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母親に競りにかけられたら公爵の妻になりました  作者: たくみ


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1.競りにかけられました

 ルカス帝国の皇都にある売春街ゲラン。ゲランは男も女も買うことのできる帝国最大の売春街だ。夜になると灯りが煌めき欲を抱える人々で溢れかえる。


 本日は真っ昼間だというのに男も女も貴族も平民もこの街に押しかけていた。常であればお目当ての女や男に視線を向けるものだが彼らの視線は台の上に立つ2人の男女に向けられている。


 いや、男を見ているものは一人もいない。一心に視線を浴びているのは今にも競りにかけられようとしているたった一人の若き美しい女のみ。


 おー!


 男性たちの抑えきれない興奮した声が街中に響き渡る。


 くすくす。


 そんな男たちの声に混じり女性の笑い声が聞こえてくる……気がする。男たちの声が大き過ぎて正確には彼女たちの声なんて聞こえない。


 だが抑えきれない口元の歪み、扇子から覗く愉しげな目元を見れば嗤っているのは明らかで。自分と同じ女が競りにかけられるという状況に嫌悪感ではなく笑みを浮かべるなど悪趣味な女達だと思うのは自分だけだろうか。


 所詮は他人事ということなのだろう。


 人生とはどうなるかわからない。誰だってその身を売らなければならない時がくる可能性はあるわけで。自分の身に振りかかったときにやっと売られる人の気持ちがわかるというものなのかもしれない。


 はあと息を吐き、改めて辺りを見回す。


 たくさんの人人人。


 女だろうが男だろうが自分を取り囲む彼らの目には好奇、蔑み、愉悦、欲望などこちらが胸糞悪くなるようなものが宿っている。


 そんな目を人に向けるものではないと思うのだが。視界に入れたくなくて足元に視線を向ける。


「……同じ人間なんて思ってないか…………」


 その美しくも哀しい声は喧騒に紛れ誰の耳にも届くことはなかった。


「……こんのイカれたババア共が……そんな性格だから旦那が娼婦を買うんだよ。好色ジジイら共……いつまでも若い女に興奮してんじゃねぇ。お前らのものなんか早くしなびてしまえ。いっそもげてしまえ」


 隣に立つ競売人の目が自分に向けられぎょっと見開かれる。


 あら、おかしいわね。今の恨み言も先程と同じ声量だったはずなのに。念がこもっていたからかしら?不思議だわ~。


 まあ彼に聞こえていようがいなかろうがどうでも良い。今のこの状況は何も変わらないのだから。


「え、えー……。ご、ご覧ください!金貨よりキラキラと輝く金色の髪の毛!高くスラリと通った鼻筋!さくらんぼのように赤く色づくみずみずしい唇!一度見れば吸い込まれそうな程煌めく美しいエメラルドグリーンの瞳!」


 おーーーーー!


 競売人の声に湧き上がる男たちの声。本当につくづく男というものは美しい女が好きな生き物だ。ゲランでもどんな性悪でもやはり美しい女の元には客が来る。あまりにも問題がある女はランク落ちの店や少々異質な店に飛ばされることもあるがやはり客はつく。


 それが良いのか悪いのかはわからないけれど。


「そしてこの触れれば折れそうな細い腰!そこからゆっくりと視線を下に向ければなんとも堪らない魅惑的なお尻のライン!何よりこの細い腰からは想像もできない豊かな胸の膨らみ!」


 うおーーーーーーーー!


 本当に男というものは……。


 娼婦の姉さん方が男とは素直で可愛いものよと言っていた。が残念なことに野太く雄叫びを上げるおじさんはどうも自分の目には可愛く映らない。ただただ鼻息の荒い、鼻の下を伸ばしたエロおやじだ。


「名前はレイチェル!年は18!娼婦の娘として生まれながらなんと……なんと!まだ清らかな身でございます!」


 ヒューと口笛やら雄叫びやらが飛び交う目の前の光景にレイチェルの目は冷たく光る。


 娼婦の娘は娼婦じゃないといけないってか?それ以外はなっちゃいけないってか?そんな法律はどこにもない。だが……目だけ動かし周囲を見回せば胸元を大きく広げた若い女性やまだ幼さが残る女の子がたくさんいる。


 そのうちの少なくない数が娼婦の娘。


 彼女達はここでしか生きる術を知らないからと自ら娼婦の道に進む。だが中には街を出るつもりだったのに客に襲われたり、親や周囲の圧に負けてなる者もいる。世知辛い世の中だがそれが現実なのだ。


「だが侮ることなかれ!彼女はきっと素晴らしい閨の才能を持っているはず!なぜならレイチェルはこの人の娘だからだ!」


 その場はわっと下卑た盛り上がりを見せる。そのざわめきの中一人の女性がみしりみしりと床を鳴らしながら台に上がる。


「伝説の元高級娼婦キャサリンだーーーーーー!」


 レイチェルと同じく美しい金髪に美しいエメラルドグリーンの瞳。顔立ちも非常に美しい。


 だが。


 熱狂さが消え、戸惑いを含んだざわめきが街に広がる。


 ダンッ!


 ヒールが床に盛大にぶつかる音がし人々はシーンと静まり返る。


「何よあんた達ちょっと太ったくらいで白けちゃって!」


 ちょっとの定義とは?


 残念ながら台の上に立つキャサリンは少々ふくよかだった。願わくばジャンプすることなかれと思う程に。


 彼女が身につけている身体の線が浮き出るような扇情的な赤いドレスはパツンパツンに張り、ムラムラよりもいつ破れないかとハラハラしている者が多いことだろう。


 売れに売れまくりどんな高値だろうと買われた彼女の旬の時代から恐らく20キロ程増えているはず。それをちょっとと言い張る目の前の女傑には呆れるしかない。


「贅肉がつこうが私の美貌は損なわれないわ!それにテクニックもね?そうでしょう?」


 お、おーーーー?


 もはや勢いと彼女への情だけで歓声を上げる人々を見ればいかに彼女のカリスマ性、そしてこの街でいかに愛されてきたかわかるというもの。


 彼女は見た目、売上共に街史上最も素晴らしいと言われた伝説の高級娼婦。性格も見事に男次第で変え、多くの男を手玉に取ってきた。自分勝手且つ自己中なのに他の娼婦たちにもなぜか愛され崇められた女。


 10年前に病気になり引退した彼女。病に打ち勝った彼女は病気中に美味しい食事を口にできなかった反動から爆食い。見事にぷくぷくと膨らんでいったが今なおそれなりに人々に愛されている。


 私の―――――――自慢の母だ。 


 いや自慢だった、なのか?割と自分は楽観的な思考をしていると思うが娘を競りにかける親を流石に自慢とは思えない。



 そもそもなぜ自分が今競りにかけられているのか。

 

 それは1カ月ほど前まで遡る。



 



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