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それからというものの、紬ちゃんはちょくちょくアデプトに来るようになった。
といっても、来るのは大抵週末のことだが。怪盗を生業にしていても普段は真面目に働いているのだろうか。
その勤勉さを槇にも分けてやってほしい。
槇が土産にチョコレートを持ってきてから既に二ヶ月が経過しているが、アデプトに来なかったのは浮気調査をしていたという一週間だけである。
せめて営業時間中は事務所にいろよと思うが、槇は事務所のドアの前に〝御用の方は一階の喫茶店まで〟などと書いた張り紙をしてアデプトに居座り続けている。
それでいいのか、探偵業界。
しかも、そんなやつが探偵協会の一員として世界を股に掛けているとは……。
大丈夫なんだろうか、探偵業界。
「いつかおまえに天罰が下ることを願ってるよ」
「……んあ? なんで」
「いや、仕事しないやつには天罰をと思ってな……」
「仕事をしないんじゃない。仕事がないんだ」
「なお悪いわ」
堂々と言い張る槇はもう手遅れなのかもしれない。
「おまえだって随分と暇そうじゃないか」
「客が来ないんだよ! 小夜ちゃんがいないとっ!」
それに、ここ半年くらいはどうも違和感を感じる。小夜ちゃんが休みの日は小夜ちゃんファンの人たちが全然来ないのだ。彼らはどうして小夜ちゃんが休みの日を知っているのだろう。
「ファンクラブでもあるのか? なんで休みの日がわかるんだ?」
「ああ、あるぞ。ファンクラブ」
「なにぃ!」
まさか本当にあるとは……。
恐るべし、小夜ちゃん。
「携帯のサイトなんだがな。その日小夜ちゃんが店にいるかどうか、簡単にわかるようになってる。他にも、小夜ちゃんを独り占めしてるいけ好かないマスターとは交際関係にはなく、現在小夜ちゃんはフリーであることもみんな知ってるぞ」
「凄いな。どうやってわかるんだ? そんな情報」
「毎日俺が書き込んでる。ちなみにサイトを作ったもの俺だ」
「ふざけんなぁ! 営業妨害で訴えるぞ、てめぇ!」
「さらに俺は会員ナンバー一番だ」
「どうでもいいわっ!」
やはりこいつは私の敵だ。
怪盗と探偵ということ以前に、私はこいつを敵と認識しなければならない。
こいつのせいで小夜ちゃんの不在は筒抜けであり、アデプトの売り上げもがた落ちになるということだ。
「このことは小夜ちゃんに報告するからな。おまえ、どうなっても知らんぞ」
「例えばどうなんだよ?」
「……社会的抹殺とか」
「は?」
「おまえの戸籍が消えてたりとか、銀行から金が下ろせなくなったりとか、事務所の電気つかなくなってたりとか……」
「マジか……」
「身分の偽造は私たちの基本スキルだからな。今の彼女はなんでも出来るよ」
「こえぇよ。勘弁してくれよ」
「まぁ、軽いとこだと宅配ピザ三十枚とか。しかも全部同じ味で」
「それもまた、きっついな」
「覚悟しとけよ。ただでさえ、私のことでストレスを溜めてるからな。その上こんなことになってると知ったら、どうなることやら……」
想像したくもないね。
「ちょっとまて! 今の言葉おかしいだろっ。なんでおまえの分の怒りも背負うんだよ」
「うるせぇっ! 砂場の棒倒しだって最後の一掻きしたやつの負けだろうがっ!」
「ひでぇ!」