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エピローグー3

 相前後して、日本では、例の会合の分科会ごとの報告書が四軍のトップにそれぞれ提出されていた。

 渡辺錠太郎陸相、岡田啓介海相、伏見宮博恭王空軍本部長、米内光政海兵本部長が、それぞれ受け取ることになる。

 そして、4人共が深刻な顔をしながら、内容を検討することになった。


 岡田海相は、頭を半ば抱え込みながら呟いた。

「どの報告書も内容は深刻だ。四軍が協調しないと、これからの総力戦で日本は多分勝てない。下手に四軍に分けるべきでは無かったかもしれん」

 厳密に言うと、空軍は陸軍の傘下にあり、海兵隊は海軍の傘下にあるので、日本は陸海の二軍体制なのだが、空軍も、海兵隊も母体から半独立している存在であり、人事等で独自性を持つ等、日本は四軍体制にあると言っても過言では無かった。

 そして、陸海空海兵の四軍が協調する方が、陸海二軍が協調するよりも困難なのは自明の理である。

 岡田海相の悩みを、他の三軍も共有することになった。

 更に、報告書の内容はそれぞれ深刻な懸念をさらけ出すもので。


 とはいえ、日本が、第一の仮想敵たるソ連、第二の仮想敵たる北京政府(日本政府の立場としては、蒋介石率いるいわゆる満州国政府が、中国全土を統治する正統政府)、何れと全面戦争に突入しても、日本は総力戦を戦わざるを得ないのは目に見えている。

 日本の軍首脳は、頭を痛めながら、軍の改革を進めるざるを得なかった。


 同じ頃、東京の某料亭では、鈴木喜三郎内相が義弟の鳩山一郎と密談していた。

 鈴木は斎藤實内閣を支える与党立憲政友会総裁でもあり、鳩山も立憲政友会の有力代議士である。

 鈴木は、初代立憲政友会総裁、伊藤博文公以来連綿と続く立憲政友会総裁にして首相と言う地位を追い求めていたが、このまま行くと、自分は初めて立憲政友会総裁でありながら、首相を務められないという事態が生じるのではないか、と不安を覚えていた。


「義兄さん、正直に言う。首相になりたい義兄さんの気持ちは、自分にもわかる。だが、斎藤内閣倒閣の名分が立たない。それに立憲民政党は党勢回復に急激に成功している」

 鳩山は鈴木に苦言を呈した。

 鈴木は苦い顔をした。

 鈴木の本音としては、斎藤内閣を倒閣に追い込み、自分が首相になりたかった。


 だが、満州国建国に結果的に成功し、国際連盟決議を拒否権発動で葬り、逆に北京政府を事実上国際連盟から追い出した斎藤内閣の国民の人気は高い。

 そんな中で、自分が首相になりたいからと、斎藤内閣倒閣に自分が動いては、国民から立憲政友会はそっぽを向かれるだろう。

 鈴木は、更に鳩山の会話の一節に引っかかるものを感じた。

「何か掴んだのか」

 鈴木は、鳩山に声を潜めて尋ねた。


 鳩山は肯きながら言った。

「立憲民政党は、宇垣一成元陸相を総裁として迎え入れることを決めたらしい。井上準之助が動いてね」

「何」

 鈴木は、顔色を変えた。


 宇垣は、三月事件で陸軍内の信望を失い、予備役に入ったが、宇垣軍縮を行ったこともあり、世間の人気は高い。

 更に、井上は日銀総裁や蔵相を務めたこともあり、財界で顔が広い。

 宇垣が総裁を務め、それを井上が支える体制を立憲民政党が構築した場合。


 鈴木は、冷静に考えた。

 自分が首相になっていては、新体制の立憲民政党に、立憲政友会は衆議院総選挙でまず勝てない。

 鈴木の泣き所は、司法官僚出身ということもあり、国民人気が無い事だった。

 それを理由に、自分を立憲政友会総裁から引きずり降ろす運動が起きるだろう。

 こうなったら、自分はキングメーカーに徹するのが最善か。


「当分、自分は斎藤内閣を支えるしかないのか」

「それが僕は最善だと考えるな」

 鈴木の半ば独り言に、鳩山は、義兄を慰める言葉を掛けるしかなかった。

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