2章 14
サミュエル様がさりげなく敷いてくださったハンカチーフの上に、腰を下ろす。
難しい政治の話だけではなく、女性にも気遣いが出来る紳士なのだと感ずる。
「サミュエル様とお呼びしてしまいましたが、役職でお呼びしたほうが良いのかしら。
貴方様の正式な役職名も家名も存じ上げませんの。」
気になっていたことを問う。
しかしサミュエル様は答える気はないようだ。
ふっと笑い、首を横に振る。
「お好きなようにお呼びください。
私は、テレーゼ様とお呼びしても?」
呼び名については首肯するが、家名を隠されると気になってしまう。
それほど身分が高いということか。
しかし、あの時の会話からはパウラ様の御親類では無さそうだった。
となれば、他の公爵家か。秘密裏に他国の王族や公爵の子弟を預かっているのだろうか。
考え込みそうになるが、サミュエル様の声がそれを遮る。
「テレーゼ様、私が相談したいことというのはですね。
ヤズマ皇国側へ歓待で男性陣はどうしたら歓迎の意を示せるか、ということなのです。
扇は、我が国では女性が持つものだから、男性貴族は持たないでしょう。
服装から考えても合わないですしね。
かといって、女性にのみ、ヤズマ皇国風の衣装を着てもらうのは気が引けるのですよ。」
なるほど。
しかし男性の礼装に、ヤズマ皇国風のデザインを取り入れられるだろうか?
一度はブローチやボタンなどに、ヤズマ皇国の意匠を凝らした螺鈿細工や漆を用いることも考えたが
職人も限られることから、全員分は間に合わないと判断して具申しなかったのだ。
「男性の衣装についても、考えたことはございます。
しかし、その時思い付いた案では、歓迎の式典には間に合わないと判断いたしました。」
サミュエル様は、心底残念そうに眉を下げる。
なんだか申し訳無くなるが、仕方ない。
「ヤズマ皇国の布がたくさんあれば、エポレットに巻き付けることも出来ますが、布が足りませんの。」
ポレットチーフも考えたが、まだ胸元にポケットのある服は一般的ではない。
ならばポケットチーフの由来となった、布を肩飾りに差し込んだり巻き付ける方法はどうかと考えたのだ。
エポレットならば少量の布で済むが、いかんせん男性の人数が多い。
反対派も居るため全員は着用しないだろうが、王宮で働く者達の分を含めれば膨大な数となる。
腕を組んだサミュエル様は、少し考えてから、口を開く。
「使者が着いてから、式典までの3日間に、急いで生産するのは難しいでしょうか?
新たな献上品として、布を持ってきて下さることになっています。」
お針子達さえ動員できれば、直線縫いのエポレット飾りならば時間もかからず大量生産は出来るが
ドレスの最終調整の時期だろう。
それに、お守りを縫う作業も必要になってくる。
「あとは、お針子達の確保が問題ですわね。」
事情を説明すると、サミュエル様は驚かれる。
それから、優しく微笑む。
その微笑みが眩しくて、思わず視線をそらした。
「テレーゼ様、お守りとは面白い案ですね。販売されたら、私も買わせてください。
お針子達の件は、なにか良い方法がないか、私も考えてみましょう。」
なにか案があれば何時でも伝えて欲しい、とサミュエル様に言われる。
とはいえ、前世のように携帯も電話も無い。
私の使者を遣わすのも、手紙を送るのも躊躇してしまう。
それを見越したのか「アマーリエ様の所に手紙を送るか、いらしてくだされば、大丈夫ですよ。」と笑うが
伯爵令嬢が王女と気軽にお会いできると思っていらっしゃるのか。
やはり、サミュエル様は相当な上位貴族なのだろうか?




