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第35章 異少課の悪者アジト調査記録

「解けないのか」

「だからそう急かすなよ。私がここで手を切ったら損しかしないと分かってんだろ?焦らず行こうや」

ここは愛知県にあるとある留置所。そこで2人、愛知県異少課の上司の源川温利と、留置所に囚われている石狩豊が話をしている。

この女は、前愛知県で事件を起こそうとして、地域活性部のメンバーにやられたアンダス団の関係者。アンダス団を壊滅してほしいから情報を渡すと言われ、気持ち的には嫌ながらも仕方なく取引をしていた。

こんなところにわざわざ源川温利が出向いたのは理由がある。

異少課交流会の時に倒したアンダス団メンバー、ラッド。静岡県での事件のため静岡県が担当することになり、今まではその結果を直接知ることができなかった。だが、この前静岡県の三岡浜海と話していたとき、アンダス団関連の対応のため結果を貸してもらえることとなった。

それで、解読ができなかった暗号があり、それをこいつなら解けるかもしれないということで元の暗号を持ってわざわざ来た。

そして時間は経ち

「はい。解読完了。これはいい情報じゃないのか?」

「これって、アンダス団の……」

「物品の連絡。内容はともかくとして、この場所。魔族進化研究所B。私も聞いたことはあるよ。アンダス団で使う魔族を進化させる非人道的な実験を行ってる場所の一つで、アンダス団でも上位に位置する場所だよ。ここで作ったのが色々と使われてるらしいな」

暗号を解読してでてきたのはとある場所に大量のお金と物資を送るといったもの。そしてその場所は岐阜県にあるらしい研究所。

「それをなぜ言わなかった」

「1つは場所の情報がなく、言ったところで何もならないから。2つはアンダス団が手広げすぎて、こんな場所山程ある。全部伝えれないほどがな。だから確実なものばっかりを伝えてた。そこはちゃんとしてたろ?」

こいつの言うことは本当で、アンダス団の一部組織の情報をこいつから聞いて、実際に岐阜県や愛知県の異少課で潰してはいた。

といっても、小さな組織ばかりで尻尾切りばかり。ろくな情報もなく全然進めていない。

「……」

「でも、ここはアンダス団に取って重要な場所ってのは本当だ。取引してんだ。頼むよ壊滅を」

「アンダス団は犯罪集団。警察が何としても追うべき理由がある。ただそれだけだ」

「結果さえ良けりゃ理由なんてどうだっていいだろ。アンダス団の壊滅に近づくの、楽しみに待ってるよ」

その方向を見ないまま、源川はそこを後にした。やっぱり、源川には合わない相手らしい。


アンダス団の拠点に関する重要情報を得た源川。そのまますぐに岐阜県の飛田箕乃に電話をかけ、得た情報を共有した。

「まさかそんなことになるとはね。でもこっちとしては願ったり叶ったりだよね」

「スパイの情報が手に入る可能性があるし、そういうのうんぬんは置いてても重要な場所で、落とせば大きな打撃を与えられる」

「僕のとこの子も任務で送るけど、他の県の子も呼んで、大大的に攻めるのとどっちがいいかね?」

「私としては、頼りたいのもやまやまだけど、頼れないかなってとこ。だって前同じような感じでアンダス団の研究所異少課の皆で攻めたことあるのね。あのとき異少課が来ること知っててほとんどの人に逃げられたり、爆発されて証拠隠滅されたりでさんざんだったり。だから、絶対にスパイじゃない私達でしかやれないと思うの」

愛知県と岐阜県は共に異少課のスパイ対策として、この前の交流会で共に戦った仲である。

「とりあえず、一旦異少課の子達にまず伝えようか。それからそれから」


そして別日。岐阜県に集められた愛知県と岐阜県の異少課メンバー達。

「集まってくれてありがとね。緊急のことが起きちゃって、急に集めちゃったの良くなかったよね。そこはごめん。でも仕方なくて」

「アンダス団について、新しい情報を手に入れたんだ」

真面目な雰囲気になったところで、沖はしっかり前を向いて、玲夢も目をこすりながらもちゃんと耳を傾けた。

「アンダス団の新たな拠点を見つけたと」

「うん。しかも重要らしい拠点。あの一応味方の人が言ってたから信用度は高いの」

「あああのあいつ。潰してほしいってのならもっと重要な拠点とか教えてくれればいいのに」

「私達で行くの?」

「うん。異少課の任務として壊滅させる」

「岐阜県の場所だが、君たちも行ってほしい。任務を出すよ」

「それで、他に人を呼ぶかここで内密に処理するか、それで迷ってるの」

「スパイの件もあって、戦力増強はしたいけどバレたくない。バレたら前の二の舞になるから」

「確か今のスパイ候補がいるのが、静岡県、長野県、石川県だったよね?」

「確かそうじゃなかったか。交流会のときそう絞った確か」

逆に言えばその県以外はスパイがいないということ。この3県を呼ぶのは論外だが、それ以外ならできなくもない。

「そこ以外の県を呼ぶのも考えたけど、できるだけバレるリスクは最小にしたくて。もしかしたら他県に連絡しちゃうかもしれないし」

「戦力的に行けるだろうか。ここにいる5人だけで」

「私いるから、何とかならない?」

「いくら透明になるのが最強レベルだからといっても、それだけでなんとかなるわけじゃない。玲夢も相手のレベル分かってるよな」

「複数人いたら、それはそれで隠密できないよね」

「そこだよなホント。結局どうする?どっか呼んでみる?こっちで何とかはするけど」

「最悪まずかったら情報だけ盗んで逃げるってことにする?それなら良いんじゃない?あいにく私偵察のプロだから」

結局、スパイにバレてしまうリスクを考えると、確実にスパイでなく安全と言える岐阜県と愛知県の異少課で対応することになった。

「私のほうで他の課からも優秀な人を用意できないか頼んでおくね。ついていくわけじゃないけれど、何かあったときのためにね。武器を使えないってだけでちゃんと戦うことはできないだろうけど、それでも全員でかかれば何とかできるかもでしょ?」


「私達裏で待機してるから、何かあったら呼んでね〜」

「あんまり子供を前線に送るの、好きじゃないんだけどなぁ」

「でもさ、俺らより強いこともう悟っちゃってるでしょ?こっちじゃ対処できないそっち系の事件には無くちゃならない存在だって。いい加減維持はるのもやめなよー」

「ようやくですか。これで県内で起きているアンダス関連の事件が減ればよいのですが」

岐阜県の色々な課から募って結成された警官達による後部部隊。武器の力なんて使えないけど、それでもできることをするために。

「色々と準備はできまし、それじゃあ行こうね」

「それじゃあ、行ってらっしゃい」

「行かないの?愛知県の人」

「岐阜県だし、何より警察署で待機しておくよ」

ここで源川とは分かれ、岐阜県の警官たちと共に現場へと向かった。


「それじゃあ、私達はここで待ってるから。沖、玲夢、明石君、唐栗君、堀戸君。頑張ってね」

「分かったよ箕乃、任せておいて。ちゃんと終わらせてくるから」

というわけでパトカーで移動して近くまで歩いて、そして目的地のアンダス団の研究施設近くまで来た。あっちからはバレない程よい距離のこの位置で、岐阜県警察官組は待機。何かあったときに備えている。


「見るに立派な建物だよ本当に」

「ここが、悪いアンダス団の拠点……」

そのまま歩いて開けたと思ったらそこにあったのは立派な建物。こここそお目当ての場所、魔族進化研究所B。

そしてその周りを取り囲むように警備の人が立っている。この人数相手に攻撃して倒すのはあんまりしたくない。ってかほぼ無理。

「もうちょっと散ってくれれば、各個撃破できなくもなかいかもだけどさ」

「それでもできた?とにかくどうする?私1人ならいけるけど、流石に私1人で任務は無理だよ」

「浮遊……無理ですよね」

「人抱えて飛ぶのは危ないしやりたくないかな」

沖が浮遊使えるから空から飛んで屋上のどっかから侵入といった作戦が思いつくものの、抱えて飛ぶことの現実性が無さすぎて没。

「とりあえず一旦私調べてくる。その他はあとで考えよう」

「そっか。その間に良い方法考えておく。多分……」

とりあえず玲夢の透明状態調べ物時間で時間をかせぐ。この間に決めて置かないと何にも始まらない。

「それで、どうする?」

「一番役に立ちそうなのはそっちの力っぽい。こっちは基本そういうタイプじゃないから、ほんと」

「使い道があんま分かんない自我とか攻撃以外役に立たない百刃とか、確かにそうか」

この武器の力ばっかりは最初何を拾ったかという運なので、それをどう活かすかだけである。今回も何とか活かせないものか。


(1周してみたけど、やっぱりそう簡単には行かせてくれないよね)

透明になってどこからか行けないか探っている玲夢。施設の周りをぐるっと1周してみたけれど、流石に甘くはなくちゃんと見通せるように警備体制が敷かれていた。

(この警備を、どうにかして動かすしかないかな。隠し通路とか、ないかな?ないよね?それか無力化でもさせる?)

玲夢は私達が使える4つの武器の力を考えて、無力化を一旦諦めた。百刃は攻撃にしか使えない。浮遊で空に浮かんだからといってだから何だ。自我はそもそもよく分かんない。そして透明化。

(自主的に動いてくれないかな。怪しまれもしないしそっちのほうがいいよ)

警備を動かすことだけを考えたら警備の目の前で姿見せたあと透明化して隠れたら捜索するため警備がおろそかになると思う。でもそれしたら施設内が不審者に備えて警戒を強めかねない。デメリットが大きすぎる。

動かすにもどうにもいい案は思いつかず、警備の近くへと寄ってみた。


警備の人達の話の内容を盗み聞きしている玲夢。

「先輩、倉庫の荷物運ぶの、手伝ってくれません?困ってそうだったんで引き受けちゃったんですけど、思ったより大きくて1人じゃ運べなさそうなんすよ」

「荷物運びって、またあの研究者共から言われたのか?」

「必要なものが倉庫にあるけど、今実験中だから取りに行けないなーんて行ってたから引き受けて来たんですよ」

「前から思ってたのを言うけどさ、それ研究者から体のいい労働力に見られてるだけだぞ。あいつら研究者は腐ってんだ性根が。やめといたほうがいいぞ本当に」

「先輩は考え方が独特ですよね。そんな悪い人ばかりなわけないのに。それに、こういう雑用好きなんすよ。自分が好きだからやってるだけで、見返りとか求めてるわけじゃないんすから、だから、いいんすよほんと」

「屋良礼が良いと言ったとて、そんな屋良礼を言いようにこき使うあの研究者共は好かんほんと。あんなんでネウス様なんて持ち出して、いつか鉢当たれ」

「まあまあまあまあ。それで、荷物運び手伝ってくれます?」

「はぁ……今回だけだぞ。今後はそういうの受けるなよ?何があったとて、人間としてのプライド捨てちゃ駄目だ」

「先輩優しいんすよね。そういうとこ慕ってんすよ」


(今のうちにここから、行くのが良さそう)

どうにかならないかと適当に近づいて話聞いてみたら、ここの警備の人がタイミングよく倉庫へと移動するらしい。チャンスは今しかない。

この建物は構造的に見通しが悪く、周りにいる警備からは見つからずに、穴の開いたここから侵入する。

ガチャガチャ。

そして2人が通っていったドアのノブをひねってみると、簡単に回り、ドアを開けた。

(ここの鍵は、多分頻繁に出入りする場所で警備もいるから、開けっ放しにしてるみたい。うん。これなら、隣の警備の様子をうかがいながらならいける)

ルートは決まった。


「見てきたよ。良さそうなのあった」

「おうっとっと、玲夢か」

「急に話しかけられると、びっくりしますね。透明で見えないから」

「それで、どこからどう行きゃいいんだ?」

皆が待機していたところに戻り、どこから入るべきか伝えた玲夢。先ほど倉庫から荷物を運ぶために、警備の穴が開いた場所。そこへと誘導する。

「ここの警備が一時的に倉庫とやらに行ってるみたい。もたもたしてたら戻って来るはずだから、急いで」

「よし玲夢、分かった」

「ここを建物の陰に隠れながら進んで、あの奥に見えるドアから中に入る。入ったあととりあえず近くに何もないことは確認しておいた」

「隣には警備員がいるから、バレずに進まないとなんですよね」

「ミスったりしないよね、パパ」

「大丈夫、二人とも落ち着け。乱れさせたらかえって事故るから」

震えてる心を少し落ち着かせ、ドアへと進んでいく。

「今は大丈夫。あそこの奥まで走って」

「ここまでくれば、あっちの警備からは見えないな」

透明になっている玲夢が近くの警備の様子をうかがいながら、少しずつ大胆に進んで、そして。

ガチャガチャ。

ドアノブを回して、遂に建物の中へと潜入成功した。

「ふぅっ……」

「入れましたね、建物の中に」

「こっから先急に出会う可能性あるのか。気をつけないと」

ここまでも苦戦はしたが、むしろここからが本番。この中で大事なものを見つける。

「それじゃあ、行きますか」


「ところで入ったはいいけれど、どこに行く?」

「全く考えずに入ったな俺達」

「最終目標は壊滅だけど、まずは使えそうな情報を集める。ですよね」

スパイ関連の情報、アンダス団の情報が何よりも欲しい。潜入の目的は内部構造を把握したり、そういう情報を取ったり。今回だけで壊滅まで行けるとはあまり思ってない。

「壊滅させるとなると、あの警備の奴らをどうにかしないとなのか。いや大変そうだな」


透明になっている玲夢を先頭にして、周りの様子を伺いながら進んでいく。はからずとも富山県組がこの後にするのと同じような感じになった。

「中も人多いな。そりゃそうだけど。大変だ」

「隠し持ってるかもだけど、でもここにいる人は武器を持ったりはしてないみたいだから、そこは良いんじゃない?パパ?」

「でも攻撃できないからって、何もしてこないわけじゃないですから。それこそここに事前に用意されている何かを動かすなんてこと、あり得なくはないですよ」

「その前に、バレた時点であの警備が来ちゃうよ」

潜入中、絶対にバレてはいけない。緊張感は走ってるが、会話でそれは和らぎつつある。

「この部屋行けそう」

「探しますか」

そうして戸を少し開け、中に誰もいないことを確認して中をあさる。こんな感じに進めていく。


入った部屋は会議室のような場所。壁沿いには棚が置かれており、その中にある資料を漁る。

「アンダス団関連の資料だらけですね。お目当てのもあるんじゃないですか?」

「こっちから探そう。パパ」

「ん、武器の改良を試みてる。武器を生産できないか。年齢関係なく武器が使えるようにするシステムの高性能化。気にはなるけど、お目当てのとは違うか」

「改良とか、無駄に技術力はあるんだからやになる。あんまり、技術は無闇矢鱈に使っていいもんじゃないんだが」

「自我の、ことですか?」

「うん。あれもあんまり使いたくない。自我を使うならせめて、唐栗みたいにちゃんと動けるようにしてから。じゃないと、ただ辛い自我になるからさ」

湊は自分の家の中に昔作って暴れ出してしまい、封印し続けていたからくりのことを思い出しながら、淡々と語る。

「こっちは魔族関連だね。また強化とか、人為的な洗脳じみたこととか」

「アンダス団はそんなことして何がしたいんだか。カルトの考えることは全然分からん。どうせ理解不能な理由だろうよ」

「人を傷つけていい理由なんてだいたいそうじゃない?」

話をしながらも、手は動かす。いいものが見つかることを祈って。


「魔族を洗脳して従順にし、教団の発展に寄与させる。はぁ……」

「うわぁ……」

「人間じゃないからって、こうも扱いを変えるなんて」

「自分が嫌だ、受け入れたくないって理由で魔族を迫害しているっていうより、本当に都合の良い駒にしか見えてないみたいですね。正直、どっちも不愉快です」

「改めてみるとほんとクズ。ようわからん考えでこんなことを起こすかね」

今度見つけた資料は、アンダス団の魔族に関する資料。要約すると、魔族は人間と違って洗脳や強化をさせやすく、また人間と違っていなくなっても問題にならないから使いやすい。魔族は人間のように見せかけている偽の生命だからこのようにすることこそ誇らしい。とかなんとかかんとか。この感じは多分教えとか関係なく、ただ適当に理由をでっち上げてるだけ。どっちにしろクズ。

人間じゃなく自我を持っているからくりな唐栗。過去にいじめを受けてその傷を長い間持ち続けてた栗久。2人はこれを見て落ち着きながらもいきり立っていた。

「研究の成果。内容なんて見てられないけど、とりあえずこれは持ち帰ろうか」

洗脳についてとか何だとか。中をじっくり見るのは嫌になった。異少課だからってそこまで魔族を憎み差別することはできない。


この部屋においてある資料をざっと見したが、お目当てのスパイ関連の資料は無かった。でも、研究関連は色々あったので、いくつかの資料はくすねた。これだけでも結構な手柄。

「スパイ関連は見つからなかったけど、それでも収穫はあったね。どうする?戻る?まだ探す?」

「こんだけ広い施設なら、他の資料もあるだろうよ。行く価値はあるんだろうけど」

「どっちにしろ、バレた時点で終わりだし、なら1回の侵入でより多く情報は取っておきたいな」

「行くってことね。なら私また先頭行くから」

「よし、頼むからな玲夢」

そうして、周りの確認をちゃんとしてから、この部屋を出て引き続き情報探しへと移行した。


「よし、こっち側は人いない。こっちも……大丈夫」

「この部屋は、また何か良いもんありそうだな」

また新しい部屋を見つけたのでさっきと同じように探している。順調にここまでは進んでいた。ここまでは。

「下賤なネズミが入り込んでいましたか。全く、あやつらはろくに警備も全うできないのですか」

「!?」

背筋が凍る声。ここにいる人ではない声が廊下から聞こえる。そしてドアを開け放って男が部屋の中へと侵入してきた。

「いち、に、さん、し、5人も。どうやったらこんなに見逃せるのでしょう」

「皆武器を」

バレてしまい仕方なく実力行使に出ようとするが、それをたしなめるかのように男が言い放つ。

「実力行使ですか。しかし、やはりガキらしい」

「うっ、動けな」

「パパ……」

「こ、これ……」

何もないはずなのに、急に身体に鎖が絡まっているかのように身動きが取れなくなる。こんな状態じゃ戦うどころか男のもとにたどり着くことすらできない。

「そこで透明になっている人が1人だけ逃げようとしているのでしょうが、私はここにいる動けない全員を殺すことなどわけないわけです。言うことさえ聞いてくれれば、殺しはしませんよ」

「玲夢!」

こいつのことが信用できるとは思えないから玲夢だけは隠れててほしいと思っていた沖だったが、玲夢はここでそのままだとという恐怖に耐えかねず身体を現してしまう。

「さて、皆さんこちらについてきてください。今のを見て、妙な真似をしようとは思ってませんよね?ああもちろん。これらは預からせてもらいます」

そして持ってた武器を全て取り上げられてしまい、まともに太刀打ちできない状態にされてしまう。本当に危機でしかない。


廊下を歩いて階段を降りて、やってきたのは薄暗い牢屋。劣悪すぎる環境に顔をしかめる。

何かのスイッチを押すと牢屋の戸が開く。

「ここがお前達が入る牢屋だ。さあ入れ」

ここに捕まってしまうと後が無いことは分かってる。だといっても抵抗できるような状態にない。泣く泣く牢屋へと入る。

「どこの誰か。色々と聞いてみたいことはありますが、私にはしなければいけないことがあるのでね。代わりの人に任せますよ。さてと、あの使い物にならない警備にお説教とでも行きましょうか」

そして牢屋を閉めて、コツコツと階段を上がっていく。聞こえない距離になったところで、話し合いへと転じた。


「どど、どうしますかこれ?捕まっちゃいましたけど」

「武器もないし、この鉄格子は流石に外せそうにないか」

「とりあえず、奪われる前に連絡するか」

武器は没収されたが、それ以外のものは時間がなかったからかまだある。今のうちに使っておかないと。

「感謝だよね。わざわざ他の警察官を待機させてくれて。何とかしてくれるかな」

連絡する手段があるうちに、飛田箕乃達に今の状況を伝える。

「大丈夫?玲夢?」

「実は箕乃、私達ヘマして今地下の牢屋に入れられてる。しかも武器すら奪われて……私達の方でも何とかできないか試しているけど、救出しに来てくれる?」

「牢屋って何!?今のとこ大丈夫なんだよね。分かった今すぐいくから。地下ね」

「建物正面から見て左奥に牢屋へと続く階段があるから。牢屋まで来れたら私達の場所は分かるよ」


伝えることは伝え終わり、改めて皆で今後を話し合う。

「何か使えそうなもの、スマホとかしかないよね」

「僕は無いです。こんなこと、想定できていなかったので」

「パパ、どう?」

「いやー、壊せないか試してるけど、あんまりってとこ」

「今から来る代わりの人とやらに見つかったらこれらも奪われるかもだから、牢屋内に何とか隠そう」

「手に持ってるよりはましか。持ち物検査、するだろうし」

狭い牢屋内、なんとか隠せそうな場所にスマホやらを置く。何とか対策して、でられる確率を少しでもあげる。


一方、同じ施設の中、別の場所では。

「あなた達のような無能金食い虫には失望しましたよ。警備だと言うのに、なぜ私が対応しなければならなかったのでしょうね」

「こんな時に侵入されるとはな……」

「言い訳とか結構ですよ。そんなに仕事の一つもこなせないのならネウス神から見放されるでしょうね。今から殉教してきたら少しは許してもらえるかもですすよ」

「お前らみたいな奴らも、まともな仕事してねぇくせによく言えるよ。ろくなことやってないで」

「口喧嘩とか。脳みそが詰まってないから何も考えずにべらべら喋る。不愉快です。黙ってればまだいいんですが。本当無能共は迷惑しかかけない」

「ネズミの件はこっちに非がある。だがな、だとして俺は折れんぞ。お前らはいつもいつもこっちに被害を加えてきてるくせに、よくいえたよ。こんなやつらを守るのクソなんだが」

「私をクソ扱いだなんて、ネウス神から本当に見捨てて、永遠に苦痛を受けることになるでしょうね。さてと、あなたのような年中暇人と違って私は忙しいのでこれで。さっさと帰って、その図体を少しは生かしてもらいたいものです」

「お前ら共のためじゃねぇ。警備はネウス神のためだ。忘れんな」


コツコツコツコツ

「来たらしいね。代わりの人とやら」

「隠したまんま。バレなかったらいいが」

牢屋の中、遠くから近づいてくる足音を聞いて、さっき言ってた代わりの人が来てると知る。荷物は適当に隠したが、こんな小さな牢屋じゃ中に入って探されたらすぐ見つかる。

「おぅ?あなた達がネズミさんですか?ほぅぇ〜。学生さん?こんな年齢なのに侵入できたんすか!?」

「うん」

こういうのは牢屋の管理者の気分を損ねるとろくなことにならない。逆に気分を良くしたら、気づかれなさが上がる。

「それにしてもなんでわざわざ侵入なんかしたんすか。ここ回り見たら警備いてガチガチだってわかると思うんすけど、何しにそこをくぐってきたんす?」

元気に迫ってきている。

「私達にも、色々とあったから」

「そうなんすか。ま、私もこんなとこで働いている時点で人に言えないんすけどね。いやそれにしても狭そうっすよね。何とかしないのは山々ですけど、私の権力じゃそこら辺できないんす。すまないっす」

見た感じ元気系の人。こういうタイプは気分良くしたら仕事を忘れてはくれないだろうか。


「そういや名前言ってなかったすね。私は芥衣舞っす。イブで良いっすよイブ気に入ってるんで」

「イブ、さん」

「さんっすかー。そういう壁はない方が良いと思うんすけど、まあ立場が立場だし仕方ないっすね。私のほうが多分年上っすよね。それにしても、よくこんなとこ来れたっすね。警備とか越えてって。見かけによらずめちゃくちゃ強いんすか?」

親しげに話しかけてくるこの女性を相手に、どう答えようかたじろいでしまう。なにをかんがえてるのか、しっかり見極めておきたい。ただ能天気なだけなのか……。

「それにしても災難っすね。ここの牢屋入れられたらまあ出られないっすよ。実験に利用されるか、あるいはもっと酷い目に遭わされるか……。ここの人倫理観終わった人多いっすから」

「ねえ、他の人とは、違う?考え方が、ここの人にしては、全うな思考してる気がする」

「栗久、言いたいことは分かるが、あんまり信用ができない相手にそういうことを素直に伝えるのはやめたほうがいいきっと」

こんだけの断片で全てを把握て切るわけない。聞いた感じだと普通に聞こえるけど……

「どうなんすかね。でも根本では同じっすよ。こんなのに加担しちゃってる時点で変えられないんす。はい、この話おしまい。こういう陰鬱な話はない方がいいんすよ」

「実際そうだな。一度汚した手が簡単に綺麗になるか」

「話掘り返すんすか。分かったんすよ。私はここが酷いと分かってながらも、結局加担する人間っすから。表をどうどうと歩けない人間っす」

「でも、そういうとこをちゃんと自覚してる分、他のクズ野郎共よりはマシに感じる」

「何なら悪いことだと認知してないやつばかりだから」

やっぱり、なんだかんだ彼女は他のアンダス団の人とは違う。彼女は当たりだ。何とかなるかもしれない。

「それは褒めてるんす?まあ何を言われようと、私が堕ちたことに変わりはないよ。どうしようもないっすから」

壁のほう、斜め下を向きながらぼそり呟いた。


「聞いた感じ自分が悪いことしてて、そんな自分が嫌だとかいう?」

「ははっ。正解っす。やっぱり、アンダス団なんかに関わったのが最初から間違いだったんすよ。そこで私は終わったんす」

「そんなに嫌なら、牢屋を開けて俺達を助けてはくれないか?これもまた、その悪いアンダス団に加担する行為なんだろ?」

こういう、不安定な人なら。こっちの言葉も、聞き入れてくれるかもしれない。

「駄目っす。無理っす」

「開ける事が出来ないとかじゃなくて、したくない」

「そうっすね。勝手に牢屋を開けるぐらいはできるっす。それでも、開けるのは駄目なんす。私はこのアンダス団が嫌っすけど、現状を変えて新しい生活を送りたいともならないんす。とっくの昔に諦めたんすよ」

「でも、アンダス団から逃げるとかどうとか。少なくとも、今このアンダス団の行為に加担することは無くなるはずだろ?」

「そうっすね。でも、私の手はとっくに悪事に手を染めてどろどろに汚れて、この手が綺麗になることなんてないんすよ。新しい生活なんて、できっこない。だったら、変えることに何の意味があるんすかね。このままのほうが、たとえ腐ったままでも、またまた手を汚そうとも、何もしなくてよくて楽なんすよ」

彼女はとっくに諦めた結果、ただ何も思わずに仕事をやるだけとなっている。彼女の事情とかそういうとこは今はどうだっていいが、牢屋から出してはくれないというのが問題だ。


「みんなも、どこで働いてるとか分かんないけど、どっぷりは浸からないほうがいいっす。変だと思って逃げれる時に逃げる。気づいた時にはもう、手は汚れてるんすから」

「忠告どうも。それでも、俺がいたところはアンダス団みたいな腐りきったところじゃないかな。もっと楽しくて、良いところだから。だから、そういうことはしないかな」

「皆は良いところ出身っすか。その場所は、大事にするんすよ本当に」

自分が終わった場所を選んでしまったからこそ、良い場所には憧れがある。大事な場所がなくなって私の二の舞にならないように、ちゃんと忠告してくれる。アンダス団にいるけど根っこは優しいほうみたい。


ぐわぁっ……!あぅっあぅっ!

「ちょっと何で逃げてっ」

「嫌、やだ、助けてっ!」

上のほう、遠くから牢屋に聞こえてきた声。凄く嫌なことが起きている声。

「上で、何かあってるよね」

「なんなんすか急に。でもただ事じゃなさそうっすよ。んっと、なるほど、そんなこと起きちゃったんすか?嘘っすよね!?」

スマホを取り出して流れてきた連絡を取ると、落ち着きながらも嫌そうな顔して、上で何が起きているのかを教えてくれた。

「ヤバいっすよ。こことは別の牢屋に入れていた研究中の魔族が逃げ出して暴れ出したそうっすそれで今上では逃げる人、向かう人、てんやわんやみたいっす」

「研究中の魔族の脱走って、正直自業自得」

「それでも僕たちのところにきたらまずいし、問題しかないね」

ここの牢屋は階段で繋がってるだけの袋小路。その魔族がこっちになんて来たらひとたまりもない。

「どうすりゃ、いいんす。こんなの。ここに来ないことを祈るぐらいっすか!?今までやってきたことの報いとかかもしれないっすけど、流石に私もこんな年で死ぬのは嫌っす!なんか、ないんすか。身を守れそうなの……」

牢屋の中にまともな装備があるはずはなく、結局そこらにある長いほうきを持つだけ。こんなもので身を守るなんて無茶でしかない。

「嫌かもしれないっすけど、助けてはくれないっす?牢屋は開けるっすから」

「牢屋に入れられてる人に助けを乞うのか」

「あくまで仕事をしていただけ、だけどね」

この人がアンダス団の人だったり、どこまでが信用できるかもあやふやだったり。話を聞いていく中でまあ、根っからの極悪人というわけではなさそうだわかったが、それはそれ。

ちょっと悩んでいると、まだ話しかけてきた。

「そうだ武器。ちょっと待ってて取ってくるから。だから、魔族がこっちを襲うようなら助けてほしいんす。お願いっす」

綺麗に頭を45°に下げて、必死に頼み込む。真摯さがこれでもかと伝わりズルい。

「どうします?」

「ここで何もしないよりは、良いでしょ」

「回収できるだけね」

「はい、これ、よいしょ。持ち運ぶのかさばりまくったすよ。誰が誰のかは私分からないからバラバラなのは仕方ないけど申し訳ないっす」

「まさかこんな理由で武器を回収できるとは」

「あとこれで、牢屋からはでられた。だけど、この騒動が収まるまでは近くにいてほしいっすお願いするっす」

心に手を当てて、その手が震えてる。急に近くで魔族の脱走という、割とやばい状態がこれを起こした。

「やりましょう。少しぐらいは」

「アンダス団でも、悪人というわけじゃないもの」

「人に優しくするの、大事よな」


「来ない、すよね?」

「多分俺達なら、魔族の1体ぐらいめちゃくちゃ強いのじゃなきゃ何とかなりそうだけど……」

「もし来たら、ごめんけど、助けてほしいんす。お願いっす」

「これ終わったら……牢屋から逃げていいよね。助けた礼として」

「うん……いいっすよ」

イブはちょっと悩んだ顔を見せ、そして答えた。立場的にはそうできないが、流石にお礼何もなしに動くようなボランティアは無いことを理解している。それに立場的にと言ったが、正直そのまま従ったほうが楽というだけ。この腐りきった教団に加担している自分に自己嫌悪するタイプの人なのだ。


「音も止んできた」

「どうなったんでしょう?牢屋に戻ったのか……」

さっきまで上の方からバタバタバタバタ、逃げ惑う声、襲われた時に出す悲鳴とでてんやわんやだった。こっちに逃げ込んでも戦えるようにと武器を持って待機していたが、こっちに来ることはなく音はだんだん小さくなっていった。

「とりあえずこの感じ、まあ色々と被害でてんだろうな。自業自得とはいえ、人命に関わってそうなのが嫌だ」

「あっ、ほっ……出て森のほう行ったらしいんす。逃げた魔族。とりあえずここには来ることは、ないってことでいいっすよね?」

「これは俺達に尋ねてるのか?」

「結局こっちに来なかったっすけど、何にせよ良かったっすよ。それで、牢屋から脱出させるんすよね。私自身だとそのままがいいっすけど、約束はしたっすもんね」

他のアンダス団なら約束を反故にするとか、まあそんなことやってきそうなもんだが、彼女は他のアンダス団とは違いが見受けられる。ちゃんと約束も守ってくれるそうだ。

「道は分かるっすか?案内するっす。まずはこっちで……」

「ふぅっ……捕まったけど無事脱出できて良かった」

「これで、進めることできるね」

階段を登って、廊下を道なりに歩いて出口を目指す。途中窓ガラスが割れ、壁のプリントが無惨にも破かれた場所を通り、出口が見える場所まで来た。が。

「全く、様子を見に来たら。勝手に何をしてるんですか」

後ろから聞こえてきた声は、聞いたことある嫌な声だった。


「私はそのネズミの管理を任せましたが、ネズミの方に寝返って解放しても良いとは一言も言ってませんよ」

牢屋から脱出でき、一旦立ち直せるかと思えば、運の悪いことにあの、最初に見つかったあの男にまた見つかってしまった。

割と優しめなイブと違って、この男はただ話し合いしたり、そんな簡単な理由で何とかなりそうにはない。

「何とかならないっすか。約束しちゃったんすよ。さっきの魔族脱走騒動のとき、襲われても守ってくれる代わりに牢屋から出させるって」

「だから?勝手にした約束が通るとでも思っているのですか。よくそんな身勝手でこれまで過ごしてくれましたね」

アンダス団側からしたら侵入して捕まえてた俺達を勝手に出させるなんて許すわけない。あくまでイブが変わっていただけだ。

「仕方ねぇ。こんなんになったら戦うしかないか」

「速攻で決めよう。僕が大きく削るから」

牢屋から出られるまたとないチャンス。このチャンスを逃したくはない。

だったら、こいつを倒すのが一番手っ取り早く、一番確実だ。そう思ってヒソヒソと話していたが。

「はぁっ……全く何をしようとしているんですか。やっぱり愚かですよね。わざわざ飛んで火に入る夏の虫に愚かなんてそのまんまなこと言うまでもないですか」

ゆっくりと、嫌そうな笑顔を浮かべたままその言葉を話した。皆はもちろん何とかしようと、武器を構えて対峙する。

だが

「はぁっ……どうですか。これができ……るのを忘れていたんですか。本当に……学びませんよね。ここ……まで来ると面倒くさいですね」

「ぐぅっ……っ……またこれかよ」

「まだ、何もできてないのに」

「これは、皆にかかってんのか」

最初牢屋に入る前に見つかった時にされた、鎖が絡まったように動けなくなるあれをまたかけられた。どんな強さを持っていようが全て意味をなくす動けなくする攻撃を。

「そこまで怯えなくとも。やはり忙しいので、また元の牢屋に戻すだけです。もちろん荷物は預からせてもらいますが。ところで、どんな理由があろうが牢屋から脱獄させていい理由にはなりませんよね?なぜそこが分かってないのですか?」

「っす……」

「とりあえず牢屋には関わらず、今日はいつものとしましょう。明日以降、どうすればいいか決めてから、それでも遅くはないですから」

結局抗うことすらできず、俺達は武器を全て奪われて牢屋へと連れて行かれた。そしてイブは牢屋で待っても牢屋に来れることはなくなった。


「皆、異少課の皆が潜入中に運悪く見つかってしまって、施設内の牢屋に囚われたの。だから、私達で救出しに行こう」

一方その頃、施設の外少し離れた場所で待機していた岐阜県の警察官達。電話で来た救出要請より、全員で対応を考えていた。

「見つかっちまったか……。早くしないとまずいじゃねぇか。あいつらからしても生かす理由がないからな」

「でも私達のこの装備で、のこのこ行っていけますかね。異少課の皆が牢屋に入ってる時点で負けたってことですよね?」

アンダス団の中には異少課の皆と同じく異世界の武器持ちがいる。一方私達一般の警察官はそんなもの持ってるはずがない。そもそも使いこなせない。

「そりゃそうだがさ、ネガティブなことばかり考えてんじゃないよ。何としても助けんだよ」

「やっぱり私達ができるとしたら、牢屋を開ける事。それには牢屋まで行ってドアかなんかをぶっ壊す。幸い工具は持ってるから、それで何とかね」

「直接戦闘は避けて、牢屋のところまで最短ですすむ。それは腕に自信がある数名でいくほうがよいですね。あまりにも多すぎるとかえって失敗する」

バレた相手が何も持たない一般のならいいが、武器持ちにバレたらボロボロにやられる。それに一般のでも伝えられて警備を強化されかねない。

「とりあえずここで考えても埒が明かないから、近くまで行きましょうか」

「待ってて、今助けに行くから」

全員でアンダス団の拠点へ向かって移動を始めた。やっぱり異少課の皆が大好きな箕乃は、早く助けないとという焦りと絶対負けられないという気持ちが見えてきた。


すでにそこそこ時間が経ち、その間に異少課がイブと話したり牢屋から抜け出したりと、なんだかんだやっていた。やっぱりこの人数を動かすとなると時間がかかる。

警察官組が研究所へ向かう道中。

「んっと、止まってください皆。ほらあそこ。多分あっちの人がいますよ」

「こっちに気づいてるわけじゃあねぇか。だからといって流石にバレるわけにゃいかねぇな」

まだ施設から少し離れているところ。そんな森の中で怪しげな行動をしている集団を見つけた。

「屋良礼が逝っちまったか……」

「ここでは珍しいくらいに輝いてましたね。ホント、うらやましかったですよ」

「あんな奴らのせいで犠牲になるなんてな。それであまつさえあいつに死んでも愚弄されて」

そこにいるのは、警備のあの人達。時系列的には魔族脱走イベントを解決した後に死体の回収を命じられて従ってる所。

「やっぱりここの警備は嫌ですね」

「何だってあんな野郎のために働かなきゃいけないんだ。皆で他の場所に勤務場所変えたいわ」

「皆同感です。実際そんなんなったらついていきますよ。皆あなたのことは慕ってるんですから」

死体回収の傍らぶつぶつと愚痴を垂れている。この人たちも仕事だから警備をしているだけで、本心では死ぬほど合わないあいつら研究職のために働くのが気に食わないよう。

「それで、私達はあれを無視して見つからないようそうっと」

「にしてもあの感じ聞くと、内部も割れてるみたい。これ何もしなくても勝手に爆発したりするんじゃね」

「そんなんで今までよくやってこれたよ。やっぱり宗教によるこうかか?」

「ほんと宗教」

アンダス団が宗教だから、それなりに理由を持たせられる。それをあくどいことに使ってそうだ。


「どうするよ」

「あのイブのような変わった人が来てくれるのは、まあないよね」

「僕たちが、何かできることあるのかな」

再び牢屋に入れられた皆。あのイブはもうここに来ることはないだろうから、結局どうしようかという話だ。

「さっきまでと違って、持ち物全部奪われたから」

武器はもちろん、スマホとか。牢屋に入れられる前に全部奪われた。自主的に脱獄するのは無理だろうなという感触。

「箕乃に任せよ」

「だな。でもここまで来れるかな」

「あんまネガティブに考えるぐらいなら、ポジティブに考えよ。それしかやれることないから」


「それで、私はいつものでいいんすか」

「……とりあえずはそれをしてください。でも明日からは来なくていいですよ。裏切りに対するネウス様からの天の裁きが下るでしょう」

「やっぱ、クビっす?」

「反省しているんですか?何にせよ。クビです。この研究所にそんな、仲間を裏切り滅びへと導くような疫病神は必要無いです。少し考えれば分かるでしょうに」

やったことがやったことなので、まあそうなるだろうなと思っていた。私がやったことは裏切りに相当するらしい。

「にしても、あの子達と話していると変わるっす」

「クビだけで済めばいいですよね」

クビだけで済めば良い。このアンダス団なら気に入らない不穏分子を秘密裏に消していてもありえる。そして私も……

「死にたくないっすよ」

ちょっと怯えていた。死にたくないから頼ったのに、まさかじぶんも同じような状況になるとは思ってもいなかった。

「あの子達はまだ、あの牢屋にいるはず。あの子達のことを思うと、早く助けなきゃという良くわからないことが思いつく。こんなこと、昔は思ったことなかったのに」

変えられないと気づいて諦めてた頃は、絶対無視していた。何がかは分からないけど、とにかく考え方を大きく変えたみたいだ。

「どうせ私がいなくなるぐらいなら、あの子達に頼んでこのアンダス団そのものも終わらせたい」

アンダス団に今まで積み重なった怒りはそこそこ多い。それも全て晴らしたかった。

「牢屋どうやってあけよう。鍵奪われたけど」

元の仕事なんて放棄して、ただこの後どう振る舞うかに頭を悩ませていた。


ガチャ

「うん?」

牢屋の中でしばらくして、急に何か音が聞こえてきた。さっきも聞いたような気がする音。

「これっ……うぇっ!?」

「え、ウソなんで?いやいいんだけど。なんなら嬉しいけど」

「誰も、いなかったよね」

牢屋の中にもう一度入れられてからは、イブの代わりになる人は来ずに放置された。なのにさっきの音を聞いてもしやと思ってやってみると、あれだけ開かなかった牢屋のドアがいとも簡単に開いた。

ここにいる皆には理由が全く分かっていない。実際の所、この時に富山県組が電力室のスイッチをいじってくれたからである。もちろん、富山県組が来ていることなんて知る由がないので全く分かりっこない。

「良くわからないですけど、とりあえず助かったんですよね」

「考えるのは後、とりあえず脱出するか。さっきと同じミスは踏まん。ただ、いくら何でも奪われたものは回収しておかんと」

「イブが行ったのはあっちの部屋だったよね。パパ」

「一旦そこ行こう」


「ここは、適当な倉庫っぽい場所。埃っぽい場所がある割には、こういう所落ちてて……」

「あったあった皆の。場所変わってなくてよかったね」

「アンダス団にこれらの武器奪われたら大変なことだよ。たとえ他の人は武器奪ってもすぐには使えないと言ってもさ」

埃が落ちている棚を開けると、中には皆の持ち物、奪われた全てのものがここに置かれていた。

「正直、他に何かないか調べてみたい気もするけど」

「それやって時間かかって脱出に気づかれたら元も子もないから、我慢我慢」

この建物はまだわかってないことが多い。絶対もっと情報がある。それを持ち帰りたいといった気持ちはある。


コツ、コツ、コツ。

急に足音がコツコツ聞こえてきた。まずい状況に慌てふためく。

「あ、足音!?」

「まずい誰か来てる」

「ここから出るのは、流石に無理だよね」

この倉庫のドアの場所は凄く見通しが良い。牢屋の場所から普通に見える場所で、もしこの足音の主が地下を歩いているのならでていったらすぐバレる。

「私達が見つからなくても、牢屋が見つかったら……」

「これは祈ろう」

コツコツコツコツ

段々と足音が近づいてきてる。こっちの方向に来てるのは確実だ。とりあえずそこら辺にあった荷物で身体を少し隠す。

「っ!?入って……きた……」

「静かに、気づかれないように」

運の悪いことに足音の主はこの場所に入ってきてしまった。そうして足音の主は部屋内をうろちょろうろちょろしていた。

「あれっ!?なんでここにいるんす?」

「この声は……」

この世には運のいいこともあるのだろう。その声の主はもうすでに聞いたことがあるイブだった。


「にしても何があったんすかね。あの牢屋は遠隔でも開けられはするっすから、誰かがやったんじゃないすか」

「それでイブは何しに?」

「そうっすそうっす。それでわがままだってのは理解してんすけど、話聞いてくれないっすか?」

ここの正解は脱出を知ってるイブを何とかして、大事になる前にことを済ませるなのだろう。

ただそれをしないのは、イブだからというか。少なくとも敵意を持ってるようには見えず、真摯に向き合ってくるから信用してみよう聞いてみようと思うのだ。

「皆はアンダス団を敵対視して……ってことっすよね。お願いっす。私をここから出してほしいんすよ。もう嫌なんすよ」

「顔を上げてくださいよ。それにしても、また急に」

「私は諦めてた。どうせ変わることなんてできないって、諦めてたんすよ。なのになんか、分かんないんすよ急にこんなのなったの。でも私もこのままじゃ死にかねないからここ来たんすよ。少しは希望があるっすから」

「アンダス団からは、クビにでも?」

「そうっすね。でも後悔はしてないんすよ。あんなのしたらそりゃクビにもなるっすよ」

アンダス団もクビになり、もうこのまま変えずそのままし続けることができなくなった。そうなった時にやるのが、図々しいことは承知の上で逃げること。

「持ち物を取り返そうと来たけど、もう全部取れてたんすね。流石っすね〜」

「褒めてくれるのは嫌いじゃないね」

「それで、どうっす。何もできないことは私が分かってるっすけど」

「こっち来ても何もなしってことにはならないけど、それでもアンダス団よりはいい場所だよきっと」

「罪は消えはしないけど、ちゃんと償う場があるのはやっぱいいんかな」

皆ついていくことに対して好意的。そうなのはイブがさっき色々とした積み重ねによるもの。まあ真っ当に生きてる、悪人じゃない人だと感じたから。


「それでそうっす。もしかしたらあの張須部門長にまた見つかっちゃうかもっすから、伝えれること伝えるっすね。あの部門長が使う力、分かるっすよね」

「あの、どうやって対処しようかと思ってた……」

「動けなくするやつね。もうそれされたら負け確みたいな」

「それなんすけど、あれは結構身体にくるらしいんすよ。犠牲にしてるっすから、乱発なんてできっこないんすよ。1日1回が基本、どんなにやばくても2回までっす。3回もやったら悪影響が数日間は蝕み続けるっすから」

「ってことは、もう2回はされてるから、もうあれを使われる心配はしなくて済むってこと。それなら良かったかも」

最初牢屋に入れられた時、2回目入れられた時。どっちもその力で入れられたもんだったから。

「それでも、戦闘力はかなり高いから気をつけて」

「まあまあとにかく、今やることはいったん逃げることだから。見つからずに済めばね。今度こそ慎重に、脱出しよう」

イブも含めた皆で、協力しようと小さな声で「おー!」と言った。


「それで、どこへ行こうと言うんですかね」

「っ!?まさかの部門長め。聞いてたか」

「な、なんでこんなとこに!?」

まさかの事態。それじゃあここから出て行こうというタイミングだったというのに。

気がついたら一番隠していたい相手に見つかってしまった。ダラダラと汗が流れていく。

イブとの話に夢中になりすぎて、近づいてくる足音などに気が付かなかった。

「まさか脱出してるとは想いませんでしたよ」

「ごめん、ごめんね皆。私は何にもできないから」

「本当ですよ。何にもできないだけでは飽き足らず、敵の勢力に与して裏切り三昧。私があげた慈悲は要らなかったということでしょうね」

「もうわかってるんだから。あのよく分からない力が使えないってことを!」

「はぁっ……私のことをこうも簡単に言われるといけませんね。あくまで牢屋に入れていたのはそっちのほうが研究に使えるからと個人で判断したまでのもの。流石にこんなことをされると考え自体を変えてしまいましょう。ちゃんと殺してしまうべきだと。もちろん、裏切り者への粛清も兼ねて」

「私は決めたから、そんなものにビクビクして生きていくのを辞めるっすよ」

イブは本当に覚悟している。口先だけの言葉じゃない。ここにいたら分かる。


「それじゃあ、始めようか」

攻撃の構えを取ってくる部門長を前に、全員自身の武器を持ち構える。

「透明になれる私と、空を飛べる沖。2人で翻弄させよう」

「天井あるところだとこれ活かしづらいんだけどな、まあ普通に歩くより速度は上がるし、やってみよるか」

「透明になって見えなくなるから、私巻き込まれないように気をつけるから」

岐阜県コンビの2人は浮遊させる能力と透明になる能力で、相手を翻弄させたり背後から隙を狙ったりと、とにかく正面から戦わずに勝つタイプ。部門長が使ってくる強い攻撃も変なのじゃなけりゃ基本的に避けられるはず。

「パパ、行ってくる」

「この感じは僕たちが引き受けることになりますね。百刃で何とかできるかな」

「火力には期待できないけど、タゲ取るぐらいはできるか俺にも。堀戸、いつもと同じように困ったら言ってよ」

そして愛知県側。こっちはちゃんと戦うタイプ。強い百刃が使える堀戸君。からくり仕掛けなので人間とは違ったように動ける唐栗達が主に戦う。


「あなたは戦う力が無いことは知ってるんでいいですよ後回しで。この軍団相手に全力を尽くしましょうか」

イブは後ろで待機してもらっている。戦う力もないから。

「さて、削り取ろりましょうか。何もかもを」

部門長が使ってくる武器は巨大な、まるで死神が持つかのような鎌。重量のあるそれを軽々と動かしている。これだけ見ても強者オーラは漂ってきた。

「あれが使えないからと言って、似たような手段ができないわけじゃありませんよ。見せてあげましょうか」

「このっ!?百刃で何とか凌いどこう」

「ここなら、ガラ空きだよね」

「今のうちに、邪魔な棚の間を縫っておりゃぁっ!?」

岐阜県組はエンジンがかかり始め、自分の力を活かして的確に敵の体力を削っていった。

「火力にバフがかかるわけではありませんか。まだいいですが、あれをそのまま受けることになるのは嫌ですね。やはりすぐに決着をつけねばなりませんか」

あっち側は色々と考えた末に短期決戦ルートを選択した。あの鎌の火力なら高いからいけるだろう。そしてこの岐阜県組による避けることすらままならなない攻撃を何とかするには、さっさと終わらせたほうがいいと考えたからのよう。


「透明なやつ。卑怯なんてせずに正々堂々と戦ってほしいものですよ。無理にもほどがあります」

「そりゃここは私達が絶対に勝たないと駄目なところだからね。全力にやるに決まってるでしょ?それに、透明になって戦うのを卑怯の文字でレッテル貼りしてほしくないけれど」

「同感。にしても翻弄できてんのか。もうこれ俺達のことを無視してんじゃないか。だとしたら翻弄はさせられないぞ。それはそれで、火力は申し分ないけど」

透明になってる玲夢、空を飛んで自由に移動する沖。正直まともに相手してられないらしい。でもこっちとしてもその分何もガードとかされずに入れられるから一長一短。

「沖のと同時にやったら武器落としたりしないかな?」

「無理でしょうね。やってみる?せーの!」

2人の連携も見事。話し合いしながら打開策を見つけていっている。


「百刃!ふーっ!いくら百刃でも全部何とかするのはさすがに厳しい」

「パパ、代わりに僕ので何とかならない?」

「あの鎌は唐栗も当たったらボロボロになる。何とかは、まあ」

あんないかつい鎌当たってなんていられない。今のところ武器の力を使ってこずあの回数制限ありの動けなくする力として良さそう。

「でも、自分大切に、わかってるよね」

「もちろんパパ」

「あんなの、真正面からやってったら消し炭にされかねないから、気を付けて、皆生き残ろう」

本当にバカ力なんだ。皆の力を合わせてそのバカ力に打ち勝ってみせる。


「さてと、必ず勝つためにやってみせましょうか。壊れる覚悟はもうできてますから」

「なんか嫌な予感がするんだけど、大丈夫かな」

「大技してくるかも」

「でも部門長が戦う所を前見たことあるんすけど、そんな大技なんてあったっすかね。ハッタリかましてるだけかもっす」

「唐栗、とりあえずこっちに。堀戸も。こんな壁でも無いよりはマシ」

雰囲気が変わり、次大技出してきますよといった感じを醸し出してきた。皆も異少課で偶にそういうのを見たことがあるから、警戒をしている。このままじゃ勝てないから、何か逆転させる一手をしてくるんだと。

「これをまともに活かせなければ、私は終わりなんですから。ネウス様、見ててください」

少しばかり祈るようなポーズをしたあと、両手で鎌を握って、その技を打とうとしてきた。

「あの透明なやつはどこにいるのか分かりませんね。当てられないのが残念です」


「う、ぐっ……これ、は」

「パパ……、ど、どうし」

「はぁっ……はぁっ……」

あの部門長の大技を警戒をしていた。そして今使ったらしい。

その瞬間、デジャブな感触が体全体を覆った。これはあの時やあの時と同じ。体が動けなくなる感触。

そう、3度目のあの力を使ったのだ。使うだけで一方的にやり放題になれる、あの最強すぎる力を。

「えーっと、皆、これ、これって!?なんで、今日もう2回してたはずなのに」

イブと玲夢以外の全てに効果をかけたみたい。イブは自分自身は効果がないものの、周りを見て何がされたかは検討がつく。そしてそれを理解した上で理解できなくなっていた。

前にイブが言った通り、あの力は強い反面反動も大きい。1日2度が限度。3度なんてやったら身体にありとあらゆる悪影響が数日にわたってでてしまう。

「やはり甘いですね。なんというか救えない。まあ後のこと考えず裏切りなんてその場のノリでしでかしてる時点で当然ですが」

「その場のノリなんか……じゃ!」

「確かに3回以上使ったことはありませんし、これが今日3回目なのも事実ですよ。それでも、絶対に勝たなくては行けないところで身体への悪影響なんて考える馬鹿がどこにいるんでしょうね。身体を犠牲にして勝てるものなら安いものですよ。この身体の一つや二つくれてやりましょうよ!少しばかり減らして反動の量も下げましたし」

玲夢がくらわなかったのは透明だったからだが、イブがくらわなかったのはただ意味がなかったから。反動を減らすため。

かなりの反動が来てるはずだが、強がってるのかそのことを見せない。そこそこに動けそうではある。

「さて、流石に2度の脱走をするような奴らを、そのまま置いていくのはリスクが高すぎますか。研究に使えればと想いましたが、残念です」

そうして少しずつ動けなくなってる皆のもとに近づいていく。大きな鎌を持ちながら。

最初に来たのは百刃で鎌をずっと防いでいた栗久のとこ。

「い、嫌、やめてっ!」

目から恐怖の涙が自然に流れている。あっちの発言からして今度は殺害してもおかしくない。というかしてくるきっと。

「や、やめてよ。ねぇっ!」

「静かにしてほしいですね」

絶体絶命すぎるこの状況だった。


「こんのっ!ふぅっ……何とか離せはできたけど」

「やっぱりそうなりますか。読んでましたよそうなることは」

皆が動けない中、1人透明で避けれた玲夢が何とか引き離す。透明なまま何とか妨害をして皆を守ってる。

「そりゃどうも。私しか動けないんだから、私はちゃんと止めるよ。さっきので身体はボロボロになってるし、それなりにしたら効果も消えるはずでしょ」

「ええ。だからこそ処理は早めにしないとですね。透明なままなら攻撃はくらわないから負けないと鷹をくくってるんでしょうね」

「とにかく、さっきの反動で体力も少なくなってるんだから、私の力でも削り切るのいけるんじゃないかな」

相手にたやすく当てられるから割と火力は出る。実際強がってあまり見せてないけど、動きの片鱗からは割と削れていることが分かる。ソロでも行けそう感。そして時間が経って全員動けるようになったら勝てる感。


「さて、いくら透明だからって、全員を守り切ることなんてできますかね」

「えーっとだからこうして、ここにこれ入れて、そこを攻撃して!」

あっちの作戦はとにかく動けなくなっている人達を削って敵数を減らすこと。そしてそれを止めるため奔走する玲夢。

「ここで倒して全員行動できなくして処理するか、今のうちに動けないのを倒して減らすか。どっちがより良いんでしょうね」

「私がいる限りどっちもさせない。皆は動けるようになったら教えて、それまで何とか時間稼ぐから」

「玲夢、頼んだ……」

「頑張ってください」

「すまんな」

「早く、動けるようになれたら」

皆から色々と言葉を投げかけられる玲夢。でかい啖呵を切ったから、今更無しになんてできなかった。玲夢のプライドにかけて。


「なんだかんだ身体ボロボロでしょ。私の攻撃がさっきより効いてる。止めるのもいけるんじゃないかな」

「あれをくらったたまいくのは、ただの耐久力の問題ですね。でもあの攻撃。痛いですが、せいぜい一時的に動きを阻害されるレベル。いけるんじゃないでしょうか。試してみましょう」

「だから!こうして!こう!」

そんなに経ってないのに相手の動きに常についていってそれを越して止めるように動いているから、体力の消費が結構激しい。

「私の前にいますよね。つまり私がそこの防御を通り越してしまえば良いと」

「私だって守るために身体が壊れる覚悟はしているから。絶対わたしが食い止める」

ここを抜けられれば、その奥にあるのは倒れてる沖。手出しなんてさせないと透明なまま真っすぐ行かせないよう立ち向かう。それに対してこちらもこちら。

「やりましょうか。無駄に時間を長引かせても意味は無いですし」


「だからここは通さないから!」

「この場所は本当に狭いですね。戦うのに向いてないったらありゃしない」

今回戦っている場所は倉庫の中。戦うのに不向きな場所だ。棚やらがあり、戦いの衝撃で色々と物が落ちて足場はぐちゃぐちゃ。動きづらいったらありゃしない、

でも、今回はそれが良いほうに働いている。広い場所なら止めるのが本当にきついが、狭い場所なら迂回も難しいから止めやすい。

「そこにいるとは分かるのに、攻撃しようにも当てられないのはもどかしいですよ。こんなもので勝ちを捨てるなどありえませんが」

「避けるだけ、止めるだけ。簡単、簡単なことだから」

言い聞かせているようだが、実際は彼女にかなり疲労がかかってるのは間違いない。こっちの体力が持つかも大事なことだ。かと言って全力で止めないと抜けられるからそこのとこ調整できないのが。


「これぐらいでも造作もないはず。やけに固いが、こちとら勝つって覚悟してんですから」

より一層力を入れて壁の突破を図る。何とか耐えようとしている玲夢。でもそれも、長くは持ちそうにもなかった。今にも綻びが出て、そこを突かれて終わりそうに。出るたびに立て直して元に戻してなんてやってるけど、その度にずれていき……。

「こっちはもう少しで動けそうだ。行けっ!玲夢!」

沖の言葉も耳に入らないほど、集中して耐えていた。


(手は動かせるんだが……身体が言うことを聞かねぇ。玲夢が無茶してるのは分かるからさっさと何とかしたいんだけどっ!)

玲夢の無事を祈りながら、動けない沖は考えていた。

目の前に見えるのは鎌を持って今にも近づいて来そうな部門長の姿。それがここまで届いてないのは、目に見えないけどそこで戦っている玲夢のおかげ。早くこの状態を変えて玲夢の負担を減らしたいが、こればっかりはどうしようも……。

(待てよ……手は動かせるのなら)

キョロキョロと周りを見渡す。そして床に落ちている彼の武器を見つけた。さっきの動けなくなった時に落っことしてしまったやつだ。

(伸ばすだけじゃ届かねぇか。ここらに……これか一番長そうなのは)

周りを見て、そこらにあった大きな段ボールを手に取る。その中身はいらないから適当に置いといて、この段ボールでリーチを伸ばして寄せて取ろうという魂胆だ。

取る邪魔になりそうな道中に落ちてるものももちろん避けて、そして段ボールを手に持って目一杯伸ばすと、段ボールが武器に触れた。

(よし、あとはこっち側にやるだけ。誤って取れなくならないよう慎重に……クソ肩が痛え)

手を伸ばして無理やりやってるから右肩が痛い。でも着実に成果は出てる。少しずつ近くにやっていき、そして。

(よし、取れた。これがあればいける)


武器をようやく手にした沖。この武器があれば、状況を変えれることに気がついた。

(よしっ。飛べてる)

武器の力を発動させるには基本的に装備して頭の中でちょいちょいしたり口に出したりしたらいい。つまり、身体の動きはなくても武器の力を発動させることができる。

そして、この浮かせる力を使えば、もう分かるだろうか。

(よし、これで移動できる。とりあえず玲夢がここを守る必要がなくなるな)

空を飛んでる状態なら、身体を動かさなくても空を飛ぶ時に使う力を多少コントロールしたら移動できる。今までに何度も使ってきてるんだから身体を動かさずに移動させるぐらいの調整なら、そんなに難しいことじゃない。

「空を飛ぶ!?もう切れたんですか。いや、彼が特別なだけでしょうか。にしても、厄介になりましたね」

「沖、なるほど。グッジョブ」

見えないにも関わらず、親指を立ててアピールしてる玲夢だった。


「せめて数は減らしますか。幸いまだ動けてないようですし」

ターゲットを沖から栗久に変えてそっちの方向へと向かう部門長。

「はぁっ……はぁっ……待て……」

そしてそれを追いかける玲夢。沖のいた方向とは逆だから抜かして止める必要があるが、さっきまで無茶して止めていたのもあり身体に疲労感がとてつもない。鞭打って速く動こうとはしているが、息切れはひどく、離されるばかり。

これを沖が動けるようになる前にやられたらまずかった。でも、今は沖もいる。

「止めるよりは、こっちか」

といっても、身体が動かせないからこっちから止めるなんてもってのほか。てかまともに立つ事ができるか怪しい多分無理。

「引きずる感じになるから。こっちのことちゃんと掴んでてくれ。身体に力入らなくてあんまり力が出ないから」

「分かりました。やりたいこと。これで動かしてください。もしあれなら、百刃で足止めします」

「じゃああいつにやってここ通らせないように。今のうちに行くから」

栗久を浮遊の力を使って動かして、あれから逃げる。栗久に近くに落ちてた武器を拾って渡し、そして栗久の身体をがっしり掴む。栗久も同じようにがっしり掴んで、離れないようにした。

栗久は百刃を途中に放って妨害をして時間稼ぎ。そしてその間に、何とか栗久を動かした。

「やっぱ身体に力入んねぇ。落とさないよう気をつけるが」

「握ってますから。ちゃんと。落ちないように」

身体が動けないことによる弊害が色々と出る中、何とか場所を遠ざけることに成功した。一番遠い所に置いておく。


「ありがとう。パパのこともお願い」

「ふぅっ……もう少しで反撃の狼煙を上げれそうだな。身体も、段々力が弱まってる感覚を感じるよ」

「はぁっ……身体動かしてないのに、いや動かしてないからか。めっちゃ疲れたー」

同じ要領で、唐栗や湊も運んだ。これでほとんどは同じところで待っている。やっぱりこうしたほうが守りやすいはず。

「これであとは1人か。玲夢には悪いが場所分からんし自力で来てもらおう」

「イブのことも」

「ってかイブ、こっちに来てくれ。動けんだからこっちで呼んだほうが断然楽」

最後のイブをここに集めれば、色々と楽できるようになる。当然それをやすやすと受け入れられるわけはなく。

「わたしにできる勝ち目を探しましょうか」

「……決めました。あれを使いましょう。やりますか。人質作戦を」

イブを人質に要求を飲ませようとする、最後の切り札を見つけたようだ。


「はぁっ……はぁっ……」

「ほんとお疲れ、玲夢。あとはまあ、こっちでできるよ」

「いや、まだ終わってないでしょ。私はまだやるから。完全に終わったら休ませてもらうから。大丈夫心配しないで」

「もう休んどけよ玲夢。見えてないけど、もうずいぶん頑張ってたろに。身体も結構あれだろ。異少課なんて自己犠牲高い人ばっかいんだから」

玲夢はまだ透明なまま。まだ戦おうとしている。

たまたま移動してる最中に沖が近くに玲夢がいることに気がついたから、玲夢のことを慮って伝えておいた。

「分かったじゃあお言葉に甘える。頑張って」

「おう」

沖に真摯にそう言われたら、玲夢もあんまり強くは出られない。自分の身体のことも理解してたし、皆のこともあったから、休ませて後は託すことにした。


「ここは通さない。パパのためにも」

「恐れってのもないんですかこいつら。また何も考えてないのか、考えた末なのか。とにかく戦いづらいことこの上ないです」

人間達とは違い、唐栗はからくりだからか一足先に復帰した。そしてイブを狙う部門長の足止めをしている。

「後ろに設定して、百刃!」

「これも本当に、まずいですねこれは。ここまで私が負けることになるとは」

そうしてタゲ取ってる間に栗久が百刃でごっそり体力を削る。良い連携が取れていた。


「本当に裏切るんですか。今ならまだ間に合うのに」

「そうなるっす。ここにこのままいるより、着いていったほうが良いと思うんす。こんなろくでもないことして汚れた手でも、償う方法があるらしいんすよ」

「やっぱり、そうですか……」

イブを言葉で何とか動かそうとも失敗し、ボロボロになりながら何とか食いしばって鎌を振るってる。負けてはならないという気持ちが、何とかそうしてるのだろう。

「せめて、せめてでもいければ。そこから。負けてはならないんです。こんなのに負けては……」

「根性だけは凄いと思えますよ」

「本当にな。必死にしてて。そいつにとってはここがそこまでして守りたい場所だったんだろう。ま、人の考えは分からんもんだ」

「絶対、私……は」

「百刃」

最後は効果が完全に切れ、動けるようになった栗久による百刃で戦いが終わった。倒れたその最後まで鎌を手から離さず、戻ったらまた戦いを挑んできそうな状態で。

「何とか終わったすか」

「そうですね」

これで終わった感がでてしまったが、まだまだやることはある。とりあえず皆集まることにした。


研究所の所長室で富山県異少課+探偵組が所長とやり合ったり、倉庫にて岐阜県+愛知県異少課組が死闘を繰り広げていた頃、時を同じくして研究所の外でも一悶着あった。

「奴らが気づいてないうちに話を聞いて、情報を仕入れるってのもアリですけど、今の状況を考えるとさっさと行きましょう」

「静かにね。見つかっていらない戦闘をしないように」

救援要請を元に救出に向かう警察官組は、魔族の死体の回収へと向かった警備組の様子を見ていた。


「さぁ、こんな憎き魔族の死体をわざわざ回収しないといけないなんてな。嫌になる」

「戻りますか。どうせドヤされるんでしょうが。あれは何とか粗探してネチネチ嫌み言ってきますよ何しても」

「下剋上やりませんか?何とか耐えてるの、見てて気持ちのいいものではないですよ」

警備組が仕事を終えて戻ってきてしまった。

「皆隠れろ。戻ってきた」

警察官組はそれに気づいて全員に、しゃがんでバレないようにしようと指示した。しかし、それは少し間に合わなかったよう。

「どうしました。急に立ち止まって。なんか他に言われたことでもあったんです?」

「いや。全員。その死体から手を離せ、武装をしろ。賊の可能性がある。あの奥の茂みに人が隠れている」

警戒しながら近づいてくる警備の人たちに、このまま隠れ通すのは無理そうと悟った。そして箕乃の指示で一斉に立ち上がってこちらも構える。

「仕方ないですね。ここまで来たら戦うしか無いでしょう」

「早く救助してやりてぇんだがな。全面的にやるなよ。逃げれるようにするんだ」

「うわぁ本当にいました。流石ですね」

「どうしますか?戦いますか?」

「これはどうせあいつが把握してない奴らだ。いつものようにしろ。とどめを刺す必要はない」

戦いが始まることは、変えることができないようだった。


少しの間を開けて両軍が見合ってる。どちらからも動きと言える動きはなく、最初から膠着している。

「なんだ。ただの迷い込み一般人ってわけじゃない。誰だ。敵対意思があるとみていいな」

「私達は閉じ込められたあの子を助けに来た。ただそれだけ。でもその邪魔をするようなら敵とみなすよ」

「あの子ってアレですかね。ほらほらなんか言ってた、ネズミがどうのこうの」

『あそこの研究所がどうなろうが知ったこっちゃないが、何があってもメンバーだけは守り切る」

「そういうところに、皆惹かれてるんです。本当に罪多き人ですよね」

「うるさいな」


「発砲はしてもいいですよね」

「基本的には足だが、万一のことがあればそれ以外を狙っても構わんだろ。安全第一。二次被害は最小にだ」

「本当にでも大丈夫なんですか?だって私達と違ってあれ……確実に力を使ってきますよ」

武器の力は基本的に年若い人にしか使えない。たまに一部例外の人はいるが。それだから異少課がわざわざあるのであって、それ以外の一般の人が武器の力を使えるわけがない。

ならじゃああっちも使えないのではないかとかいうが、アンダス団関係だと話が別。今までの件をみるに、アンダス団関連だと年齢関係なく使ってきてる。研究の賜物なんだろうか。

「にしてもサツか。どうせまた研究員共がやらかしたんだろうよ。おかげでそのしわ寄せと」

「もうアイツラ放置して帰りたいですよ。なんであんなののために」


お互い見合ったまま、膠着状態。どっちから手を出そうか見計らっている。

「あのさ、ねぇ」

「箕乃さん!?何か思いついたんですか?」

静寂を壊すかのように、箕乃は急に大きな声を出した。あっちの陣営まで届くその声を。

「もしかしたら、ね」

「どうかしたか。何か話か」

警備側のボスがそれに応答する。ここにいる殆どの人は状況がよく分かっておらず、この後どうなるか耳を傾けるのに精一杯だった。

「さっき聞こえてきたけど、戦いたくないんだよね?私達も本音はそう。だから、お互い見なかったってことに、できない?」

「箕乃さん。なんでそんなことを」

「異少課の子達と違って私達の戦闘能力じゃ、どう足掻いても絶大な被害が出ることは避けられないから。だから何とか、戦闘を回避できないかなって」

とにかく今の目的は異少課の救出。こんなので時間食いたくないし、こんなので被害を出したくない。避けることにはメリットしかない。

こっち側にとっては。


「ど、どうします?」

「皆決められた事に従うんで、好きに決めちゃってください」

「簡単に言うなぁ」

警備側は色々と、どうすべきか考え中。

「そもそも誰なんだ。そして、何をしにここに来た。まさかたまたまここに来たわけはねぇ。全部正直に話せ。色々と考えるのはまずそれからだ」

こちらからしたら得体のしれない人たち。そんなんでハイハイと信用できるわけがない。

「私達は岐阜県の警察官。ここに来たのはこの奥にある研究所を調査する仕事のため」

「言っちゃって良いんですか?流石に隠しといたほうが、今後のこと」

「だけど、嘘ついてもバレそうだし、それがバレておじゃんになるよりかは、最初から正直に話しておいたほうが、良い気がしてね」

「そうか。俺は研究所の警備隊長をやってる鳴真。そしてここにいる皆はそこの警備をやってる」

「鳴真さんね。了解」

「それで、今ここで得たことを全部忘れて、何もせず帰る。そしてもう二度と来ないってのなら、見逃しても良い」

鳴真の出した条件は、アンダス団に加担されたりよほどの被害を出されるようなものと比べるとずいぶん寛大な条件。もうここに触れない、ただそれだけ。

「でも私達は先に行った子がいて、この子をまだ回収できてない。だから、それをさせてからで。その後は守るから」

「戦ってくんなよ」

「俺達がそんなことするか。俺達はわざわざ殺したいなんて思ってるんじゃねぇ。だから、なんかやりに来た組織の奴らとか勝手に迷い込んだやつらとか。あのクズ部門長に見つかったら処分されるような奴らも、追い払って安置するだけに済ませてんだよ」

「約束は守りはしますよ。そこは守りましょう。約束です」

実際そこに関しては本当だ。さっきも殺しはせず、死体にするなんて考えてなく、そこは気をつけて戦う予定だった。

ここはアンダス団の研究所からは離れてる。あの部門長に気づかれることはない。鳴真の独断で勝手に対応できるのだ。最初からなかったことにすれば逃がしてもいいわけだ。


「そんなことはいい。先に行った子ってのは、あのネズミのことか。そいつらが自力で脱出したならともかく、今から救助か。流石にそこまで許可するわけには、まあいかねぇな」

「だってそれで捕まったら、通した俺達の責任になっちゃいますもん。流石に虫が良くないですか。素直に帰ってください」

警備側は流石に救出を許可することはできない。ここで帰ってもらえばここで出会ったことは無かったこととして、ただ伝えないだけですむ。でも、これを許すことになったら存在がバレる。

「そこを何とか、お願い」

「そもそもこっちにメリットがねぇ。せめてメリットがあるならともかく。そこんとこをどうにかしないと、かけようって気にはなれねぇよ」

「どうしますか箕乃さん?多少不利な条件でも飲みますか?それとも突っぱねて戦いをしますか?」

「警察としては、アンダス団相手に不利な条件を飲むことにはなりたくねぇよ。ここをしのぐために、この後を捨てるようなことにすんじゃねぇぞ」

「今後俺達を捕まえたりしない。それでどうだ。サツってことはこの研究所潰して捕まえてってやりに来たんだろうが、その件で俺達だけは捕まえない。あぁもちろん、あのクズを含めた研究所の研究員共は好きに捕まえていいし、その後どうなるかも好きにしろ」

「いやっ、流石にそれなんて……うぬ……」

「言っておくけど、俺達はそんな法は犯してねぇぞ。あの非人道的な研究員共のほうがよっぽどやらかしてやがる。攻撃は攻撃されたときにしかしてねぇし、人を殺したことなんか一度もありゃしねぇ。あくまで俺達は警備をしただけだ。銃刀法とかそこら辺でしょっ引けるだろうが、そこをなしにしろってことだ」

「流石にそれを信用しろだなんて言われても、唐突すぎる……」

「でも本当に。なんにも見ないことにしたら見逃すなんて、こっち側に何の利益もないんです。いっちゃなんですが、それぐらいの火力で俺達に勝つのなんか無理なんですから」

「分かった。飲むから。だから、お願い」

「そう来ますか。分かりましたよ」

「今のトップだもんな、こっちはまあ、それに従うよ」

悩んだ末に、出した答えはその条件を飲んで戦いを避けること。この警備を捕まえられなくてもアンダス団の情報を調べること、被害を与えること。色々と目的は達成できる。

それに、早くあの子たちの元へ行きたいというのが全部。

「良かったなみんな。これで何とかなるだろうよ。じゃあ、奴らに対する最後の仕事でもしようか」

「遂に反乱ってことですね」

「絶対成功させましょう。失敗したら……絶対恐ろしいことしてきます」

「こんだけの人数いれば、少しはいける。こいつらがどんだけ信用できるかは、また別だが。ま、今は信用してやる。今後は知らんが」

警備側としては、この機会を利用してアンダス団から手を切りたいというのがあるらしい。普通に逃げたら見つかって酷い目に開いかねないが、重要な研究所が奪われるなんてでかいことが起きれば、そんなことやってる場合じゃなくなるはずだ。


「皆、お疲れっす。戦ってるの見てて凄いと思ったっすよ」

「純粋に褒められるのも、なんか気分良いよね」

場所は研究所内に戻る。

「もうちょっとで、ここから出られるね」

「張須部門長がどこかに行った?」

「魔族脱走の件も色々とありますし、ほんとどうしましょう」

最寄りの出口へと行こうとしたものの、その道中に研究員があたふたしながらそこにいた。

「どうする?正面突破する?」

「人数とかがな。戦いは回避できるに越したことはないし……」

「他の出口から出る?案内するっす」

「お願いします」

戦った後の疲弊状態。今戦うのは分が悪い。


「ん?あれ?」

「どうかしたの?」

「いや、そこにあるの所長室だけど、皆と同じぐらいの背丈の子達が見えて、知り合い?」

「いや俺達は俺達以外の分隊とか、そういうの作ってはないし」

所長室近く、所長室の中に気になる人影が見えた。

「所長もやられてる?何があったらこんなことなるんすか」

「ちょっと見てみるか。入ったところで誰かに襲われるとか、そんなことはないだろうし」

「それにしても、誰なんだろうね」

そうして、その所長室へと入る。そこにいたのは、倒れて動けなくなっている所長と、

「この部屋は」

「ん?ん……。なんでいるの。」

「ここ管轄岐阜のはずよな。確か富山の?と後は分からん」

「そうなんですか、あんまり分からなくて」

「えっ?」

こうなることも無理はない、まさかの予想してなかった富山県異少課と知り合いの探偵達であった。


「えっとつまり、依頼を解決するために近くに来て、念の為で異少課を呼んで、そして助けになれるならと勝手に着いてきて。ってか勝手に着いてきたって何してんの」

「それに関してはいいじゃん。憧れの人が近くにくるなんてことになったら、そこまで行って助けになりたいのがファン心理でしょ」

「ファンとかそういう関係なのか、私達」

一旦事情を知るためにお互いのここに来る経緯を話している。本当にたまたまこんなとこに来るような人がいるとは。

「で、そちらの皆さんは任務でここに来たんですね。愛知県と合同ってことは、やっぱりここは、あちこちで問題になるほどなんですか」

「まあそうだろうな。あのアンダス団の拠点だし」

こっち側の説明はぼかして要点だけをかいつまんだ。対スパイ同盟とか元アンダス団メンバーとの取引とか、まあ公にしてない情報は言わないに越したことはない。

「ネズミって言われてたのは皆さんだったんですね。だったら、牢屋開けた後牢屋のほうまで行ってもよかったかもしれません」

「そんな予感はしたけどやっぱり牢屋開けてくれたのね。ありがとう」

「たまたまその場所があったからやったんだが、もしかしたらこれも幸運とやらの力なのかもな」

「皆牢屋に捕まってたの!?大丈夫?怪我はない?」

「ちょっと幸。興奮しすぎ、落ち着いて。でも……そっちも凄いことあったみたい?そのケガ」

「あぁー、これね」

玲夢についた怪我を指差して質問した。この怪我はさっきの戦闘でついたものである。これ以上の問題が置きすぎてて本人も忘れかけてた。

「あの所長もやっちゃったんすか。ほぇー、やっぱりすごいっすかっこいいっすよ君たち。ここどころがアンダス団すら倒せちゃうかもっす」

「ありゃ、どうも」

「私はイブっす、この皆とは、色々とあったんすけど、とにかく敵じゃないっすから。気にしないでっす」

「その恰好、ここの人?」

「やっぱ分かるっすか。そうっすよ。まあでも、本当に敵対心はないんで信用してほしいっす。どうしたらいいとか分からないっすけど……」

「裏切りとか、しようとしてんじゃないだろうな」

「そんなことないっす。これは違って言えるっす。もう、手を汚すのは、やっぱり嫌なんすよ」

富山県組はさっき案内してくれた品見さんが実は俺達を利用してた疑惑のまま、透明になって逃げられたばかりである。こうなってしまうのも致し方ない。

「話すのは大事だが、まずはここから出よう。それからでいい話は」


「玲夢、沖、大丈夫だった!?それに皆も」

「おうっとっと。箕乃……苦しい」

「本当に大丈夫だったから、色々とあったけど。だから泣かないで」

研究所から脱出出来た一行。そしたら今度は箕乃達警察官組とも合流した。色々と集まりまくって大所帯になっている。

出会ったらまず箕乃に玲夢と沖が力強く抱きしめられた。牢屋に閉じ込められていたからずっと不安で仕方なくて、無事また会えて本当に嬉しかった。

現状の状況。富山県組がなぜここにいるのかとかイブのこととか倒したやつらとか。とにかく色々と情報を伝えあった。

「よし、後ろから行くのと正面から行くので別れよう。あのいまいましい研究員を1人たりとも逃がすなよ」

「あんだけ懇意にしてた屋良礼すら無碍にするような奴らですもの。屋良礼の分まで戦いますよ」

「とうとう。長かったです。これで本当に終わらせましょうか!」

「おー!」

警備の人達は俺達と取引を結んだのもあり、今が契機とばかりに一斉に研究所を包囲した。まだいる研究所の職員が逃げることのないように。

「それであの人達はどうしたの?」

「この人たちってここの警備してた……」

「こっちも色々あってな。まあなんだ。箕乃さんがどうたらこうたらして利害の一致で取り付けたそんなもんだよ」

「流石です。こんなのできるなんて……」

「私というより、相手が良かっただけだよ。あなた達だって1人改心させたんでしょ。そっちのほうが私は凄いと思うよ」

「そうっすね。多分他の人だったら、私はまだ心を壊したまま終わってたんじゃないっすかね。ありがとうっす。おかげでまだきれいに終えることが出来たっす」

「それにしても、まさかこんなところで会えるなんてね」

「こんなことなれるんなら、やっぱり山井さんに着いていって成功だったなぁー」

「とりあえず、音の元凶も色々とできたし、依頼も解決。円満解決ってことでいいよね」

「ああ。お父さんにいい顔ができるな」

富山県組がここに来た理由は辿っていくと恋の父親による依頼。そっちも完全に成功したと言っていいだろう。

「ところで、これはスパイ関連?このメンバーってことはやっぱりか?」

「うんうん。話すと長くなるんだけど……」

このメンバーが対スパイのメンバーなのもあり、気づかれないよう小声で箕乃に聞いた純。こちらとしても色々と知っておきたい。

「良いもん、あったらいいな。ここまでやったんだから。激闘を繰り広げた報酬が」

「そうですよね。アンダス団、なんですよね。これで壊滅に繋がれば、本当に……」

「早く滅べ」

新はアンダス団に対しての憎しみが人一倍強い。新がアンダス団壊滅に繋がれたのなら、新もやった甲斐があると思えるだろう。


「すみません」

「どうしたの?」

新は1人、箕乃に頼み込んでいた。

「ここで得れたアンダス団に関する情報とか、後で教えてくれませんか。アンダス団に関することは、何でも知りたいんです。お願いします。ここは、アンダス団にとっても重要な場所だから、何か出てくるはずだから」

「それは、できるけど。何でそんなにしてまでアンダス団のことを知りたいの?」

それは単なる好奇心か。とにかく、箕乃はすぐに聞いたことを後悔してしまうことになる。

「俺の親友が、アンダス団に殺されたから」

「……ごめんなさい。あんまり話したくないことを聞いてしまったわね」

「それはいいんです。とにかく、よろしくお願いします」

頭を深々と下げて、そして他の人達のところへと行ってしまった新。それを見た箕乃は、ちょっと考え込んでいた。

「ねえねえ、あの子達ってどう思う?仲間に入れていいと思う?」

「そういうこと?」

「うんうん。だって今回結果的には皆大丈夫だったけど、たまたまが無かったら本当に危なかったの。私達スパイにバレるから……なんて言ってたけど、やっぱり今後さらに強い敵と戦うことも考えると、もっと戦力はないとと思うの」

箕乃が言っているのは、富山県の異少課組を対アンダス団スパイのチームに加えられないかということ。流石に今回ので人を増やそうとしていた。アンダス団に対して恨みを持っているようだし、入れたいと思ったのだ。

「良い子達だよ皆。仕事も真面目にやってるかな」

「どうだろうな。人を疑う事ができるか。そもそもここのがしっかりしすぎてるんだ」

「辛いだろうに、その気配全く感じさせないのは、凄くできてるって私も思うよ」

岐阜県組、愛知県組。普通なら知り合いの中にスパイがいるなんて言われたら、疑うのを躊躇してしまうだろう。それを見せずにしっかりと疑っている。しっかりしすぎてる。

「でもまあ、戦力問題は解決せんとだな。石川県長野県愛知県を除いて……」

「やっぱり、頼んでみる。聞いてくれてありがとう」

「なんだかんだいいつつ、大丈夫だろうとも思うよ。いやどうだろうな。割と優しいから。敵対しているような人と仲良く助け合えるような、そんなんだからな」

「それでも、皆のためで何とか頑張ってくれそう。私はそう思う」

探偵達からの率直な富山県組への評価。それを聞いて、ようやく箕乃は決めた。対スパイをしてもらうことを。


「ねえ皆、ちょっと話聞いてくれない?今したほうがいい話なの」

「どうしたの箕乃、そう言えば私達ってこの後どうするの?」

「中にいた人達は今、協力してくれてる警備の人達が何とかしてくれてるはずだから、調査の件に関しては私達がやっておく。だから、話さえ終わったのならパトカーで警察署まで送るわ。それで、話の件話の件」

「任務関係か?」

「実際に働いていた人引き抜いたし、なんだかんだなりそうよな」

「これで、正体分かったらいいですね」

「まあその件で、対スパイのチームに、富山県組も入れようと思うの」

まず元々いる人に許可を取ってから。こういうところに箕乃の律儀なところがでてる。

「するかしないかって話だったが、結局するのか」

「うん。それで、どう?大丈夫そう?」

「俺的には問題ないんじゃないかな。スパイじゃないのは確定してるし」

前の件で全員が容疑者から外れている。ここなら入れても問題はない。


「富山県の皆、帰る前に私の話聞いてくれる?かなり大事な話なの」

「は、はい」

瞬間移動を使って帰る準備していたので、そこをギリギリ止めた。

「今から話す話は、基本的に口外しないこと。そっちの県の石山さんならともかく、他の県の異少課のメンバーには絶対言わないで。このことを知ってるのは私達岐阜県メンバーと愛知県メンバーだけだから」

「口外しない、うんうん」

「いろんな県に異少課あるでしょ?その中に、アンダス団のスパイが紛れ込んでるの。これは、確実な情報なの」

「私も、聞いたことあるっすそのこと。確か敵対組織の状況を探るためとか言ってたはずっす」

話の内容が聞こえてきたイブが思わず自分の知ってることを話した。イブはもうこっち側だから、自分にできることで助けてくれた感謝がしたいらしい

「そんなことが、あり得……」

「それって異少課の関係者に?上司に?」

「いや、実際に働いているメンバーの中にいるの。メンバーしか知り得ない情報でスパイが活動した痕跡があったの」

富山県組が思わず絶句する。何より箕乃の話し方が淡々と、しかし説得力のあるものだったから。交流会とか色々と楽しんだ皆の中に、アンダス団のスパイ。裏切り者がいるなんて。

「交流会のときとか、男子達が行ってた前の研究所の時とかに、スパイが連絡とかして有利に進めようとしていたみたい。実際に変なことあったでしょ?」

「言われてみれば。研究所が最後燃やされたり……」

「それで、私達は対スパイの活動を行ってるの。スパイを暴いて捕まえて、もう被害を出させないようにするために。そして皆には、私達と一緒に対スパイの活動をしてほしいの。私達だけじゃ人数が足りないの。お願い。辛いことだって分かってるけど、異少課のためにも」

箕乃の真面目な顔、ゆっくりと正確に伝える話し方。そのどれからも、ことの深刻さが伝わってきた。富山県組はただ相槌を打つこともままならず、まさかのことに呆然となっていた。


「俺は、いいですよ。アンダス団は、何としてもつぶさなきゃいけないところ。そこがやろうってしてるのなら、やりますよ」

「皆さんも、辛いだろうにやってるんですよね。誰かがしないと、好き放題されちゃうから」

「何やってんのか知らないけど、異少課にまでスパイ出すなんて、舐められてる。こっちの強さ絶対見せつけよう」

「俺もいく。守れないまま終わるよりは、こっちのほうがまだいい」

「怖いけど、お兄ちゃんが一緒なら、私も」

ちょっと考えたけど、富山県組は全員、対スパイのために活動することを決めた。異少課として、アンダス団を憎むものとして。

「ありがとう。皆。絶対に見つけて、捕まえようね」


「それじゃあ、帰ろう皆」

「箕乃さん戻りますか。私達は調査が終わったら撤退します」

「うん、よろしくね。本当のこと言うと私も調査に付き合いたいけど、まずは皆を帰さないと。疲れてるよねきっと」

「私の瞬間移動で警察署ぐらいなら送ることできますけど、どうしますか?」

「そうだそれあったね。なら皆送ってもらえば。それなら私は調査のチームに行くから、後のことよろしくね」

もうすぐこの仕事も終わって帰り。ここにいる皆、自分たちのグループで終わった感出しながら世間話をしていた。

「じゃあ早く帰ろう。そしてソファでゆっくり眠ろう。沖、後で膝枕して」

「あれ普通に辛いからやだ」

「え〜……。私のこと結構いい感じに見てたのに今日。活躍したんだからご褒美ちょうだい」

「はぁっ……今日だけな」

玲夢の眠りの話をしていた岐阜県異少課組。

「さてと、恋。この後依頼完了の報告をしないとな」

「お父様喜んでくれるかな。くれたらいいな」

「山井さーん。今日は山井さんの助けになれて本当嬉しかったよ。またなんか頼ってよ私達のこと」

「検討する。検討はする」

「山井さん困ってるだろ幸。はしゃぎすぎだって」

依頼の報告と今日の感謝を伝えてる探偵組。

「パパ……」

「帰ったら唐栗のメンテもしないとな」

「今日のこと、女川先輩に後で話しましょう。こういう話好きそうですから」

「まあな。同じ部活にはなったんだし。世間話の1つとしてやろうか」

部活の仲間に今回の話を聞かせてやろうとする愛知県異少課組。

「神代先輩、やっぱりアンダス団の話だと、冷静さを欠いてしまうんですか?」

「師匠、なんだかいつもとちょっと違う気がしますよ」

「俺にとってアンダス団は滅ぼすべき存在だけど、まさかここまで近くにいるとは思ってなかったからな。ちょっと考え込んでた」

「新、しっかりしろよ。考え込むなとは言わないけど」

「そうです。そういう先輩が見たいわけじゃないので」

伝えられたアンダスのスパイに対して気持ちを整理している富山県異少課組。


「それじゃあ、私も帰ります」

「またね。バイバイ」

最後に愛香が富山県に戻ったことで、ここにいた異少課関係者が殆ど帰った。後残っているのは大人のみ。

「それで、私はここにいたら良いんすかね。逃げたりはしないっすよ。だけど、好きにしていいっす」

「アンダス団をやめて私達の味方になってくれるってことでいいのね」

「あのアンダス団に戻る気はないっす。それに、助けてくれたのは異少課の皆っすから」

「なら、調査の手伝いしてくれる?どこに使えそうな情報があるか。ここにいたならそういうの分かるでしょ」

「それぐらいなら良いっすよ」

「イブね。このあとどうなるか分からないけど、よろしく。そこそこの付き合いにはなりそうなの」

「私にできることならやるっす。そうしたら、ちょっとは私の心が軽くなる気がするんすよ」

イブと箕乃も、今後の大事な話し合いをしていた。


「それじゃあ、俺達はここを去る。ここにいた残党共は片付けておいた。後始末とかは勝手にしてくれ」

「俺達にはこの件で手を出さない。そういう約束だった。もし約束破ったら……それ相応に被害を与える。分かってるな」

「うん分かってるよ。それじゃあ、多分もう二度と会わないかな」

皆が瞬間移動により帰った後、研究所の近くでは警備組と箕乃が話していた。今回の件に関しては完全に利害の一致。

警備組は中に残っていた研究者の対応をするのにとても役に立った。かなりいた人が全員伸びてて、楽にここの人達を逮捕できた。

「とりあえず先パトカーで護送しておきます。この人数だと一度運ばないとですね」

「それじゃあ、調査始めるとするか。もう色々ときな臭えけど」

「魔族が捕らえられていたりしてて、なんだかなぁって気持ちだよ」


「それでイブ、重要情報はどこにあるの?」

「金庫があるっす。そこに大事なもん色々とあるっすよ。そこの鍵は……」

箕乃はイブと行動して、イブの情報を活かして探し中。

「イブってさ、ここで何してたの?」

「私のこと、気になるんすか」

「そりゃあね。これから対アンダス団関係でお世話になるから」

「雑用っすよ。事務作業やら清掃作業やら魔族の世話やら」

「それもでも、やりたくてやってたわけじゃないんでしょ?それにやってることは、あんまり法には触れないことだから、そんなに重くないのかもね」

「何いってんすか。ここがおぞましいことをしてるって分かってても、諦めてそのままし続けたんすよ。やったことで言えば、ここの研究者とそう変わんないんす。私のことを、そんなに良く見ないでほしいんすよ」

「でもでも、根は悪くないでしょ?本当にそんなに長くない間に出られると思うの。そしたら、本当に第二の人生、歩んでよね」

「私にそんなの残ってるんすかね」

「残ってるよきっと。私は絶対手伝うし、周りの皆も手伝ってくれるよ。だからね」

箕乃の底しれない温かさは、イブにちょっとした希望を抱かせたように見えた。イブには、この後ちゃんと幸せになってほしいと思う箕乃だった。


色々とあった研究所の事件の後。山井探偵事務所では、事件に関わる発端となった恋の父からの依頼の報告をしていた。

「ということでお父様。依頼の件、完了してきたよ」

「これでもう、変な音に悩まされることも無いでしょう。製品テストも再開できると思いますよ」

「まさか本当に音が止むとは。いやはや。これで安心してあやつらも製品テストできるだろうよ。本当にありがとう」

報告も終わり、この件に関しては完全に終了した。しかし、まだ何か言いたいことがあるらしい。

「それにしても、恋も成長したな。頑張ってるってことを実感できるよ」

「お父様。私が成長したのも全部、純様のおかげですから」

「まったく恋は。全て私がやれた訳無いだろうに。紛れもない恋自身による成長だよ」

「はははっ。けっこうけっこう。前も思ったが、本当に仲良いんだな。そうならば、私達も安心出来るというものだ」

恋と純。その関係がただの所長と助手という関係に収まってないことは、ここを見るだけで分かる。恋がこんな人と出会えて、やっぱり嬉しいみたい。

「それじゃあ、ありがとう。依頼したときも言ったが、余った依頼料は恋の小遣いにしておいてほしい」

「しておきますよちゃんと。と言っても、恋はどうせ受け取らないので、物として強制的に渡すことにします」

「それはいい考えだ」

父親の帰り際、恋は少し悩んだ末に声をかけた。

「お父様」

「どうかしたか?恋?」

「今から私、家に帰ります。大きい仕事も終わって、時間が空いているので」

恋の実家はそんなに遠くない。帰ろうと思えば帰れた。帰ったら家の皆からもみくちゃにされるからあんまり帰りたくなかったけど、この父親からの依頼も終わり、たまには顔見せようと思ったらしい。

「そうかそうか。わざわざそんなこと言わなくても。いつでも帰ってきて良いんだからな。顔を見たいのは、私達だけではないのだからな。でも、うれしいよ」

「そんなに頻繁にはしない。毎回帰ったらお母様にもみくちゃにされるから。お父様、それしないように言っておいて」

「言うは易いが、止めるのは無理だろうよ」

「だよね。うん。そうだ純様ごめんなさい勝手に決めちゃって」

「そんなことで謝るな。その顔、見せに行ってこい」

恋のことを送り出す純。父と娘が並んで帰っていくその姿を、ちょっと眺めていた。


別日。岐阜県異少課に集まった富山県、愛知県、岐阜県の異少課達。

「玲夢、起きて」

「うにゅぅ……」

「探偵達いないのか」

「どっちも予定入ってたんだって。後でちゃんと伝えるから」

ちょっとドタついていたが、本題を切り出すと皆シーンと静まって箕乃の話に耳を傾けた。

「この前私達が壊滅させたアンダス団の研究所。その後の調査で、アンダス団について色々と新しいことが分かったの。それで、今日はそれを共有しようと思って呼んだの」

「アンダス団についての情報。教えてください」

「まず、アンダス団が色々と起こしている事件について。関わった後逃げられそうになったりたまたま目撃されてしまった人を殺害したり誘拐したり。計画的な犯行なら失踪扱いにして警察も追えない状態にしてる」

「あんなこと、やっぱりまだしてやがったか」

新はその殺害を経験しているから、やっぱりそれに対する反抗は人一倍強い。

「あと、研究員として優秀な人を見つけて誘拐し、アンダス団の発展のために研究させていたの。実際あの研究所にも、誘拐されて否応無しに働かされていた人がいたの」

「誘拐って、もしかしたら前のオルクの件も……」

「あったな。元々は温厚だったのに性格が変わったようになり、誘拐事件を起こしていた魔族。案の定、ろくでもないことを」

前、親善試合のときに倒した魔族。ホクの知りあいの魔族。アレもまた、アンダス団による被害者だったのだろう。

「そして、スパイの話。正体とか本名とか、どこかの書類に乗ってないかと探してみたけど、1ミリたりともまともに書かれてなかったの。スパイ関連は本当に秘匿されていたみたいで、もっと位の高いとこに行かないとそこは無いかも」

「これでスパイを見つけられたら熱かったのに、無駄骨か」

「でも、イブが運良くスパイに関する情報を持ってたの。私からより、イブから直接聞いたほうが分かりやすいから。はい、この電話イブと繋がってる」

イブは今、他の研究員やらと同じく房の中に入れられていた。いくらイブでも流石に本人を呼ぶことはできず、仕方なく電話で何とかしようとしたのだ。

「前研究所で、所長が話してることを聞いたんすよ。何やら別の用で使うはずだった魔族を、ミスって異少課の人を倒すときに死なせてしまったから替えを何とかできないかって。異少課を1人減らせたんだからそれでチャラにしてもらえとか言ってました」

「異少課を1人減らせたって、それってまさか」

「うん。それを聞いたのはいつかも聞いたんだけど、その時期がまさしく一致してるの。新潟県の、南菊花さんが死亡した時期と」

異少課の人が減ったと聞いて、思い出せるのはそれしかない。

「あの時、魔族に襲われて死んだが、あの魔族がアンダス団のだったってことか」

「それって、平気で異少課を殺してるってこと」

スパイに慈悲というものはない。早く捕まえねば、皆が本当に危ないと感じた皆であった。


「他にも魔族の件とかアンダス団の内部とか、色々とあってね、正直得られたのが多すぎるの。大事そうなのはさっき言ったので全部だけど、他のも知りたかったら警察署のデータベースの方にまとめてあるのがあるから、それから見て」

「箕乃、あそこと似たような場所、色々と見つかったんじゃない?だったら、私達が次にするのはそこも潰すこと?」

「確かに他の研究施設について書いてあったのはあったよ。だけど、その場所まで正確に書いてあったのは見つからなくて。だから、とりあえずしばらくは対スパイの活動無いかも」

「1個行けば芋づる式にやれそうなのに、実際上手くは行かないもんなんだね」

 

アンダス団のとある施設内。そこで会議をしていた2人の人がいた。いつもの3人組のうち1人が前の交流会で捕まったため、残ってる2人で話してる。

「それにしても、異少課を放っておくのはやっぱり危険ねぇ。現にあの大事な研究所も壊されちゃったしぃ」

「あそこの情報も全部異少課に入っただろう。苦しいな。何があって何がないのか」

「スパイやってるんでしょぅ?その情報助かるけれど、もうちょっとやれないのぉ?」

「仕方ないだろ。こっちから動くリスクが高いんだ。証拠も残さず完全にバレずに殺すのなんか、いつ行ったらありゃしねぇ。街中に防犯カメラあること分かってるのか」

「それを踏まえても、やっぱり異少課に甘いような気はするのよねぇ。スパイをやめて異少課に本当に寝返るなんてこと無いわよねぇ?」

「流石にそうはならん。アンダス団から受けた恩をドブに捨てるようなそんなマネするかよ。そっちが動けばいいじゃないか」

「私は私でやることあるのよぉん勝手にできはしないわぁ。とにかく、対応はよろしくねぇ」

「どんだけ自分勝手なんだ」

あの自由さにちょっぴりため息を付きたくなる、異少課のスパイだった。

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