第4章ー8
こうして、黒龍江省油田の開発について、人の確保はできたが、物の確保にも、ドーリットルは頭を痛めることになった。
「油田開発を本格的に進めるとなると、それなりの土木機械が要る。米国製に全面的に頼っては高い買い物になってしまう」
ドーリットルは、独り言を呟いて、少しでも安い土木機械を確保しようと奔走したが、日本にいる利に聡い面々の方が、勝手に解決してくれた。
「何々、黒龍江省で油田が発見され、土木機械がそれなりに必要だと」
鈴木財閥のトップ、高畑誠一は悪い笑いを浮かべて、鈴木重工のトップ、中島知久平の上申を聞いた。
ちなみに、中島も悪い笑みを浮かべている。
「鈴木重工は、土木機械の分野にも積極的に乗り出す時期が来たと考えますが」
中島は、高畑に身を乗り出しながら力説した。
「うむ。シェル石油を始めとする国際石油資本の面々からの需要が見込めるな。よろしい。鈴木は積極的に土木機械に乗り出そう」
高畑は、ゴーサインを出した。
そして、鈴木財閥に呼応するように、三菱財閥も三菱重工に同様の指示を出した。
また、小松製作所等もこの流れに呼応した。
こうして、日本の企業が積極的に土木機械業界に参入するようになった。
既に自動車産業により、それなりの下地もできている。
米国企業の製品のライセンス生産もあったが、黒龍江省油田の開発はともかく、1937年以降と見込まれた黒龍江省油田の石油の商業レベルでの採掘に必要な土木機械の調達、整備は、日本国内で何とか間に合う目途が立つことになったのである。
ドーリットルは諸手を挙げて、この流れを歓迎した。
このような流れにより、日本の農業等も少しずつではあるが、機械化が進むようになった。
陸軍等に徴兵された兵士は、自動車教練を受けるのが当然だった。
更に満州に出稼ぎに行き、機械整備の技術等をより身に着けて、故郷に帰って来る者が少しずつ増えた。
そして、そのような者が、トラクター等を扱うことで、農業の機械化を進め、それを見た周囲の者も、農業において機械の導入を進めるようになったのである。
少しずつ水が地面に沁み渡るように、日本国内でも機械化の流れは進んでいった。
このように黒龍江省油田は、様々な波及効果を周囲に巻き起こしていったが、思いがけない波及効果もさらに生み出した。
満州国が建国された以上、当然、通貨も満州国独自の物を使うのが当然である。
蒋介石は、日(米韓)の助言を聞いた末、満州中央銀行(なお、これは通称である。実際の正式名称は、中華民国中央銀行だが、実態に合わせ、日本政府の中でも、満州中央銀行と呼ぶ者が多いのが、当時の実態だった。何しろ、北京政府も中央銀行を設立しており、ややこしいことに、こちらも中華民国中央銀行を名乗っていた。そして、お互いに、相手を偽物中央銀行と罵り合っていた。実態から言えば、北京政府の方が中国全体を代表している存在と言えるので、こちらを、以下、満州中央銀行と呼称する。)を設立して、独自の通貨を発行することにした。
かといって、建国早々の満州国に、いわゆる信用があるわけがない。
銀本位制を採用して、当面の信用を確保するしかなかったが、満州国民は、信用が薄い満州国の通貨を、銀に換えたがった。
それは、日本をはじめとする諸外国もそうだった。
こういった状況を満州国政府が本気で打破しようとすると、国家の信用を基にする不換紙幣を発行するしかなかった。
かといって、日(米韓)だけが満州国のバックでは、国際市場においては満州国の通貨にそんなに信用が無いのは当然だった。
そこに、(黒龍江省油田発見の情報もあり)英国が、この通貨問題に積極的に乗り出すことになったのである。
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