42.テオが なかまに くわわった!
第二部「ハーレム?」編、連載中!
カナ(奥菜香南絵)が転移した異世界での出会い。ペト様(ペトルス・リプシウス)、ミチャ(マセトヴォネヤスクウェゴラミチャ)との風変りな共同生活にようやくなじんできた矢先、ペト様は突然姿を消す。
途方に暮れるカナに、親友ナギ(大河内凪)から予期せぬ通話が届き、事態はますますややこしい方向に…!?
カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベリズム様、エブリスタ様でも公開中です。
われながら、朝食の準備は、がんばった。全粒粉のパンにハム、サラミ、チーズ、ジャム、蜂蜜。ベーコン&エッグと彩あざやかなサラダ。紅茶、コーヒー、ジュース、牛乳。とにかく、気に入ってもらえそうなものは、とりあえずなんでも出した。ちょっとオシャレな柄のテーブルクロスを敷き、白磁の皿とシルバーの食器を並べてある。
テーブルの上の朝食を見て、マテ君は「おっ」と低い声をあげた。
「うちの主人、カカ、カナさんのところでは、いつもこんな豪華な食事を?」
とても複雑そうな表情のマテ君。
「ええ、そうですね。お気に召しましたか?」
ま、ちょっと盛ってますけどね。
「私の知らない間に、よその女なんかと……」
マテ君が、ボソッとつぶやく。なんか猛烈にディスられてるんですが。
「はい?」
「ななな、なんでもありません! 独り言です!」
「しっかり聞こえてましたよ」
ああ、マテ君、顔、真っ赤にしてる。やっぱ、憎めないキャラだなあ。
「オッハニョ~!」
絶妙なタイミングで、お腹をすかせたミチャが起きてきた。見知らぬ客に驚く様子もなく、マテ君に向かってニコッと微笑むと、いつもの席について、一言。
「オナタ、スイテニョ〜!」
ミチャ、安定のマイペース。
「こ、こちらのお嬢様は……?」
突然の美少女にドギマギしながら、マテ君が、ミチャと私の顔を交互に見比べている。
「ももも、もしや、カナさんとうちの主人の……」
「いえ、ちがいます」
思い違いの内容は、あえて問わない方向で。
「ミチャ! こちら、マテく……じゃないや、マッテオさんだよ」
「は、はじめまして、ミチャさん」
「マッテオー!」
ん? 一発で覚えた? 名前を呼ばれたマテ君は、なにやら照れている。
「よければ、私のことは、カナって呼んでください」
「わかりました。では、私のことも、テオでお願いします」
ふーん。マッテオが、テオになるのか。私は、マテ君が手を差し出すのにこたえて、握手した。
「さあ、お腹すいたでしょう。遠慮なくどうぞ!」
◇
マテ君も、ミチャに負けず、なかなかの食欲だった。
「それで、カナは、いつからヴェネツィアに?」
「……はい?」
「おや、失礼! もしや、こちらで生まれたのですか?」
ん、どゆこと?
「ヴェネツィア、一度も行ったことありませんけど……」
「……はい?」
しばし沈黙が流れる。
「それは、つまり……」
「ひょっとして、ここがイタリアだと思ってらっしゃる?」
「え! ち、ちがうのですか?」
ああ、そうか。私がこんなドレスを着てるから、誤解したのか?
「残念ながら、ここはヨーロッパでも、アフリカでも、アジアですらないんです」
突然、マテ君は、短い叫び声をあげると、十字を切って、目をつぶった。
「まさか! この年で、もう神に召されるなんて!」
「いや、勝手に死なないで!」
「まだ、死んでない?」
「生きててもらわないと困ります!」
本題を切り出すには、ちょうどいい。私は、ここが、私たちの住んでいたのとは別世界であること、私も突然ここに迷いこんだことを説明した。
「うーん。むずかしくて、よくわからない部分もありますが……」
真剣に聞いてくれていたマテ君が、言葉をはさんだ。
「ミチャさんも、突然迷い込んだのですか?」
「いえ、ミチャは、もとからこの世界の住人です」
マテ君は、おいしそうにジュースを飲みほすミチャの横顔を見ながら、さらに尋ねる。
「では、ピエーロさんは? うちの主人は、どうやってここに来たんです?」
「彼は、私が呼びました」
「ああ、もう! 女性に呼ばれると、すぐ応えちゃうんだから、あの人は!」
そういうツッコミ?
「実は、私、この世界に来てから、知らないうちに魔術を身につけていて」
「魔術?」
「はい。テオが食べてるそのパンも、私が魔術で呼び出したものなの」
マテ君の動きが止まった。驚いて目を見開いたまま、手に持ったパンをじっと見つめている。
「でも……おいしいですよ」
「あ、うん。ありがとう」
「で、それはいったい、どんな魔術なんですか?」
「私が絵に描くと、どんなものでも、この世界に現われるのです」
「!」
勢いよく立ち上がったマテ君の後ろで、椅子が音をたてて倒れる。
「まままま、まさか! 私や、ピピピ、ピエーロさんも――?」
「そうなんです」
マテ君、かなり面食らっている。
「どどど、どうか、命だけは、お助けください!」
「いや、殺さないから!」
「でも、絵に描いたものが現われるということは……その気になれば、いつでも消してしまえるのでは?」
なるほど。一理あるけど、試したことないな。
「消すために呼んだんじゃないよ。とりあえず、落ち着こう?」
マテ君は、椅子を起こして、ゆっくりと腰を下ろした。気持ちを落ち着かせるように、水を一杯飲む。
「ああ、そうか!」
「?」
突然、マテ君が大声をあげる。
「カナは、さらわれたピエーロさんを助け出したい。だから私に協力してほしい、と。こういうことですね?」
「まさにそうなんです!」
なに、その突然の、別人のような察しのよさは?
「承りました」
「え?」
「救い出すんですよね、うちの主人を?」
「ほんとうに、いいの?」
「だって、そのために私を呼んだのでしょう?」
「それはそうなんだけど……急に呼び出したのに、すんなり引き受けてくれるなんて」
「カナは、面白い人ですね」
それ、ペト様にもよく言われたな。マテ君は、楽しそうに笑っている。
「流行り病で死にかけていた私を救ったのは、ピエーロさんです。もし彼を見捨てたりしたら、私は地獄に落ちてしまいますよ」
「テオ……」
やっぱり彼を最初に召喚してよかった!
「よその女に負けるわけには、いきませんしね」
マテ君が、また小さな声でつぶやく。しっかり聞こえてますからね。
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