生まれる不安要素
「oh...」
目の前には木々がそびえている。おかしいな、30分前まで雅のお家でしんみりとしていたのに思考が全く追いつかない。
『兄はかくかくしかじかで行方不明だから探しているの。森に私だけは心配だからついてきて!』というぶっ飛んだ話を急に吹っかけられ、トントン拍子で話が進んでいる。現に今丘の麓、東側の森手前にいる。RPGあるあるで恒例の、予定も聞かずにいきなりキャンセル不可なクエスト発生のである。
思わず「そういったものは警察に...」なんて言いそうになったが、この世界にあるはずのないものの名前を言うのは避けるべきだと思う。
下手すりゃ『役立たず!』とか騒がれて追い出されるどころかぼっこぼこのフルボッコにされそうなので慌てて喉から出そうな一言を引っ込めたわけだ。異世界人コワイコワイという偏見にまみれたゲーオタ精神、異世界でもご健在ですよ。明らかに雅がそんなことをする人ではないから考えすぎだが。
「ぼーっとしてるけど大丈夫?」
「ひっ!...」
急に話しかけられて変な声が出た。コミュ障に同年代の女子はちょっとびっくりする。一応一体一で落ち着いて話すならコミュ障じゃない感を演じるのは得意で、自分が何かしらの組織のボス気分で堂々とした振る舞いや、敬語を使うぐらいは可能だ。家族以外の知りあいでってもコミュニケーション系で急に話しかけられるのはいつまで経っても慣れないのだ。
「私達が滑り降りた反対側に森の中央を通る道があるんだけど、まずは他の村を回ってみましょう。」
遠くの方に村の柵らしきものがチラッと見えている。雅の言った通り、距離はかなり短いようだ。走るとすぐにハッキリと村が見えてきた。
「ソールの郵送屋はお年寄りのための仕事として始めたらしいわ。まぁ実際は面倒くさがりのオッサンもがっつり利用する郵送屋よ。それでも、ソールは自分に仕事を与えてくれる存在に心から感謝していた。非の打ち所のない尊敬すべき青年よ。」
「(すっごーい!ソールくんは俺と正反対なフレンズなんだね!)」
部屋から持ってきた短剣を腰に携えて素早く走る雅は凛としている。主人公として登場するなら俺より遥かに適任だと思うのだが、一方『勇者』とされた俺はどうだろうか?秘技、運動オンチがさっそく発動し、スタミナゲージはほぼ瀕死である。もぅマヂ無理。顔面汗で溶けそう...
どうやら魔物が現れる前に行方不明者が出たらしい。そして恐ろしいことに現れた魔物を火で炙り殺すと人骨の形になった。と言うのだ。行方不明者は農家の一人暮らしの青年だったそうだ。
「(つまり...魔物にされた...?)」
嫌な予感がして二人は無理やり否定して考えないようにした。
「ソール、無事でいて...」
そう呟くなり、次の村へと雅は走り始めた___
「ハァハァ...ヒュィー...ヒュィー...」
「中距離走」的なノリの長さを走る地獄をもう1度したことで呼吸音がほぼ喘鳴になってきた俺と、町人とは思えないスタミナと速さを誇る雅。ちなみにマンゴーはもっふもっふと俺の肩に乗ってくつろいでいる。ぐぬぬ...あざとい...コイツ自分の武器を知っているな...。大きな町に着いたら、少々荒稼ぎで時間がかかってもいいからぜひ馬車を買おうと決心した。
そんなヒビキをよそ目に平然と雅は聞き込みを続けている。コイツどんだけ体力あるんだよと思いながら横にあった干し草の山に力を抜いて倒れ込んだ。
雅がこの世界では平均的であったとしても運動オンチの俺はからすれば恐怖である。しかしこれはどう見ても雅は4〜5人グループで歩きスマホや手つなぎでキャッキャウフフしてる現代の女子高生とは格が違う。
異世界人、鍛え方すごいな。やっぱ異世界人コワい...自分の劣等感に1人頭を抱え込んだ___
やっぱ主人公は作者に似るものなんでしょうか?設定書確認したらそこには自分がいました。




