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ボロ小屋の幽霊

「やっぱどの村にも居ないか...」



雅はかなり落胆している。



「他の村は無いのか?」



「あとは焼けた村だけど、あそこは事件後に周辺そこかしこで魔物が目撃されてるわ。近づくには危険すぎる。今日のソールに直接関係する情報の収穫はゼロね。最後にあそこを調べてからこの村で泊まりしましょう。」



雅の指さす先にはおんぼろ小屋があった。いかにもお化けが出そうな雰囲気なのに、森の入り口すぐ横に建っているせいで一層不気味さが際立っている。



「ま、まさかぁ...」



「はい、行ってらっしゃい。」



「ですよねぇ...」



家に突撃するのは俺になった。雅いわく浮遊する霊的物体が怖いらしい。こちらに敵意をもって襲ってくる魔物より幽霊なんかよほどマシだと思うのだが。



マンゴーお手製魔具の光るキューブを手にして恐る恐る中に入る。(もちろんドヤ顔でマンゴーは俺の肩に座っている。)窓が割れたり扉が壊れてたりはしていないので中は埃っぽいだけで荒れてはいなかった。廊下の突き当たりの四隅はかなり暗くて見えない。



無音の空間は時を押し固めたような永遠の存在を感じさせてきた___



勇気を振り絞って入口横の部屋に入った瞬間、キューブの光がぱっと消えた。



「(ひいぃぃぃ!!!無理無理無理無理無理!!!)」



声にならない悲鳴をあげる。実は俺もお化け屋敷に1人では入れないタイプの人間である。横に(ウサギじゃなくて)人が居ること。これとっても大切。



まもなくぼんやりと人の形をした2体の白く光る影が現れた。影はもぞもぞと動いている。どう見ても生身の人間ではない。幽霊だ。こちらを向いている。



何か小声で話しているようで、横のレタに目をやってぎょっとした。普段ふわふわ浮いているレタがピクリとも動かず一心不乱にメモをとっている。



どこからともなく伸ばされた棒人間の腕のようにも見える紐に、これまた何処に隠していたのか分からない筆が握られている。聞き漏らすまいとすごい勢いでレタのメモ帳は書かれてはめくられるを繰り返し、びっしりと書きこまれたメモがヒラヒラと落とされ、それが軽く10枚を超えた頃、幽霊が黙った。



レタが急に真剣になってぽかんとしていた俺がはっとして幽霊の方向へと振り向いた瞬間、幽霊が目の前まで迫っていた。



「(気絶三秒前です!3〜2〜1〜...)」



脳内満場一致で気絶の道が選ばれ、白目を剥いて倒れようとした瞬間、マンゴーが耳打ちしてきた。



『受け取ってあげて』



珍しくやけに悲しそうな声をしたマンゴーによって気絶を阻止され幽霊と対面するしかなくなってしまった。上方へとしまわれそうになっていた黒目を無理やり視界内に引き戻す。



「えっ...」



てっきり襲われる前に殺してしまえとマンゴーに言われたように思っていたので若干身構えていたが、短い声と共に脱力する_



白い影が手を差し出していた。何かを握っているような握りこぶし。もう一体はその腕を支えている。恐怖をぬぐい去ることができず、まだブルブル震えている手の平を俺は幽霊の握りこぶしの下に広げる。



ひんやりとした感触と共にヒビキの手のひらの上にそっと幽霊の手が広げられる。その瞬間暖かな温もりを感じる固体が手のひらの上に残された。



その瞬間ヒビキは確かに見た。

2体の男女の幽霊の顔を___



我が子へ向けるような慈しみに満ちた穏やかな顔だ。



女の霊は一言「お元気で」と言いながら、抱きつくように寄ってきて風と共にヒビキをすり抜ける。



一歩離れて見ていた男の霊はゆっくりとヒビキの横を通って女の霊の手をとって元いた部屋の中央へと歩き出す。繋がれた手が静かにヒビキの胸をすり抜けた。



二人の霊はこちらに向き返って笑顔になると、そのままその場の空気に溶け込むように消えていった___

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