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1章 9

アマーリエ様が優雅にターンをすると、帯の結び方がよく見える。

複雑に、そして精巧に結ばれた帯に皆は目を見張る。


「さっきの帯ですわよね。」「どうやって結んでいるのかしら?バラの花のようね。」

「短時間で裁断して縫ったのか?」 「あんなの初めて見たな。」


口々に感想を言い合う貴族達。

パウラ様も周りのご令嬢から感想を話しかけられ、嬉しそうにしている。

お父様とお母様を見れば、良くやったと言いたげに頷いてくれた。


私はそっとパウラ様のお母様に近づき耳打ちをすると、夫人は笑って手配をしてくれた。


曲が終わり、侯爵様とアマーリエ様は笑いながらギャラリーに戻って来た。

侯爵は、パウラ様のお父様に話しかける。


「この帯とやらは、あらゆる可能性を秘めてますな。」

「左様、しかも殿下は他にもアイディアがあるそうだ。」


公爵様は悪戯っ子のような目で私を見る。

アマーリエ様とパウラ様は、きょとんとされている。

会場の耳目が私に集まったところで、淑女の礼をする。

震える足をごまかし、小さく深呼吸をする。


「皆様、リートゥス伯爵家長女、テレーゼ・リートゥスでございます。

 この度はアマーリエ様、パウラ様からの相談を受けまして、ヤズマ皇国の帯をより素敵に魅せる方法を幾つか提案させて頂きました。


 そのうちの1つが、このようにドレスのウエスト部分に結わくというものです。

 先ほどのように柄を際立たせる結わき方もあれば、このように花とも見紛う結び方もございます。

 他にも結び方は無限にございます。一つ、皆様にご覧入れたく存じます。」



裏口から入場したソウビさんとアヤメさんが、しずしずとこちらにやってくる。

アマーリエ様は、ぽかんと口を開けている。

その後ろには、ワゴンを押したメイドが続く。

ワゴンには布がかけられ、中身が見れないようになっている。


ソウビさんたちの姿を見て、ヒソヒソ声があがる。

「あれはもしや、ヤズマ皇国の者か?」 「なぜ、ここにヤズマ皇国の者がいるのだ。しかも女性ではないか。」

「あの服はいったい、どうなっているのかしら?」


公爵様が、本日一番の威厳のある声で告げる。


「こちらのお二方はヤズマ皇国からいらっしゃった方である。

 お二方は政治的な意味では公的な立場にはないため通達がなかったが、近々大使が公式訪問されるに先立ちいらした方だ。

 王宮では、他国の文化に関心のあるアマーリエ王女陛下の客人として、もてなしている。

 皆、粗相のないようにせよ。」


張りのある声が、会場に響く。

皆が礼をして服従を示すと、公爵様はアヤメさんたちに笑いかけた。


「さあ、何をしてくださるのかな?」

「公爵令嬢、パウラ様にご協力いただきたく存じます。」


「わ、私?! 何も聞いてないわ!?」

狼狽えながらも、すっとんきょうな声をあげるパウラ様。

周りのご令嬢に宥められながらパウラ様は前へ出てきた。



「パウラ様、どうぞ皆様のほうをお向き下さい。」

アヤメさんに促され、パウラ様は皆をぐるっと見渡す。

その隙にソウビさんがワゴンの布を取り、準備をはじめる。


「では、はじめさせて頂きます。」


二人の手にかかれば、結ぶのはあっという間だ。

ふわふわしたパウラ様のドレスに、柔らかな帯が巻かれる。

 

そう、兵児帯だ。


アマーリエ様許可の元、これを用いてパウラ様に似合いそうなふわふわしたドレスを仕立てる予定だが

まずは帯として使わせてもらうことにした。


ひだが幾重にも重なった、ボリュームのあるリボン結びが手早く完成する。


「ほぅ。」 「結び方が、全くわからなかったわ!」

「パウラ様、一段と可憐ですわね。」 「あれも、帯なのか? 刺繍などなにも無いようだが。」


パウラ様は何がなんだかわからないままに結び終わったので、やや困惑しているようだ。


「ソウビさん、アヤメさん、いったいどうなっているのかしら。」

「これは、兵児帯と呼ばれる帯です。アマーリエ様の帯よりも、こちらのほうがパウラ様のドレスと合うかと。」


パウラ様は、後ろの結び方が気になるようだが、あいにく合わせ鏡は出来ない。

周りのご令嬢から説明を受け、理解したようだ。



「皆様、ヤズマ皇国の技術、ご覧頂けましたか?

 他にもたくさんの結び方があるので、帯が1つあれば、アレンジが出来ますわ。」


私は自信たっぷりに見えるよう、笑みを絶やさずゆっくりと言う。

本当は反応が怖い。否定的な意見が出ませんように。


パウラ様のお父様が拍手をする。


「良いではないか。

 ヤズマ皇国との交易が盛んになれば、帯も我が国に流入しやすくなるだろう。」


お父様も応じる。


「デビュタントなどは別ですが、普通の舞踏会やパーティーならばマナー違反にならないので、需要はありますな。

 結び方の本も必要です。メイドに習わせるのもよいやもしれません。」

「1つの帯で何種類も結び方があり、他のドレスと組み合わせることが出来るのは良いですな。

 貴重な帯をいくつも買うのは、さすがに大変だ。」


朗らかに笑う侯爵。

否定的なのかと思いきや、商機を逃すまいとしているのか。

ダンスの際に、アマーリエ様になにか言われたのだろうか。


国でもっとも伝統があり、王家と親しいバーナー公爵と、筆頭侯爵であるシェーファー侯爵がヤズマ皇国の帯と技術を誉めるので

会場もヤズマ皇国に対して好意的な雰囲気につつまれた。


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