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第4章ー6

 シェル石油日本支社長、ドーリットルは、1932年12月に日本に来てから、多忙極まりない日々を送る羽目になっていた。

 大西瀧治郎中佐は、確かに嘘はつかなかった。

 山本五十六空軍少将等、日本空軍の要人に、ドーリットルを紹介し、更に山本少将を介して、ドーリットルは、陸軍や海軍、海兵隊の将官等にも顔つなぎが出来た。

 

 そのお蔭で、シェル石油は、満州国内の石油探査のバックに、日本軍の後援を得ることが出来た。

 そのために、スタンダートオイルニュージャージー等との満州国内の石油探査競争において、シェル石油は有利な地歩を占められたのである。

 それと引き換えに、ドーリットルは、日本軍との様々な折衝に駆り出される羽目になったのである。

 だが、これには裏が更にあった。


「満州国内の石油探査に米国企業の参入を認める以上、英国企業等の参入を認めない訳には行きますまい」

 閣議において、岡田啓介海相は、斎藤實首相に訴えた。

「シェル石油の後押しを、海相として、私は主張します」

「あそこは、正式に言うならば、ロイヤルダッチシェル石油だな」

「そうです、英蘭の合同資本会社です。純粋な米国企業に、満州国内の石油を抑えられたくはない」

 斎藤首相と、岡田海相は会話した。


 岡田海相の主張には、渡辺錠太郎陸相や前田米蔵商工相も加勢した。

「確かに、単純に米国企業に満州国内の石油を抑えられるのは業腹ですな」

「英蘭の合同資本会社なら、日本政府としても折衝しやすいでしょう」

 この主張を斎藤首相は受け入れ、シェル石油を秘かに日本軍が応援する事態となったのである。


 そうは言っても、満州国内は、それなりに広い。

 また、米政府の顔を立てるためにも、スタンダードオイルニュージャージー等の米国企業に、そう不利な取り扱いを、日本政府や蒋介石率いる満州国政府がする訳にはいかない。

 シェル石油が本当に満州国内の石油探査に成功するかは、正に神頼みに近い話だった。

 だが、奇跡は起こった。


「何、油田が見つかっただと」

 1933年秋、ドーリットル支社長は、現地からの緊急電報に驚く羽目になった。

「場所は、どこだ。黒龍江省の~」

 その後、少しずつ詳細が掴め出した。

 最終的に大雑把な油田の規模を、満州国政府や日本政府、米国政府の上層部等が把握するのには、半年程が掛かることになった。


「黒竜江省で発見された油田の最大年産可能推定量は、日韓満三国の必要量を優に見たし、満州国からそれ以外にも石油製品の輸出が可能だと」

 1934年春、閣議の席において、斎藤首相は、前田商工相の報告を受けて、言葉を失った。

「勿論、すぐに油田から原油が生産できるわけではありません。現地の冬季の寒気は極めて厳しく、冬場の油田の掘削作業が困難なこともあり、早くても1937年以降にならないと、黒龍江省油田における商業規模での原油生産は困難でしょう」

 前田商工相は、そのように言葉をつないだ。

「黒竜江省油田の原油の油質はどうなのだ。ガソリンは大量に取れそうなのか」

 渡辺陸相から、鋭い質問が飛んだ。

「それが」

 前田商工相は、渋い表情をしながら、詳細な報告を続けた。


 黒竜江省油田の泣き所は、油質が余りにも重質なことだった、

 アスファルトや重油を取るのには向くのだが、ガソリンが余り取れそうにないのだ。

「黒竜江省油田を充分に活用するには、石油化学関係に力を入れないとどうにもなりません」

 前田商工相は、そう言葉を締めくくらざるを得なかった。


 だが、そこまでの詳細を掴める人間は数が限られる。

 多くの人間にとって満州国が今や石油大国になったという事実が重要なことだった。

 北京政府やソ連政府は色めき立ち、満州国を巡る情勢は緊迫することになる。


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