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勉強の続き

 ユーグには三週間で「教えることがなくなった」とあきれられてしまった。

 本当なら十五になるまでは迷宮にもぐるのはひかえようと思っていたのだが、そろそろ考えてもいいのだろうか?

 迷っていると、ベレンガリア様がニコニコしながら俺のところへやってくる。


「ロイ、あのね、私ね、<雷撃の槍>を覚えたのよ!」


 <雷撃の壁>ってたしか沼級だっけ。

 そこまでハードルが高い魔法じゃないんだろうけど、何でこの子三週間で使えるようになっているんだろう……。

 普通の人は二か月くらいかかるんじゃなかったのか。


「すごいですね、リア様」


「ふふふ、私もバスターになれるかしら」

 

 ここでバスターになってはいけないと言うと、ベレンガリア様は怒り出す。


「なれそうですよね。侯爵家のお姫様じゃなかったら、二人で迷宮に行けたかもしれません」


「そうよね! でも侯爵家に生まれてなかったからロイと会えなかっただろうし、いまのほうがいいわ」


 ベレンガリア様は満足そうに言った。 

 この方は決してバカではない。

 世の中にはままならないことがあると理解しているのだ。

 ……たぶん。


「ユーグ先生、俺はそろそろ迷宮にもぐっても大丈夫でしょうか?」


「迷宮に潜ると言っても、シャラント州にはいくつもの迷宮があるぞ。どこにするんだね?」


 帰ろうとしていたユーグを呼び止めると、そのような問いが返ってきて俺は言葉に詰まる。

 迷宮ってひとつの州にいくつもあるものなのか。

 こっちを見ていたユーグはなるほどとつぶやいた。


「その辺はまだ何も分かっておらんのか。ならばせっかくだし、教えておくとしよう」


「よろしくお願いします。すみません」


 帰ろうとしていたんだからこれは突発的に残業を発生させてしまったようなものである。

 日本人の社畜としては罪悪感が刺激されて、平謝りするしかない。


「何の。ベレンガリア様といっしょなら、その分賃金が出るからな。あのお姫様を連れてくるならかまわんよ」


 ユーグはカカカと笑う。 

 俺が一応呼びに行くと、ベレンガリア様は顔を輝かさせて参加すると告げる。

 そのせいでお茶の準備をしていたメイドたちに影響が出てしまう。

 それはそれでやばいので、お茶をしながら聞かせてもらうわけにはいかないかと申し出た。


「いいわよ。みんな、ロイとユーグの分も用意しなさい」


 ベレンガリア様の命令はスムーズに受け入れられた。

 まあ彼女たちは俺同様、拒否権なんて持ってないわけだが。

 仕事を無駄にさせないために仕事を増やしてしまったことをわびると、メイドたちは苦笑と微笑を返してくる。

 よかった、許してもらえたようだ。

 お茶会をやりながらユーグが教えてくれる。


「バスターはバスター協会に登録せねばならん。協会は基本迷宮がある街にしかない。だからこのルシオン市には存在しておらん」


 迷宮のすぐそばに大貴族の屋敷があるはずがないのは、さすがに俺でも想像できることだ。

 

「ロイの場合は私が推薦状を用意するから手続きはできよう。そして土級からはじまる。これに例外はないが、実績を積めばランクは上がっていく。雲級になるまで一か月かからなかった猛者も、過去には存在している」


 雲級と言えばそれなりの地位のはずだ。

 あっという間にのぼりつめることは可能ってことなのか……。


「昇格条件は協会で聞け。そして次に迷宮についてだが、このシャラント州には十の迷宮がある」


 多いなと思うのは俺が日本人だからなんだろうなと空気で伝わってくる。


「ここから一番近いのは、隣のヴィエルゾン市にあるヴィエルゾン迷宮だろう。馬車で三日といったところか」

 

 馬車で三日ならそこまでは遠くはないんだな。

 簡単に計算したら東京から軽井沢、大阪から岡山くらいになるのか……?

 大ざっぱすぎるものだから断言はできないが。

 

「ヴィエルゾン迷宮に挑戦してみるかね?」


「はい」


 俺がうなずくと、ベレンガリア様が表情をくもらせる。


「ロイ、行っちゃうの?」


「ヴィエルゾンなら、ここに戻ってこれない距離ではありませんし」


 戻ってくることを許されるのかは別問題だが。


「そうだけど」


 ベレンガリア様はさびそうにしているが、ここは譲れない。


「……分かった。たまには帰ってきてね」


 その願いには小さくうなずく。

 お世話になっているのは事実だし、迷宮にもぐりっぱなしなんてことができるとも思えないし、それくらいは大丈夫だろう。

 問題は屋敷に入れてもらえるのかだが……グエリーヌ侯爵なら普通に入れてくれる気がする。

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