↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デビルハンター 〜最強悪魔(ヒロイン)と契約して、運命と戦うことになった件〜  作者: 雪沢 凛
潜意識の白い影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/166

潜意識の白い影 (4)

 エリヴィアはふっと微笑んだ。

  その紅い瞳には、どこかイタズラっぽい光と、柔らかな温もりが宿っている。


 彼女は、炎(エン)を見つめながら、そっと語りかけた。


「なら、この力を使って──私と、あなた自身を守りなさい。」

  「そして……あなたが守りたいと思う人を、守るために。」


 その声は、まるでそよ風のように優しく、しかし確かな響きを持っていた。

 そして、彼女は何気なく続ける。


「それにしても……カルマのこと、好きなのよね?」


 ──ドクンッ。


 炎(エン)の胸が、激しく鳴った。


 まるで隠していた心の奥を見透かされたような感覚に、彼の表情がわずかに強張る。

  彼は何かを誤魔化そうとしたが……しかし、自分の心にある答えを、はっきりと掴むことができなかった。


「……わからない。」


 かすれた声でそう呟く。


 エリヴィアの視線を正面から受け止めることができず、目を逸らしてしまう。

  まるで、この感情があまりにも複雑で、簡単に認めることができないかのように。


 エリヴィアは小さく息を吐く。

  その瞳には、どこか優しさと、少しのもどかしさが滲んでいた。


「あなたはいつも、自分を隠そうとするのね。」

「自分自身に疑問を抱いて、すべてを背負い込もうとする。」


 エリヴィアはそっと瞬きをして、静かに続ける。


「でもね──時には、もう少し“自分の気持ち”に正直になってもいいのよ。」

 彼女の言葉は、どこまでも穏やかで、どこまでも真っ直ぐだった。


「カルマと過ごす時間を、大切にしなさい。」

「たとえ、未来でどんな真実に辿り着こうと、それを受け止めることができなかったとしても──」

「“今”あなたが感じているものは、確かに本物なんだから。」


 炎(エン)は、静かに目を閉じた。


 彼女の言葉が、胸の奥にじんわりと沁み込んでいく。


 “自分の気持ちを受け入れる”


 それだけのことが、こんなにも難しいものだったとは。


 しかし……


 その重さを、彼女は否定しなかった。

  ただそっと、彼の迷いを包み込むように、優しく語ったのだ。


(俺は……この気持ちを、大切にしてもいいのか……?)


 そんな沈黙の中で、エリヴィアがふと顔を上げる。

  彼女の紅い瞳が、虚空の一点を鋭く捉えた。


 まるで、何か“異変”を感じ取ったかのように──


 炎(エン)はまだ気づいていない。

  彼は、ただ思考の波に飲み込まれたままだった。


 エリヴィアは、静かに囁く。


「──どうやら、時間みたいね。」


 炎(エン)は、驚いたように顔を上げる。


 彼女の姿が、ゆっくりと揺らぎ始めていた。

  同時に、周囲の空間がまるで暴風のように揺れ動き、白い霧が舞い上がる。


 炎(エン)の心に、焦りが生まれる。

  彼は思わず、彼女に向かって手を伸ばした。


「待て……!」


「まだ話したいことが──」


 しかし、白き猫はただ静かに地面へと降り立った。


 嵐のような気流が渦巻く中で、彼女の姿がゆっくりと変化していく。


 銀白の長い髪が滝のように流れ落ち、紅の翼がそっと広がる。

  微かな光を纏いながら、それはどこか神聖でありながらも、同時に遠い存在のように思えた。


 その双眸は相変わらず深紅に輝き、静かに、そして優しく炎(エン)を見つめている。

 まるで、そこには限りない感慨と別離の想いが滲んでいるかのようだった。


 炎(エン)の喉がかすかに震える。

  彼は、彼女の気配が少しずつ遠のいていくのを感じていた。


 ──そして、その瞳の奥に、決して再び巡り会えないような、淡い哀しみが宿っていることに気づく。


「エリヴィア……」


 彼の声には、言い知れぬ不安が滲んでいた。


 エリヴィアは微笑む。


 紅き瞳に宿る光は、どこまでも優しく、どこか安らぎを帯びていた。


「……彼女があなたを呼んでいるわ。」


 それは、風の中に溶けるような、最後の囁きだった。


 彼女の姿がゆっくりと消えていくにつれ、周囲を取り巻く嵐もまた、視界を覆い尽くす。

 最後に残ったのは──


 赤き翼の光。


 そして、それさえも闇に呑み込まれ、消え去っていった。


 ◆ ◆ ◆  


 ゆっくりと瞼を開くと、見慣れた天井が視界に映り込んだ。


 炎(エン)はしばらくぼんやりと瞬きをしながら、まだ夢の余韻に包まれていた。

 隣に何か気配を感じ、そちらへ顔を向けると、カルマが心配そうに彼を見つめていた。


「エン、ようやく目を覚ましたのね……」

 彼女はそっと囁くように言った。


 その声には、ほっとしたような安堵と、微かな気遣いが滲んでいる。

「さっき、寝ているとき……なんだか、とても苦しそうだった。

 ……まだ傷が痛むの?」


 炎(エン)は静かに上体を起こし、手で額にかかる髪を払いながら、夢の残滓を振り払おうとした。


 カルマはそんな彼の様子をじっと見つめていたが、不意に何かに気付いたように、そっと手を伸ばした。

 指先が炎(エン)の頬に触れる。

 そして、彼女は微かに驚いたように、優しく問いかけた。


「……泣いてたの?」


 炎(エン)は一瞬、言葉を失った。


 彼自身、涙を流していたことに気付いていなかった。


 しかし、その問いかけに戸惑うこともなく、彼は静かに微笑むと、優しくカルマの手を握った。


「……ただの昔の記憶さ。心配することじゃないよ。」


 そう言って、炎(エン)は目を閉じたまま、彼女の温もりを感じるように、そっとその手を握りしめた。


 カルマの手のひらはとても温かく、優しい。

 その感触が、炎(エン)の心に微かな安らぎをもたらした。


 カルマはそんな炎(エン)の様子をじっと見つめた。

 彼女の知る炎(エン)は、どこか冷たく、孤独を纏った存在だった。

 だが今、目の前にいる彼は──


 どこか穏やかで、以前とは違う雰囲気を纏っていた。


「……あなた、本当に変わったわね。」


 カルマはぽつりと呟いた。

 口調こそ軽やかだが、その瞳には、どこか嬉しそうな色が宿っていた。


 炎(エン)はふっと微笑み、彼女の手を握る力を少しだけ強めた。


「……お前もな。」


 彼の言葉に、カルマは目を瞬かせる。


「昔のお前は、いつも皮肉ばかりで、世の中を馬鹿にしているような口ぶりだった。

 すべてのことを他人事のように扱い、何も気にしていないふりをしていた。」


 炎(エン)は彼女を見つめながら、ふと胸の奥に複雑な想いが込み上げるのを感じた。


 エリヴィアとの対話を経て、自分の心にあるものを少しずつ理解し始めていた。

 それは、まだ形を成していない感情だったが──


 少なくとも、カルマの存在が自分にとって 「ただの仲間」 ではないことだけは、はっきりと分かっていた。


 しかし……もし彼女が「真実」を知ったら?


 その時、彼女はどうするのか。


 彼の元を離れてしまうのか?


 それとも──



 炎(エン)は思考を振り払い、目を伏せる。


 そんな未来を考えても、今は何も変わらない。

 それならばせめて……


 今だけは、この温もりに浸っていたかった。

 たとえ、それが一瞬の儚い安らぎであったとしても──。


「……そうかもしれないわね。」


 カルマはふっと微笑んだ。

 伏せた瞳に、静かな光が揺れている。


「確かに、あの頃の私は……誰かと本気で歩むことなんて考えてなかった。

 この世のすべては、ただの通り過ぎる幻にすぎないと思っていたわ。」


 そう言いながらも、カルマはじっと炎(エン)を見つめた。

 その瞳の奥には、どこか切なげな光が滲んでいる。


 彼女は知っている。

 自分は 悪魔 であり、炎(エン)は 人間 だということを。


 彼らの持つ時間は違う──


 いつか、炎(エン)はこの世界を去り、

 彼女はたった一人、彼のいない未来を生き続けることになる。


 それが分かっているからこそ、

 彼女は 「今」 という時間を、誰よりも大切にしていた。


 この瞬間、炎(エン)と過ごすひとときが、

 彼女にとって 唯一無二の記憶 となることを知っているから。


 だから、どんな些細な瞬間でも、

 彼の声、彼の仕草、彼の温もりを、

 ひとつでも多く、心に刻みつけたかった。


 ──今、この時を、永遠に覚えていたかった。


 二人の距離は、知らず知らずのうちに近づいていた。


 互いの視線が重なり、

 言葉のいらない 深い絆 が、そこに流れていた。


 炎(エン)は、カルマの瞳の奥に宿る 淡い哀しみ を感じ取った。

 だが、それは ただの悲しみではなかった。

 彼女の瞳には、確かな 強さ も宿っていた。


 そのことに気づいた瞬間、

 炎(エン)の胸の奥に、ほんのりとした温もりが広がる。


「……たぶん。」


 炎(エン)はぽつりと呟く。


 まるで、自分の中に閉じ込めていた 何か を

 そっと解き放つように。


「俺たちは……もう、昔の自分じゃないのかもしれないな。」


 カルマは何も言わなかった。

 ただ、静かに微笑んだ。

 その笑みは、とても優しくて、どこか儚げで……


 それでいて 暖かかった。

 彼の言葉の意味を、彼女は 理解していた。

 彼らの関係は、あまりにも不確かで、儚くて──


 それでも、今を大切にしたい。

 カルマは、そっと目を閉じる。


 そう。


 先のことなんて、考えても仕方がない。

 今、この瞬間だけは。


 彼のそばにいるだけで、それだけでいい。

 それだけで、心が満たされるから。


 言葉はなくても、互いの 温もり を感じるだけで、

 それだけで十分だった。


 ──まるで、儚く消える星の光のように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。