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お箸も、卵焼きも目に入れることが出来ずにとにかく視界に入れないように逸らす。そんな私に諦めたのか、じゃ、俺食べるね、と言ってちぃくんは呆気なく卵焼きを口に放り込んだ。
「あ……」
私の唇をぷにっと押した卵焼きを。
私のお箸で……!!!
「美味し」
ぺろりと舌で唇を舐めるちぃくんに、ただただそれを固まって見つめる私。
「あれ、食べたかった?」
なんて穏やかな顔をしてちぃくんが言うから……私はついに、何かが頭の中でプチンと切れて泣いた。
「ちぃくん、はっ! ずる、いぃっ」
というより、泣きながらキレた。
「え……?」
いきなり泣いて怒り始めた私に、困惑した表情を見せるちぃくん。慌てて箸を置き、私の方に体を向けて膝を突き合わせる。けれど、勢いのついた私は自分でも止められなくなっていた。
「わた、私のっ、こと。か、からかって、酷いっ!」
「ご、ごめん……」
「ごめん、じゃ、ない、もっ。ヒクッ……!」
怒る私に手を伸ばしてくるちぃくん。その手が私の黒髪に触れかけて、私は手を払った。
それが初めて、私がちぃくんを拒絶した瞬間だ。
それは咄嗟のこと過ぎて、私もちぃくんも一瞬言葉を失った。でも、私は後に引けなくなっていた。
今、言わなくちゃ。私ずっと言えない。
どこか頭の奥でそう叫ぶ自分が居た。だから心の乱れに自分自身、一瞬呆然としたけれどまた元のボルテージに戻っていた。
「キスなんて、どうせ私なんかとしたくないくせに!!!」
気がついたら勝手に口が叫んで立ち上がってた。
立ち上がった瞬間、さらにボロボロっと勢いよく涙が零れて、汚いって思いながらもぐちゃぐちゃの目を掌で拭う。でもそんなのが追いつくはずもなくて、私の掌の横からも涙が頬を伝って零れ落ちた。
「も、帰りますっ。あ、たまっ、冷やしたいんで」
立ち上がって涙を拭いているうちに冷静さを少し取り戻した私は、しゃがんでお弁当箱を片づけようと思った。私のはちゃめちゃな行動に、ただただ驚いた様子のちぃくん。
だけど、私がお弁当箱のふたを閉じた瞬間、手が伸びてきて腕を掴まれた。ビクッと震えて腕を引く。だけど、そんなことで腕を緩めてもらえるわけが無いくらい、男の力で掴まれていた。
「……ったぃ」
「どういうこと、それ」
痛いと発する私を無視して、今までにきいたこともない低い声でちぃくんがそう言った。
その冷たい声に、背筋がゾクッとする。そっと横を向くと、今まで見たこともないほどに怒りを露わにしたちぃくんが私を見ていた。
「ち……く、ん?」
「琴莉。どういうこと」
掴まれた右手を引き寄せられて、私はちぃくんの間近に引き寄せられ両手をぐっと掴まれた。
「やっ、離し」「離さない」
両手を掴まれてブンブン暴れる私をギュッと捕まえるちぃくん。その表情にいつもの優しさは垣間見えず、怖さで胸が震える。
――こんなちぃくん、知らないっ!
ギュッと目を瞑って俯く。
怖いし、抵抗しても離してもらえないし。
涙で顔はぐちゃぐちゃだし。
自分の頭ん中もいっぱいいっぱいでパンクしそうだ。
「ねぇ、俺がキスしたくないって、どうしてそういうこと思うの?」
「そ、れは……」
「答えて、琴莉」
いつもことちゃんって柔らかく呼ぶちぃくんの声が固い。
琴莉、の呼び方がいつもと違って固くて優しさが含まれていない。
震える身体の振動が伝わるのか、声まで震える。
言えない。
恥ずかしすぎて。
シテほしいって見つめてたのに。――気づいてもらえなかった、なんて。
だからちぃくんは私にしたくないって思ってるなんて――絶対に言えない。
「答えないの?」
冷たい言葉に、うんって頷くのも怖くてふるふると横に頭を振る。だけど答えられるわけもなく、振って止まった頭を見つめるちぃくんの視線を感じて痛い。
「ふぅん、言わないんだ。じゃあ……分かってもらうしかないよね?」
「……え?」
ちぃくんの言ったことが理解できず、顔を上げようとした瞬間。私の体はちぃくんの両腕に押されて、後方へ傾いだ。
ごん、と頭をぶつける前に、ゆっくりとおろされる頭。
そんなとこは優しいな……じゃなくて!!
気がつけば、私の身体に跨ってちぃくんが私を見下ろしていた。
「ちぃ、く、んっ!?」
「何」
冷たい声で答えて、私を見下ろしながら、手をさらにきつく握って、私をラグマットの上に縫いとめる。
「どして、こんな……」
怖くて怖くて。
いつものちぃくんじゃなくて、私の目尻からまた一筋涙が零れた。




