表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/120

エピローグー1

エピローグの始まりです。

 人生とは不思議なモノだ。

 甘粕正彦(元陸軍中尉)は、そんなことを思いながら、1933年の年末、奉天市街を歩んでいた。

(第一次)世界大戦勃発までは自分の意志で人生を歩んでいたはずだが、そこから、今までの自分の人生を考えると、周囲から翻弄され、激浪に流されつつ、たまたま見つけた岩にしがみついて、という人生だった気がする。


 世界大戦の途中までは、歩兵科士官として順調に出世して行こうと、自分は考えていた。

 だが、世界大戦は激化して行く一方で、最初は海兵隊のみが欧州に赴いていたのに、海軍は航空隊も派遣し、更に艦隊も派遣し、と欧州の泥沼にはまり込んでいった。

 あの時、自分は海軍の惨状を冷笑していたような覚えがある。

 そのために、自分に火の粉が飛んできたのかもしれない。

 甘粕は、あの時の会話を思い起こした。


「航空士官として、欧州に赴けですか」

 1916年末、当時の上官に呼び出されて、航空科への転属と、欧州への派遣を命ぜられた時、自分はひたすら面食らうばかりだった。

 上官は、自分に懇切丁寧に説明してくれた。

 陸軍は士官と下士官を、一部は航空隊の一員として、一部は海兵隊の一員として、欧州に赴かせることを決めたと。

 そして、甘粕中尉は、航空科の一員として欧州に赴け、と。

 陸軍の一員として、自分は欧州に赴かざるを得なかった。


 そして、欧州にたどり着いて、航空士官として教育、訓練を受ける日々。

 そうした中で、自分は事故に遭い、日常生活にそう支障はないものの、除隊せざるを得なくなった。

 だが、これが大きな転機となった。


 陸軍は欧州に赴いたものの、海兵隊の風下に立たざるを得なかった。

 欧州にいる秋山好古陸軍大将の方は、そう気にしなかったが、福田雅太郎陸軍中将は気にして、陸軍の宣伝に力を入れようと考えた。

 だが、陸軍関係者は皆、多忙極まりない。

 誰か良さそうな人物は、と物色していた福田中将の目に、自分は入った。


 福田中将の肝いりで、陸軍の報道対応の一員として、自分は雇用された。

 新聞、雑誌記者への対応、更に、ようやく盛んになり出した(ドキュメンタリー、ニュース)映画の製作協力への対応と、自分は多忙を極めることになった。

 ともかく、林忠崇元帥以下、看板役者勢揃いの海軍に対し、言葉は悪いが、大根役者勢揃いの陸軍、とこの世界大戦時に、報道関係者に陰で言われる有様で、歯噛みをしながら頑張った覚えが自分にはある。

 だが、この頑張りは無駄ではなかった。


 映画関係の技術等(自分で使うのが、さっぱりなのはご愛嬌だ)の目利きができるようになり、更に映画関係者の知遇も得た。

 更に陸軍(空軍)の知己がいることから、蒋介石から、宣伝映画の製作にいい人物はいないか、と照会を日本政府が受けた際に、自分に声が掛かったのだった。

 これは、これで、これから楽しい経験が出来そうだ。

 甘粕はそこまで想いを巡らせた。


「それでは、よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 蒋介石と甘粕の対話は、友好裡に終わった。

 甘粕を理事長とする、中華民国映画協会(当時の通称は、満洲映画協会)が設立されることになった。

 ここで、主に作られたのは、蒋介石政権の正統性を訴える宣伝映画であり、後から言えば、はっきり言って人気があるとは言えない映画が多かった。

 だが、独立採算である以上、中華民国映画協会も、利益の出る娯楽映画も作らざるを得ない。


 こういった娯楽映画は、それなりに人気があり、李香蘭(山口淑子)等のスターも生まれることになる。

 特に李香蘭は、日本や台湾にまで、その名が知られ、後に、日本人であることが公表された際には、多くの中国人が大嘘であると思い込み、信じようとしなかったという逸話がある。 

 ご意見、ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ