【第十二話】お茶会の始まり
こんにちは、はちみつレモンです。総合ポイントが100ポイントに到達しました!!いつも見てくれている皆様ありがとうございます。今後ともエラを見守っていただけると嬉しいです。
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追記:7月29日、編集しました
王宮のお茶会へ向かう馬車の中、私とお父様の間には気まずい雰囲気が流れていた。
(別館に移されてからお父様とほとんど話さなかったから何を話せば良いのかわからないんだけど・・・。)
(久しぶりに会う娘と、どんな会話をすればいいと言うんだ・・・。)
「あのお父様・・・」
「エラ・・・」
親子どちらも同じことを考えていたみたいだ。しかし両者ともに気まずいから話しかけただけで、特に話すことはなかった。
「私の話は後でいいから、お前が先に話しなさい。」
「いえいえ、お父様が先にどうぞ。わたくしの話は後回しで良いです。」
エラは外見と言えば両親どちらにも似ていないのだが、性格はどうしてか父親に似ている。表を取り繕うのが、お世辞を言っても下手なのだ。そのため夫人は貴婦人たちの夫の噂を揉み消すのに一苦労しているとかしていないとか。
「いやいや、娘の話を聞いてやるのが親の仕事だ。」
「いえいえ、わたくしはお父様のありがたいお話を聞いて色々なことを学ぶことが仕事なのです。」
「いいや、お前から話しなさい。」
「いいえ、お父様から。」
「お前からだ。」
「お父様からです。」
「お前」
「お父様」
「お前」
「お父様」
激しい応戦が馬車ないで繰り広げられ、その戦いは馬車の運転手によって止められた。
「あ、あの・・・。到着いたしました・・・。」
口論になって夢中になっているうちに、どうやら王宮に着いたようだ。馬車の運転手は何故かどっと疲れた顔をしている。
話を聞くと、どうやら馬車が到着して10分経っても出てくる気配がないのでドアを開けたのだが、二人とも気づかずに口論をしていたので話しかけようにも話しかけられず、途方に暮れていたそうだ。
その話を聞いて、公爵は気まずそうに娘にエスコートの手を差し出し、娘は気まずそうにその手をとって馬車を降りた。
「お待ちしておりました。エヴァンズ公爵様、エヴァンズ公爵令嬢様。」
案内をしてくれるらしい使用人が挨拶をしてくれたので、こちらも同じように返す。丁寧に腰を折って挨拶をしてくれた使用人は目を上げると、とても驚いていた・・・と思ったけど、驚いた表情は一瞬でどうにも嘘っぽい笑顔に変わった。お父様の方を見ていたので横を見てみると、お父様は恐ろしい形相をしていた。
お父様は何やら使用人に話すことがあるようで、二人で会話をし始めた。
(にしても、エヴァンズ公爵令嬢様かぁ。何だか本当に貴族みたい・・・貴族なんだけど。普段名前で呼ばれることが多いから、家名で呼ばれるのは少し慣れないかも。)
私の名前はエラ・ルーナ・エヴァンズだが、「ルーナ」の名は生まれて教会に行った時に神から授けられる『真の名』だ。
この世界では真の名は命と同じくらい大事で、よほど親密な仲、つまり家族や恋人、親友でもない限りはその名を明かしてはいけない。法で決まっているわけでも、明かしたら罰則があるわけでも無いが、これは世界共通の暗黙のルールとなっている。
そこには精神干渉、あるいは精神操作の魔法を作動させる時に、魔法を使用する相手の真の名が必要だからむやみに明かさないようになったという理由がある。
およそ100年前、真の名を怪しい男に教えてしまった女が男に精神を操作され、街を1つ滅ぼした。その時、まだ世界は精神に関わる魔法の存在を知らず、女をすぐに処刑した。しかし後々捜査が進むと、1人の魔法使いが関わっていたことが判明した、ということだった。
(・・・そういえば乙女ゲームでは、エラの真の名は違うものだった気がするけど。まぁ、気にすることじゃないか。)
少しして、使用人とお父様の話が一区切りついたようなので、そちらに意識を戻した。
「では、娘をよろしく頼むよ。私はこれから王宮の方に用事があるのでね。」
「え。お父様、一緒に来ていただけないのですか?」
「当たり前だろう、候補者を集めて開催されるお茶会だ。部外者が行っても仕方なかろう。」
「た、確かにそうですね・・・ごめんなさい、大きな声を出してしまって。」
「いえいえ、お気になさらず。では、ご案内します。こちらへ。」
進行方向に体を回そうとすると、お父様が私の肩を掴んできた。驚いてお父様の顔を見てみると、さっきと同じ恐ろしい形相をしている。流石悪役令嬢のお父様、凄んだ顔が悪役そのもの。
「いいか、エラ。今日のお前は世界の主役だ、自信を持って良い。だが王子だけには目をつけられるな。いいな、あの方は腹の内が真っ黒なんだ。笑っていてもそれは楽しいからではなく、面白いからだ。惑わされないように、なるべく端の方でお茶でも楽しみなさい。」
(はい、知ってます。・・・なんて、言えないよね。)
「もちろんです、安心してくださいお父様。わたくしも最初からそのつもりで来ていますから。殿下の婚約者なんて、死んでも嫌です。その分、お菓子をたくさん食べてきます!あっ、太らない程度に!」
「ぶふっ・・・ふ、ふと・・・。」
誰ですか、吹き出した無礼者は。
じろっと睨みながら音が聞こえた方を向くと、案内役の使用人が爆笑していた。
「し、失礼いたしました。貴族のご令嬢、しかも公爵家の方が太るなんて仰るので・・・。すごく新鮮で笑ってしまいました。」
ふーん・・・まぁ、そうでしょうね。普通の貴族のご令嬢は肉食獣と化して王子を血眼で狙いに行くし、お菓子なんてあまり食べないだろうし。でも私は王子に興味がないのだ。興味があるのはお茶会に出てくるお菓子達のみ。
ふとお父様を見ると、お父様の顔が青くなっていた。
「な、何故君がここに・・・認識阻害術でもかけていたのか?・・・それに、あのお方はどうした。」
「そのあのお方の命令で来ておりますゆえ。」
「そ、そうかそうか。では先程の発言は、私の空耳ということで・・・頼む。」
懇願するお父様に、使用人はニコッと笑いかけるだけで返事をしない。どうしてこの一瞬で立場が逆転しているのだろう。この使用人は高位貴族で、何か理由があって使用人に扮しているとか?うーん、わからない。
「ではエラ様、ご案内いたします。」
「え、ええ。お父様、どうしたのでしょうか。」
「どうされたのでしょうねぇ。まぁ、エラ様が気にすることではないかと思いますよ。」
「そうでしょうか・・・お昼の食べ過ぎでお腹を下したとか?」
「っげほっ・・・げほっ。」
(体調が悪いのかな?)
そんなことを考えながら連れられるがままに使用人についていくと、ふと彼が小刻みに震えながら歩いていることに気づいた。どうして震えているのか・・・もしかして私が怖いのかもしれない。お父様が何故かこの人に恐ろしい形相を向けていて、その娘だから怖いとか。あるいは私自身が・・・主にこの悪役顔が怖いのかも。
「ご、ごめんなさい、わたくし、怖いですよね。そんなに威圧したつもりは無かったんですが、どうも駄目で・・・って、あなた、笑ってるじゃないですか!」
私が謝った途端もっと震えが大きくなったので流石に心配になって顔を覗き込んだら、あろうことか使用人は笑っていた。ということは、今までずっと笑いをこらえて震えていたということか。理由は分からないけど、なんとなく不愉快だ。
怪訝そうな目を向けると、一瞬で真顔になり、何事も無かったように歩き出した。恐ろしい表情の切り替えに、私のほうが恐ろしくなってしまった。
(え、裏の組織の方ですか?)
こういう時は、気づかない馬鹿のフリをしておくのが良い。私は何も知らないですから、人気のない道で刺したりしないでもらいたい。
「エラ様、着きましたよ。」
「ええ、ありが・・・」
到着した途端、今まで考えていたあれこれなんて全て頭から消えて、目の前の光景に釘付けになった。
目の前にあったのは、幻のような美しいバラの庭園だった。
赤色、白色、ピンク色、紫色・・・。色の種類の多さにも驚くが、とにかく数が多い。
ここはきっとスチルでもあった薔薇の庭園だろう。ゲーム越しで見たこの庭園よりも、ずっとずっと綺麗だ。ここでお茶とお菓子を嗜めるなんて、なんて贅沢。
しばらく薔薇の庭園に夢中になって、挨拶を忘れていたことに気づいた。緊張を解すためにふうっと一息吐いた。
(第一印象が大事、第一印象が大事・・・!)
「・・・皆様こんにちは、エヴァンズ公爵家が長女、エラ・エヴァンズでございます。本日から、よろしくお願い致します。」
誰もが息を呑んだ。
完璧で優雅なカーテシー。鈴のような綺麗な声。整った顔に、美しく保たれた体。そして華やかすぎず、地味すぎず、完璧なバランスのドレス。
彼女を例えるなら、妖精という言葉がピッタリだった。
そして、そんな彼女の来訪を祝福するように舞うバラの花たち。
あまりの美しさに、挨拶を返すのも忘れて皆呆然としている。
こうして始まったお茶会はのちに、大波乱を巻き起こす。
可愛い子には旅をさせよ、ですね!