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「暑いー」
「ほんとにー」
夏休み前ともなると、学校はうだるように暑い。公立高校の我が高校は、受験生のために3年のクラスにはエアコンが設置されているのだけれど1、2年の間は扇風機に冬はストーブで過ごすことになっている。
「全学年のクーラー設置……生徒会で案上げようよ」
毎日そう漏らす真理亜。そのぐったりした、美人台無しの顔を横目で見ながら思わず笑いが込み上げる。
「クスクス……無理だって会長に言われたでしょ?」
「だってさぁ……あつーい」
ガラガラ
音を立てて古めかしくなった生徒会室の扉を開けると、もわーっとした熱気が押し寄せてくる。
帰りたい。
瞬時に喉まで出かかった言葉を、寸でのところで止めた。言えば言うほど、熱気にやられそうになるから。だけど……
「帰りたい」
正直者の真理亜が口に出したので、ぷはっと笑ってしまった。こんな、なんてことない会話も、明日からは毎日できないと思うと、夏休みは楽しみだけどちょっと寂しい。
椅子に腰かけて、べたーっと机に顔を引っ付ける真理亜。少しだけ机がひんやりして気持ちいい。
私も真似て二人でべたっと机に顔をくっつけて横を見ると、真理亜は少しだけ生き返った、って顔をして笑った。
「ねぇ、コトは夏休みどこか行くの?」
「んー、特には。まぁどっか行きたいとは思うけど。真理亜は?」
「私は……んー。まぁ特には」
「プッ、何それ」
「はははっ」
真理亜と紡ぐ、他愛無い話で笑う。こんな空気が好き。
「ねぇ琴莉」
「……ん?」
真理亜が琴莉って呼ぶときは、ちぃくんと同じくらいの緊張感が漂う。なにかいつもと違うことが起きるのを感じさせるからだ。
「海とかさ、プールとか、行く?」
「えっ?」
「ほら、水着とか、買うかなって」
ほんのり顔を赤く染めながら話す真理亜。どうやら緊張してるみたいだ。
でもその緊張って伝染するんだってばって思いながら、私までなぜか顔を赤くして話を続けた。
「それって、ちぃくんとってこと?」
「うん」
「……いやいやいや! 無理無理! そんなの無理だって!!」
顔を付けていた机からガバッと起き上って思わず大声でそう言ってしまった。
絶対無理だし!!
今でも限界なのに、水着で肌露出して会うなんて無理!
ちぃくん直視できないし、恥ずかしいし、あーもー無理無理!!
自分を見せるのもダメ!!
脳内でモアモアと二人でプールに行く図を想像して頭を振った。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。想像だけでも泣けちゃう。
涙目で否定する私を余所に、さらなる爆撃を真理亜は落としてくる。
「じゃあさ、一緒に、行く?」
「……は?」
一気に固まった私は、目もかっぴらいて固まった。
一緒に、行く? って、プールか海へ……!? 無理無理!
そう叫ぼうとしたその時――
「どこに一緒に行くのー?」
私たちの会話に、明るい声が横入りしてきた。
「聡先輩!」
「会長!」
私と真理亜の声が重なって、突然入ってきた声の主に呼びかけると、にっこりルンルンした声が返ってくる。
「ねーねー、俺も混ぜてよ」
そのノリはまさに女子高生調で、私はつい吹き出してしまう。
「いやー海かプール行きたいなーって話なんですけどね。コトが恥ずかしいからダメって」
「あ、当たり前じゃないっっ」
顔を真っ赤にしてそういうと、会長は勘違いして目を丸くした。
「女の子同士で行くのって恥ずかしいの?」
さっきの女子高生風は一気にナリを潜ませて、男子としては驚愕! って顔をされる。どうやら私と真理亜の二人で遊ぶ話と思ったみたいだ。
それに私が手を振っていると、真理亜が楽しげな声で自慢げに言った。
「違いますぅ。彼氏と行くんですよっ」
半ば会長に対するあてつけのようなそれを、軽く耳を塞いで会長はやり返す。
「はいはい。君と創るん(つくるん)のラブラブは聞いてないですからねー」
「なっ!! ラブラブとかないですから!!」
「よっく言うよ。ねぇ? 琴莉ちゃん」
「ひぇっ!? あ、は、はいっっ。ですねっ」
突然二人のテンションの中に引きこまれて反応の遅れる私。そんな私をくすくすと笑って、会長はぐりぐりと頭を撫でてきた。
「琴莉ちゃんはほーんと可愛いよね」
「ひゃあああっ」
にっこり笑って可愛いなんて言われた挙句、子ども扱いなそれに思わず顔を赤らめてしまった。
しかしそれを見逃す私の親友ではない。
「あーあ。コトが浮気した」
そんな私を見て真理亜が信じられないことを言いだして、私はまたもパニックを起こした。
「ちょっ!! 真理亜!?」
「ぷっ。嘘嘘。コトに限ってそれはないし」
「あ、あああ当たり前じゃない!」
立ち上がってポカポカと真理亜の肩を叩く。それを笑いながら受け止める真理亜は、ちっとも悪びれた様子もなく、軽く謝ってくる。
「はははっ、ごめんて。言わないからさ」
「だからしてないってば!」
私はプリプリと怒り続けた。
そんな、ごく日常的ななんてことない私たちの会話を聞いた会長が、妙な顔をして恐る恐る尋ねてきたことに、私たちはピタリと会話を止めた。
「ちょ……と、たんま。ねぇまさかと思うけど」
信じられないといった表情で私を見つめる会長。どうしたのかと首を傾げて見つめると、声を引き攣らせて会長が質問を続ける。
「琴莉ちゃん、彼氏いるの?」
信じられないことを今知ったみたいな顔をして、唾をゴクリと飲むのが見えた。




