烈火の魔女メアリー02
ただ怯えるだけしかない私たちのところに、一人の剣士が現れた。
30歳代の若い剣士だ。
ボロボロの恰好をしている。
盗賊たちの動きから、その人は仲間ではないとわかる。
「なんだ、お前は!」
「消えろ、お前には関係ない」
盗賊たちは剣士に言う。
「助けてください。
わたしたち、この人たちに襲われたんです。
わたしたちは貴族です。
助けていただいたらきちんとお礼もさせていただきます」
母がすがるように剣士に話しかける。
剣士は何も言わずにわたしたちを見る。
すごく哀しい目をした人だった。
「おい、貧乏野郎。
悪いことはいわない。
やめとけ、おまえにこの十人を相手にすることはできないだろう。
金ならくれてやる。
このまま立ち去れ」
そう言って盗賊は、銀貨を放る。
剣士はそれをかがんで拾う。
「いい子だ。
お前は何も見なかったんだ。
いいな」
そう、剣士の身なりから取るに足らない相手だと踏んだのだ。
普通、格の高い冒険者はその装備もいいものを装備している。
装備は命を守るものだからだ。
稼げる冒険者は、装備に金を惜しまない。
それなのに目の前の冒険者は安い皮鎧に汚いマント。
どう見ても高位の冒険者とは思えない。
たぶん、採取中心の乞食冒険者といわれる人だろう。
そんな人が盗賊10人を相手にできるわけがない。
「わかった」
剣士は低い声でいう。
一縷の望みをもったわたしたちには、絶望的な返事。
もう、助かる手段はないだろう。
母がわたしを守るように抱きしめる。
「そうか、じゃあ、行け。
みせもんじゃないんだ。
町に行ってもこのことは黙って居ろ」
そう言って蔑むようにう笑う盗賊の眉間に銀貨が当たる。
「わかったというのは。
助けてやるってことだよ」
剣士はそう言って剣を抜くのだった。