~敗戦~
~~ ぬらりひょんの孫 - 妖艶なる
グレーイは火のエルムを見て怒り狂い、話しかけようともしなかった。即座に、両手にナミアのボールを1つずつ作り出した。戦おうと決意したのだ。その反応を見て、黒いエルムは慌てたようだった。歯を食いしばって目を見開き、しかめっ面をしながら後ずさった。
「おーい、やめろ!エルム違いだ!俺の名前はアグニズ。アルドン帝国の者じゃない。俺をよく見てみろ!本当にそう見えるか?」
「黙れ、この化け物!」グレーイは怒鳴った。
そして、アグニズに水のボールを投げつけた。彼はかろうじて攻撃をかわした。しかし、グレーイはそこでやめる気はなかった!
「お前とお前の仲間がしたことの報いを受けろ!」雲は狂ったように叫んだ。
そして、ナミアのボールを次々と放った。相手はそれを避け続けたが、決して容易ではなかった。完全に気が動転しあらぬ方向へ動いたり、時にはよろめきもした。水の攻撃を受けることに本当に怯えているようだった。
「頼む、やめてくれーーーーー!!!!!!!!!」彼はどなった。「君は勘違いしている!カザンが...」
「カザンだって?!」 グレーイが叫んだ。
カザン、アルドン帝国の支配者...その名を聞いたグレーイは、自分の力を抑えきれなくなった。攻撃はより速く、より強力になった。しかし、何かがおかしい...アグニズは冷静に攻撃をかわしていた。グレーイは何が何だか分からなくなっていた。対峙しているこのエルムはなんだんだ...行動が理屈に合わない…
突然、攻撃と攻撃の間に、炎のエルムがグレーイに向かって突進し、あと1メートルというところまで迫った。その瞬間、顔全体に強烈な熱が広がっていくのを感じるほど、炎に包まれた彼の顔が目前にきた。そして…
「バァッ!」それがアグニズが吹きかけた唯一の言葉だった。
驚いたグレーイは、厚い空気の層をこぶしにまとわせ、それをアグニズの顔めがけて投げつけた。ヴァハの威力は非常に強く、炎のエルムは木に激突し、その衝撃で木は二つに割れた。しかし、強烈な一撃を食らったにも関わらず、アグニズは何事もなかったかのように立ち上がった。ため息をつきながら首を鳴らし、灰色の雲に向き直った。
アグニズの目つきが変わった。ゆっくりとグレーイに向かって歩き始めた。明らかに自信に満ちた目だ。一方、主人公もまだ諦めてはいなかった。
今度は、もはや疑う余地もないほどの、非常に強力で速いボールを投げた。そう、ツだ!成功したのだ!約束通り、6週間足らずでこの力を使えるようになった!その姿を見て、パリは思わず笑みを浮かべた。
グレーイはこの力を思い出した。まさにウルナーを救うために使ったのと同じ力だ。
しかし、またしてもアグニズはあっさりとかわした...
「そんなはずはない!」ツを使っても何も状況が変わらないことに恐怖を感じながら、グレーイは自分に言い聞かせた。まぐれだと思いつつ、相手にツを連打した。景色の中にあるものが壊れてあちらこちらへ飛び散り始めた。四方八方で爆発が起こり、熱気の中で反響した。興奮のあまり、グレーイはもはや何も気にしていなかった。
「いいか、お前は俺に敵わない。」アグニズはグレーイの打撃をかわしながら言った。「お前みたいなザコを倒すのに、アーティシュを使う必要はなさそうだな。」
「黙れ、この野郎!!!」
その言葉にグレーイは精神を集中させ、敵を一網打尽にする攻撃を仕込んだ。巨大なツのカタマリを放ったが、アグニズは毎度のごとく難なく避けてみせた。
しかし、予想に反してツは方向を変え、まっすぐ炎のエルムに向かって戻ってきた。今度ばかりはかわすことができなかった。彼は両腕で身を守ったが、押し寄せる波に飲み込まれ、遠くへ投げ飛ばされた。凄まじい衝撃波が辺り全体を破壊した。グレーイにとって勝利は確実だった!
爆発後の衝撃によって、一面に分厚い煙が立ち込めた。その煙越しにアグニズがどうなっているのか様子をうかがった。しばらく経っても動きはなかった。きっと動けないに違いない。少なくとも、灰色の雲はそう思った...
そして、敵はかすり傷ひとつ負わずに姿を現した。ツが炸裂する前に逃げたらしい。グレーイは気を失いかけていたが、アグニズはまだ疲れの色を見せなかった。
「これで終わりか?」炎のエルムは馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「お前を殺してやる!!!」グレーイは叫んだ。あまりの大声に、声が少し裏返ってしまった。
「じゃあこうしようか。ゲームをしよう。1分だけ時間をやる。その間、俺は動かない。もし俺を傷つけることができたら、お前の勝ちだ!」
「何だって?」
このプライドと自信はどこから来たのだろう?まるで違うエルムがグレーイの前に立っているようだった。小さなナミアのボールを避けるために、馬鹿みたいに逃げまわっていた彼ではない。あの時のアグニズとは違う。
それでもグレーイは彼の挑発に刺激された。ためらうことなく、彼は巨大なツの玉をぶつけた。約束通り、傲慢なヤツはじっとしていた。衝撃で煙が立ち込め、辺り一面を包み込んだ。この攻撃を受けたならもう立ってはいられないだろう。しかし…そこには無傷の状態でアグニズが立っていた...
そして満面の笑みを浮かべた。もっと恐ろしいことに、ハイエナのようにクスクスと笑い始めた。美しかったこの地を、すっかり変わり果てた姿にしたのは誰だ?なんでコイツは笑っている?その笑い声が引き金となり、グレーイは絶対にこのエルムを殺すと決意した。再び狂乱状態に陥り、アグニズめがけて何十発も何十発もツの玉を飛ばした。
猛烈な熱波が感じられ、さっきよりもさらに濃い煙の幕が現れた。その蒸気は上空のパリまで飲み込んだ。グレーイが攻撃するたびに、この霧は濃くなり、広がっていった...。それはどんどん広がり続け、空気を押し退け、炎をも飲み込んでしまった。
しかし、グレーイは止まらなかった。最後の一撃として、彼は強力なツのビームを撃ち出したが、それを放った後にひざまずいてしまった。霧は濃くなり、1メートル先も見えない。これだけ攻撃すればもう大丈夫だろう…。
数秒後、相手の気配がないのを確認するとグレーイは立ち上がり、空に向かって勝利の雄叫びを上げた!
「おい、炎頭、もう口も利けないのか!?」彼は虚空に向かって叫んだ。
しかし、煙が次第に消えていくと、異臭がし、強烈な熱波を感じた。グレーイが気づかないうちに、アグニズはすでに目の前にいた、傷ひとつない姿で...。グレーイは茫然とした。
「大声を出すな、バカが。」エルムが冷静に言い放った。「俺は賭けに勝った。」
パリは上から黙って見ていた。彼女はアグニズの小細工を全て理解していた。何もしなかったら無傷では済まなかっただろうことも。
実はアグニズは、自分にツが到達する前に全てを蒸気へと変えてしまうほど、温度を上昇させる力を持っていたのだ。蒸発という現象である。奇妙な大量の煙が発生し、周囲の炎が全て消えてしまったのはこの為だ。このアグニズ...単なる戦士ではなかったのだ!
グレーイは思わず炎のエルムの顔に向かって拳を突き出したが、相手はあっさりとその腕を頑強な握力で掴んで止めた。そのままアグニズはグレーイの腕を強く締めつけると、雨雲は痛みでうめき声を上げた。アグニズはグレーイを内側から焼いた。このままでは、腕が焼け落ちてしまう…!
だが、そうなる前にグレーイは顔の右側に強烈な衝撃を感じた。千の火打石がぶつかったかのように火花が散った。グレーイは唖然とした。アグニズの頭上の炎の光に照らされ、地面が真っ赤に染まっているのを見ていた。主人公はふらつきながら、腹に二撃目を食らった。
そして膝から崩れ落ち、眼を大きく見開いたが、大きな黒い穴しか見えなくなった。そして、ついにぐったりとその場に倒れ込んだ。『どうして?』消えゆく意識の中、この疑問が再び脳裏に浮かんだ。もう一度、ここに産まれた意味を、このような結末を見せられるためだけに生を受けた意味を考えたが、答えは思い浮かばなかった。
アグニズはグレーイに勝った。1つもケガをすることなく勝利したのだ。アグニズは悲しげな表情で倒れている相手を見た。歯を食いしばり、拳を握りしめ、簡単に倒れてしまった雲に苛立ちを感じながら...そして空に目を向けた。
「おーい、お前!」パリに叫んだ。「翼を燃やしたくないのは分かるが、お前が仲間を助けてれば、もう少し俺は楽しめたのによぉ!」
白の貴婦人は何も答えなかった。
「つまり、俺がこの雲をやっつけちまっても、お構いなしってことか?」彼は尋ねた。
「あんたが彼に何もしないことはわかっているのよ。」パリは答えた。
「そうか?フクロウのくせに鋭いな。ほら、感じたか? あの赤いエルムはまだ生きてるんだよ…あんな状態だけどな。全く驚きだぜ。お前にこいつを預けるから、彼女は俺に任せろ。向こうで会おう。あの大きな台地のふもとで。あそこなら炎からも、詮索好きなヤツらからも逃れられるぜ。」
そう言ってグレーイを拾い上げると、まるでその辺のゴミを捨てるかのように、空高くに放り投げた。幸い、パリは簡単にキャッチすることができた。グレーイが落ちないように精霊を呼び出し、精霊はふたりを薄いエネルギーの層で包んだ。
アグニズはアプルを抱きかかえ、指し示した方向へと飛び去った。その速度があまりに速く、彼が飛ぶと長い火の筋が空を横切った。
パリはアグニズの後を追った。一体このエルムは何を考えているのだろう。
これから驚くべき話をされることを、まだパリは知らない…