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第4章ー9

 実は、英国は中国相手の債務処理に悩むというより、苦しんでいた。

 確かにかつての清国や中華民国政府相手に最終的に貸し付けをしたのは、民間である。

 だが、その債務を回収するとなると、民間としては、英国政府を通じた交渉に頼らざるを得ない。

 そして、今、国際法的には中華民国政府を継承している北京政府と英国政府は、いろいろと困った関係にあり、債務処理が大問題になっていた。


 そもそも論からいえば、北京政府と英国政府は、停戦状態にあり、休戦講和関係には無かった。

 1927年の南京事件から起こった日(英米)中限定戦争は、停戦協定締結には漕ぎつけたものの、休戦講和条約締結には至らなかったからである。

 そして、満州事変が終わった後も、その状況に変わりはなかった。

 だから、英国と中国との戦争は未だに終わっておらず、平和は到来していないと言えた。


 それを理由に、北京政府は英国民間が保有する対中債務の履行を拒否していたのである。

 英国としては、ぎりぎりの譲歩ラインとして、南京事件に伴う中国への賠償請求を英国政府が放棄することで、英国の対中債務が円滑に履行されることを望んでいたが、北京政府は、逆に中国市民が被った戦争被害を理由に、対英賠償請求の代わりに、対中債務の一部または全面放棄を要求する有様で、両国政府の話が全くかみ合わない状況が続いていた。


 そして、英国民間資本も参画するシェル石油の黒龍江油田の開発と、蒋介石率いる満州国政府の運営が順調になったことから、英国政府としては、対中債務の一部処理、返済を満州国政府に行わせることを検討するようになった。

 シェル石油等、黒龍江省油田開発に参画している国際石油資本も、英国のこの動きを歓迎した。

 やはり、現地でまともに通用すると共に、国際的にも信用される通貨の存在と言うのは、満州国内で油田開発を行う際に必要不可欠だったからである。

 日(米韓)の傀儡政府という印象では、満州国の通貨に国際的な信用は少ない。

 だが、そこに英国というバックが満州国に付けば、満州国の通貨の信用は格段に向上するのである。


 そして、英国政府と満州国政府、更に日米韓の三国政府が加わった満州国の通貨改革は、様々な協議を経た末に実現へと至った。

 満州国は、黒竜江省油田から産出される原油を事実上の担保とすることで、英国の対中債権の3割を引き受ける代わりに、英国は満州国政府を承認し、更に満州国の通貨改革に協力することになった。

 これは、中国全土の中で、満州国が占める人口、面積等の国力の割合を考えるならば、明らかに満州国の負担割合が大きすぎる話だったが、黒龍江省油田の開発で大産油国になれる見込みがある満州国としては、これによって、英国政府を巻き込めるという利点の方が大きかった。

 英国政府が、満州国を承認したと世界的に宣伝できるのである。


 蒋介石の本音としては、こちらが中華民国の正統政府であり、北京政府は偽物だと言いたいが、幾ら何でも現状では無理があることが分かっている。

 北京政府と蒋介石率いる満州国政府の2つが中国にあることを、諸外国に認めてもらえれば、御の字と蒋介石は言わざるを得なかった。


 実際、この後、仏伊等、第三国の多くが、英国の態度を見て、満州国の承認に踏み切るようになった。

 なお、これに対して、北京政府は、それらの国に対する国交断絶で対応した。

 そのために、北京政府は、国際的な孤立を深めることになった。


 話がそれた。

 様々な準備に手間取ったこともあり、1935年秋まで、満州国の通貨の銀本位制離脱は遅延することにはなった。

 だが、その代わり、日本円や米ドル、英ポンドとの両替ができ、通貨の信用は向上したのである。

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