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第5章ー9

 山田勇助少佐が、水陸両用作戦の問題点について力説し、その後の質疑応答だけで、午後にまで、その話は長引く羽目になってしまった。

 そのため、急きょ3日目が設けられることになったのだが。

 これが、最大の難関だった。

 

「統帥権の効率化か」

 土方歳一少佐は、内心で物思いに耽った。

 いや、この会合に参加している面々のほとんどが物思いに耽っているだろう。

 効率化、とぼかしてはいるが、本音は、統帥権の統一だった。


 実際、日露戦争以前、ぎりぎり(第一次)世界大戦までは、陸軍と海軍の統帥権は、個別でも日本軍上層部には、そう実害は感じられなかった。

 だが、満州事変はその問題点を、満州に赴いた面々に痛感させていた。


 日露戦争以前は、それこそ幕末以来の修羅場を潜り抜けた面々が、日本のいわゆる指導者層を構成していた。

 だからこそ、半ば以心伝心で、軍と政府、更に陸軍と海軍が協調することが出来ていた。

(第一次)世界大戦は、欧州にまで赴いたのは、基本的に海軍のみ(海兵隊や海軍航空隊は、海軍の傘下にあり、陸軍航空隊にしても規模や経験から、海軍航空隊の指導下に事実上服さざるを得なかった。)であることから、そんなに問題が出て来なかった。

 だが、満州事変は、そうはいかなかった。


 満州派遣総軍司令部を編制することになり、陸軍本体の武藤信義大将が、満州派遣総軍の総司令官を務め、それを更に海軍、空軍、海兵隊の軍人がサポートする体制が満州事変では執られた。

 しかし、実際に運営してみると、様々な各軍の主張が錯綜し、軋轢が生じた。

(もっとも、後知恵承知で言うならば、これはある程度、予測できたことだった。日露戦争では、桂太郎首相がいて、大山巌元帥が満州軍を束ねており、山県参謀総長がその両者をバックアップしていた。海軍にしても、山本権兵衛海相が伊東祐亨大将もバックにして、海軍を抑え込んでおり、不満の出ようがなかった。

 また、第一次世界大戦では、山本権兵衛首相や寺内正毅首相が日本にいて、林忠崇元帥が欧州の現地で各軍を束ねており、その声望で不満をある程度、迎えられていた。

 そういった点からすれば、武藤大将は、新時代を前に貧乏くじを引いたともいえる。)


 軍令を効率化、統一機関ができないか、現状では戦時に設置される大本営がそれに相当すると言えるが、このままでは、海兵隊、空軍の意見が、まともに軍令面では通らないのではないか。

 そういった懸念が、満州事変の実戦経験から噴き出したのである。

 実際、この懸念は杞憂とは言い難かった。

 海兵隊から航空支援を空軍に要請する場合、細かいことを言いだすと、海兵隊から海軍本体に、海軍本体から陸軍本体に、陸軍本体から空軍に、と伝言ゲームで要請するしかない。

 だが、実際の戦場において、このような伝言ゲームの要請で役に立つか、というと実戦を経験した面々ほど、冗談ではない、役に立つものか、というのが、本音の回答だった。


 かといって、事が事である。

 軍令を効率化、統一機関を設置するという問題については、大荒れに荒れまくる議題となった。

 2日目の午後から始まり、3日目の夕方まで、陸海空海兵の四軍の軍人が、それぞれ自らの立場に立った主張を行い、それに対して(半ば揚げ足を取った)反論が行われ、という荒れた議論になった。

 司会を執り行う将官が、詳細な話は分科会で、と半ば棚上げを図っても、今、ある程度は話を煮詰めておくべきだ、と反論が出席者の多くから出る有様だった。


 土方少佐は、できる限り統一機関の設置に賛成しつつ、話を宥める方向に進めたかったが、思うようにはいかずに、3日目の夕方、肩で息をして疲労困憊しきった状態で、会合を終える羽目になった。

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