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【百合】放課後の呼び出しが男子からなんて、いつから錯覚してたの?  作者: 冷泉七都
第三章『待ちに待った夏休み!』

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第21話

「夏樹、出たよー」


 伊吹が入浴を終えて、ダイニングテーブルに座っている夏樹に告げた。

 着替えは夏樹の服を拝借している。


「じゃあ、わたしの部屋に居といて。お風呂入ってくるし」

「わかった。……って、どこ?」

「あぁそっか、伊吹は来るのは初めてだったっけ」


 伊吹()ということは、他に来た人がいるのかな。誰だろ――。

 と、疑問と嫉妬が浮かんだ。

 その渋い顔を見た夏樹は、焦って言葉を続ける。


「エオンモールで会った天音いるじゃん。その天音が来たりしただけだから……」


 言い訳するような長いセリフ。

 同性の友達だからと言う言い訳も、意味がないとはわかっている。


「まぁ、いいけど」

「……うん」


 伊吹はそんなつもりじゃなかったのに、素っ気なく返してしまった。


 気まずい空気から逃げようと、夏樹は廊下を進んでいき、伊吹は後ろをついていく。



「好きにゆっくりしておいて、ベッドでもどこでも座ってていいし」

「分かった、ありがと」


 二階の角部屋に着くと、夏樹はそう言って浴室へと向かっていった。


 残された伊吹は、取り敢えずベッドに腰をかける。

 そして周囲を見渡してから――。


「意外とシンプルで綺麗な部屋」

 と呟いた。


 夏樹の部屋は、白を基調とした家具が置かれていて、棚もきちんと整えられていた。

 だが無機質なんてことはなく、棚の上のぬいぐるみや途中で置かれた宿題を見ると、生活感が感じられて何だか親近感が湧く。


 ………………。


 彼女の家、しかも彼女の部屋。

 そんな聖域に居て緊張するのは当たり前で、時間が経つのが長く感じる。

 不用意に動けないというのも、原因だろう。


 しばらく経ってもなお暇な伊吹は、視線だけで夏樹の部屋を見回す。


 本棚を見て漫画が多いなと思っていると、一つだけ棚の上に置かれた本を見つけた。

 ここからでは見えないから余計に気になって、伊吹はどんな本かを見るために立ち上がる。


「ぇ……?」


 漫画を見た伊吹から、驚きと困惑が入り混じった声が出た。


 表紙には、抱き合う二人の女子高校生。

 タイトルから考えるに、明らかにラブコメもの。

 そこから導き出した答えは……。


「これ、百合ってジャンルの漫画じゃ……」


 伊吹はスマホでタイトルを検索してみた。

 ググール先生によれば、伊吹の予想は正しかったようだ。

 そして、純愛ものらしい。


「やっぱり……。いや、でも、なんで――?」


 なぜ夏樹がこの手の本を持ってるんだ?

 もしかすると、元々の趣味かもしれない。

 でも、わざわざ棚から出してあるし、今の私たちの状況が状況だし、なにか深い理由があるんじゃ……。

 

 伊吹はグルグルと思考を回転させる。


 百合漫画と睨めっこしていた、ちょうどそのとき。


「伊吹っ、お待たせ! 何見てるの?」


 お風呂上がりのパジャマ姿の夏樹が部屋に入ってきた。

 そして、伊吹の目線の先を見る。


「ぁ――」

 と、夏樹が気が抜けた声を漏らした。

 夏樹の顔はみるみる紅くなっていく。


「ち、違うのっ! いや違わないけど、そのっ! こ、これはっ――!」


 見られた恥ずかしさに言い訳をするように、夏樹は声を荒げて言った。


「夏樹、静かにしなさいっ! 近所迷惑よ!」


 夏樹が続きの言葉を言う前に、二つ隣の部屋にいる夏樹母からの注意が届いた。

 それで夏樹は冷静になって、場が静まった。


「夏樹の趣味なら何も言わないし、いいと思うよ」


 悩んでいる夏樹を見て、伊吹は本心を伝えた。

 恋人の趣味は共有して一緒に楽しみたい――そんな意味を込めての言葉だ。


「わたしの趣味じゃないんだけど。実は……」


 夏樹は細々と話しだした。


「こういうの読んだら、伊吹と付き合うことに自信が持てるかなって思って――」

「……嬉しいっ」


 照れながらも伝えてくれる夏樹。

 しかも私と付き合うために、意識までをも変えようとしてくれている。

 そんな彼女に伊吹は幸せを感じて、笑みをこぼす。


「良かった、喜んでくれて……。読んだかいがあったかな」


 夏樹も努力が実ったんだと実感し、感極まって微笑んだ。


   / / /


 歯を磨いたりして、寝るための準備を終えた二人。

 時刻は午前二時になろうとしている。


「じゃあ、寝よっか」


 そう言って、夏樹はベッドに入っていった。

 そして自分の横を優しく叩いて伊吹に「伊吹もおいでっ」と伝える。


「あ、あぁ」


 伊吹は軽く頷いて、夏樹の隣に並んで寝転んだ。

 夏樹がベッドのそばにあるリモコンで電気を消して、あたりは暗くなる。

 唯一の明かりは、薄いピンク色のカーテンの隙間から差し込む街灯の光だけ。


「おやすみ」

「おやすみ」


 ………………。

 …………。

 ……。


 寝付けない――。

 夏樹が目の前で無防備に寝ていると考えると、目が冴えてしまう。


 一方、夏樹も今まさに背後にいる伊吹のことを考えてしまい、寝れない。


「夏樹、起きてる?」


 コソッと伊吹が質問する。


「うん、起きてる。不思議と眠れない」

「私も……、夏樹のことを考えちゃって」

「なっ……!」


 夏樹は胸が跳ねて、ぐるっと回って伊吹の方を向くと、ちょうど目が合った。


「お願いなんだけど……」

「なに?」

「夏樹を抱きながら寝たい――」

「抱っ……。まぁ、いいけど」


 それを聞くや否や、抑えていた気持ちが堰を切ったように、伊吹は夏樹を抱擁した。

 もちろん夏樹も抱き返す。

 

 幸せを感じて、二人は目を閉じたまま、自然と笑みがこぼれた。


「私たち、付き合う前からデートとか、恋人繋ぎとかしちゃってたから、これからはもっと特別なことをしたい」

「うん、わたしも――」

「だんだんと、もっともっと仲良くなっていこう」

「やっと伊吹と付き合えたんだもん。これまでの分も、それ以上も、仲良くなるに決まってるよ」


 会話がいつまで続いたかは分からない。

 だがいつのまにか、二人は寄り添ったまま眠りについていた。


 恋人になって初めての夜。

 二人の記憶にはしっかりと刻まれた。

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