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もと神さま、新世界で気ままに2ndライフを満喫する  作者: 可燃物


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神さま、癒す。

 精霊を崇め奉りながら、その力を我が物のように扱う教徒の姿が、何だかとても傲慢に思える。


 世のため人のために使っている部分もあるのだろうが、他者を傷付ける為に、自己都合で使うんだもの。


 しかも場合によっては、金をせしめるワケでしょ。

 今回だって、特別手当が出るとか言ってたし。



 六神通を操り金儲けをしていた人は、地球にもいたらしい。


 ソレを考えると、人智を超えた力を使える人は、利他的思考ではなく、利己的思考に則って使うのだなと思ってしまう。



 持つ者こそ与えなくてはという高貴さは無いのだろうか。

 ……無いんだろうなぁ。



 そんな驕り高ぶった考えを持っているから、自分達より上がいるなんて、思いもしないのだろう。

 カノンみたいな存在が、ゴロゴロそこら辺に転がっているなんて、考えにも及ばない。


 だから出張って来ないかマークされていたのは、カノンだけだった。

 お陰で俺はとっても動きやすかったけど。



 地の精霊の領分の森の中で、偉そうにふんぞり返って居られるのも、そんな尊大な考え方のせいだろうなぁ。

 アクビもせずに、いつ標的が近付いても動けるように待機しているのはアッパレだと思うが、油断し過ぎである。



 襲撃ポイントのほんの手前。

 距離にして一kmを切る頃に、奇襲実行犯達に伝令の手紙(シルフィード)が飛ばされた。


 手紙(シルフィード)は風に乗って運ばれるので、この程度の距離でも届くまでには、少々のタイムラグが生じる。



 俺はあらかじめイシュクと騎士団長さんの耳の中に、超小型の受信機を仕込ませておいた。


 カフスやイヤリングのタイプにしても良かったのだが、イシュクはまだしも、普段アクセサリーを付けない団長さんがそんな物を付けてたら、変に目立つ。


 団長さんは指揮官だから、余程の事が無い限り馬車からは離れず、激しい戦闘はしない。

 なので違和感を抱かれる位ならと、耳の中にポイッと入れさせて貰った。


 ちゃんと後で回収しますよ。


 「スキル」で創った物だから、流石に一般流通はさせられないからね。



 コレで俺は二人にリアルタイムで中継が出来る。

 喋った時の骨の振動によって、向こうからの言葉も聞こえる。


 電話とはちょっと違うよね。

 距離が近くて遮るものがないから出来るのだし。


 無線機に近いかな。



「ジューダスで〜す。


 距離八〇〇m先に第一弾の襲撃者御一行様居るけど、どうする?

 ロクなの居ないし捕縛しちゃう?」


「……大した実力者ではないのなら、気が緩んでいる者もおります。

 気を引き締めるためにも、受けましょう」


 カラクリが分からない上に、姿形が見えない人間の声がする状況が、なかなか受け入れ難いのだろう。

 名乗った途端、驚いたのか肩が跳ね上がるのと、そのせいで馬が少し歩みを乱したのが見えた。


 上から見てるとビビっているのがバレバレである。

 お堅い人に見えたから、こう言うスキが見えると、ちょっと面白い。


「んじゃ、人数多いから数だけちょっと減らしておくわ」


「お願い致します」



 イシュクも「かしこまりました」とだけ返してくる。

 基本イシュクとスナンは、襲撃者との戦闘中は馬車から出てはいけない。


 護られる立場の人間だからね。



 実際は剣が刺さろうが精霊術が直撃しようが、ちょっと存在している次元をズラせば何の問題も起こらないんだけどね。

 ただそうすると、肉体を再構築しなきゃいけないから、ちょっと大変だ。



 それに護られている者の、ポーズは取らなきゃいけない。


 なので戦闘音が聞こえたら、窓と扉から離れて、プルプル小動物のように怯えた演技だけはいつでも出来るようにしておくように言っておいた。

 あと、スナンは形だけでも、アリアの姿に化けてるイシュクを護るように構えておいてね、とお願いしてある。


 実際は護る必要なんて無い位に、実力の差があるそうだけど。


 手合わせの時は、あんまり優劣を感じなかったケド。

 実戦になると、なんか違うのかな。



 奇襲なんて投擲でも弓矢でも十分なのに、わざわざ森の中で火の矢を放って来たり、派手に風を起こして土埃を立てたり、「自分達は精霊様の力を使えるんだぜぃ!」と主張したい気持ちを隠せていない。

 わ〜い、鬱陶しい〜。


 精霊教の関係者が国王の暗殺を目論んでいると悟らせたくないのなら、本来こういう場面で精霊術を使うのは悪手以外の何物でもない。


 悪巧みをしている司教がバカなのだろうか。

 それとも、この襲撃の実行犯のトップが愚かなのだろうか。


 まぁ、どちらもなのだろう。



 精霊の教えを広めるために精霊教があると言うのなら、人を、特に精霊術を使える者を殺める行為は、完全に精霊たちの矜恃に反するものだと言うのに。


 精霊からしてみれば、霊力は消費して貰ってナンボの世界だ。

 金と一緒で使わなければ巡らず、世界に行き渡らない。


 アリアや宰相閣下殿も、一般と比べればかなり霊力の保有量が多い。

 殺されたら、たまったもんじゃないだろう。



 地球人(エルフ)なのに不思議だよね。


 地球から移民して来た人達は、霊玉を体内に持っていないから霊力を扱えないって話だったのに。

 遺伝子的には地球人だけど、この世界で産まれたから霊玉があるのだろうか。



 騎士団が苦戦はするけどなんとか対処出来る。

 その程度の人数だけを道に送り込むため、地の精霊の力を借りる。


 森の中から援護を行う、遠距離の精霊術を使えるヤツらの視界を防ぐべく、樹木の枝を急成長させたり、飛び乗った先の木の枝を折れやすくしたり。

 地面をぬかるませたり、着地寸前に穴を開けたり。



 彼等も任務として動いているだけならば、コレだけ不自然に森が急に干渉を始めたら、何かがおかしいと感じ取るだろう。

 理解不能な超常現象が我が身を襲うのだ。


 それこそ、神の意志と錯覚してくれるかもしれない。


 国王を害する者は、精霊から妨害を受ける。


 そう流布してくれれば、とっても楽なんだけどな。



 手紙(シルフィード)を出していたヤツには特に念入りに嫌がらせをしている。

 是非ともこの先に控えている第二陣に、そう報告して欲しいものだ。


 今は木の枝に抱っこされている状態で、そこから逃れようと必死になっててそれどころじゃなさそうだけど。



 樹の妖精(ドリュアス)もそうだけど、地の精霊(テルモ)の眷属って結構お茶目なのかな。

 こういう時、ノリノリで手伝ってくれるよね。


 冬なのに青々しく伸びる蔦に彩り豊かに咲く花は、外側の安全圏から見れば「わ〜、きれ〜」で済むけれど、ソレに絡め取られている本人達には、ちょっとしたホラーだろう。


 白いバラが自分の血によって赤く染まっていくんだもの。

 演出が素晴らしいね。



 這う這うの体で退散していく襲撃者への深追いは、団長殿が禁止した。


 騎士団の任務は、あくまで馬車の護衛。

 戦力を分散させた所で背後を取られかねない。


 なにせ相手は精霊術を使うのだ。

 音も予備動作も必要とせずに、攻撃が出来る。


 襲って来た時に、身に染みて分かっているだろうに。


 反論している人は、若いんだろうなぁ。

 頭を冷やせよ。


 局所的に雨を降らせるぞ。



 因みに伝令係が、実はまだ森の中に隠れ潜んでいる。

 殿を務める為か、少数で森の中に入って来た所を各個撃破する為か、霊力が集団の中では多めの人も、三人程いる。


 団長さんが制止しなければ、騎士団に犠牲者が出ていただろうなぁ。



 ……ふむ。


 ちゃんと馬車にアリアが乗っているんだよ、と示すために、パフォーマンスをしておこうか。



 イシュクに指示をして、呼び出しのベルを鳴らして貰う。

 その音に気付いた馬車の近くにいた人が、団長殿を小走りで呼びに行った。


 怪我人を馬車の近くに集めて貰う。

 そして特に問題の無い人達は周囲の警戒をする。


「本当に大丈夫なのですか!?」


 小声で怒鳴る、と言うとても器用な事をするイシュクに向かって「だいじょ〜ぶ、だいじょぶ」と笑いながら返事をした。



 国王陛下を前に跪く者は、御尊顔を見る事は叶わない。

 遠くから様子を見ている襲撃者一味はガン見しているだろうが、目の色まではあの距離だと分からない。



 警戒に当たっている人達がヘマをしない限りは、追撃が来たとしても、イシュクに攻撃が当たる事もない。


 イヤ、万が一当たってもイシュクなら問題無いし、そもそも俺が今からこの場で手紙(シルフィード)以外の精霊術の使用を一切禁止するよう、周囲の精霊達にお願いをする。

 様子見を辞めて、今がチャンス! と森に潜んでいるヤツらが攻撃したとしても、術が発動しなくて面を喰らっている間にパフォーマンスは終わるさ。



「皆様方の献身に感謝し、祈りを捧げます」


 騎士団長殿に、馬車の扉を開けさせる。


 なるべくアリアに似せた声色で、ソレっぽく喋ってね。

 そんな無茶振りに応えてくれたイシュクは、両手の指を絡ませ、祈りのポーズを取った。


 その動作に合わせて、俺は治癒術を発動させる。



 治癒術を使える人は、何故か少ない。


 今の所使える人と使えない人の、明確な違いは発見されていない。

 使えないと思い込んでいるから使えない、というワケでは無さそうだけど……何でだろうね。



 血統は関係なさそう。

 アリアは使えるけど、カノンは使えないから。


 宰相閣下殿は、擦り傷程度の「治す必要ないよね、コレ」ってレベルの傷なら治せるそうだ。

 使い所は無いが、全く使えないカノンからしてみれば、「何で俺だけ」と拗ねるのに十分な材料らしい。


 昔はよくグチられたと、宰相閣下殿が笑いながら話してくれた。



 数多くの精霊術師を抱え込んでいる精霊教会の連中の中でも、治癒術を使えるのは、ほんのひと握り。

 一割にも満たない程度と聞いている。


 つまりここでアリアっぽい人が治癒術を使えば、「あの馬車に乗っているのは影武者ではなく、国王本人である」と周囲は勝手に思い込んでくれる。

 騎士達も気合いが入るだろうし、敵さんはコッチの都合の良いように勘違いをしてくれる。



 何より怪我をした状態で馬に乗るのは、危ないしね。

 重傷者こそいないが、ヤケドをした人もいるし、放っておくのは危険だ。


 日程はズラせないし、よく効く回復薬は役職もない騎士に使える程、安いものではない。


 そうなると、簡単な応急処置だけして、先を進む事になる。

 そんな状態で再度奇襲されたら、先程の戦いっぷりを振り返ると、次は死人が出かねない。



 精霊教会の連中が一気に襲いかかって来なかったのは、何度か小競り合いを繰り返して、精神的にも肉体的にも疲弊させた所を、大部隊で強襲する戦法を取るつもりだからだ。


 だが、襲われてもその都度回復すれば肉体的には問題無い。

 肉体的な余裕は精神的な余裕に繋がる。


 そして「怪我をしても治して貰える」という安心感があれば、適度に気を緩められる。


 緩みまくるのは良くないが、そこは喝を入れてくれる団長殿がいますし。

 期待に応えようと奮起してくれれば、一番良いよね。



 精霊術は選ばれた人間にしか使えない。

 そして治癒術は、そんな精霊術師の中でも、更に精選された、真に神から選ばれた者にしか使えないとされている。

 だから使えないカノンは精霊教会に舐めて見られているワケなのだが。


 そんな間違った認識を持っているヤツらに、特大の治癒術を見せつけてやろうではないか。



 慈悲の復活(リザレクション)と言う、広範囲に渡って結構な怪我も治してくれる精霊術だ。


 光の精霊(ルーメン)の得意技だそうで、注ぐ霊力が多ければ多い程、その威力も範囲も広がる。

 霊力がアホみたいにある俺と相性が良い治癒術だね。


 もげた腕位ならくっつくし、停まったばかりなら心臓も動き出す。



 想定外だったのは、効果が高すぎて騎士達の怪我が、ほんの一瞬で治ってしまった事だろうか。

 コレじゃあ、遠目では何が起こったか分からないじゃないか。


 ……よし、仕方ない。



 効果の範囲を広げて、様子を伺っている精霊教会の連中の怪我も治してやる。


 ちゃんとソレっぽいエフェクトも入れたよ!

 皓い光がこう、ぶわぁっ!! と広がって迫って来たような感じのヤツを。


 温いではなく、温かいと感じる程良く優しい温もりだ。

 その光に包まれた途端怪我が治るのだから、アリアが治癒術を使ったのだと認識して貰えるだろう。



 ちょ〜っとやり過ぎたようで、イシュクを中心とした半径五十m圏内の植物が活性化して、芽吹いてしまったが。

 まぁ、地の精霊の力を借りた時点で、彼らからしてみれば信じ難いトンデモ現象は起きていたのだ。


 奇襲の妨害行為も、アリアがしたのだと勘違いしてくれればいいな!

 そんでもって、奇襲を仕掛けてくるのを辞めてくれたら一番良いな!!

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