32.ビー、ミネラがやってきた。
ミネラの登場です。
ビーと同じように甘いものには目が無いようです。
正月の三が日も過ぎそろそろ社会が動き出そうとする頃。
「あのバカ兄貴は正月にも帰ってこんと、何処うろちょろしとんやろ。なんで私が見てこなきゃならないの、本当に厄介な・・・」
少女がそんな事をぶつぶつ言いながらホームから出てきた。
ここは長月市に3つある駅のうち一番大きな駅だ。
それなりに発展はしているが大都市の駅ほどではない、特に駅の北側はほとんど人の姿はない。一応、朝の通勤時間には込むのだが今は閑散としている。
「なにここ、駅前になんにもないじゃない。タクシー拾おうにもタクシー乗り場にタクシーいないじゃない。も~」
その少女は大学生ぐらいだろうか、顔は整っており綺麗と言うより可愛いと言った感じだろうか、学校ではもてそうな感じだ。
白い大きなコートを着ており、緑色をしたミニスカートを穿いている。時折コートの間から覗く黒いストッキングに包まれた足が艶かしい。
首もとにはスカートと同じ緑色をした大きなマフラーを二重に巻いている。
足元を見ると、活動的なのかファッション性とは無縁の運動靴を履いていた。
手には小さなカバンを持っており、一時期流行った、ポ〇モンのキャラクターのピ〇チューのキーホルダーが付いていた。
髪は艶のある黒髪で、肩のところで切りそろえられている。胸は少々控えめなところが残念だ。
「は~、仕方が無いわね、歩くとしますか」
少女は一つ大きなため息をつきながら歩き始めた。
ふと、自動販売機の前で立ち止まり、ごそごそしていたかと思うと¥500硬貨を取り出し、コーンポタージュの缶を買いポケットにしまった。小さなカイロ代わりにでもするつもりだろうか。
そのまま駅前のロータリーを斜めに横断し誰もいない道路を我が物顔で進んでいった。
途中、お腹を軽く押さえてキョロキョロしていたかと思えば小さい定食屋さんを見つけ入っていった。
お腹が空いていたのだろう。普段はタクシーの運転手などでにぎあう店内は客はおらず少しさびしそうな感じだった。
暫らくしてから定食屋さんから出てきた少女は少々不安になったのかスマホを取り出し暫らく画面と格闘したあと、ちょっと困惑ぎみの表情をしてから駅のほうに戻っていった。
どうやら駅の反対側に目的の場所があったようである。
そのまま駅の中を通り抜け反対側にでた。こちら側はそれなりに発展しており駅前にコンビニやファーストフード店が結構あり反対側とは大きく違っていた。
こちら側には、ちゃんとタクシー乗り場にタクシーが停まっていたのだが、少女はそのまま素通りし歩いていった。
「まあ、今日中に着ければいいからちょっと寄り道してもいいよね」
駅前の観光地図を見ながらなにやら思案顔の少女。どこかいいとこ無いか捜していたが残念ながら興味惹かれるものが無かったのかそのまま歩き始めた。
「なんにもないわね、名所ぐらいあれば良いのに」
歩きながらぶつぶつ言っている。
たまに吹いてくる風は冷たくその都度、少女はマフラーの中に身を縮こませてやり過ごしている。
(やっぱり、タクシー使えばよかったかしら)
なんて思っていたが、表情には出していない。
タイ焼き屋さんを見つけた少女は目を輝かせて走っていく。
先ほど定食屋さんにて食べたことはもう忘れている。一般に囁かれている、甘いものは別腹って言うことだろうか。
今、人通りもあまりない為タイ焼きやさんの店のガラス戸はしまっている。
ガラスを叩き、そっとスライドさせ窓から頭を突っ込み店のおばちゃんと顔を合わす。
「おばちゃん、タイ焼き4個ちょうだい」
4個も食べるつもりの様である。
「はいはい、ちょっとまってね」
少女はおばちゃんが袋に入れている時間ももどかしげに、その表情からは「はやく、はやく」と聞こえてきそうである。
「あ、ごめんなさい、2個はそっちのカスタードにしてもらえる」
少女の目には見本のカスタード入りのタイ焼きの二つに割った姿がなんともおいしそうに見えたようである、変更をしたようだ。
「はいよ、お待ちどう様。¥440ね、右側のがカスタードだからね」
「ありがと」
満面の笑みを浮かべる少女、釣られて笑い返す店のおばちゃん。
言葉すくなにその場をあとにする。店から離れると同時に早速とばかりに一つ袋から取り出し頭からかぶり付いている。
「うん、おいしい」
行儀は悪いのだが、食べながらすこし進んだところの、ちいさな商店街の入り口の車止めのポールを見つけてそこに腰かけて食べている。
ニコニコしてタイ焼きを口に運ぶ姿はなんともおいしそうだ。
その姿を小学5年生ぐらいだろうか、ゴスロリのような白と黒のレースをふんだんに使った服を着た女の子と目が会う。
女の子の髪は黒髪で長く腰まであり、その目は青く、深く何処までも澄み切った南の海を思わせた。赤い靴が印象的だ。
「たべる?」
少女は女の子に笑顔を向けながらタイ焼きの入った袋を差し出した。
「よいのか?わしには、対価は払えぬぞ」
なんともその歳にそぐわない時代がかった少々えらそうにも聞こえるしゃべり方で女の子が答えた。いや、逆にゴスロリファッションには合っているといえようか。
女の子はおずおずといった感じてゆっくりと手を伸ばしてタイ焼きを一つ摘んだ。その時、女の子のお腹が「く~」となった。
女の子の顔は真っ赤になりながら言い訳だろうか不思議な事を話し始めた。
「この体はまだ、生みだされてから1時間しか立っておらぬゆえ、まだ現地での飲食を経験しておらぬ。どのようなものを食せば良いか解らないのだ。これをそのまま口にいれればよいのか?」
少女は女の子がなにを言っているのか理解はできなかったが、お腹がすいていることは解った。
「まあ、とりあえず食べてみたら?おいしいよ」
女の子に笑顔で語りかけながら自分もタイ焼きにかぶりつく。くんくんとひとしきり両手でもったタイ焼きの匂いを嗅いでいた女の子は少女に告げた。
「ふむ、なかなかに良い匂いをしておる」
(目も青いし外国の子かな?食べたこと無いようだし、しゃべり方も少し変。それにしても綺麗な目。目も綺麗やけどかわいい子ね~、抱きしめてすりすりしたいわね)
「まあ、がぶっといってみ、がぶっと」
女の子が口を明けてかぷっと少しだけ齧る。その仕草がなんともかわいらしく少女は目を細めて見ている。
口にタイ焼きを入れた瞬間、女の子の表情に驚愕が広がった。大きく目を見開いて、両手でタイ焼きを持ち、掲げるようにして少女に詰め寄る。
「こ、これはなんじゃ」
「タ、タイ焼きだよ」
女の子は手にしたタイ焼きをマジマジとみている。少女は女の子が驚いたことに満足したのか、袋からもう一つ取り出し女の子に進める。
「こっちはカスタードだよ、こっちも食べてみて」
「むむ、形は同じじゃな、少々甘い匂いがこちらの方が強いようじゃ、よいのか」
粒あんとカスタードのタイ焼きをそれぞれの手に持ち満面の笑みでかぶりつく女の子。
「うまいのお、甘いのお。こんなの初めてじゃ。こっちのやつはふんわりしており、口の中で蕩ける様じゃ。わしが生きてきた中で初めての経験じゃ。おぬしには感謝じゃ。それにしても、ビーめこんなのばかり喰うとるじゃと、許せん」
口の周りをあんこやカスタードでベトベトにして笑いながら食べている様は非常に微笑ましい。
少女は鞄からポケットティッシュを取り出し口の周りをふいてやる。
「すまんのお、それにしてもこれはうまい。やめられんのお」
「私の名前は水無月刹那だよ、あなたの名前は、なにちゃんかな?」
「わしの名前はミネラじゃ、妹、というよりそのパートナーを見る為にこの体を用意したのじゃ」
「体?ああ、服の事ね、似合ってるねその服」
「うむ、なかなかに気にいっておる」
今ひとつ会話がかみ合っていないようだが当人たちがよいならよいのだろう。
「先ほどの食べ物は何と言うものじゃ?」
「ああ、これ?タイ焼きって言うのよ、そうだ、これ、だいぶ冷めちゃったけど飲む?コーンポタージュ」
目を輝かせるミネラ。
「コンポタジとはなんじゃ?」
刹那は、すこし、コーンポタージュを振って、プルトップをカシュッと音を立てて明けてからミネラに渡した。
ミネラは恐る恐る口を付けてこくりと飲んだ。目を白黒させるミネラ。
「なんなんじゃ、この味は、このつぶつぶ噛めばなかから甘さが広がる~」
缶を持たない方の手を上下に力いっぱい振りながら力説する。
(あれ?気に入らなかったのかな?)
と刹那は思いながら缶に手を伸ばそうとすると、慌ててミネラは身を捩って避ける。
「これはもうわしの物じゃ」
そお言いながら一挙に飲んでしまおうと、缶を煽るミネラ。ちょっとむせて「けほけほ」と咳をして苦しそうにしている。
「とらないわよ」
と言いニコニコしながら背中を擦ってやる。
「ところで、ミネラちゃんは迷子なのかな」
「うむ、妹の本体の場所はわかっとるんじゃが、分体の場所が今一つ波動が掴めんのじゃ、じゃから、少々行き詰まっておったのじゃ。ちょっと吃驚させてやろうと思って本体には行きたくないんじゃが、最悪、致し方ない。本体に行こうと思っとる」
「本体?分体?良くわかんないけど、家はわかっているの?」
「ここじゃ、この丸で囲んだ辺りにおるらしいんじゃ」
ミネラが差し出したプラスチックの様な物でできているプレートには長月市の上空から写した写真が鮮明にプリントされており数件のマンションを赤丸で纏めて囲んであった。
「たぶん、ここならわかるよ、一緒にいってあげようか?ここ、私もこれから行くとこなんだ」
「そうなのか、助かるのう、よろしく頼むとしよう」
「それじゃあ、行こうか、はい」
刹那はミネラに右手を差し出した。ミネラと手を繋ごうと思ったのだが、ミネラには差し出した手の意味がわからなかったようでキョトンとしている。
「あれ?わからなかったのかな、ミネラちゃん、手を繋ごうか」
「手?ふむ、こうかの」
ゆっくりと右手を差し出すミネラ。
「そっちじゃないよ、反対の手。それじゃあ握手だよ」
(外国の子みたいだから文化が違うのかな?)
なんていいように解釈している刹那。
「ああ、こっちかの」
あ、間違ったといった表情をしてから、反対の手を差し出すミネラ。差し出された手をそっと包み込むように掴んで歩き出す。
「手、繋いだ方が暖かいでしょ。さあ、行こっか」
「うむ」
勢いよく歩き出す二人。刹那の表情は同行者ができて嬉しそうだ。ミネラもなんとはなしに微笑んでいる。見つからない事に少々不安を感じていたようである。
暫く、二人は商店街を進んでいたが、中ほどにクレープ屋を見つけた刹那がミネラに言った。
「ミネラちゃん、クレープって食べた事ある?」
「ん?ないのう。それはどんな物じゃ?」
「甘いんだよ~、生クリープたっぷりでおいし~んだよ~」
ごくり、と、ミネラの喉が鳴った。
「そ、それは、どこにあるんじゃ?」
ミネラの目がランランと輝きだした。その様子ににんまりとした刹那は表情を正し
「これから私たちはクレープと攻防戦を慣行します。こころするように」
「わかった」
ミネラの手を引いてクレープ屋さんに消えて行く。
カランカラン~。
扉に付けられたカウベルが子気味よい音を立てて開かれる。店内はクレープ屋さんというより喫茶店に近い、お客さんは女性が多いようであるが、店長さんの好みだろうか、店内はやたらポップな曲が流れている。
「いらっしゃいませ~」
手近のテーブルに着き、早速メニューを広げる二人。
「クレープってね、いっぱいあるんだよ、ほら、このメニューの上から下まで全部違うものなの」
「ほう、こんなにあるのか、どれがいいんじゃろ」
ミネラの口元にはすでに唾で一杯でいまにもこぼれおちそうだった。
「オーソドックスにこれなんかいいんじゃない」
そお言いながら刹那は、フルーツミックスとチョコバナナを指さした。
「それをお願いする」
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暫くして頼んだものがテーブルに並んだ。ミネラの口元は大洪水だ。
「このスプーンではみ出している部分を食べてからあとは手に持つなりそのままスプーンで行くなり御好きにどうぞ」
そお言いながらスプーンで生クリームをすくってミネラの口元に運んでやる。
「あ~ん、はい口を明けて~」
「あ~ん」
ぱく、表情が劇的に変化する。それまで、皿の上のクレープを親の敵のように凝視していたのがにこにこ顔である。
「こっちのチョコはどんな味なんじゃ」
「はい、こっちも、あ~ん」
「あ~ん」
「むひょ~うまい、これは、なんか、なんか、ん~、うまいんじゃ~」
言葉にならないようである。
「気に入った?そう、よかった」
笑顔で返す刹那。手にはコーヒーを持っている。
「そ、それはなんじゃ」
「これ?ミネラちゃんにはちょっと早いかな、コーヒーと言う飲み物よ」
もの欲しそうに上目つかいで見るミネラ。
「飲んでみる?」
うんうんと上下にそれこそ外れるんじゃないかと心配になるくらいに振るミネラ。
「熱いから、気をつけてね、ちょっと苦いよ」
刹那からの注意も耳に入っているのかどうかの電光石火の早業でコーヒーを手元に引き寄せるミネラ。そ~と口を付けずず~と啜るミネラ。
先ほどとは打って変わって正に苦い者を口にした者の顔になる。
「にがいのお~にがいんじゃあ~」
涙目になって刹那に訴えるミネラ。その姿がかわいくてつい笑ってしまう。
「ごめんごめん。苦かったねえ、これ、飲んでごらん」
別に頼んだミックスジュースをミネラの前に置く。怪訝そうに刹那の顔を見ていたが、好奇心に負けて手を伸ばすミネラ。
「むむ、これはいい、あま~いのう、甘い」
「気に入った?、それはミックスジュースって言うんだ、関西には普通にあるんだけどこの辺だと珍しいかもね」
笑いながらミネラの頭を撫でる。ミネラも目を細めて撫でられている。
「うむ、ところでのお、お主のことなんて呼べばいいんじゃろ。刹那ちゃん、刹那、刹那さま、どれもしっくりこんのお」
「なんでもいいよお、・・・あ、そおだ、私ねえ、ずっと妹が欲しかったんだ、だから、刹那おねえちゃんって呼んでくれると嬉しいな」
「了解した、今日からそなたはミネラの刹那お姉ちゃんだ」
その屈託のない笑顔に思わず赤面し俯き辛うじて返事をする刹那。
「ああ、うん、ありがと。」
なんだか、気恥かしくなって、慌てて話題を変える刹那。
「ミネラちゃんの会いに行くのって妹さんなの?」
「うん、そうじゃ。かわいくて世話のかかる妹じゃ」
「ふ~ん、ミネラちゃん、お姉ちゃんしてるんだ~」
「むろんだとも。刹那お姉ちゃんはなんでここにきたんじゃ?」
「私?、私はね、私にはお兄ちゃんが居てるんだけどね、暫く会ってないんで様子を見に来たの、手のかかるお兄ちゃんなのよ」
「ほう、ミネラと同じじゃな」
「そうね、ふふふ」
二人ともひとしきり笑った後、どんなに自分の兄、妹の方が手が掛るか自慢合戦となって、ゆっくりと時が進んでいった。
「さあ、お腹もいっぱいになったし行こか」
「うん、刹那お姉ちゃん」
二人仲良く手を繋いで歩いて行く。
暫く住宅街を歩いていき、二人は今、小さなゲートボール場の前に立っている。お年寄り達がゲートボールに興じている。寒いのに元気なことだ。
「ミネラちゃん、あの写真はこの辺だけど、どこかわかるかな」
「ふむ、刹那お姉ちゃん、ちょっとまってくれるかの」
ミネラは目を瞑り、片手を目の高さまで上げて辺りを探っているようだ。その様子を怪訝そうに見つめる刹那。
(中2病ちっくな、なにかではやってんのかな?)
なんて思っている。
「あの、ピンク色をしたマンションに痕跡があるようじゃ」
そお言いながらミネラが刺し示したのは大地の住むマンションだった。
お読みいただきありがとうございます。
なかなか遅々としてすすみません。




