第1話 冒険者の日常①
ここ、リュネルトの街の朝の冒険者ギルドは、いつも賑やかだ。
依頼を受けに来た冒険者たちの声。受付係が書類をめくる音。食堂から漂ってくる、焼きたてのパンの香り。
そんな喧騒の中、ユノは掲示板の前で腕を組んでいた。
「……どの依頼にしようかなぁ」
壁一面に貼られた依頼書を、上から順番に眺めていく。
荷馬車の護衛。
街道の魔物退治。
近隣の村から寄せられた調査依頼。
どれも冒険者にとっては珍しくない仕事だ。けれど、報酬だけを見て飛びつけばいいというものでもない。
「お、ユノ。もう来てたのか」
背後から声がした。
振り返ると、ジュリオが片手を上げながら歩いてくる。
くすんだ栗色の髪は短めで、ところどころ無造作に跳ねている。その顔には、朝から何か面白いことでも見つけたような笑みが浮かんでいた。
「おはようございます、ジュリオさん!。ほかのみんなは?」
「ゲオルグのおっさんは、いつものように飯だな。エルマはそっちに付き合ってる。ミレイは……まあ、ミレイだ」
「それじゃ分からないですよ」
「だろ? 俺にも分からん」
ジュリオは悪びれもせずに笑った。
ユノは小さく息をつき、再び掲示板へと目を向ける。
そのときだった。
「聞こえているわよ、ジュリオ」
背後から、涼やかな声が飛んできた。
振り向くと、数枚の書類を手にしたミレイが立っていた。
灰色がかった銀髪は肩甲骨のあたりまで伸び、紺色のローブが細身の体を包んでいる。紫灰色の瞳は、いつもどおり冷静な光をたたえていたが、今はその視線がジュリオに向けられていた。
「おや。研究室から出てきたのか、ミレイ先生」
「研究室ではなく、宿の部屋よ。あなたと一緒にしないでくれる?」
「いやいや、俺だって朝からちゃんと働いてるぜ?」
「その台詞、昨日も聞いたわね」
「おっと、よく覚えてるじゃねえか」
「忘れたくても忘れられないだけよ」
ミレイは涼しい顔で言い返した。
ジュリオは楽しそうに笑っている。どうやら、これくらいのやり取りはいつものことらしい。
二人の会話を横目に、ユノは手近な依頼書へ視線を戻した。
さて、今日はどんな依頼を受けようか。
いつもの仲間と、いつものように依頼を選ぶ。
そんな何気ない朝も、冒険者にとっては一日の始まりだった。




