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魔法勇者ダイデンダー ーDDDー  作者: 夏目八尋
第3章 ダイデンダーVSブラックスワン!
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第23話 Bパート④ ー新しい繋がりー

読んで下さりありがとうございます!


「お姉さまは、強くて明るくて、奔放な人だった」


 月が位置を変え、夜は深くなり、街の明かりもぽつぽつと消え始める頃。

 哀の口から、大切な人について語られ始めた。



「けれど、困っている人は放っておかないし、誰かの笑顔を見て、自分も笑える人だった」

「………」


 照也は黙って耳を傾け、聞き手に回る。


 きっと、これこそが。

 哀にとって、最も大切な話になると直感したから。



「あの人は型にはまらない人で、戦士としても独特で……使命感より、自分の心に従って戦うような人だった。それなのに、誰より使命を全うしている人だった」


 ぽつり、ぽつりと。

 哀の語りは続いていく。


「誰よりも破天荒なくせに誰よりも目端が利いてて、誰よりも暴れて、誰よりも早く人を救おうとする人だった」


 手すりにもたれて目を細め、哀が夜空を見上げる。

 彼女の視線の先に、星々は映らない。


「少し抜けてて、言葉もなしに出かけたりする人ではあったけど……絶対に、帰ってくる人だった」


 そこまで語って、哀の言葉が止まる。

 代わりに彼女は右腕を掲げ、宙を掴むようなジェスチャーをしてみせた。



「………」


 掲げた手が何を掴もうとしたのか、今の照也には推し量ることしかできない。


 ただ哀が、彼女が果てしなく遠い何かを見てそうしていたということだけは、よくわかった。


 だから。


「……なら、絶対に帰ってくる」

「!」


 照也は迷わずに声を上げた。



      ※      ※      ※



「黒羽がそこまで言う人なんだったら、間違いはないはずだ」

「大殿照也……」

「いや、もしかしたらどこかで立ち往生してるのかもしれない。そうなると話は変わってくるか?」

「………」


 一瞬大きく見開かれた哀の目が、続く言葉にとたんに半眼に。

 何かを言おうと口を開いた彼女だが、その喉から音が出るより早く、照也の笑顔が向けられる。


「そのときは、みんなで迎えに行こう!」

「なっ」

「知ってしまった以上は、俺にも協力させてくれ。黒羽のお姉さま探し!」

「~~~~っ!!」


 言い切られ。

 カッと、哀の首から上が赤らんだ。



「い、や。そこまでは頼んで……」

「頼まれてなくても協力するさ! これでも迷子のペット探しとか結構実績も積んでるし!」

「ペッ……」

「いざとなったらダイデンダーの力でどんな難所からも救助できるはずっ!」

「………」


 言葉を積み上げながら目の前でムキムキと頼れる存在アピールをする照也に、赤らんだ顔は段々と落ち着き、呆れ、そして……クスクスとした笑顔に変わり。



「……もう。だから身内はいらないって、言ったのに」


 観念した様子で、哀は震えた声を絞り出す。



「黒羽?」

「……距離が近づいたら、あなたはきっと、そう言いだすと思ったから」


 ゆっくりともたれていた手すりを離れ、照也と向き合う。

 夜の春風が辺りを撫でれば、哀の短めの黒髪もさやさやと踊った。



「白状するわ。私は戦士としては未熟者よ。力があっても、技があっても、それを振るうに足る心を持っていないの」


 黒い瞳が、今日幾度目かとなる視線を照也へと向ける。


「戦いの中にあの人の影を追って、この身を使命に捧げ切れていない半端者。それが私」


 罪を告白するように、胸に手を当てながら告げる哀の言葉は一つひとつが重く照也に届いて。


「だからせめて、やらかすときに他人を巻きこまないようにって考えていたけれど……それも、所詮は浅知恵だったわ」


 次の瞬間。

 フッと、場を満たし始めていた重苦しさが、溶け消えた。


 哀は、苦笑していた。



「大殿照也」


 そっと名前を呼んで。

 それからゆっくりと、哀が頭を下げる。


「私のお姉さま探しに、協力して欲しい」


 望みを口にし、そしてすぐに顔を上げ、再び真っ直ぐ照也を見つめれば。



「そのための対価に、私が今日まで磨き上げてきた戦士としての技のすべてを、あなたに教えるから」


 一方的に頼るでもなく、都合良く利用するでもなく。


「私と、契約しましょう」


 彼女は、照也を対等な相手として、交渉を持ちかけた。



      ※      ※      ※



 哀の緊張が、照也にも伝わってくる。

 契約という言葉と共に差し伸べられた手は、かすかに震えていて。


「………」


 それでも視線をそらさずに真っ直ぐ見つめ続ける哀の黒い瞳には。

 必死に何かを求める人特有の、押し込むような力が宿っていた。



(黒羽……)


 視線を受ける照也もまた、心を揺らしていた。


(黒羽ほどの賢さなら、いくらでも自分有利に事を進められるだろうに……やっぱり、いい奴だな)


 ひたむきで誠実な哀の心は、確かに照也に届いていて。


(対価なんてそれこそ要らないんだが、これに応えない方が悪いよな)


 照也もまた、心を決める。



「そういうことなら、遠慮なく。俺としても願ったり叶ったりだからな!」


 哀の気持ちに寄り添うように、照也も応え、握手の手を差しだせば。


「……交渉成立ね」

「ああ、交渉成立だっ」


 二人の手は繋がれ、対等な契約が結ばれる。

 それは、魔法が現実のものとして存在するこの世界においては、少なからず強い意味を持った行為だった。


 結果。

 照也と哀の二人には。


「それじゃ、さっそく明日の放課後から始めましょう」

「望むところだ」


 確かな縁が、結ばれたのである。



「あっ! ここにいたっ! って、あああああーーーーー!! 弟くんと哀ちゃんがイチャイチャしてる~~~~~!!」

「円さんっ! 静かに! 夜、夜だよ!!」

「そう言う絵瑠もちょっと声が大きいぞ」

「へぁっ?!」

「エルリーゼ様、姫としてそれはいかがなものかと……」

「なっ! あっ! 絵瑠ですっ。今の私はお義兄ちゃんの義妹の絵瑠だからっ」


 照也と哀が厳かに作り上げた夜の静寂は、バルコニーへの新たな来訪者によって、あっさりと砕かれた。


 即座に飛び込み照也に抱き着く円と、そのあとを追いながら言い訳を重ねる絵瑠。

 繋いでいた手を離し受け入れる照也と、苦言を呈する哀。


「弟くん弟くんっ、お姉ちゃんとも手を繋ご? そしたら次はぎゅってしよ?」

「すでに抱き着いた状態でよく言うよ、円姉ぐぇぇ」

「っていうか、絵瑠って呼んでって言ったよね。哀さんっ」

「そこはおいおいなので。ご容赦ください」

「なんか開き直ってる?!」


 わちゃわちゃと、互いが触れ合えそうなほどの距離でのやり取り。



「っていうか、哀ちゃん。弟くんと何話してたのっ?」

「あ、そうそう。お義兄ちゃん。哀さんに変なことして困らせたりしてないよね?」

「いや、それは……なぁ、黒羽っ?」

「………」


 話の矛先が照也へと向けられ、助けを求めた彼を見つめる哀は。


「……さぁ、どうだったかしらね?」


 意味深な微笑みを浮かべると、静かに数歩、後ずさった。



「なっ、黒羽!?」

「い、意味深すぎる!! 弟くんっ!!」

「お義兄ちゃん! 何を! 何をやらかしたの!?」

「いや待て、俺は別に何もやらかしてないし、やらかしたとしたらちゃんと謝りたい! だから離れ」

「弟くん!」

「お義兄ちゃん!」

「ぐおあああ……!!」


 問い詰める円と絵瑠に呑み込まれていく照也を尻目に、哀は再び手すりにその身を預け、夜空を見上げる。

 遠く遠く、ここではないどこかで、今もきっと生きていると信じる、大切な人を求めて。



「お姉さま……」


 思い描くのは大切な人の姿と、今まさにもみくちゃにされている照也の姿。

 その影を一度だけ重ね、遠ざけて。


(……最初は、転校初日。姿を消す魔法を使ってクラスの様子を覗いた時だった)


 そっと記憶を振り返る。



『俺は、平和な日常ってのが大好きだからな』


 あの日に聞いた、この言葉が。


『私。平和な日常っていうのが、大好きなのよ』


 大切な人の言葉と、重なったのがきっかけだった。



(あの人も、自分の命を顧みず、無茶をたくさんする人だった)


 ソウルイーターに挑む姿が、重なった。


(いざという時、とんでもないタイミングで現れる人だった)


 突如として助けに来た姿が、重なった。


(誰かを守るその時に、一番力を発揮する人だった)


 守るための力だと叫ぶ姿が、重なった。



(彼は……お姉さまと、よく似ていた)


 だから、気になった。

 知りたいと思った。


 彼の手に入れた力だけではなく、彼自身について。


 大殿照也という、一人の人間について。


(彼は……)


 そして彼女は、答えを得た。



「お姉さまなら……折衷案なんて持ってこないで、強引に話をまとめてしまっていたわね」

「? 黒羽、何か言ったか?」

「!」


 ポツリと呟いたはずの声は、円と絵瑠をなだめ終えた(それでも抱き着かれている)照也に聞かれていた。


「黒羽?」

「そう、ね……」


 不思議そうに首を傾げる彼に、哀はしばらくのあいだ顎に手を当て考えを巡らせてから、答える。



「……あなたは、お姉さまとは違うって言ったのよ」



 そう言って、またクスクスと笑ってみせる哀の姿に。



「そりゃ、俺と哀のお姉さまは違うんじゃないか?」



 訳も分からず、照也はただただ不思議そうに首を傾げることしかできない。



「その通りね。ええ、まったく!」

「???」


 ついには肩を震わせ始めた哀の気持ちなんて、照也には終ぞ、わかるはずもない。


(……仲良くなれたみたいで、お姉ちゃんは大満足っ! さっすがわたしの弟くん、だねっ!)


 ただ一人。

 事の成り行きを見守っていた円だけが、この日の変化を寿いでいた。



 こうして。

 照也、円、絵瑠、哀の4人はチームとなった。


 対ソウルイーター特務部隊、通称『魔特隊』。

 それぞれの想いを胸に、彼らは共に、歩み始める――。

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