表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/166

残影の中の手がかり (8)

 エンは静かに頷いた。

  しかし、彼の胸中には、拭いきれない確信があった。


 ──彼はすでに、この陰謀の中心に組み込まれている。


 夜行者ナイトウォーカーとの因縁が想像以上に深いことも、彼には分かっていた。

 思考が重く沈み、無数の疑問が渦巻く。


 エリヴィアの力、アレスの遺跡、夜行者の狙い──すべての要素が蜘蛛の巣のように彼を絡め取っていく。


(真実に近づくほど、危険も増す……)


 アイデンは彼の表情をじっと観察し、わずかに声を低めて語りかける。

「エン、これからお前はさらに多くの困難に直面することになるだろう。

  だが、ギルドはお前を全力で支援する。俺たちは決して夜行者の好きにはさせない。」


 その言葉に続くように、マイルズも口を開いた。

「この戦いは、長年続いてきたものだ。

  しかし、もし奴の弱点を掴めれば、ついに決着をつけることができるかもしれない。

  お前の中にある"エリヴィアの力"こそが、その突破口になる可能性がある。」


 炎は黙って聞きながら、心に冷たい重圧を感じていた。


(どれだけ支援があっても、戦うのは俺自身だ。エリヴィアの力が本当に使いこなせるものかも分からないのに……)


 それでも逃げる選択肢はない。力が彼を選んだのなら、背負うしかない。

「……分かってる。でもその前に、少し時間が必要だ。自分の状態を整えたい。」


 アイデンは満足げに微笑み、頷いた。

「分かった。必要なものがあれば遠慮なく言え。」


 マイルズも静かに付け加える。

「ただし、最近の行動は慎重にな。

  黒燈会と夜行者は、新たな動きを見せている可能性が高い。

  どんな状況でも、お前の身を最優先にしろ。」


 エンは彼らの言葉を聞きながら、わずかに肩の力を抜いた。

  少なくとも、ギルドは彼を見捨てるつもりはない。

  その事実だけでも、彼の気持ちは少しだけ軽くなった。


 ──だが、その安堵も、次の瞬間には打ち消される。


 アイデンは声を潜め、さらに続けた。


「黒燈会だけじゃない。最近、闇紋会あんもんかいの残党の動きも確認した。

 かつて大打撃を与えたが、組織を潰しきれなかった。」


 マイルズの表情が硬くなる。

「夜行者が闇紋会の生き残りと接触している可能性がある。もしそうなら、厄介な事態だ。」


 エンの表情がわずかに引き締まる。


  (夜行者と、闇紋会……?)


 黒燈会と夜行者だけでも十分に危険な存在だったというのに、

  そこにさらに闇紋会が絡んでくるとなれば、脅威は計り知れない。


 闇紋会は古くから存在する闇の組織であり、禁忌の魔術や秘術を操る者たちが集う。

  その遺産は今もなお生き続けており、夜行者がその力を利用しようとしているならば──


 彼は冷ややかに問いかけた。

「つまり……奴らは何が何でも三界の扉を開こうとしている、というわけか?」


 アイデンはわずかに頷き、静かに答える。


「今の情報では、それが主要な目的の一つだろう。

 夜行者はすでに魔力遺跡に痕跡を残している。行動は始まっている。」


 その言葉を聞き、カルマは眉をひそめ、不満げに声を上げる。


「つまり……あなたたちはエンを“鍵”として利用するつもりなのね?

  彼の力をあてにして、夜行者の計画を阻止しようと?」


 マイルズは彼女の視線を受け止め、低く重い声で答えた。


「その通りだ。

  黒燈会、闇紋会、そして夜行者──

  やつらが手を組めば、我々の力では到底対処しきれない。

  だが……"エリヴィアの力"があれば、話は違ってくる。」


 その言葉を聞いた瞬間、エンの胸中に冷たい重圧がのしかかる。


 ──俺が、“鍵”なのか?


 黒燈会や闇紋会といった巨大な組織に対抗することは、普通のハンターには到底無理だ。

 それなのに、ギルドはエンに「夜行者を止める切り札」の役割を押しつけている。


 だが、エリヴィアの力は彼の意志で自由に操れるものではなかった。

 発動は偶然に左右され、狙って引き出すことはできない。

 それどころか、一度使えば強烈な反動が襲うことも分かっている。


 エンは視線を落とし、拳を軽く握った。


(この力が本当に夜行者に立ち向かえるのか? 俺にその重責を担う資格があるのか……?)


 疑問が心を締めつけるが、答えは見つからない。

 顔を上げると、彼の瞳に迷いの色が浮かんでいた。低く落ち着いた声で、正直な思いを口にする。


「俺には、この責任を負えるか分からない。この力は自分の意志で使えるものじゃない。

 肝心な時に発動しなかったら、それこそ致命的だ。」


 アイデンは一瞬沈黙し、慎重に言葉を選んで答えた。

「エン、お前だけにすべてを託す気はない。ギルドも全力で支援する。

 だが、その力は夜行者に直接対抗できる唯一の希望なんだ。

 だから……頼む。」


 その声には命令を超えた切実な願いが込められていた。


(“頼む”か……)


 エンは複雑な感情を抱えながら目を伏せる。

 支援があっても、最後に戦場に立つのは自分だ。

 その事実は揺るがない。


 すると、隣から冷たい声が響いた。


「……甘いわね。」


 カルマが静かに呟き、アイデンを鋭く見つめる。


「その力が都合よく使えると思ってるの?

 エンが自由に扱えないって、分かってるでしょう?」


 アイデンは無言で彼女を見つめ、マイルズも口を閉ざしたままだった。


 エンは彼らのやり取りを眺めながら思う。


(この戦いは、もう俺だけのものじゃない。)


 夜行者、黒燈会、闇紋会、そしてエリヴィアの力。

 ──すべてが絡み合い、彼を縛りつけている。

 “鍵”として利用されるか、“希望”として期待されるか。

 どちらにせよ、選択肢はほとんど残されていない。


(俺はどうするべきなんだ?)


 その問いは、静かに彼の胸に沈んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ