2章 10
翌日。
学園に着くと、いつもと皆の視線が違う。
チラチラと見てくる者、話しかけようとタイミングを伺う者、ひそひそ話をする者。
好意的な視線というよりも、好奇の目で見られているようで落ち着かない。
「ごきげんよう、テレーゼさん。お時間よろしいかしら?」
「クラウディア様! もちろんですわ。」
普段、話しかけられることのないクラウディア様からのお誘いに、声が上ずる。
パウラ様と親しくされているので、パウラ様が一緒にいるときなら挨拶はするが二人だけで会話などしたことがない。
クラウディア様は右手を胸元で握りしめ、意を決したように話し始めた。
「ヤズマ皇国風のドレスの件ですの。
お父様から聞きましたわ、すべて貴女のアイデアだそうね。
パウラ様もたいそうご活躍なさってるでしょう?」
クラスメートの注目が一気に集まるのを感じた。
聞き耳を立てているようだ。
このような状況で誤解を受けては一大事である。
言葉を選びながら、慎重に答える。
「私が何気なく口にしたことを、パウラ様が形にして下さってるのです。
私の力ではございませんわ。」
クラウディア様は、もどかしそうに首をふる。
「私もなにかやってみたいのよ!
貴女もパウラ様のお宅でのパーティーに居たから知ってるでしょうけど、我が家は保守的でしょう?
家族の言動を見ると、ヤズマ皇国に対してだって差別的でしたし。
なにかやりたいことがあっても、女の子は大人しくしてなさい、なのよね。」
私は頷いた。
シェーファー侯爵は、自らに利する点があったから態度を軟化させたのであり、本心ではヤズマ皇国を蔑んでいるようだった。
話を聞く限りでは、ヤズマ皇国だから、というよりも伝統墨守の気質があり、我が国と文化やマナーを同じくしない国を下に見ている節がある。
性別でやりたいことが制限されるのは、前世の価値観を有する私には理解しがたい。
クラウディア様の歯がゆい気持ちは共感できた。
「それでね、パウラ様に私もなにかしてみたいとお願いしたら
すべてテレーゼさんの発案だとおっしゃったの。
だからテレーゼさん、力を貸して頂戴?」
パウラ様になんとかして頂きたいが、こちらに回されてしまったのか。
クラウディア様の気持ちは痛いほど分かる。
現状を良しとせず、何かしたい。
でも、どうすれば良いかは分からない。
私が格下であるにも関わらず頼って頂けるのは嬉しいが、下手に侯爵家に関わってしまっても良いのだろうか。
周囲は皆、私の返事に期待しているようで固唾を飲んで見守っている。
きっと中にはクラウディア様と同じように、何かしたいと思っている令嬢もいるだろう。
ここでなにかアドバイスしてしまえば、私もと殺到しかねない。
「クラウディア様、お話はよく分かりましたわ。
お昼休みにパウラ様もお誘いして、ティールームに参りましょう。」
穏やかに返せば、クラウディア様は嬉しそうに目を細つまる。
周りを見れば少しつまらなそうな顔が見えたが、それでもなお、成り行きを気にしている者が多いようだ。
昼休みでの時間は稼げた。
なにかアイディアを考えなくては。
「ありがとう、テレーゼさん。」
クラウディア様は、握りしめていた右手を下ろす。
ネックレスのペンダントトップを握っていたようだ。
私の視線を感じたのか、クラウディア様は恥ずかしそうにほんのり頬を染める。
「これかしら?おばあ様から頂いた、我が家に伝わる勇気のペンダントですわ。
本当に効果があるかは分かりませんけれど、お守りにしているの。
もう、このようなモノに頼る年齢ではないのですけどね。」
指先でペンダントトップを弄び、気恥ずかしさを誤魔化そうとしてきた。
「いいえ。誰にでも、何歳でも、心の拠り所は必要ですわ。
そのお守りで勇気が出て色々なことにチャレンジできるのでしたら、
50歳でも100歳でも、身につけたら良いと思いますわ。」
私の言葉に、クラウディア様は驚いたように瞬きをする。
それからフワリと微笑み、ありがとうと小さく呟いた。




