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第4章ー7

 自分達が発見した黒竜江省油田を独占したい、とシェル石油本社は満州国政府に対して望んだが、それは望み過ぎというものだった。

 黒龍江省油田が世界有数の大油田らしい、と徐々に情報が明らかになるにつれ、他の国際石油大資本、スタンダードオイルニュージャージー等が、当然、黒龍江省油田の採掘に参入を希望した。

 満州国を率いる蒋介石にしてみれば、国際石油大資本の参入競争によって利益をより確保できる。

 シェル石油の独占を許すわけが無かった。

 最終的に、最も黒竜江省油田の利権を確保できたのは、シェル石油だったが、黒龍江省油田の半分以上は他の国際石油大資本が分け取りすることになった。


 だが、実際に黒竜江省油田を、試掘から商業的採掘へと進めるのには、いくつもの難関が控えていた。

 シェル石油日本支社長のドーリットルは、シェル石油の事実上の現地最高責任者として、その難関を突破して行かねばならなかった。


「まずは、作業員の確保か」

 ドーリットルは、頭の痛い思いを、黒龍江省油田発見早々にすることになった。

 油田を商業的採掘の状況にするためには、それなりの作業員を確保する必要がある。

 油田採掘のために使う機械等を見た事もないような作業員を雇っては、その教育にかなり手間暇がかかってしまう。

 かといって、米国から作業員を連れてくるようなことをしては。

「幾ら黒竜江省油田が大油田でも、作業員の人件費で大赤字になりかねないな」

 ドーリットルは、溜め息が出るような思いをすることになった。

 日本の陸軍省から、ドーリットルに対して、悪魔のささやきがあったのは、そんな時だった。


「徴兵から除隊した兵士等を、黒龍江省油田の作業員として雇いませんか」

 渡辺錠太郎陸相は、ドーリットルに申し入れをした。

「それは好都合ですが」

 ドーリットルは、言葉を濁した。


 日本軍、陸軍、海兵隊の兵士等は、皆、自動車教練を受けており、機械の取り扱いにも、それなりに慣れている。

 少なくとも、満州で現地人を作業員として雇うよりは、教育に手間暇がかからない。

 だが、ドーリットルは、何か裏があるのではないか、と内心で身構えた。


 渡辺陸相は微笑みながら、言葉を継いだ。

「いや、日本は不景気ですから、徴兵から除隊した兵士等の就職先を、陸軍省としては確保しないといけないのですよ。どうです、シェル石油で協力していただけませんかな」

 ドーリットルは、思案した。


 シェル石油の立場的には、確かに悪くはない話だ。

 日本軍の元兵士を作業員として雇えば、米国から作業員を雇うよりは安くつくし、それなりに機械にも慣れているので、教育の手間暇もそれなりに省ける。

 だが、日本にもメリットが無いと、渡辺陸相自ら乗り出すようなことはしない筈だ。

 ふと、ドーリットルが気が付くと、渡辺陸相は独り言を言っていた。


「我が国には、土木機械が普及していませんからな。黒竜江省油田の採掘に、元兵士が協力することは、今後の我が陸軍、特に工兵の機械化を進める一助になるのではないか、と思うのですが」

 そういうことか、ドーリットルは、この悪魔のささやきに乗ることに決めた。

 お互いにメリットがあるのだ、乗らないわけには行くまい。

 それに、渡辺陸相は、シェル石油以外にも同様の申し入れをしているだろう。

 我が社だけが乗り遅れるわけには行くまい。


「よろしいでしょう。シェル石油は、徴兵から除隊した日本軍の兵士等を積極的に雇う旨、日本支社長として確約しましょう」

 ドーリットルは、微笑みながら言った。

 渡辺陸相も、笑みを浮かべた。

「お互いに旨みのある話が出来たようで、良かったです」

「こちらこそ、有り難くお受けします」

 ドーリットルと渡辺陸相は握手を交わした。 

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