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第5章ー1 満州事変の戦訓

第5章の始まりです。

 1933年の夏、土方歳一少佐はポーランドでの勤務を解かれ、海兵本部勤務に戻っていた。

 ポーランド勤務の際に得られた欧州での最新情勢(政治経済軍事等々)について、あらためて所見をまとめて、海兵本部長宛に報告書を提出したところ、その内容が米内光政海兵本部長に評価された。

 そして、満州事変の戦訓に伴う兵器開発研究会に、土方少佐も出席するように内示が出た。

 土方少佐は難色を示し、直属の上官に当たる大田実中佐に談判した。


「私は、満州事変に行っていませんし、技術者でもありません。私が兵器開発研究会に出ても、足手まといになると思いますが」

 土方少佐は直言した。

 大田中佐は、土方少佐をたしなめた。

「確かに、一面ではそうだ。だが、下手に戦場に行った者ばかり集めたり、技術者ばかり集めては、こういうのはダメなのだ」

「と言われますと」

「戦場での主観と、客観的な結果と言うのは違う。だが、戦場に行った者ばかりだと、それが見えなくなることがある。お互いに無言の内に分かってしまい、第三者に理解されなくなることもある。また、技術者のみだと、実際の戦場が分からない。君は、南京事件等でも、実戦を経験している。満州事変に行っていないからと言って、軽んじられることは無い筈だ。その君に、満州事変に関与していない第三者視点で、今後の兵器開発につき、意見を述べてほしいのだ」

「確かに否定できない話です」

 大田中佐に、何だか言いくるめられてしまった。

 土方少佐は、そんなふうに思わなくもなかったが、兵器開発研究会に参加することを了承した。


「土方、久しぶりだな」

「岡村も、鴨緑江から熱河省と活躍したそうじゃないか」

 兵器開発研究会の会合で、土方少佐は、海軍兵学校同期の岡村徳長少佐と久しぶりに顔を会わせた。

 岡村は、もう満州から帰ってきたのか、と土方少佐は少し疑問を覚えたが、岡村の方から愚痴交じりの説明があった。

「実はな、陸軍が戦車用エンジンをディーゼルにしたいと言っているんだ。戦車用のみならず、軍関係の車両全てのエンジンを将来的にはディーゼルにしたいというのが、陸軍の主流らしい」

「ほう」


 土方少佐は、表向きは相槌を打つに止めたが、内心では考えを巡らせた。

 日本の技術力で、まともなガソリンエンジン並みの出力を持つディーゼルエンジンが出来るとは思えん。

 そう土方少佐が考える内にも、岡村少佐の話は続いていた。

「それで、海兵隊で戦車に慣れたわしが、満州から呼び戻されたという訳だ。わしが、直接、戦場での経験も踏まえて、話をしたら、陸軍のディーゼル計画に歯止めを掛けられるのではないか、ということらしい」

「確かに、岡村は、海兵隊の中では戦車の第一人者だからな。お前が先頭に立てば、陸軍も横車を押しづらくなるわけか」

「そういうことだ」

 岡村少佐は、土方少佐の話を肯定した。


「他にも色々と陸軍、海軍、空軍、海兵隊、それぞれの立場から、この研究会では意見が出る筈だ。本当を言うとわしは出たくない。揉めるのが目に見えているからな」

「確かに、自分が聞くだけでも、これは大揉めで荒れそうな研究会になりそうだな」

 陸軍と海兵隊だけの研究会か、と自分は早合点をしていたが、陸海空海兵と四軍全てが加わった研究会になるらしい。

 これは、大変な研究会だ。

 岡村少佐と会話をしながら、土方少佐は、背筋が思わず伸びるような思いをした。


「いろいろと資料を読み込むだけでも、えらいことになりそうだな」

「ある程度の方向性が出た段階で、研究会を幾つかに分けて、そこでさらに議論を深める方向になっているらしいが、詳細な予定は未定らしい」

 土方少佐は、岡村少佐の話を聞き、不安を覚えて仕方なかった。


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