神さま、神様呼ばわりされる。
ごめんなさい。
今日の更新短いです。
指揮官は戦況を見極めるため、冷静で居なければならない。
怒りの感情に振り回されれば視野が狭まり、大局を見通せない。
悲しみの感情に囚われれば目は曇り、大局を見失う。
非情である人程、優れた武官だと言われる傾向にあるのは、ある意味当然なのかもしれない。
常に全体を客観的に判断する事が大事なので、物理的にも後方に居るべきだ。
万が一討たれてしまおうものなら、大将がいなければ戦局の方向が定まらなくなるからだ。
退却すべきなのか。
進軍すべきなのか。
押し進めるのなら、何処から討てば良いのか。
頭を失った兵は統率が取れず、自己でどうすべきかの判断も出来ず、なし崩しに負けてしまうだろう。
なにせ討った側は勢いに乗るからね。
その勢いに飲まれ翻弄されては、勝ち筋は見えなくなる。
だから、まぁ、何と言うべきか。
司祭のオッサンは、自分が手練だからと矢面に出てくるのは、いくら何でも悪手が過ぎた。
証拠隠滅の為に魔物を捕獲しにダンジョンに潜った連中からは、連絡こそないが、運が良ければ合流出来ると思ったのもあるのだろう。
時間的に、いい加減戻ってきて良いもんね。
そのためダンジョンへの脇道が伸びる丁字路で、先の強襲者も全て併せた総力戦が行われた。
もう、作戦もへったくれもない状態である。
ある意味で賢いと言えるが。
襲撃者の人数は、ダンジョンの中にいる人数を含めれば、一五〇人に及ぶ。
助祭が報告した‘’ワケの分からない現象‘’が起きたとしても、物量で攻めれば勝てる。
そう判断したのだろう。
なにせ片やコチラの表向きの戦力は、たったの五十人。
いくら精鋭の手練とは言え、一人頭三人を一度に相手にするのは、なかなかに難しい。
しかも街道の幅を考えると、かなりの乱戦になるのは目に見えている。
どさくさに紛れて馬車を燃やしてしまえばコッチのもんだ。
そう考えたのかもしれない。
国の最高権力者の護衛人数としては、威圧感を出すためにも、もっと多人数を護衛にしても良いと思ったんだよね。
城を手薄にしなければ、侵入作戦の決行者がしり込みしてしまいそうだし。
だが、アリアの考え的には少数精鋭――国の中の実力者で、一、三、五、七、九、一〇位の六人に周囲を固めて貰えれば、それで戦力的には十分だと考えていた。
たかだか一日ちょっとの距離にある、ご近所さんに出掛けるだけなのだ。
大仰しいマネをしたら、また無駄遣いをしてと国民から非難されかねない。
なにより、大人数で押し掛けたら迷惑が掛かる。
主に、カノンに対して。
清貧を心掛けるのは結構だが、自分の身を護る事にすらケチってどうする。
金が掛かるから切り詰めろってセリフを財政課からではなく、まさかの国王から騎士団に言う現場を目撃することになるなんて。
流石に騎士団長と副団長から反対された上、金は使ってナンボなんだから、ケチケチするなと俺も口を挟んで、幾度かの交渉の末に、ようやく五〇名までなんとか持ってきた。
なので第一騎士団から六名と、経験を積ませるためと称して第二、第三騎士団からそれぞれ希望者を募り、ふるいにかけられた結果、選ばれた者がついてきている。
「ウワサの‘’王の権能‘’が造った街を見てみたい!」と、意外と希望者が多くてね。
振い落された人が落ち込んでいたので、「騒動が一段落したら、長期休暇を順に出してあげな」と言っておいた。
アリアがブラコンだから、余計にカノンの事が気になるのかな。
城を空っぽにするワケにはいかないからね。
希望者全員は、連れて来れなかったのだ。
なので当初の予定通り副団長と、その他ジャンケンに負けた第五騎士団まではお留守番をしている。
それにプラスして、民間の兵士なんかもいる。
そんな大人数が待機しているのに侵入を試みるおバカさんが、果たして居るのだろうか。
そう思うが、目の前のおバカさんを見てると、居るんだろうなぁ、と遠い目をしたくなるよ。
流石に司祭レベルの立場になると、騎士の面々に顔も割れている。
王城で執り行われる精霊にまつわる儀式は、教会の人間が主導するからね。
司教が留守の場合は、司祭が王城内に出入りするのだ。
王家が教会と不仲だと話しは聞いていても、所詮はウワサだと考えていた人達に、動揺が走るのは仕方ない。
グルグル手枷と足枷を付けられ、五人ずつ後ろ手にまとめられた襲撃者の中に、見知った顔を見付けた騎士がザワつく。
ちゃんと手を動かしているから文句は無いが、油断してウッカリ解きやすい結び方にしないでよね。
俺から「こんな顔した司祭と助祭がいるよ」と報告を受けていた団長は、見当がついていたのか、特に狼狽えはしなかった。
口枷を一人免除された司祭に向き合って、淡々と取り調べをしている。
「精霊様の御力が使えなかったぞ!
既に悪魔に魂を売っていたのか、この愚か者共が!」
声が枯れても咳き込んでも、唾を飛ばし続ける司祭にこそ、口枷をして貰いたい。
精霊の力を使えなかったのは、俺が働きかけたせいなんだけど……
だってあの大人数で、威力が弱くても精霊術使われたら、コッチに死人が出かねない。
切り結んでる間に、背後から火点けられたら堪んないじゃん。
「ねぇ、ねぇ。
そのオッサンと話しして良い?
ってか、させて」
了承の返事を聞かずに、空飛ぶ石版から飛び降りる。
王都を出る時、空の上からついて行くと聞いていた団長殿だ。
真っ先に空を見上げ、俺の影を確認したのだろう。
即座に「全員退却!」と声を張り上げた。
流石騎士と言うべきだろう。
疑問を口にするより先に、命令に従い森へと退却する者が殆どだった。
ちゃんと馬車の警備に当たったのは、団長殿含めた上位者だけかぁ。
こういう所に、順位って分かりやすく現れるんだね。
剣術の実力も勿論だが、忠誠心の示され方がとにかく違う。
柄にもなく慌てさせた団長殿には悪いが、流石にあの高さから何もせずに着地したら、下半身が上半身にめり込みかねない。
ちゃんと風の精霊に言って、空気抵抗やら何やら調節して貰っているよ。
そもそも、空飛ぶ石版で飛んでる間も、ずーっと外気温に苛まれないよう、暴風の膜を張っていたのも風の精霊だ。
司祭のオッサン程度が精霊術を使えないからと言って、俺にまでその効果が及ぶと勘違いしないで欲しいな。
鳥が地面に降り立つかのように、フワリと羽でも生えたと錯覚しそうに柔らかい動作で着地した。
空を飛ぶのも楽しいが、自由落下にほぼ無抵抗な速度で途中まで来れたのは、なかなかスリル満載で楽しかったな。
ジェットコースターってこんな感じなのだろうか。
遊園地もいつか創りたい。
「さっき口にした‘’悪魔‘’について、知り得る限りの事を話せ」
突如現れた俺を見て呆気に取られている面々は、落下速度を相殺する為におこした風によって立ち上る土煙で、目や喉を痛めたりしないのだろうか。
目は見開かれ口も塞ぐことなくポカンと開いたままだ。
捕虜となっている教会関係者は、サルぐつわされてて良かったね。
少なくとも、正気に戻った時に口の中がジャリジャリ言わなくて済むもの。
陸に上げられた魚のように、パクパクと口を暫く動かしていた司教は、次にワナワナと震え出した。
何かの発作だろうか。
ソコソコの歳だろうし、持病持ちだったりするのかな。
だとしたら、回復薬飲ませなきゃ。
「あ……あ…………
現御神様ぁ……っ!」
お面を付けた黒い影のような言葉を発していたかと思えば、突然ブワッと穴という穴から汁を溢れ出させて地面に額を擦り付けようとした。
拘束されているせいで叶わなかったが。
涙と鼻水とヨダレで一気にグチャグチャになった顔は、正直、見るに耐えない。
え、コレをアリーナ席の最前列で見なきゃいけないって、どんな拷問?
俺は拷問される側ではなく、場合によってはする側のハズなんだけど??
顔を引き攣らせながら、ギギギッと音が出そうな動きで、首だけで後ろを振り返る。
一部始終を、恐らく最も冷静に見ていた団長殿と、目が合った。
だが、即座にバッと逸らされた。
なんでや。
視線どころか顔ごと背けるなよ。
監視対象である司祭から目を離すなよ。
その隣にいる騎士も、反対側にいた騎士も。
クビの位置を元に戻して見下ろした精霊教の教徒諸君も、皆目を合わせようとしない。
そんな状況下で、未だに司祭はワンワン泣いてるし、ワケの分からない言葉をほざいていやがるし。
どうやって収拾付ければ良いの?
コレ??




