第32話「ゴースト俺、村に滞在する」
長老との話を終えた後――エリスと文哉は、再び生家に戻っていた。
魔王城へ行く前に、もう少しだけ――エリスのこと、ヴァランティエール家のことを、詳しく知っておきたかった。地下室には、まだ読んでいない書物がたくさんある。
「もう少しだけ……ここにいよう」
エリスが、古びた書物を手に取りながら言った。
「お母さんやお父さんが残してくれたもの――全部、ちゃんと見ておきたいの」
文哉も――その気持ちを理解した。
「ああ……急ぐ必要はない。ゆっくり調べよう」
二人は――生家に滞在することを決めた。
◆
エリスは――一つ一つの書物を、丁寧に読んでいた。
母エレナの日記、父ダリアの手紙、祖母エリアナの記録――家族の想いが、そこには詰まっていた。
「お母さん……こんなこと、考えてたんだ……」
エリスが、日記を読みながら――優しく微笑む。
日記には、エリスが生まれた時の喜びが綴られていた。
『今日、エリスが生まれた。小さくて、可愛くて――私の宝物』
『この子には、幸せになってほしい。どんな力を持っていても――笑顔で生きてほしい』
エリスの目から――涙がこぼれた。
「お母さん……」
文哉は――そっと、エリスのそばにいた。何も言わず、ただ――寄り添うように。
◆
エリスは、部屋の片付けも始めた。
散乱していた家具を元に戻し、割れた食器を集め、床を掃いた。文哉も――ポルターガイストを使って、手伝う。
「フミヤ、ありがとう」
エリスが、嬉しそうに笑った。
「こうやって……二人で、何かをするの――好き」
文哉も――心が温かくなった。
(ああ……こういう、何気ない時間が――幸せなんだな)
二人の共同作業――それは、まるで本当の家族のようだった。
廃墟だった家が――少しずつ、生活の温かみを取り戻していく。
◆
数日が経った。
エリスと文哉は――生家で、静かな時間を過ごしていた。
だが――村の様子が、日に日におかしくなっていた。
ある日、エリスが村へ食料を買いに行った時――村人たちの視線が、さらに冷たくなっていることに気づいた。
「あの子……まだ、いるのか……」
「廃墟に住み着いてる……」
「まさか……ヴァランティエールの……」
ひそひそ話が――エリスの耳に届く。
エリスは――不安になった。
(どうして……?)
文哉も――村人たちの様子を、『鑑定』で確認していた。
【村人A:レベル4 / 感情:恐怖・疑念 / 警戒度:高】
【村人B:レベル3 / 感情:不安・嫌悪 / 警戒度:高】
(まずい……村人たちが、エリスを疑い始めている)
◆
エリスが生家に戻ると――文哉が、すぐに話しかけた。
「エリス……村の様子が、変だ」
「うん……私も、感じた」
エリスが、不安そうに答えた。
「みんな……私のこと、見てる」
文哉は――これ以上村にいるのは危険だと感じた。
「そろそろ――出発した方がいいかもしれない」
だが――エリスは、まだ決心がつかなかった。
「もう少しだけ……お父さんとお母さんの、痕跡を――感じていたい……」
文哉は――エリスの気持ちを尊重した。
「分かった……でも、気をつけよう」
◆
その夜――村では、ある集会が開かれていた。
村人たちが、村長の家に集まっている。長老も、そこにいた。
「あの娘が――ヴァランティエールの末裔だと、確信した」
一人の村人が、声を上げた。
「髪の色、顔立ち――間違いない」
「廃墟に住み着いて――何をしているか分からん」
別の村人が、不安そうに言った。
「もしかしたら――また、あの恐ろしい儀式を……」
村人たちの間で――疑心暗鬼が広がっていく。
「待て」
長老が、静かに言った。
「あの娘は――何も悪いことはしておらん」
「だが、長老!」
村人が、反論した。
「ヴァランティエールの血を引く者だ! 危険に決まっている!」
「あの日の恐怖を――忘れたのか!」
長老は――村人たちの恐怖を、理解していた。
(だが――エリスは、何も悪くない……)
長老の説得も――村人たちの恐怖には、届かなかった。
「近隣の村に――兵士が駐屯している」
一人の村人が、提案した。
「兵士を呼んで――あの娘を、捕らえてもらおう」
「そうだ! それがいい!」
他の村人たちも、賛同した。
「悪魔を――この村から、追い出すべきだ!」
長老は――止めようとしたが、もう村人たちの決意は固まっていた。
翌日――村人たちは、近隣の村へ使者を送った。
◆
エリスは――何も知らずに、生家で過ごしていた。
地下室で、また新しい書物を見つけた。それは――エリスの幼い頃の記録だった。
『エリスは、今日も元気に笑っている』
『この子が見ている世界は――私たちとは違うのだろう』
『でも――この子の笑顔は、何よりも美しい』
エリスは――母の愛情を感じて、温かい気持ちになった。
「お母さん……私のこと、愛してくれてたんだね……」
文哉も――その記録を見て、胸が熱くなった。
(エリスは――愛されて育ったんだ)
(だから――こんなに優しいんだな)
◆
その日の夕方――エリスは、部屋の掃除をしていた。
両親が使っていた寝室を――丁寧に片付ける。ベッドを整え、窓を拭き、床を掃く。
「ここが……お父さんとお母さんの、部屋……」
エリスが、優しく呟いた。
部屋には――二人の写真が飾られていた。若い夫婦が、幸せそうに笑っている。
エリスは――その写真を見つめた。
「会いたかったな……お父さん、お母さん……」
涙が――ぽろぽろと、こぼれた。
文哉は――エリスの悲しみを感じて、何も言えなかった。
ただ――そばにいることしか、できなかった。
◆
夜になった。
エリスは、疲れて眠りについた。だが――文哉は、眠れなかった。
窓の外を見ると――村の方から、松明の光が見えた。
(あれは……?)
文哉は――村の様子を確認するため、壁をすり抜けて外に出た。
村では――何人かの村人が、集まって話している。
「明日――兵士が来る」
「あの娘を――捕らえるために」
文哉の心臓が――凍りついた。
(兵士……!?)
「ヴァランティエールの末裔だと――伝えた」
「王都も、興味を持っているはずだ」
(まずい……!)
文哉は――急いで、生家に戻った。
◆
翌朝――文哉は、エリスを起こした。
「エリス! 起きて!」
エリスが――眠そうに目をこすった。
「フミヤ……? どうしたの……」
「大変なんだ――村人たちが、兵士を呼んだ」
文哉の声が――緊迫していた。
「エリスを捕らえるために――明日、兵士が来る」
エリスの顔が――青ざめた。
「えっ……」
「今すぐ――ここを出よう」
文哉が、強く言った。
「このままじゃ――エリスが危ない」
エリスは――まだ信じられない様子だった。
「でも……私、何もしてないのに……」
「村人たちは――エリスがヴァランティエールの末裔だと気づいた」
文哉が、説明した。
「恐怖と憎悪で――正常な判断ができなくなってる」
エリスは――現実を受け入れようとした。
(また……追われるの……?)
だが――その時、外から物音がした。
◆
文哉が――窓の外を確認する。
そこには――数人の村人が、生家を取り囲んでいた。
「あの娘は――まだ中にいるはずだ」
「逃がすな」
文哉の表情が――険しくなった。
「エリス――もう、囲まれてる」
エリスは――恐怖に震えた。
「どうしよう……」
「落ち着いて」
文哉が、冷静に言った。
「まだ――方法はある」
文哉は――『鑑定』で村人たちの配置を確認した。
【村人:5名 / レベル:3~5 / 武器:農具・棍棒 / 配置:家の前後】
(前後を固められてる……だが、まだ隙はある)
「エリス――荷物をまとめて」
文哉が、指示した。
「必要最低限でいい。すぐに出られるように」
エリスは――震える手で、書物や母の日記を袋に詰めた。
文哉は――脱出ルートを考えていた。
(村人たちは、まだ攻めてこない……兵士を待ってるのか)
(それなら――今のうちに、逃げるしかない)
◆
文哉は――エリスに、計画を伝えた。
「裏口から出よう。僕が村人の注意を逸らす」
「でも――」
「大丈夫。僕は幽霊だから――捕まることはない」
文哉が、自信を持って言った。
「エリスを――必ず、守る」
エリスは――文哉の決意を感じて、頷いた。
「分かった……フミヤを、信じる」
文哉は――ポルターガイストを使って、家の前で大きな音を立てた。
ガシャーン!
「何だ!?」
村人たちが――前の方に集まる。
「今だ! エリス、走れ!」
エリスは――裏口から飛び出した。
森へ向かって――全力で走る。
村人たちが――気づいて追いかけてきた。
「待て! 逃がすな!」
だが――エリスは、オーク村で学んだ護身術を思い出した。
素早く身をかわし――木々の間を駆け抜けていく。
文哉も――追ってくる村人たちの前で、石を投げて妨害する。
「くそっ! 何だこれは!」
村人たちが――混乱している。
エリスは――森の奥深くへと、逃げ込んだ。
◆
しばらく走り続けて――ようやく、村人たちの気配が消えた。
エリスは――木の根元に座り込んで、息を整えた。
「ハァ……ハァ……」
文哉も――エリスのそばに来た。
「大丈夫か、エリス?」
「うん……何とか……」
エリスが、息を切らしながら答えた。
二人は――しばらく、休息を取った。
◆
落ち着いてから――エリスは、現実を受け入れ始めた。
「もう……人族の土地には、戻れないんだね……」
エリスの声が――寂しそうだった。
文哉は――エリスの気持ちを思うと、胸が痛んだ。
「ごめん……僕のせいで……」
「違うよ」
エリスが、すぐに否定した。
「フミヤのせいじゃない……これは、私の一族の――背負ってきた運命なんだ」
エリスは――空を見上げた。
「でも……私には、フミヤがいる」
エリスが、微笑んだ。
「だから――大丈夫」
文哉は――エリスの強さに、心を打たれた。
(エリス……本当に、強い子だ)
◆
二人は――次の目的地を決めた。
「魔王城に――行こう」
エリスが、前を向いた。
「そこに――全ての答えがある」
「受肉の方法も――私の力のことも」
文哉も――頷いた。
「ああ……魔王城へ行こう」
二人は――立ち上がった。
人族の土地を離れ――魔族の領域へ向かう。
それは――大きな決断だった。だが――二人には、もう戻る場所がなかった。
「フミヤと一緒なら――どこへでも行ける」
エリスが、決意を込めて言った。
文哉は――エリスの言葉に、勇気をもらった。
「エリスを――絶対に、守る」
二人は――森を抜けて、魔族領の境界へと向かい始めた。
新たな旅の始まり――そして、運命の再会が、待っていた。
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【名前:中田文哉 / 種族:ゴースト / 年齢:28歳(死亡)】
【スキル:鑑定 / ポルターガイスト(中) / レベル:2】
【ステータス:HP??? / 攻撃力??? / 防御力???】
【特性:物理無効 / 視認不可 / 壁抜け / 浮遊】
【名前:エリス・ラ・ヴァランティエール / 種族:人族 / 年齢:16歳】
【特殊能力:魂の視認 / 霊体との意思疎通 / 霊体使役(小)/ レベル:5】
【ステータス:HP115 / 攻撃力+6 / 魔力??? / 精神力:大】
【装備:短剣(攻撃力+2)/ オークの村からの贈り物(お花模様の髪留め)】




