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エピローグー5

 その数日後、土方歳一少佐は、父、土方勇志伯爵を自宅に訪ねていた。

 土方勇志伯爵は、ここしばらく静養に努めたせいか、顔色が良くなっており、息子として、土方少佐はほっとすることになった。

 土方伯爵は、息子と久々に対面しての会話を楽しむことにした。


「林侯爵は、東郷元帥の墓参りの際に、何か言っておられたか」

「ええ、減らず口を叩かれながらも、本当に寂しげでした。弔辞を読んでもらおうと思っておったのに、わしに読ませおってとか」

「あの二人は、犬猿の仲と言えば、犬猿の仲であったが、日本の事をお互いに思っておられたのは間違いないからな。ただ、その先の行動が全く違っておられたが」

 土方伯爵は、しみじみと言った。


「それから、林侯爵から父に伝言を頼まれました。わしに弔辞を読ませるな。お前に弔辞を読んでもらうつもりだからな。これは、元帥として命令するとのことです」

「元帥の命令でも従えんことはあるがな。だが、その命令には謹んで従わせてもらう。さすがに、20歳以上年上の方に弔辞を読ませるわけにはいかん」

 土方少佐の言葉に、土方伯爵は半ば冗談で答えながら思った。

 林侯爵は1848年生まれ、自分は1870年生まれだ。

 林侯爵は90歳近いとはいえ、わしも60代半ばになる。

 自分の体を大事にしないと、本当に林侯爵に弔辞を自分は読んでもらうことになりかねないな。


「前にも聞いたが、欧州情勢をどう考える」

「独で、どうにも嫌な気配が漂っています。後、伊でも。ソ連は言うまでもありません。自分は考えたくないですが、日本が再度の欧州派兵をせねばならない事態が起こるかもしれませんね。ポーランドの政府、軍関係者は気を緩める余裕が無い、とこぼしていました」

 話を切り替えた土方伯爵の問いかけに、土方少佐は答えた。

 土方伯爵は思った。

 日本は、英米との連携が至上命題で、それは色々な意味で切れない関係だ。

 何れは、独ソと戦わねばならない時が来るのかもしれん。

 それより前に足元が問題だが。


「日本国内は、一応、斎藤實内閣が衆議院の圧倒的多数を占める与党立憲政友会のバックを受けて、政治は安定しているが、そろそろ国民が倦みつつあるな」

「ええ。何だかんだ言っても、斎藤内閣は、選挙による信認を受けていませんからね。野党第一党の立憲民政党の党首に宇垣一成元陸相が迎えられたこともあり、野党議員から衆議院総選挙を行うべきとの意見が高まっています」

「満州で黒龍江省油田が見つかったし、英国のスターリングブロックにも準加盟状態だから、日本の経済も安定している。斎藤實首相が、衆議院総選挙を行うのには、絶好のタイミングと言う見方もあるが、国民の世論が、斎藤内閣に対して微妙になりつつあるからな」

 親子と言うこともあり、土方伯爵と土方少佐は、日本国内の事について、忌憚のない意見を交わした。

 斎藤首相の泣き所が、実際の選挙戦を戦った事の無い事だった。

 山本権兵衛元首相がおられたなら、助言を仰げたが、亡くなられてしまった。

 そのために、選挙の決断が斎藤首相にはできずにいる。


「むしろ、東アジア情勢が微妙ですよ。黒竜江省油田は、ソ連も、北京政府も垂涎の代物です。初期開発費用は、我々に持たせて、商業生産が行われるようになったら、自国の物にしようとするのでは」

「確かに、両国共に、それなりに正当な理屈をこねてきそうだな。特に北京は」

 土方少佐の問いかけに、土方伯爵は渋い顔をしながら答えた。


「米国政府や韓国政府と協力して、蒋介石政権を日本は応援するしかありませんが。蒋介石も何か腹に一物ありそうですからね」

「無い者は誰もいないだろうがな」

 土方少佐と土方伯爵は、親子共に昏い表情になった。

これで、第6部は完結です。


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