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ちぃこと  作者: 桜倉ちひろ
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 自分の気持ちにしっかりと気が付いた私はまた頬を赤くして……小さくジュースをコクっと飲んでから、ゆっくりとおにぎりを口にした。 

 お兄さんからもらった蒸しパンは、大事すぎて容易に開けられなくて。潰れてしまわないように注意しながら鞄に入れた。

 お兄さんから初めて貰った、蒸しパン。そう思っただけで顔がまたニヤける。

 そんな私を見たお兄さんは、私のニヤケ顔には気がつかないのか

 「悪い、蒸しパン嫌いか?」

 全くベクトル違いの心配をしていたので

 「とっても、好きです」

 力強く、好きだって答えた。心の中で、違う意味も上乗せして。


 席に戻ると、何事もなかったかのような静謐な空間が作られていた。そしてお兄さんも特に私を気に掛けた様子もなく、勉強を始める。 

 戻った私を見ることもないお兄さんにちょっとがっかりして……けれど、そんなの当り前かと思いなおして

 ギギギ

 いつも通りの少し耳障りな音を立てて、私も席についた。


 ――――――


 気が乗らないけれど、英語の勉強を始め2時間弱。

 そろそろ家に帰らないと……と時計を見て気が付き、私は椅子の下から鞄を取り出した。

 机上の辞書を放り込み、ノートと教材を鞄に入れる。

 そして筆箱を詰めようとしたその時、前の席からニュッとノートが差し出されて、私と向かいの席の間にノートが置かれた。

 今日の向かいの席は、もちろんお兄さん。

 ――なに?

 私が帰ることに気づいてくれたのかな? と思うと素直に嬉しい。

 ドキドキと高鳴る心臓を治めることも出来ないままに、お兄さんを見るとノートを指さしただけ。

 机の境目に置かれたノートは見づらくて手を伸ばして引き寄せてみる。

 ノートには

 『良いお年を。風邪、引くなよ』

 と書かれていた。

 私はそんな気づかいと、この静かな空間でのお兄さんとのやり取りがくすぐったくて、小さくフフッと声が漏れた。

 そのノートの下部には空白が合ったので、しまいかけた筆箱のチャックを開けて鉛筆を取りだす。私の通う中学校はシャープペンシル禁止をまだ貫いている学校で、常に鉛筆ばかり携帯している。 

 お兄さんの角ばったボールペン字の下に、私は手を付いて鉛筆を走らせた。

 『お兄さんもね。また、来年!』

 なんて書こうかって悩んで『また、もう一度、おにぎり食べて欲しい』なんてふと浮かんだ。

 でも「また食べて」なんてそんなこと言える技量の無い私は、来年もまたって気持ちだけは伝えたくてそんなふうに書いた。

 顔を赤くしたままノートを机の境目に滑らせると、お兄さんはノートを手にとって私のメッセージにサラッと目を通す。

 それからふっと力を抜いて、微笑んだのが見えた。

 私はその表情にホッとしてぺこりと頭を下げる。顔を上げてお兄さんと目を合うと、にこりとお互い微笑んだ。

 それだけで飛び上がりそうな気持ちを押さえて、私は小走りになる足を止められずに図書館を出て自転車に跨った。

 12月最後の自習室。――私の恋は走り始めた。

 

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