87.ビー、ライバル宣言?
春やね、花見行きたいなあ。
なんとか、海の背中を洗うと言う、大業を終え、二人一緒に湯船に浸かっている。時折、天井からぽたりと滴が落ちてきて湯船に波紋を広げた。天井に設置されている、湿気の排出用の換気扇は壊れているのか、スイッチが入れられていない。
浴室の小さな窓は大開きにされていた。大地の部屋は4階で辺りには高い建物も無い為、人目を気にする必要はない。
ビーは今、海の足の間にちょこんと納まっていた。顔を突き合わせて湯船に浸かれば、いろいろと視界に入るので、気恥かしかった為だが、また、別の問題が発生していた。あまり大きいと言えない湯船の中で、背が低く、小柄とは言え、方やそれなりに育った女の子、いや、女の人、出る処はそれなりに出ている 。頭を動かせば、ぼよんぼよんとした感触が、頭や首筋に伝わってくる。今、大地は極度の緊張に包まれていた。
海がビーの頭を見つめながら話を始める。海の声は少し緊張している様だった。
「ビーちゃん、私ね、バカだから、良く判らないんだけど、観察者って凄いんだよね。お父さんに聞いたら、神だって言ってたし」
大地自体は一緒に住んではいるが、神であると言う意識はなかった。カーボナーの間では神と認識されている事は知っていたが。
「う、うん」
大地は少し怪訝そうにしている。話しが何処に向かっているのか見当もつかない。
「でも、ビーちゃんは、ビーちゃんだし・・・、だから、話しておかなきゃって思ったの」
「?」
窓の外は、そろそろ夕闇が迫っている。近所の何処かで夕飯がカレーなのか、そんな美味しそうな匂いが、窓から漂って来ていた。
「観察者にとって、パートナーって、どんなものか良く判らないけど・・・、たぶん、恋人?って感じだと思うから・・・」
ぴちゃん。
シャワーから、ひと滴、水滴が滴った。大地にはやけに大きな音に感じた。
「あのね、ビーちゃん。私、ビーちゃんのこと大好きなの、だから、話すの・・・。私・・・、今日、大地が倒れたって聞いて、いても経ってもいられなかった。時間が経つのがどれだけ遅かったことか・・・。それでね、私、気が付いたの。私、多分、大地の事が・・・、好き・・・なんだと思う」
(!!!)
「ごめん ね、変なこと、話ちゃって。でも、大地には告白する気はないの。だって、今の状態がいいもの。ビーちゃんが居て、大地が居て、空やミネラちゃんが居る。楽しくて。これが、壊れちゃったら、私・・・」
(本人が今、聞いているんですけど)
「はぁ~、私、何、言ってるんだろ」
「結局、ビーちゃんが好き、大地も好きってことなの。一応、ライバル宣言って事になるのかな?うん、良く判らないけど、私、曖昧なのが好きじゃないから、はっきりしときたかっただけ。私、胸の中でもやもやしてて、唯、言っときたかっただけだから」
大地は複雑な心境だった。少し真剣に考えていたようだが、結局、聞かなかったことにしたようだ。基本、ヘタレなので仕方がない。
海は急に照れくさくなたのか、ふざけた調子でビーのお腹へと手を回した。
「でも、ビーちゃんのことも大好きだからね」
海の手がおへそを縁をなぞり、あばらの一本一本を数える様に上へ上へと辿って行く。その手が双丘に辿りつかんとした時、ビーから待ったがかかった。
「ストップや、海ちゃん。それ以上はダメや」
「うふふ、なんか、大地みたいな喋り方ね。一緒にいると似てくるものなのかしら?でも、止めないわよ」
その時、大地の頭の中に、救世主の声が響いた。ツバイからの連絡だった。
(大地さま、大地さまの体の調整が終わりました。転送後、意識を直ぐに入れ替える事が出来ますが如何いたしましょう?もう少し楽しまれるのでしたら、お時間ずらしますが )
もみもみもみもみ。
(あ、ツバイか?うふ、すぐお願いや。今すぐやって、くぅ、う、ああ)
つんつん、くりっくりっ。
(なにやら、お取り込み中ですが、よろしいのでしょうか?)
(すぐ、やって・・・)
意識の入れ替えは瞬時に行われる。大地は少し残念な気がしたが、あれ以上、留まっておれば、戻れなくなる。
大地は頭を引っ張られる感覚を覚えた後、暗転、次の瞬間には見慣れた部屋のこたつが見え安堵のため息をついた。
「ふぅ~、よかった」
ビーの体は、そのままツバイに引き継がれる。
「あれ?海さま、ああ、そお言うことですか。了解です。大地さまは、海さまとお風呂でいちゃいちゃしてたと言う訳ですね、これは、大地さまにも、後ほど、お仕置きしないといけませんね。それでは、海さま、覚悟はよろしいでしょうか?」
もみもみもみ。
「ん、ビーちゃん雰囲気変わった?あれ、その手つきは、あぅ、むぐ、ひぃ、うぐ、そんな、や、やめて・・・」
ビーの手が海の体を縦横無尽に弄る。ビーの手がくぃっと動くたびに、びくんと海の体が跳ねる。
「ダメですよ、海さま、このようなおいたをしては。いくら、私が温和であるといっても限度があります。特にこの方面への悪戯はね。ほら、ど~ですか。うふ、海さま、かわいい」
「や、やめ・・・、ああ~、うぅぅ、そこはダメ。ダメなの~」
「本当ですか?正直になったほうが良いのではないですか?ほらほ~ら、もうこんなになってますよ」
「うぐ、や、やめて・・・、やめ・・・やめ・・・ないで」
* * *
大地は転送された体で、こたつの前にしゃがみ込んで耳を塞いでいた。
(聞こえない、聞こえない)
暫く、風呂場から海の嬌声が響いていた・・・らしい。
少し時間が経ってから、息も絶え絶えの海を抱えたビーが風呂場から出てきた。二人共、大地の大きな白いYシャツだけという男心を擽る如何にもという恰好だった。下は丈の長いYシャツに隠れて見えなかった。海はまだ、大地の存在に気がついていない様で虚ろな目をしていた。
二人はとことことこっと、こたつに進み、すとんと空いている処にすわった。その時、海は初めて大地に気がついたようだ。見る間に真っ赤になる海。
「あ、大地、あた、あた、あたし、こんな恰好で・・・」
若干、声が上ずっており、あたふたしながらバスルームに引き返す海。こたつから出るときに、大地には、ばっちりと、赤いショーツが見えた事はないしょだ。
(あ、また、赤や)
しばらくしてから、バスルームから戻ってきた海はいつもの赤い海だった。上から下まで赤で統一された、目にちかちかするような赤だった。
「大地、もう体は良いの?倒れたって聞いて慌ててきたの」
「おう、大事ないで、疲れ溜まっとったんやと思うわ」
「別に、あんたの為に来たんじゃないからね、これ、一応お見舞い。プリンなの。速めに、ビーちゃんと食べて」
大きく凹んだ箱を差し出す海。こたつひっくり返したり、お風呂行ったりで、後回しになていたお見舞いの品を渡す。ビーに突っ込んだ時、手に持っていたので箱は、見るも無残なへしゃげた状態であったのだが中身には影響はない。
(いやいや、俺の為に来たんやろ、ツンデレか?ツンデレなのか?)
「あ、箱は潰れているけど、中身は大丈夫だと思うわ」
「おう、ありがとな」
大地も先ほどの状況を知っているので、特になにも言わず受け取る。その様子に、少し胸を撫で下ろす海。なにか言われるとでも思っていたのだろう。
大地との挨拶もそこそこにして、そそくさと帰り自宅を始める海。時折、ビーの方を見て頬を染めたり、クネクネと面白い動きをしている。
「また、会社でね。ビーさまもまた・・・」
「おう、またな」
ビーは指を1本突き出して、ウインクしながら、海に告げる。
「海さま、おいたわダメですよ」
「・・・はい」
そして、二言三言大地と話した後、帰って行った。
* * *
「さて、大地さま、説明して頂けますよね」
大地がこたつに戻ろうとして、後ろを振り返った時、背後から、少し怒ったようなビーの声が響いた。もちろん、中身はツバイである。
大地は引きつりながらも、なんとか弁明した。若干、前後関係があやふやになりながらも、懸命に言い訳を試みる。
「大体の事情は判りました。ふぅ~、やれやれです。ですが、ビーの体を使っているとは言え、女の子と、それも相手が憎からず思っている子とお風呂に入るなど、言い訳は聞きません。聞くつもりもありません。ジャッジするまでもなく、有罪です。お仕置き決定です」
「そうですねえ、お仕置きはなにがいいでしょうか?ねえ、大地さま」
大地は厭な汗が流れるのを感じた。
「お手柔らかにお願いします」
その後、ツバイと再びお風呂に入る事になり、背中を流させられた訳だが、それがお仕置きとなったかどうかは誰も語らない。
風呂場で交された会話に、ツバイから、「散々見た筈なのに、大地さまのそれ、元気ですね」とかあったようなので、寧ろご褒美だったようである。
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