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魔法勇者ダイデンダー ーDDDー  作者: 夏目八尋
第3章 ダイデンダーVSブラックスワン!
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第21話 Bパート② ー黒羽哀が戦う理由ー

読んで下さりありがとうございます!


歓迎会!


 照也と哀の真っ向勝負が終わり。


「それじゃあ! 哀ちゃんの歓迎とわたしたちのチーム結成を祝して!」

「「「「かんぱ~い!」」」」


 大殿家のリビングで。

 哀の歓迎会とチーム結成のお祝いが、まとめて開催されることとなった。



「んっんっんっ! ぷはぁっ! 美味い! もう一杯!」

「はい、野菜ジュース」

「こっちの出汁巻き卵は俺が、そこのやたら凝ってる豚の角煮は絵瑠が作ったんだ」

「すごい、豚がぷるぷるしてる……」


 円と絵瑠が並んで座り、対面に照也と哀が座る位置取り。

 世話焼き気質の絵瑠と照也を対角線上に配置した、大殿家おもてなしスタイルである。


「黒羽って自炊とかするのか?」

「そうね。出来なくはないけれど、料理はあまりしないかしら」

「わたしもわたしも! 出来なくもないけど、違うことやってると手が出ないよねぇ~」

「こう言ってるが、俺の料理の腕は円姉ぇ仕込みだからな。しれっとおせちとか作るんだぞ」

「おせちの自作……!?」

「円さん、大抵のことならやろうと思ったらやれちゃうんですよ」

「お姉ちゃんだからねっ!」


 テーブルに並ぶ料理を摘まみながら、終始和やかな雰囲気で話が広がる。

 いつもの日常より少しだけ賑やかな、そしてより温かな空気が部屋に満ちていた。



「哀ちゃん哀ちゃん」

「なにかしら?」

「もし、よければなんだけどね……」


 そんな温かな空気の中、言い難そうにしながらも、円が問いかける。


「よかったら、どうしてチーム結成は受け入れたのに、歓迎会は嫌がったのか、理由を教えて欲しいなって」

「………」


 踏みこんだ言葉。

 けれど、それは哀も覚悟を決めていた前振りだった。



「黒羽……」

「哀さん……」


 心配そうに、緊張した様子で見つめる似た者義兄妹の視線を受けつつ。


「……そうね。話せる範囲で、だけれど」


 哀は自らについて、ぽつぽつと語り始めた。



      ※      ※      ※



 黒羽哀は、孤児だった。

 物心ついた時にはすでに両親はおらず、たった一人で荒野に立っていた。


 生まれ持った勘の良さと、物事をよく観察する目。

 そして、夜になると使えるようになる不思議な力を使って、日々を生きていた。


 そんな彼女に、運命の出会いが訪れる。



『あなた、魔法が使えるのね』

『……!』


 ある、月の綺麗な夜。

 治安の悪い街中で、ごろつきに絡まれおもちゃにされかけていたところを、その人に助けられた。


『ねぇ。よければあなた、私と一緒に来ない?』


 そう言って手を差し伸べたのは、月が良く似合う白い衣をまとった美女。

 この後、黒羽哀となる少女へ……初めて希望というものを教えた女性。


 彼女にとって何よりも大切な人、お姉さま――白羽遥(しろばねはるか)との出会いだった。



「お姉さまは、魔法協会に新設されたばかりの組織、魔法戦士の一員だった」


 麦茶のグラスを手に持って、哀は静かに語り続ける。


「私はお姉さまの後をついて回って、魔法戦士になるための訓練を頑張った。成績が良ければ褒めてもらえて、悪くても慰めてくれて。お姉さまはいつも、私を気にかけてくれた」


 照也たちも、口を挟まず静かに耳を傾ける。

 先程までの賑やかな空気は一転して静かに、けれど大切な思い出を語る違う温かみを含む物へと変わっていた。



「この装飾品(アクセサリー)は、お姉さまの物とお揃い。お姉さまは綺麗な白鳥。私はそれを真似た黒鳥。実力では圧倒的に劣っていたけれど、隣に並び立つ存在になりたくて、これを作って貰ったの」


 哀の装飾品を見る目は、今までで一番優しさに満ちていた。

 けれど同時に、その奥にある重い何かも、照也たちに予感させていく。



「……状況が変わったのは、8年前」

「!」


 哀の目が細くなる。

 その正面。絵瑠が、ハッと息を吞んだ。



「魔法界からの要請だった。未知の敵の襲来、戦力を回して欲しいという話だった」

「未知の敵……それって」

「ええ。今で言う……ソウルイーターたちよ」


 照也の言葉に頷いた哀が、ほんのわずか、眉根を顰めて言葉を続ける。


「その当時、地球で散発的に目撃されていたソウルイーターたちによる大規模侵略。当時の準備不足だった魔法界、魔法協会と魔女たちでは、犠牲を払わない勝利は望めなかった」

「犠牲……」

「私のお姉さま……白羽遥はその戦場から帰ってこなかった」


 部屋に、沈黙が下りる。

 言葉を失う照也と絵瑠。円は静かに哀を見つめていた。



「その戦場の名は、宝石の国ジュエルネーヴァ。侵攻を受け、立ち向かい、最後には王国その物を代償に行なう、大規模封印魔法による痛み分け。当時の私たちには、それしか奴らの侵略を止める手はなかったの」

「宝石の国? そこって……」


 努めて平坦に語り続ける哀の話の中。

 聞き覚えのある単語を耳にして、照也もまた絵瑠を見やれば。


「…………うん。宝石の国ジュエルネーヴァはワタシの故郷」


 青ざめた顔の絵瑠が、静かに頷き、告げた。



「お義兄ちゃん、ワタシね? 封印された宝石の国(こきょう)を何とかするために、地球(ココ)に来たんだ」



      ※      ※      ※



「襲撃は、本当に突然だった。どこからともなく現れたソウルイーターたちの手で、国のみんながバタバタと倒されて。キラキラな町から光が失われていったの」


 いつもの明るい絵瑠からは考えられない、低く悲しみに満ちた声音で彼女は語る。


「その時のワタシは幼くて、色んな人に庇われて、救われて……命からがら、地球まで逃げるしかなくて」

「当時のお姉さまたちも、救助に、討伐に、全力を尽くして……それでも、足りなかった」


 絵瑠の話に哀の具体的な補足が加わって、当時の凄惨な状況が思い浮かぶ。


「あの日。8年前のあの日を境に……宝石の国ジュエルネーヴァは、時を止めたの」


 噛み締めるように語られる話には、深い絶望が滲み。


「でも。きっとまだ、救いはある」


 それでも絵瑠の……エルリーゼの瞳には、曇りを祓う光があった。



「宝石の国その物を代償に行なわれた封印魔法は、その土地に生きるすべての生物を宝石に封印するという強力な魔法。敵も味方も区別なく、すべての命が今、宝石の中に封じられているの」


 絵瑠がスマホ型の端末を差し出す。

 液晶には、巨大な水晶の中で目を瞑る、王様と王妃様めいた格好の男女を映した画像が表示されていて。


「落ち延びたワタシは、保護してくれたDDDたまな市支部のみんなのお手伝いをしながら、この封印魔法から宝石の国のみんなを救う方法を探してるんだよ」

「そうだったのか……」

「うん。みんな良くしてくれて、今では地球が、わたしの第二の故郷だって思えるくらいになったんだ。それに……」


 そこでフッと絵瑠が、言葉を止める。

 彼女の視線は、画面を注視している照也を柔らかく見つめていた。



「8年前の戦いは、魔女たちに大きな爪痕を残した」


 途切れた会話を引き継いで、再び哀が言葉を紡ぐ。


「その結果、対ソウルイーター戦を見据えたより専門的な戦い方を磨いて、今の私たちが、魔法戦士がいる」

「たまな市支部の基地化も、この件を受けて一気に進めてきたんだよ。弟くんっ」

「なるほど」


 様々な事情が今に集約していく。


 人の命の力(プラーナ)を奪う謎の侵略者、ソウルイーター。

 8年前、多くの被害をもたらした、宝石の国の戦い。

 今になって再び活動を活発化させる敵と、それに立ち向かう準備をしてきたDDD。


「普通に生きる人たちの日常の裏で、ここまで大きな戦いが巻き起こっていたなんてな」


 改めて、事態の根深さとスケールに驚かされる。

 それを知らずにいたことを、照也は悔しく思った。そして同時に、知らずにいさせてもらえたことを、そう尽力してきたすべてのものに感謝する。


「もう、他人事じゃない」


 自分も、これからはそうあるべきだと心に刻んだ。



「話を戻すわ。封印魔法が発動したあと、王国に調査が入ったの。その報告によると、王国内のどこにも、お姉さまの姿はなかった。死体も、封印されている姿も、見つけられなかったって」

「そいつは……」

「そう。何もわからないのと同じ。けれど私にとって、身内と呼べるただ一人の人……お姉さまは、きっとどこかで生きているって信じてる」


 真剣に、深く鋭い意志をもって、哀は告げる。


「この先も最前線でソウルイーターに関わっていけば、何か手掛かりが見つかるかもしれない。今の私は、そのために戦っている。それだけが、唯一私に残された、お姉さまへと繋がる糸口だから」


 それが、黒羽哀が戦う理由。

 彼女が、ここに来た理由。



「戦士としては、褒められたものではないのだけれどね」


 苦笑と共に、ぽつりと零れる弱々しい言葉。

 哀のストイックさが故の、自責の念。


「黒羽……」

「哀さん……」


 照也たちはそれを否定しようと言葉を探したが、それより先に、哀が続ける。


「魔法戦士であることは私の誇りなの。お姉さまに救われて、お姉さまの背を追いかけてきた私にとって、それこそが、生きる意義でもあるから」


 戦士たらんとする矜持と、一個人として抱えている想い。

 彼女の言葉からは、それらの中で揺れ動く繊細な心が、わずかに顔を覗かせていた。

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