第25話 ギルドランク昇格の事前聴取
指定された日の朝、ユノは冒険者ギルドを訪れた。
受付で名前を告げると、職員は手元の書類を確認し、奥の部屋へ案内してくれた。
「こちらでお待ちください。担当者が参りますので」
「分かりました」
通された部屋は、簡素な応接室だった。机を挟んで椅子が二脚置かれ、壁際には書類棚が並んでいる。
ユノが椅子に腰を下ろしてしばらくすると、ひとりの男性職員が書類を手に入ってきた。
「待たせてすまない。私は今回の昇級審査を担当している者だ」
「ユノです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。今日は君のこれまでの活動について、いくつか話を聞かせてもらいたい」
職員は向かいの椅子に座り、手元の書類を開いた。
「まず、冒険者として活動を始めてから、もう一年ほどになるね」
「はい」
「その間、いくつかの依頼を継続してこなしているようだね。討伐依頼だけでなく、採集や素材の納品も多いようだ」
ユノは小さく頷いた。
「普段は、どんなことを意識して依頼を受けているのかな?」
「そうですね……。自分たちにできることかどうか、ちゃんと考えるようにしています。危険そうな依頼なら、先輩たちにも相談しますし、無理をして失敗するのは避けたいので」
「なるほど。自分の実力を把握して、無理をしないことを心がけているわけだ」
「はい。私ひとりでできることには限りがありますから」
職員は返事をしながら、書類に何かを書き留めた。
「君はパーティの中では、主にどんな役割を担っているのかな?」
「生活魔法を使った支援が多いです。荷物の整理や保存、素材の処理を手伝ったり、探索中にみんなが動きやすいようにしたり……。戦闘では、先輩たちの邪魔にならないように気をつけています」
「戦闘中、自分が危険だと判断した場合はどうする?」
「無理に前へ出ないようにします。自分にできることを考えますけど、それで仲間に危険が及びそうなら、まずは安全を確保することを優先します」
「それは、誰かに教わったことかな?」
「先輩たちから教えてもらったこともあります。でも、一緒に依頼をこなすうちに、自分でも考えるようになりました」
職員はしばらくユノを見てから、手元の記録に視線を落とした。
「君の活動記録を見る限り、パーティの中で自分の役割を理解して行動しているようだね」
「ありがとうございます。でも、まだ先輩たちに助けてもらうことも多いです」
「それは悪いことではないよ。自分にできることと、できないことを理解しているのは大切なことだからね」
職員は書類を一枚めくった。
「ところで、今後について何か考えていることはあるかな? 冒険者として、どんなふうに活動していきたいと思っているんだい?」
ユノは少し考えてから答えた。
「今は、もっといろいろな依頼を経験したいと思っています。先輩たちから教わったことも、まだ全部できるわけではありませんし……。できることを少しずつ増やしていきたいです」
「そうか」
職員は頷き、手元の書類を揃えた。
「ありがとう。ひとまず、こちらから確認したかったことは以上だ」
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「失礼する」
入ってきたのは、ギルドマスターだった。
「マスター。こちらは、ちょうど聴取を終えたところです」
「そうか。少しだけ本人と話してもいいかな?」
「もちろんです」
職員が席を立ち、マスターに場所を譲った。
マスターはユノの向かいに座ると、穏やかな口調で尋ねた。
「ユノ、だったね。これまでの活動については、こちらでも記録を確認している」
「はい」
「ひとつ聞きたい。君は仲間を支援するとき、何を一番大切にしているのかな?」
突然の質問に、ユノは少しだけ目を瞬かせた。
けれど、すぐに考えをまとめて口を開いた。
「みんなが安全に依頼を終えられることです。私の魔法で役に立てることがあれば、できるだけ手伝いたいと思っています。でも、私の判断が間違っていたら、みんなを危険に巻き込んでしまうので……。自分にできることを考えながら、無理をしないようにしています」
マスターは黙ってユノの話を聞いていた。
「なるほど。よく分かった」
それだけ言うと、マスターは席を立った。
「詳しいことは、担当者から改めて説明があるだろう。今日はありがとう」
「ありがとうございました」
ユノが頭を下げると、マスターは軽く頷いて部屋を出ていった。
その後、担当職員が再び席に着き、書類をまとめた。
「今日の話と、これまでの活動記録を踏まえて、昇級試験の内容を検討することになる」
「はい」
「試験の詳細については、後日あらためてギルドから連絡する。それまでは、今までどおり活動していて構わないよ」
「分かりました。よろしくお願いします」
ユノは椅子から立ち上がり、職員に頭を下げた。
部屋を出ると、受付のある広間には、いつもと変わらず冒険者たちの声が響いていた。
昇級試験の内容は、まだ分からない。
けれど、ギルドが自分の活動をきちんと見てくれていることは伝わってきた。
ユノは少しだけ背筋を伸ばすと、いつものようにギルドを後にした。




