36.ビー、蚕月灯の思うこと。
級友の独り言。
先日、あたしのクラスに転校生が入ってきた。
名前は水無月ビー、ビーなんておかしな名前だと思った。外国の人の血が入っているのかもしれない。
ぽわぽわとしたとても可愛い子だった。
なんでも転入試験がオール満点だったらしく、とんでもない天才児らしい。うちのあの転入試験をである、
うちの転入試験は学業具合を調べる為に、ワザと大学入試の問題まで紛れ込ましてあるあの試験をである。
どんな天才児様であろうか、その日から、わたしは彼女を目で追う様になっていた。
天才児にありがちな人を寄せ付けない性格では無く、実にあっけらかんとした性格の持ち主であるらしい。
自己紹介も実に簡単明瞭に話していた。
なんでも大地くんとか言う奴が好きらしい、しかもすでに同じ家に住んでいるとか、同棲?恋人のいない、ましてや、好きな人のいないあたしにはじつに羨ましい話である。
何処かにいい男いないものか。中学生のお嬢様がこんなこと考えたらだめかな。
クラスの皆からラブラブだねってひやかされていたけど、「えへへ」と実に嬉しそうにしていた。彼氏もちの余裕か?ちょっと腹が立った。
昼休みに、1年の『孤高の暮新月』と呼ばれる子が来ていたけど、なにかあったのだろうか?ちょっとあの子は怖いと思う。
とても美人なのだが、いつも一人でいるし、あたしなんか見られただけで飛び上がってしまう。
その後、何度か構内で『孤高の暮新月』さんに抱きつかれている姿を見る、慕われているようでよかった。
かつあげかなんかに合っているのかと思って内心冷や冷やしていたけれど、取り越し苦労だったみたい。本当によかった。
ある時、生徒会の呼び出しが構内放送で
「生徒会、副会長の水無月ビーさん、至急生徒会室まで来てください」
とアナウンスがあった。
何時の間にか副会長になっているようだった。
生徒会長にスカウトされたようだ、流石は生徒会長、やはり目の付けどころが違うってことか、なんてあたしは感心した。
あたしたちの学校は所謂お嬢様学校なので、あまり部活動が盛んではない、だから入部している人数も試合できるかぎりぎりのところが多い。
大抵は数人足りずにできないときのほうが多い。
そんな時はいつも生徒会に泣きついている。あたしが入っているのはソフトボール部で部員数は8人しかいない。
一応あたしが部長をしている。
前回は生徒会長がスケットをしてくれた。なんにしても9人いないと試合ができない。
今回、風邪で一人さらに少ない状態なので、二人スケットを頼んだら、なんと、あの『孤高の暮新月』さんと水無月さんがスケットにきてくれた。
水無月さんはどうもルールを知らないようなので、ルールブックを渡したら10分ほどで読んで、本を返された。
本当に覚えたのかしらと半信半疑だったけれど、まあ、頭数合わせだし、いいかと試合に参加してもらった。
試合開始前のミーティングで暮新月さんから守備について話があった。
それはピッチャーを水無月さん、キャッチャーを暮新月さんで行い、あとはご勝手にと言うものだった。
あたしたちはちょっと不満ががあったけど、暮新月さんが怖くてなにも言えなかった。
いくらなんでも、ソフトボールが初めての水無月さんがピッチャーなんて無謀だと思ったけれど、試合が始まってみれば杞憂だとわかった。
誰も打てなかった。
そればかりではなく、打つほうでも凄かった。
水無月さんと暮新月さんは二人とも全てホームランだった。
二人の前にランナーがでれば確実に生還でき、結果、見たこともないような点数を取ることができ、もちろん、試合には勝った。
途中、あまりにも凄い球を投げるので、暮新月さんの手を痛めてしまったようだった。
タイムをとって、ミットの中にハンカチを挟んで衝撃が伝わり辛くしたのだが、焼け石に水だったかもしれない。
少しだけ球速を緩めて投げているようだったがそれでもだれも打てなかった。
この日、我がトゥーネックパーレント女学院のソフトボール部は創設以来初めての勝利を手にしたのだ。
試合が終わって部に一人でいると、今回の勝利の建役者である件の二人、暮新月さんと水無月さんが入ってきて、申し訳なさそうにしていた。
「勝つためだとは言え、今回はごめんなさい。やり過ぎだったと思うは」
「ごめんなの~」
二人はスケットと言うよりメイン戦力になってしまった事を誤りに来たようだ。
あたしは素直に自分の力の足りなさを認め、次はこうは行かないよう頑張るむねを伝えた。
とりあえず、今は勝った事を素直に喜ぼうと思った。
二人はもっと天狗になってもいいのではないかと思ったが口には出さなかった。あたしにも少しぐらいはプライドがあるのだ。
それ以来、あたしは水無月ビーって子に今まで以上に注目するようになった。
その後もスケットは続いたようだ。
サッカー部、テニス部、バスケット部、卓球部、水泳部、などそれぞれに大活躍だったらしい。
サッカーではハットトリック?なんの事だろうか、良く分からないがそんな事を言っていた。
運動部だけではなく、囲碁部、将棋部、チェス部、オセロ部などなんでもOKのスーパーマンいや、スーパーウーマンである。
パソコン部や鉄道同好会などでも大活躍、パソコン部では他の学校の発表したソフトの不具合点を瞬時に見ぬき、バグトリ修正を行い、鉄道同好会では鉄道に関する完璧な知識、歴史、時刻表を丸暗記している凄さで他の学校の度肝をぬいたらしい。
見ていて気付いたのだが、そんなスーパーウーマンにも二つ弱点があるようだった。
ひとつは美術、一度、授業でグラデーションの絵を想像して描くというものがあったのだけれど、絵心が無いと言おうか、感性がおかしいと言おうか奇妙な絵を描いていた。
一応、白から黒へ色彩は変化しているのだか、変化の範囲が狭すぎるのだ、ほぼ、黒のみ。
形の変化もほとんどない。
写生させればそれこそ写真と見まごうばかりの完璧な絵を描いてくる彼女だが、やはり、天才はどこか常人とは違うのだろう。
もうひとつの弱点は料理である。
レシピがあれば、完璧に再現できるが、曖昧な表現の記載だと全然出来なくなりとんでもない物を作る。
常識でわかると思うのだが彼女には常識が無いのかとてつもない物を作ってくれる。
なかなかに面白い。
例えば、レシピに砂糖を入れると書いてあるとすると、普通の人なら、まあ、スプーン1~2杯だろうか、慎重な人なら、味見しながら入れるだろう。
でも、彼女は違った。そこにあった砂糖を全て入れるのだ、最初、何の冗談かと思ったものだが、彼女自身大真面目なのだ、あたしは思わず笑ってしまった。
味覚についても少々ずれているかもしれない。
甘い物には目がないが、その他の味覚についてどうも非常に幼いようである。
小さなころから甘いものばかり食べていた弊害であろうか、他の味覚に関してあまり発達していないようなのでである。
とくに問題はなくどんなものでも旨いうまいと喜んで食べるのではあるが甘いもの以外の好みというかそんなものが極端に薄く感じるのである。
そんな欠点を持つ彼女だが、なかなかにみんなに好かれている。
欠点を補っても余りある魅力をもっているからであろうか。
あたしもその魅力に囚われた一人と言えるだろう。
あの子の心を捕えたダイチって人の顔が見てみたいものである。きっと、ハンサムで絶世の美男子に違いないのであるから。
あの子の横に立てる日はくるのであろうか?自分に自信の無いあたしはまだ、彼女に声を掛ける事を恐れている。
あたしの名は蚕月灯、何時かあの水無月ビーさんの横で屈託のない笑顔を向けられたいものだと思っている。
道は遠そうであるが。
お読みいただきありがとうございます。
さてそろそろ大きな事件が起こる予感です。




