第37話『ブラックボックスの悲鳴』
ゴルドフたちを置き去りにし、俺たちは意気揚々と『次の配送先』へと向かっていた。
荒野をひた走る銀と金の流線型車両、『ギガ・フロスト・ノヴァ』。
絶対零度の冷気を纏い、砂漠の熱を物ともしないその走りは、まさに無敵のクーラーボックス……のはずだった。
キュルキュル……ガリッ……。
「……ん?」
快適な車内に、微かな、しかし致命的な異音が混じり始めた。
助手席のシエラが、苦しそうにヘッドホンを押さえる。
「……ノイズです。透き通った美しい心音に、金属が擦れるような雑音が混じっています」
「マジかよ」
俺は慌ててトラックを停め、外に出てボンネットを開けた。
そして、絶句した。
「……ボルトもナットも、溶接の継ぎ目すらねえ」
ミスリルとオリハルコンで構成されたエンジンブロック。それはあの災害が、魔法という「感覚」で金属をこねて作ったものだ。
そのため、一切の隙間がない完全な一つの塊になっていた。
部品を外して摩耗を確認することも、潤滑油を差すことも物理的に不可能な構造。
いわゆる、完全なる『ブラックボックス』だ。
加速も冷房も完璧だが、内部で物理的に部品が擦れ合っている状態を、外からどうにかする手段が存在しない。
◇
「ダメだ。俺の温度操作じゃ、見えない内部の物理的な摩耗までは直せない。このままじゃ、近いうちに摩擦熱で焼き付くぞ」
結局、俺たちは泣く泣く依頼をキャンセルし、だましだましトラックを走らせて拠点『フローズン・ステーション』へと引き返す羽目になった。
ガレージに車を停め、俺は頭を抱えていた。
いくら最新技術や神素材を使っていようと、「メンテナンス」ができなければ、いずれただの鉄屑になる。それが兵站(物流)の非情な現実だ。
俺は熱力学(温度)のプロであって、機械工学のプロではない。自分の技術者としての限界を痛感させられていた。
「まったく、世話の焼ける車だね」
帳簿から顔を上げたサラが、呆れたようにため息をついた。
「西の山脈に行きな。そこに私の知り合いがいる」
「知り合い?」
「ああ。魔法を毛嫌いして、純粋な機械工学だけを愛してるっていう、変わり者のドワーフの整備士さ。あんたのその金ピカの鉄屑も、そいつなら何とかしてくれるかもしれないよ」
◇
翌日、俺たちはだましだましノヴァを走らせ、西の山脈――ドワーフの地下王国『アイアン・ジオ』を目指していた。
摩擦を避けるため、速度は馬車に毛が生えた程度まで落としている。
「今日はゆっくりだねー!」
「景色がいっぱい見えるよー!」
後部座席でミナとルルがのんびりと外を眺めている。平和なものだ。
「ドワーフですか」
ベアトリスが腕を組み、真面目な顔で頷く。
「武具の鍛冶には定評がありますが、気難しい種族と聞きます。交渉は慎重に行うべきかと」
「ああ。まずはその変わり者の整備士を見つけねぇとな」
◇
やがて、巨大な岩山に穿たれた地下王国への大扉が見えてきた。
だが、到着した俺たちを出迎えたのは、歓迎の宴でも、気難しい門番でもなかった。
「……なんだ、ありゃ」
大扉は固く閉ざされ、その外には泥だらけのドワーフの鉱夫たちが溢れ返っていた。
青ざめた顔でへたり込む者。パニックを起こして泣き叫ぶ者。
尋常な空気ではない。
俺はトラックを降り、近くで頭を抱えている鉱夫の一人に声をかけた。
「おい、どうした? 何があった?」
鉱夫は血走った目で俺を見上げ、絶望の声を絞り出した。
「ダメだ……! 地下の奥深くに、有毒ガスが噴き出したんだ!
中にはまだ、大勢の仲間が取り残されてるっていうのに……!」
閉鎖空間での有毒ガス噴出。
最悪の密室事故の気配に、俺は奥歯を噛み締めた。
次回は
【 日曜日の 18:10 】に更新します!
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※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。




