神さま、盗聴する。
「国王に神の気配を感じた」と伝令係から手紙で報告を受けた、国王を亡き者にしようと計画を立案した王都に居る司教と、その襲撃の指揮を現地で執っている司祭は憤怒した。
助祭職にありながら、なんと不敬な事を言うのか。
風の精霊様と相性が良いから取り立てたが、そのような考えでは、役職を与えたのは早計だったやもしれぬ。
神とは万物に宿る精霊様。
つまり大自然そのものを指し、この世界そのものと言える。
人間ごとき――しかも見た目幼い小娘が例えられていい存在では、決してない。
場所は離れて居るのに、二人の男の反応は鏡に映したように、とてもよく似ていた。
直属の上司と部下のような関係だ。
共に過ごす時間が多いのだから、必然と似てきてしまうのは、致し方が無いのかもしれない。
本人達はその事実を自覚していないし、なんなら互いに互いを嫌い合っているが。
司祭は自分の方がより実力者で、強力な精霊術も使えるのに、ただ治癒術が使えない。
それだけの理由で、いつまで経っても司教となり教会の運営を任されない事を、常々不満に思っている。
書類仕事や雑用等、隅々まで目を光らせて指示をしているのは自分なのに。
あんな腹囲ばかりが育っていく、座れば毎度椅子が悲鳴を上げるような、ちょっと治癒術が使えるだけの、醜く偉ぶって居る司教なんぞ、なんの価値があるのか。
教会の品位が疑われるぞ。
日頃から、そんなグチばかり零している。
片やその司教はと言うと、棄児だった司祭を巡礼の道中拾って救ってあげたのは、他ならぬ自分なのに、すっかり可愛げが無くなってしまった、自分を目の敵のように睨んでくる司祭に対して辟易していた。
精霊術師としては優秀だし、体術もソコソコこなせる。
頭の回転が早いので、現場の指揮官向きと言える。
だが、大局を見通す事が出来ない、視野狭窄な部分がある。
しかも仕事を周囲に押し付けるばかりで、自分の手は動かそうとしない節がある。
質問をされても「それくらい自分で考えろ」と怒鳴り追い返すのに、失敗すれば「何故こんなことすら出来ない」「間違えるくらいなら最初から周りに聞け」と更に声を荒らげる。
何度助祭以下の信徒達から、過重労働の苦情が来た事か……
そしてその度に寝る間も惜しんで調節するのは、自分であり、他の司祭だと言うのに。
そんなだから、実力はあるのにいつまで経っても上の立場になれないのだ。
そう酒の席で世話係にグチを零してから寝るのが日課になっている。
まぁ、とどのつまり。
とっても似た者同士な二人なのだ。
同族嫌悪ってヤツだね。
二人共、王のお膝元である王都の教会を任せられているが故に、自尊心も高ければ、とても傲慢。
ソコソコ程度の霊力なら有しているが、その程度。
それなのに自分こそが、次期教帝に最も相応しいと思い上がっている。
なんなら現教帝よりも己の方が強いと本気で思っている。
つまり人間の中で一番神である精霊に近い存在は自分であると、心の底から信じて疑っていない。
霊力が多ければ、神託が精霊の皆から下される。
精霊の皆はやって欲しい事が山程あるのだ。
ワンチャン、願い通り、言葉通りに動いてくれる人が、一人でも増えれば超ラッキー!
ヘタな鉄砲、数撃ちゃ当たる戦法である。
そんな思いで、ある程度の霊力を持っている相手には神託を寄越す。
夢枕だったり、祈ってる最中のお告げだったり。
手段は問わない。
なのにそんな神託すら受け取った事が無いクセに、良くもまぁ、そんな勘違いが出来たものだと感心する。
ものっすごい自己肯定感の塊だよね。
いっそ羨ましい。
教帝に会った事が無いので断言は出来ないが、この程度でドヤれる人間しか教会に居ないのなら、伝令係の助祭が慈悲の復活を見て神様を連想させるのは、当然の事と言える。
なにせ季節外れの花が咲き乱れ、木々は生い茂り、あそこだけ完全に春めいていたもんね。
「ヤベェ、やらかした」と思って、即「スキル」で元に戻したが。
頭を垂れていた騎士団の面々は見ていないが、森の中から馬車の様子を伺っていた連中は、バッチリ見ていた。
ありのままを話したのに、怒られるとは。
可哀想にね。
実際、現時点でこの術を使えるのは、光の精霊と俺しかいない。
だから「神を感じた」と言う助祭の言葉は、あながち間違ってないんだよね。
光の精霊はこの世界の神様の一柱だし、俺は元神さまっぽい存在だし。
そんな慈悲の復活だが、アリアなら教えたら使えるようになるかもしれない。
さっきの光景を完全再現するとなると、霊力の消費量と、光の精霊との繋がりを考えると、ちょっと難しいかもだけど。
劣化版なら、使えるんじゃないかな。
精霊と信頼関係を築けていないと、そもそも上級の精霊術は使えない。
なにせ人間の手には余る程、効果が絶大だから。
元々精霊術は、人間には再現度し難い力を振るう事が出来る、神の如き精霊の力、その一端を借りて使う物だ。
精霊は生物に宿る霊力を無理矢理引き出す事が出来ない。
その生物を幸せにする事がお仕事なのに、勝手に霊力を使ったら、引き出された側は疲れるわシンドいわヘタをしたら死んでしまうわ。
どう考えても幸せとは言えない状況に陥らせてしまう。
だから霊力の対価として、精霊は人間に力を貸してくれる。
人間は霊力を失う代わりに、望む精霊術が使える。
だが別に、効率良く霊力を世界に巡らせる方法が精霊術と言う形のやり取りなだけであって、精霊は人間を介さなくても、霊力の流れを司る事は出来る。
意志を持たない自然物や、死に行く生物から漏れ出る霊力何かは、自由に使えるからね。
つまり精霊術の主導権は、精霊側にある。
だから当然、精霊は「今日そんな気分じゃない」「お前気に食わないから力貸さんとくわ」と拒否する権利がある。
そうなれば、術はモチロン発動しない。
まぁ、個人的な好き好みで、霊力を得るチャンスを棒に振る事は、早々無いみたいだけど。
頻度が低いだけで、いつぞやアルベルトが俺に術を放とうとした時の結果みたいになる事はある。
特に俺を害そうとしたら、拒否する精霊は多いだろう。
こういう時、精霊が知り合いだと得だよね。
魔物が使う術は、精霊術に似ているけれど、非なるモノだ。
だから魔力を操り燼霊の力を借りた術を使うヤツが出てこられると、危ない。
精霊教の中にはそういう、精霊と燼霊の区別がつかないような輩が居るからね。
目的の方向性は真逆だが、存在としては似通って居るのだから、仕方がないのかもしれない。
今回の護衛だって「精霊術は効かないし〜」なんて甘く見ていたら、ズドンと一撃、喰らいかねない。
だから気を抜きすぎてはいけないのだ。
アリアが使った体で慈悲の復活を発動させたのに、霊力を抑えなかったのは、良くなかったかも。
彼女では術の発動までは出来ても、効果の範囲と癒しのレベルが、ちょっと教えただけでは再現出来ないかもしれないからね。
光の精霊が協力してくれたら問題は無いが……
アレも気分屋だから。
約束しても、守ってくれるとは限らない。
「あの時の奇跡をもう一度!」と望まれた時にショボかったら、ブーイングを喰らいそうだよね。
王都が攻め込まれた時の為に、街ひとつ位は全体を癒せるようにして置いて良いと思う。
光の精霊から許可が出たら、霊力を増やす特訓をしてやろう。
その際に俺の知り合いだから、なんて理由ではなく、アリア本人が光の精霊に気に入られれば、死にたてホヤホヤの人の蘇生位なら出来るようになるだろ。
その為には、効果が目に見えて分かるように、怪我人を用意せねばならないが。
実験台になってくれる人、居るかな。
騎士団の練習後、程度では傷が浅すぎる。
効果がどれだけ得られるかが分からない。
……可愛い妹の為だ。
カノンには尊い犠牲になって貰おう。
騎士団員は犠牲者・怪我人共にゼロなのにも関わらず、自分の手勢のみがあからさまに疲弊しているのが、余程面白くないらしい。
国王陛下御一行様から遠く離れた場所とは言え、誰が通りかかるかも分からない森の中で、司祭は部下を怒鳴り散らしている。
労いの言葉をかけずに、任務の失敗を頭ごなしに怒るなんて。
イヤな上司だな。
「自然物から、妨害の意思が宿ったような仕打ちを受けたのだ」と報告されても、「たかが二日程度の徹夜で幻覚でも見たのか!?」とまともに取り合うことをしない。
徹夜は身体に悪いよ。
順番に見張りを交代して、休めば良かったのに。
数時間程度でも寝ていたら、もう少しマトモな戦闘になっていたかもね。
脳のパフォーマンスが落ちている、しかも携帯食ではろくな栄養も摂れない。
統率力にも火力にも乏しい印象を受けたが、そんな状態ならば当然だ。
練度不足の騎士団員は、司祭に救われたね。
聞く所によると、コイツが街に建てる教会をどれ位の規模にするか、統治にどれ位関わるか、話し合いをする教会側の代表なんだよね。
正直、この手の人って交渉と言っておきながら、一方的な命令に慣れ過ぎてて、話し合いの余地を持とうとすらしない。
相手が従うと思っているし、拒否をしたり意見をしたりしてくるなんて、考えにも及ばない。
とても面倒臭い事になりそうだ。
地の精霊にでも同伴して貰おうかな。
彼等が神と崇める精霊のトップの内の、一柱だもの。
印籠よりも効き目がありそうじゃない?
司祭は置いといたとしても、他の襲撃者達も、教会からの使者として街を訪れるのだろうか。
もしそうなら、ちゃんと休ませて食わせてと、してやりたいなぁ。
霊力を一般人より持っているんだもの。
祈りという形で精霊に霊力を渡してくれるなら、敵さんだとしても充分もてなす理由になるじゃん?
それでついでにコッチサイドに寝返って、内側から下剋上叩きつけてくれないかしら。
福利厚生シッカリするよ〜。
王都にいる司教にしても、ココにいる司祭や助祭にしても、魔力の流れは感じない。
そして霊力の流れはバッチリ感じる。
なにせ魔力は霊力の正反対と言える不思議エネルギーである。
魔力を使う者は、基本的に霊力を使えない。
燼霊が精霊と相反する存在だからね。
燼霊の力を使うのなら、精霊に嫌われるのは当然だろう。
なにせヤツらは世界を滅ぼそうとしているのだから。
思想から存在意義まで全くの真逆に居るのに、仲良しこよしは出来まいて。
前世――地球で過ごしていた時に、因縁がある人が多いようだし。
仲良く手を取り合うなんて事は、色んな意味で出来なさそう。
だから数百年前、この世界に干渉しないように封印をしたのだ。
かつての仲間だったり家族だったりしたんだもの。
気持ち的に、滅ぼす事が出来なかったんだね。
地の精霊の元嫁や、三英雄の一人以外の燼霊は、俺は知らないけれど。
話を聞く限りだと、そう言う人が多いらしいからさ。
魔力の流れも感じ取れるようになれば、精霊教会の誰の背後に燼霊が居るのか把握出来るのに。
魔物の気配を読めるのだ。
魔力も可能だと思うんだよね。
……動いたな。
この後二回に分けて襲撃してくる予定だったのに、部隊をひとつにまとめたな。
総力戦を仕掛けようってか。
逃げれば良いのに。
騎士団長殿とイシュクに、報告しなきゃね。




