第32話『鉄屑と宝物』
「そのトラック(夢の結晶)を渡すか。
それとも、家族(子供たち)を奪われるか。
……さあ、選びなさい。物流の英雄殿?」
ゴルドフがニタリと笑い、俺に選択を迫る。
足元ではミナとルルが泣きじゃくり、俺のズボンを握りしめている。
背後には、俺たちが心血を注いで作り上げた最強のトラック、『ギガ・フロスト・ドラグーンカスタム』がある。
究極の二択。
だが、俺にとっての答えは、最初から決まっていた。
「……くれてやるよ」
俺は一秒も迷わず、ポケットから起動キー代わりの魔導具を取り出し、放り投げた。
「け、ケント!? 正気ですか!?」
ベアトリスが目を見開いて叫ぶ。
ゴルドフが驚いたようにキーを受け取り、それから満足げに目を細めた。
「賢明な判断だ。……商談成立ですね」
彼は懐から『後見人権利譲渡書』を取り出し、俺に手渡した。
俺はそれをひったくり、すぐにミナとルルを抱きしめた。
「いやぁぁ! おじちゃんのトラックなのに!」
「大事な宝物なんでしょ!? あーん! とられちゃうよぉ!」
二人が大粒の涙を流して暴れる。
自分のせいで、俺の大切なものが奪われる。その罪悪感に押しつぶされそうになっているのだ。
俺は二人の頭を優しく撫でた。
「泣くな。……モノはまた作れる。だが、家族は代わりが効かない」
これは負け惜しみじゃない。
俺の本心だ。
◇
「ふふふ、素晴らしい! これぞ技術の結晶!」
ゴルドフはトラックのボディを愛おしそうに撫で回した。
そして、部下の男に顎でしゃくる。
「おい、運転しろ。今日からこの車両は我が商会の旗艦だ」
「は、はい!」
部下が恐る恐る運転席に乗り込む。
エンジンがかかり、低い駆動音が響くが、どこか苦しげだ。
「……む? 動きが重いな」
「重量感がある走り……これぞ重厚な装甲の証でしょう!」
ゴルドフたちは能天気に笑い、俺たちを残してアクセルを踏み込んだ。
ズズズッ……。
巨大なタイヤが砂を深々と噛み、悲鳴のような音を立てている。
颯爽と走り去るはずの愛車は、まるで鉛の塊を引きずるように、のろのろと進んで行く。
「……行っちゃった……」
「うわぁぁぁん!!」
ミナとルルがその場に座り込み、声を上げて泣き出した。
ベアトリスも悔しそうに拳を震わせ、唇を噛んでいる。
そんな俺たちの様子を、拠点の入り口からサラが腕組みをして見ていた。
「……へえ。あのケントが、随分とあっさり手放したねぇ」
彼女は俺の顔をじっと見つめ、何かを察したように口角を上げた。
「あんた、まさか……」
「……まあ、俺にも考えはある」
ノロノロと進むトラックの背中が、会話が聞こえない距離まで遠ざかった瞬間。
俺の顔から悲壮感が消え失せ、代わりに意地の悪い笑みが浮かんだ。
◇
「泣くな、ミナ、ルル。涙を拭け」
俺はしゃがみ込み、二人の涙を指で拭ってやった。
「あれはもう、ただの鉄屑だ」
「……え?」
「て、てつくず……?」
きょとんとする二人に、俺はニヤリと笑って種明かしをした。
「あいつらは勘違いしてるんだよ。『トラック』さえ手に入れれば、俺たちと同じことができるとな」
俺は遠くの砂煙を指差した。
「あのドラグーン・カスタムはな、炎竜の素材を使ってるせいで、総重量が数十トンある。
ベアトリスの『重量軽減』がなけりゃ、タイヤが地面にめり込んで動けなくなる代物だ」
ベアトリスがハッとして顔を上げる。
「さらに、エンジンはドラゴンの熱暴走を利用する設計だ。
俺の『冷却魔法』で燃焼室の温度差を制御しなきゃ、ただの熱い鉄の塊だ。点火すらまともにできねぇよ」
ハードウェア(車体)だけ奪ったところで、それを動かすソフトウェア(俺たち)がいなければ、あんなものはただの重たくて熱いオブジェだ。
素人に扱える代物じゃない。
「あと三分もすれば、重さに耐えきれずにサスペンションが折れるか、エンストするだろうな」
俺の予言を証明するかのように。
遠く離れた街道の方角から、ガガガガッ、プススン……という、情けない音が風に乗って聞こえてきた。
「……あ」
ミナとルルが顔を見合わせ、それからプッと吹き出した。
ベアトリスも力が抜け、呆れたように笑う。
「マスター……性格が悪すぎます」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
俺は懐から、一枚のカードを取り出した。
以前、あの「無邪気な災害」から無理やり押し付けられた連絡用の魔導具だ。
「さて、足がなくなっちまった。新しいのを調達するか」
俺は魔力を込め、通信を開いた。
「……よう、フィアン。聞こえるか?
面白い話があるんだが、どうだ?」
俺たちの旅は終わらない。
鉄屑はくれてやる。
だが、最強の物流チーム(宝物)は、ここにある。
俺はニヤリと笑い、次の反撃の狼煙を上げた。
次回は
【 土曜日の 18:10 】に更新します!
──────────
【 応援のお願い】
今回の話を読んでワクワクしていただけましたら、
↓広告の下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れていただけると嬉しいです!
(皆様の★が、今後の作品の燃料になります! 何卒応援をよろしくお願いいたします!)
今後も更新します!
──────────
※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。




