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第四十話 『ピーチ・ホワイト・ホワイト』


「――よし」


 魔獣たちが過ぎ去ったのを確認し、僕は素早くスタートダッシュを切った。

 現在、僕はマコトたちと別れて単独行動中だ。魔獣たちはパプリカさんに夢中なので、一糸まとわぬ雄々しい姿で通りを爆走する僕を止められるモノはいない。

 避難が進んで人の気配が消えた静かな王都を僕は疾風のように駆け抜けて行く。目指しているのはもちろん、レイトさんの所だ。


「未来の英雄、今行きます――っ!」


 いつの間にか王都の中心に来ていたらしく、巨大な神樹と王城が横目に見える。レイトさんの所まで、あともう少しだ。

 トップスピードで曲がり角に差し掛かった僕は、ドリフトせずに壁面を走行――三角飛びの要領で一気にカーブを突破し、その先の光景を視界に収める。

 そこには、今にも地上のレオナルドに向かって上空からブレスを浴びせかけんとしているレイトさんの姿があって――。


「危ないッ!」


 瞬間、僕は限界を超えて加速した。

 神速の加速で以て戦場に踏み入った僕は、その勢いのまま低く跳躍。渾身のドロップキックをレオナルドの横っ面に叩き込んだ。


「ごぶッ――!?」


 レオナルドは地面を何度も跳ねながら吹き飛び、僕は素早く地面に片手を突いて身を捻ると、残っていた勢いを利用してその場から大きく飛び退いた。

 直後、頭上から落ちてきた黒炎が地面を大きく抉る。

 チリチリと剥き出しの素肌が焼かれる感覚に、僕は受け身も兼ねた横転を何度も繰り返すことでどうにか延焼範囲から逃れる。


「――――」


 燃え盛る黒炎を前に、僕は体の汚れを払いつつゆっくりと立ち上がる。そして、肩越しに後ろへ振り返り、二ッと口の端を持ち上げた。


「ケガはないかな、騎士様?」


「――――」




 ――レオナルドは、白目を剥いてぶっ倒れ失神していた。




「…………」


 僕は奥歯をギリッと噛み締めて、上空のレイトさんを睨み付ける。


「よくも、レオナルドを……!」


 だけど、レイトさんは僕を見ていなかった。

 血走った目で明後日の方向を見据えながら、ギラギラとした危うい相貌で、


『ヒゲ、ぶち殺しマース☆』


「…………」


 どう煽れば、あのレイトさんをここまで追い詰めることが出来るのだろうか。

 ちょび髭を震わせつつ豪快に笑うメイド服の巨漢を幻視して、言い知れぬ戦慄に震えていた時だった。不意にザザッと頭の中にノイズ音が走る。


『【祭壇】のスタンバイおっけ~。【座標】を取り付けたらぁー、大声で報告しくヨロ~♪』


 謎のギャルから気だるげな電波を受信した僕は、ふむと顎に手を当てる。

 返信するべきか、いや、そもそも返信できるのだろうか。そんなことを考えていると、上空のレイトさんに動きがあった。


「マズい……っ!」


 邪魔をする者がいなくなったからか、レイトさんは『殺しマース☆』と連呼しながら移動を開始した。たぶん、ヒゲをぶち殺しに行くつもりだ。

 本当なら『座標』の取り付けをレオナルドに頼むつもりだったんだけど、使えないことにレオナルドは失神中だ。


「くっ……!」


 僕は苦し紛れに、レオナルドの近くに落ちていた野球ボールサイズの石を拾って投擲。少しでもこちらに意識を向けさせようと試みる。

 が、レイトさんはその極太い尻尾を使いノールックで石を打ち返してきた。

 砕かないように力加減された石が、それでも軽く人を粉砕できそうな速度のピッチャーライナーとして返ってくる。


「なんの!」


 僕は足元に落ちていたレオナルドの両足を掴み、遠心力と腰の捻りを最大限に活かしてフルスイング。レオナルドの頭部から鈍い快音が鳴り響いた。

 まさか打ち返されるとは思っていなかったらしく、対応が遅れたレイトさんの一番脆い部分――翼膜の一部を僕の打球が突き破り、小さな穴を空けた。


『――ッ』


 穴は一瞬で塞がるも、レイトさんはその巨体を僅かに傾けて空中に停止する。その、ほんの僅かな猶予時間を僕は無駄にはしない。

 スイング後で振り切っていたレオナルドを神速でひん剥き、限界まで軽量化。口に『座標』を咥え、自由になった両手でレオナルドの両足をがっちりホールド、その場で全力のジャイアントスイングを開始する。


「姉さん、おじいちゃん、僕に力を……!」


 暴力と書いて愛と読む姉さんからの過激なスキンシップと、怪しげな流派の師範を務める人外の域に片足どころか全身くまなく飛び込んだおじいちゃんの、やはり暴力と書いて愛と読む殺伐とした修行風景の数々を想起し、僕は無理やり肉体のリミッターを解除――レオナルドをレイトさんに向けてぶん投げた。




 ――瞬間、僕はレオナルドの投擲と同時にスタートを切る。




「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 肉体への負荷を度外視に、限界突破した僕の筋肉が重力を振り切った。

 その結果、僕は建物の壁面を猛然と垂直走行し、カッ飛んでいたレオナルドに追い付くと同時に壁を蹴り、空中でトンボを切ってレオナルドにライドオン、そのままレイトさんに向かって飛翔する。


 だけど、レイトさんはキャラ崩壊を起こしつつも冷静だ。

 羽虫でも叩き落とすように、斜め上からその剛腕を振り下ろして来た。


「れも、ふぉうふぇいはい(でも、想定内)っ!」


 先ほどの速球を痛打されたことから、迎撃されるのは織り込み済みだ。

 僕はレオナルドを蹴って、レイトさんの一撃を軽やかに回避。パージされて落下していくレオナルドに哀悼の意を捧げつつ、僕は全身を使ってレイトさんの分厚くてたくましい胸板にガッチリと取り付いた。


「ふんっ!」


 首を大きく傾けて、横向きに咥えていた『座標』を突き刺す。そして、謎のギャルからの指示に従い、僕は王都に響き渡るような大声で叫んだ。


「もぉーいーよぉ――ッッ!!」


 その、直後だった。まるでその合図を待っていたかのように、例の噴水広場の方角から禍々しいオーラが天高く迸った。

 吹き荒れた禍々しいオーラは六つに分かれ、それぞれが王都を取り囲む巨大な壁に向かって地を這うように突き進む。そして、壁の上に等間隔で設置された物体――ヒカリちゃんの『呪具』と思しき六体のお地蔵さんに流れ込んだ。


 禍々しい輝きに包まれたお地蔵さんたちが、菩薩のように穏やかな表情を鬼のような形相に一変させてカッと目を見開く。

 血涙を流すお地蔵さんたちが、その血走った目でレイトさんを照準。くあっと鋭利な牙が並ぶ口を開き、そこから紫紺の鎖をそれぞれ射出した。


 高速で撃ち出された六本の鎖が、中心部のレイトさんへ向けて殺到する。

 レイトさんは自分に向かって伸びてくる紫紺の鎖を見て何か感じ取ったらしい。力強く黒翼を羽ばたかせ、一気に真上へと飛翔した。


 ――そして、僕はゴミのように振り落とされて落下した。


 ただでさえ限界を振り切った無茶な挙動の後だったのだ。その反動でボロボロだった僕の肉体にしがみ付いている余裕なんてなかった。

 落下する僕の視線の先で、六本の鎖がギュンと直角に曲がってレイトさんを追う。直下から迫る鎖を振り切ろうとレイトさんが飛翔速度を上げた。が、どうやら結界の存在を失念、いや気付いていなかったらしい。

 盛大に脳天を結界にぶつけて頭を押さえたレイトさんを六本の鎖が縛り上げる。


『ぬぐぅ……!』


 四肢と首、胴体を紫紺の鎖に縛られたレイトさんが悔しげに唸る。

 どうやら作戦の第一段階は無事に成功したらしい。あとは僕がレイトさんを葬ればいいだけだけど、その前に僕は絶賛落下中だ。死が目前に迫る。


「――ふっ」


 でも、僕は絶体絶命の最中においても慌てない。クールに微笑して腕を組む。

 だって、ほら。目を閉じて耳を澄ませば、希望の羽ばたきが聞こえてくる。


『――ッ!』


 腹痛という名の呪縛から解き放たれた神鳥が僕を救出すべく颯爽と現れた。

 甲高く鳴いた『にけ』が、その白い翼で空を切りながら僕をインターセプトせんと角度を調整しつつ迫る。


「信じてたよ……にけ!」


 戦友の頼もしい救援に僕は両手を広げて歓迎の意を示す。

 そんな僕の真横を、一本の白い矢と化した『にけ』が弾丸の如く通過した。


「…………」


 そのまま飛び去って行く『にけ』を見送り、僕はニッコリと笑う。

 『にけ』は気遣いが出来る心優しい鳥だ。たぶん、一糸まとわぬ僕を掴むと爪がガッツリ食い込んでしまう恐れがあった為、逡巡の末に勇気あるスルーを選択したのだろう。着衣を怠ったツケが牙を剥いた形だった。


「ひぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 絶叫の尾を引きながら、僕はぐんぐんと加速して落ちていく。

 その時だ。落下する僕を見守る神樹様が『大丈夫』とニッコリ微笑んだ気がした。そして事実、僕は大丈夫だった。高速で落下する僕を、何者かが空中で華麗に掻っ攫ったからだ。


「――――」


 ふと、覇気に満ちた赤い瞳と目が合う。黄金の髪と髭が風に流れ、太く逞しい腕が僕を落とすまいとガッチリと抱え直す。自然、強く密着する形となる頬に押し当てられるのは、女性の乳房とは対極に位置する硬さを有した分厚い胸板だ。

 老いを微塵も感じさせない鍛え抜かれた肉体を惜しげもなく外気に晒すその御仁は、お姫様抱っこで抱える腕の中の僕を見てニッコリと微笑んだ。


「――大丈夫か?」


「ひぃぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 どこからともなく現れた変態キングに抱き抱えられ、僕は二度目となる絶叫を空高く打ち上げながら、地上へと落ちて行ったのだった。


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