める。
三つの石が、同じ距離、同じ高さを保ったまま円を描く。
速くはないが、静かに。
滑らかに。
「……できた」
声が震える。
石は落ちない。
止める。
止まる。
ゆっくり下ろす。
三つとも、同時に地面へ戻った。
その瞬間、どっと疲れが来る。
膝に手をついて息を吐く。
「……なんか、わかりました」
顔を上げると、師匠がこちらを見ていた。
「どう分かった」
「動かすんじゃなくて……支えるっていうか……」
言葉を探す。
「重さと場所を、ちゃんと考える感じです」
少しの沈黙。
「そうだ」
短い肯定。
それだけで十分だった。
数日後、呼吸を乱さずにくるくる三角形を回せるようになり、
三つの石との付き合いも、終わった。




