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ちぃこと  作者: 桜倉ちひろ
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 「痛かった?」

 ありきたりな質問が浮かんで口にすると、ちょっとモジモジした様子を見せる真理亜。それを見ても、やっぱり私の知る真理亜と違う気がして落ち着かない。

 「ちょっと、ね」

 こっちがこそばくなるような笑顔を見せながらそう言う真理亜に、私の方がドキドキしてきて震えそうになった。

 もう、大人になっちゃったんだ、真理亜。

 そう思ったら、すごく遠くに行っちゃった気がして切なくなった。

 ――どうしよう? どうしたらいい?

 なんだか分からないモヤモヤが私を渦巻いていく。

 モッカにも嫉妬して。

 真理亜にも嫉妬して。

 なぜか、ちぃくんにも腹が立って。

 でもって、そんな自分が醜くて嫌になる。

 どうして私、こうなの?

 自分の醜さに耐えられなくなっていく。

 「へぇー、そっかぁ……」

 私はそれだけ言って、無言でパイを食べた。そこから私は、真理亜と何を話したのかよく覚えてない。ただいつもよりはしゃいだような気がする。

 妙にテンションの高い私に、真理亜は何度も「コトおかしいよ?」って言ってたけど……

 醜い自分を、大事な親友に悟られたくなくて笑ってごまかした。

 こんなこと、初めてだった。

 真理亜に言えないことなんて、今まで何もなかったのに。

 ――どうして。どうして……変わったんだろう私。

 キリキリと痛む胸から目を逸らして、私は真理亜とお別れして、家に帰ってからも、ただただぼんやりしていた。

 ベッドに転がりながら天井だけを見つめてたら、今日初めてちぃくんからのメールが届いた。

 『今日忙しくて、メールできなくてゴメン。おやすみ』

 モヤモヤしっぱなしだった私は、話も出来ずメールも出来なかったことに、またモヤモヤが募る。

 『そっか残念。おやすみなさい』

 それだけ送って、そっと電源を落とした。なんだかもう、何も情報を頭に入れたくない気持ちでいっぱいだ。

 もしちぃくんから返事をがあって、それを見たらもっとメールしたいって思うし。

 でもお休みって言った以上は、寝るつもりだろうから困らせたくないし。――それに、電話かけたくなる。 

 声が聴きたくなる。

 今、ちぃくんの声が聞けたら、モヤモヤが飛ぶような気がして。

 でも聞いたら言ってしまいそうな自分が怖くて、たまらない。

 私じゃダメなの?

 私じゃ、キス、したくならないの? 

 そうやって、問い詰めたくなるかもしれない。でもそんな恥ずかしいことだけは言いたくないし、聞きたくなくて。その返事も怖くて。

 だから私は電源を落として、布団に潜り込んだ。もう、何も考えたくない。そう思いながらもなかなか寝付けなくて、何度も寝返りを打ちながら眠りについた。


 ――翌朝。

 電源ON機能によって、落としたはずの携帯は電源が入っていた。

 「おはよ、今日会える?」

 開いた携帯の新着受信メールには、ちぃくんからのお誘いメール。

 会いたい。

 すっごく逢いたい……昨日、何にも聞きたくなくて電源切っちゃった癖に、そんな単純な自分に苦笑いする。

 苦笑いしながら、くしゃくしゃの髪に手を差し入れて、携帯画面を見て顔が綻んだ。

 『私も……会いたいです』

 送信ボタンを押すのに、少しだけ指が震える。

 今さらなのに。何度も送った言葉なのに。

 それでもちぃくんから返ってくる返事をじっと待ってられなくて。ドキドキしすぎて、私は携帯をおいて顔を洗いにベッドから降りた。

 洗顔して、少しすっきりした気持ちで携帯を見ると受信メールのお知らせが光っていて、ちぃくんだって感じるだけで、ついにやけてしまう。

 躊躇う気持ち1割。早く見たい気持ち9割。

 そんな心の割合を感じながら、ドキドキする指先でメールを開いた。

 ピッ

 いつもよりやや力を込めて私は受信メールの確認画面を開く。

 『良かった。今日母さんいないんだけど。よかったら家来る? 宿題、一緒に片づけよう』

 そんな誘い方のちぃくんに、嬉しさが広がってきて、胸が温かくなった。

 綻ぶ顔を抑えられないまま、さっきとはうって変わった手つきで、ぱぱぱっと返信文を打つ。

 『じゃあ、宿題持ってお邪魔します!』

 さっきの何倍もの軽やかなタッチで、最後に送信ボタンを押した。

 なんて単純。自分でもそう思うけれど……今日はちぃくんに会えるんだと思うだけで、ニヤニヤが止まらない。

 そうだ……! 久しぶりにアレ持っていこう!!

 私は思い立ったら落ち着かなくて、急いで準備に取り掛かった。

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