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反省文なんてありえない

ご無沙汰しておりました。

久々の投稿なのに内容がいつにも増してアレなのでお気をつけ下さい。

DT注意で。

「せんせえ、いつもゲームやってんな。人を呼び出しておいて当人はゲーム三昧か良い身分だな好意に値する気がします!」


「今度邪神ハンターSANが出るんですよね。ところでラン=テゴスの鱗余ってませんか? それで装備が作れるんですけど」


「ゲームは人類が生んだ文化の極みやからな、好意に値するやろ? ランテゴの鱗はあとで分けてやる。ほな、お前ら適当でいいから反省文書け反省文」


 遅刻をしちゃったおかげで、放課後の現在、社会科教員室へ。

 呼び出すなんて結構怒っているのかなと思ったけど、カッキーは碌にこちらも見ないで、言うだけ言ったらまたゲームに戻った。

 PNPは校長先生に取り上げられたんじゃなかったっけ?



「JKを放課後呼び出すなんていやらしいですね先輩。はい、お茶」


「ありがとうございます」


 すっと緑茶を差し出してきたのは社会科教師その2、通称白衣。

 前にも思ったけど、なんでこの人は白衣を着ているのかな。



「はい、DKの子にもお茶」


「あざーっす、DKってDANSHI KOUKOUSEIの略っすか?」


「DOUTEI KIEROの略だよ?」


 コーイチがガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。



「冗談だよ? いやJKと一緒に呼び出されるなんてうらやましくて、ついからかってしまったんだ」


 白衣がひらひらと手を振りながら言うと、コーイチが不承不承といった感じで着席した。



「本当はDOUTEI KIMOIの略さ」


 コーイチが再び立ち上がり、白衣とおでこがくっつきそうな距離で睨み合いを始めた。



「お前をボコる前に言っておく。DOUTEIさえ守れない男に大切な者は守れない。人は誰しも生れ出づる時はDOUTEIで、そしてDOUTEIのまま土に還るのだ……」


「いや、それダメやん」


「先輩、この子大丈夫なんですか? ちゃんと進級できるんですか?」


 なにやら長々としゃべっていたコーイチがダメ出しされた。

 ところでDOUTEIってなんて意味で言っているのかな? この場合は道程じゃなさそうだし。

 うーん、なんとなく心当たりはある気がするのだけど、思い出せない。



「あの、DOUTEIってなんの事ですか?」


 疑問に思ったらすぐ質問するに限る。ちょうど先生いっぱいいるし。



「そこの金髪君の事です」


「そこにおるな」


「……すまんアキラ、俺は一緒に卒業できそうにない。これから教師相手に暴力事件を起こすからな!」


 どういう意味ですかって聞かなきゃダメだったか。

 それはさておき乱闘が始まった。


 どうしよう、退学になっちゃったら大変だし止めるべきだろうか?

 でもカッキーも白衣も、普通に殴り返しているな。


 ……ケンカ両成敗だから大丈夫かな。

 うちの学校は何故か、暴力沙汰に異様に寛容だし。


 そう思って放置していたら、みるみるうちに3人ともボロボロになっていく。

 なんだかなあ……。



「なかなかやるやないか! DTのくせに!」


「お前達にはわかるまい! この俺のDTを通して出る力が!!」


「そんな理屈っ!!」



 DTってDOUTEIの略かしら。

 さっきの答えじゃ、結局判らなかったな。

『コーイチ = DOUTEI』らしいけど。

 怒り始めたから、あまり良い意味じゃなさそうだ。


 しかし思い出せそうで思い出せないのは、どうにも気になってしょうがない。



「コーイチがDOUTEIなのは理解したんですけど、詳しい意味を教えて下さい」


 おずおずと手を上げて、もう一度質問したら乱闘が止まった。



「……美里のアレは素なんか?」


「アキラは天然だから……」


 お互いの胸ぐらを掴み合いながら、コーイチとカッキーが複雑そうな表情でこっちを見た。

 むー、何か変な事を言ったかな……。



「いいですね! なにも知らないJKに色々教える! 色々教える! 僕はDOUTEIではないですが、それを卒業する行為を是非ともJKの子と一緒に……」


 妙にテンションが高くなり、こっちに近寄ってこようとした白衣が、コーイチとカッキーの二人がかりで殴り倒された。



「遊ぶのはいい加減やめて、反省文書こうや」


「うっす」


 何事も無かったかのように席に戻る二人。



「すいません、つい我を忘れてしまって。真のJKマニアたるもの、触れないやらない手を出さない、でしたね」


 こちらも何事も無かったかのように立ち上がった。

 みんなタフだなあ。

 ところで質問のちゃんとした答えを……。



「あのー……」


「家に帰ったらググるか辞書引けや。自分で調べる事が大事やで」


「先に言っておくけど、俺イコールDOUTEIって意味じゃないからな? 間違っても呼び方とかじゃないからな? 人前で俺の事をDOUTEIとか連呼するなよ? もしそうなったら、いくらアキラが相手でも覇龍咆哮拳を使わざるを得ない」


 コーイチに凄い怖い顔で睨まれた。

 カッキーもそっぽを向いてるし。

 白衣はお茶を淹れなおしに出て行っちゃったし。


 むー。

 気になってしょうがないのだけど。


『コーイチ = DOUTEI』


 本人は否定してたけど。



 うーん。

 じっと隣のコーイチを見る。

 あら、意外と真面目に反省文を書き始めている。

 仕方ない、オレも反省文書こうっと。


 ……ところで反省文ってなんて書けば良いのかな?

 遅刻は確かに悪い事だけど、呼び出される程でも無いと思うんだけどな、一回目だし。

 ボールペンを指先でくるくる回しながら文面を考えていると、隣からぶつぶつと呟き声が。



「DTの何が悪いって言うんだ、俺はチェリーだよーっなんてなあはははは……」


 なんだか物悲しい顔をしている。あ、目尻に涙が。

 なにがここまでコーイチを追い詰めているのか……。

 うん、DOUTEIである事が原因のようだけど。



 ………………。

 って、思い出した!

 確か、まだ一度も女の子とごにょごにょしていない男子の事を指す言葉だ!

 中学の頃、エッチな本を回し読みしていた男子生徒達が早く捨てたいだのなんだの騒いでいた。

 遠目から覗きこんだら、何故か恥ずかしそうに隠されて、ボッチ気分を増幅されたり……。

 まあそれはどうでもいいんだけど。


 しかしコーイチも気にする事ないのにな。

 そういう事は、結婚するまでしちゃ駄目だって母さんも言ってたし。

 それと、父さんは結婚という単語を耳にしたら「絶対に嫁に出さない絶対にだ」とか訳のわからない事を叫んでいた。


 とにかく、女の子とごにょごにょしていないなんて当たり前じゃないか、学生なんだし。

 ここは一つ、親友としてフォローしてあげよう。



「コーイチ、コーイチ」


「遅刻なんかより、キャッキャッウフフしているリア充アベックどもの方が罪深いと思います、と……ん? なんだ?」


 遅刻の反省文なのに、関係のない事を口に出しながら書いているな。

 おっと、そんな事よりも、と。

 口元に手を当ててコーイチの耳に寄せて、と。



「オレもDOUTEIだから安心してくれ」


 なんとなく悪そうな顔を作りながら囁いてみた。こう、秘密を打ち明ける感じで。



「…………………………」


 あれ、コーイチが無言だ。

 それどころか凄くげっそりした顔になった。

 そして残念な子を見る目でオレを30秒くらい見つめた後、ぷいっと顔を背けた。

 何か不味い事言ったかな?



「あの……コーイチがDOUTEIでも気にしないぞ? ほら、オレもだから……仲間、仲間!」


 もう一度声を掛けたら、コーイチの手元でボールペンにバキッとヒビが入る音がした。

 これは……もしかして怒っている?



「えーっと、えーっと…………」


「せんせえ! 美里サンが反省文書く邪魔をします!」


 しどろもどろになって目の前であわあわと手を振っていたら、先生に言い付けられた。

 しかも呼び方が、さん付けになっているし。

 むー……コーイチの心の壁を感じる。



「いーからちゃっちゃと書きや、ワイもヒマやないんやで」


 PNPで遊ぶのに忙しいんですね、わかります。



「どう見てもヒマじゃねえかとにかく美里サンを注意して下さいありがとうございます!」


「そんな!? オレはただコーイチを慰めようとしただけなのにっ!」


「お、シュブ=ニグラスの角ゲッツや」


 え、いいなあ。それドロップ確率50分の1だった気が。



「くそっ、この教師マジで役に立たねえ……」


 何を言っているんだ、シュブ=ニグラスの角は防具だけじゃなく上位武器の材料にもなるんだぞ。すっごく役に立つ素材なんだから。



「アキラ、次またDOUTEIって言ったら遊びに行くの無しな? いいな? わかったな?」


 睨みながら脅すように言ってきたので、とりあえずコクコクと頷いておいた。

 気にしなくて良いと思うんだけどな……。

 結婚するまでは、そういう事しないのが当たり前なんだし。



「つかさっさと書いて終わらせようぜ、腹も減ってきたし」


「あ、ヤキソバパンあるよ。食べる?」


 朝なぜかモブAがくれたんだよね。



「おう、すまんな……ってアキラなんでヤキソバパンなんか持っているんだ?」


「なんか登校中にもらった」


「タダで配っているのか? そいつの名前は?」


「んー、しらない」


 名前も知らないヤツからパンをもらえるなんてアキラずるいな爆発しろ、というコーイチの言葉を流しつつ反省文の続きに戻る。

 と言っても、こういうの書いた事ないから筆が進まないな。



「よしできた。せんせえ出来ました! 上手に書けました!」


 はやっ!

 コーイチにしては真面目に書いていたっぽいけど、妙に早いな。

 ガタン、と音を立てて立ち上がり、満面の笑顔で用紙を見せる。


『勝訴』と書かれていた。


 その紙を掲げながら、机の周りをぐるぐると数周した後、おもむろにカッキーに提出。

 なんでわざわざ怒られるような事をするのかなあ……。



「はい、ごくろうさん」


 普通にカッキーは受け取りました。

 ……………………。

 それでいいの?



「なんだアキラ、まだ書き終わってないのか?」


 コーイチがヤキソバパンをぱくつきながらオレの手元を覗きこむ。



「全然進んでないじゃないか、アキラおせーマジおせー。ま、反省文を書くプロの俺様と比較しちゃ可哀想か」


 コーイチそれ自慢になってない。



「ヤキソバパンを食べ終えるまでに書き上がらなかったら、久々に『お話』をしてしまうかもな。新作を仕入れたんだ、是非とも聞かせたい」


 え、やだ、絶対聞きたくない。

 どうしよう。

 もうオレも『勝訴』でいいかな。

 悩んでいたら、もう食べ終わったのかコーイチがポツポツと……。



「――その工場の焼け跡には、熱で歪んだガラス細工のウナギだけがポツンと残っていた。辺りくまなく焼け落ちているのに奇跡的にそれだけが……」


「やめて! すぐ終わらせるから、すぐだから!」



 勝訴でいいや。

 はい、できました!

 左手と肩で耳を塞ぎながらという我ながら器用な格好で、勝訴と書きあげて提出。

 危なかった、早くも涙ぐみそうだったし。



「……なんやこれは美里、ふざけるんやない」


「え……」


「たかが遅刻やけどな、ちゃんとした謝罪文一つもかけないんじゃ碌な大人にならんで? あの八神でさえしっかり書いたんやから」


 どういう事なの。

 文面的にはコーイチとまったく一緒なんだけど。

 もしかして走り回ってから提出しないとダメだったとか?



「バカめ、あれはダミーで提出したのはちゃんとした反省文だ。かかったなアキラ!」


 ……なんでそういう事するの!?

 やってやったぜ、って感じの凄い得意気な顔しているし訳が分からない。



「意趣返しってやつだ、あーっはっはっはっは!」


 立ち上がって問い詰めようとしたら「こら、叱られている時はちゃんとこっち向きや」とカッキーに座らされた。


 そして、珍しく真面目な顔をしたカッキーにこんこんとお説教されつつ、横からコーイチの情感のこもった『お話』を聞かされるというコンボを喰らって、涙目になりながら反省文を書き上げる事に。

 うう……。





 ーーーーーーーーーーーー





「にしても、たかが遅刻一回で反省文とか厳しくねえですか?」


「コーイチひどい」


 一通り終わって、白衣が淹れなおしたお茶をすすりながらコーイチが一言。



「たかが遅刻、されど遅刻や」


「カッキーもひどい」


 同じくお茶をすすりながらカッキーが答える。



「暴力沙汰起こしても軽い口頭注意だけで済ますのに、遅刻だけで呼出、反省文ってのが謎だなと思いました!」


「コーイチひどい」


 コーイチそんなに暴力沙汰ばかり起こしているのか。これはやっぱり四六時中一緒にいて見張らないといけないな。



「他の生徒から通報が入ったんや、なんか下駄箱の前で不良が女生徒にからんでるいう。見に行ったらお前らだった訳や」


「カッキーもひどい」


 話に夢中になっていて気付かなかったけど、そんな悪い奴が近くにいたのか。



「……ちくしょうあのクソ女ども俺は全然悪くねえのに何が不良だ本当にありがとうございます!」


「コーイチひどい」


「朝っぱらから3階と1階を2往復もさせよって……呼び出して反省文の一つも書かせんと気が収まらんかったって訳やな」


「カッキーもひどい」


 ふんふん、なんとなく八つ当たりに聞こえるのだけど。



「それとな、ついでだからちょっと相談に乗って欲しくてな」


「相談事があるなら反省文なんか書かせて無駄に時間とらせんなよと思います!」


「ひどい、ひどい、ひどい、ひどい」


 へー、カッキーが生徒に相談事なんて珍しい。



「ところでアキラ、さっきからうるさい」


「美里うっさい、ちゃんと反省しとるんか?」


 むー!

 二人共ひどい! 冷たい!

 オレの、拗ねているんだぞアピールをひたすら流すだけじゃなく、うるさいだなんて!



「JKをいじめちゃ駄目ですよ。はい、お茶菓子」


 お茶菓子片手に戻ってきた白衣が、良い事を言った。

 もっと言ってやって!



「おう、サンキュ。別にいじめてた訳やないけどな」


「ほらアキラ、俺の分もやるから機嫌直せ」


 いじめてたじゃないか。

 あと、そんなお茶菓子くらいじゃごまかされないからな。



「金髪君の分は無いよ?」


「よし白衣、表に出ろ。DOUTEIの貞の字が、実は帝王の帝だって事を教えてやる」


 コーイチと白衣、初対面からずっと仲悪いな……。

 またおでこをぶつけながら睨み合っているし。



「もうそのネタ飽きたから落ち着きや。それにお前、もうすぐ研修会始まるんやないか?」


「そうでした。金髪君の相手をしていたらこんな時間に……JKを愛でる至福の一時がDKと絡み合う最悪の一時に……」


「おいアキラ、ちょっと俺の背中に隠れろ。そうそう、顔を出すなよ? ディーフェンス! ディーフェンス!」


 むぎゅ。

 ちょっと押さないで、お茶菓子こぼれる。

 あ、これオレの大好きなしあわせターンだ。しかも200%パウダーの。

 お昼まだだし、お腹が空いてきたんだよね。



「くっ……! もう時間がないので去りますけど金髪君とは決着を付けないといけませんね。言っておくけど、さっきは30%の力しか出してませんよ?」


「俺だってまだ2回も変身を残していたからな? 光栄に思ってもいいぞ? この姿を見せるのは初めてだからな? 見せてねーけど」


「お前らどこのマンガのボスやねん」


 ポリポリ……。

 この甘しょっぱい味がなんとも。

 最後までコーイチと言い争いながら白衣は去っていった。



「で、相談なんやけどな」


 ポリ……。

 しあわせターンはクセになる美味しさだな。

 あ、そういえばそんな話だったっけ。

 コーイチと遊びに行くんだから早く終わるといいな。



「ちょっと前なんやけど、ワイのPNPが校長に奪われたんや」


「その手元にあるのはPNPってやつじゃないのか?」


「即日新しいの買うたからな」


 ポリポリ……。

 カッキーお金持ちだな。



「それは置いといて……どこぞの誰かが根も葉もない中傷を校長の耳に入れおってな。授業も碌にせんと、四六時中PNPで遊んでる、と」


「根も葉もしっかりあるじゃねえかと思います!」


「ホームルームの時間しかやってへんわい!」


 ポリ……。

 それはそれで問題だと思うけど。



「でや、罰として何か部活の顧問をやれと。持ち回りだと、ワイは今年は、やらんくてええはずやのに!」


「別に顧問くらいやりゃーいいじゃねえかと思います!」


「いやや! 残業代も出ないし、ネトゲやる時間が減るやないか!」


 ポリポリ……。

 子供かこの人は。でもネトゲやる時間が減るのはオレも嫌かも。



「で、校長のバカタレが『それが嫌なら儂を倒すか、さもなくばクビじゃ』とか言ってきてな……」


「倒せばいいじゃん何なら手伝うぞ報酬は試験範囲答え付きでいいですありがとうございます!」


 ポリ……。

 コーイチ凄い活き活きしてるな。なんでこうケンカっぽい事だと嬉しそうになるのか。



「無理や。校長には絶対に手を出すんやない。これでも教師やからな、自殺しようとする生徒は止めなあかん」


「随分大げさっすね。実は校長は熊殺しです、とか?」


「校長はアフリカ象を素手で倒してるで」


「………………マジ?」


「地上は制覇したから今度は海やと言うておった。だからワイに残された道は、部活の顧問になるだけやねん……」


「それなんて地上最強の生物だよ。じゃあ部活の顧問やるしかないと思います……」


 ポリポリ……。

 アフリカ象って強いのかな? 確かにすっごい大きいけど。

 まあケンカは良くないし、諦めてくれるなら何よりかな。



「で、ここからが相談なんやけど……適当に楽そうな部活作ってくれん?」


「随分いきなりな話っすね……つか既存の部活でいいじゃないっすか」


「運動系のしか余ってないらしいねん、しかも奴隷のような立場の、副顧問の席しか無いと言う……」


 ポリ……。

 あ、もう残り少ないな。

 それにしても奴隷のような立場って……。

 この学校は色々とおかしい。



「八神なら顔も広そうやしな。うちのガッコ、申請は緩いねん。6人集めて顧問見っければ即発足や」


「そんなんじゃ部活だらけじゃないっすか?」


「それが思ったより多くなくてな、運動系はおかしなのが一杯あるんやけど」


 ポリポリ……。

 おかしな、という単語でコスプレ手芸部を思い出した。

 確かあそこ、つぶれそうなんだっけ。



「だから頼む! 助けると思うて一つ! 試験範囲は教えんし、設立してもワイはなんもせえへんけど、この通りや!」


「それ俺に何一つメリットねえじゃねえか」


「部活やれば内申ちょこっと良くなるで?」


「ちょこっとなのかよ……つーかアキラ、関係ないって顔して、お菓子ばっか食ってんじゃねえ……って一人で全部喰いやがったのか」


 もぐもぐ……ゴクン。

 ごちそうさまでした。

 ……ちゃんと聞いていたよ?



「そうそう、美里で釣れば6人なんてすぐやしのう。あ、八神と美里で2人やから、あとたったの4人やで?」


「アキラで釣るとか腹黒いなオッサン!」


「ワイはまだぎりぎり20代や!」


 なんですぐ取っ組み合いを始めるかな。

 それにしても部活か。

 ネトゲの時間が減るけど、コーイチと一緒の部活に入るなら、考えても良いかな……。



「冷静に考えるとお前、ワイの事殴りまくってるやないか! 進級させへんぞ!」


「うるせえ一応手加減してるんだ感謝しろゲーム教師! お前こそ生徒に暴力振るってるじゃねえかPTAとか教育委員会的な物に訴え出るぞこんちくしょう!」


 そう言えばコーイチはサッカー部に入らないのかな?

 身体は問題無いって言ってたし、中学までずっとやっていたから、そのうち入るのかな。


 サッカー部だと一緒にはやれないから、できる事は応援くらいか。女子のサッカーもあるらしいけどね。

 一緒にやれないなら、つまらないな……。


 大きく膨らんだ胸元を見つめる。

 腰から下は、ズボンじゃなくてスカート。

 なんだかんだで脚も閉じるクセがついた。


 朝の一幕で『女らしくするなら遊びに連れていってやる』とか言われたけど、どう見ても女だ。

 少なくとも男子サッカー部には入れない、マネージャーとかならオッケーなんだろうけど。

 軽く頭を振ったら、髪の毛がファサっと音を立てた。

 ………………。

 …………。

 ……。



「おい、アキラ聞いてるのか? 言ってやってくれ。そんな面倒な事は嫌です、と」


「頼むで美里、放置プレイできる楽な部活がワイの希望や」


 考え込んでいたら、なにやら話を振られていた。

 まるで決定権がオレにあるみたいな物言いなんだけど。



「二人で言い争っていてもキリがないからな、アキラの意見に任せる事にした」


「美里、首尾よくPNPが返って来たら卒業するまでレンタルしてもええで。あ、これは独り言や、独り言」


 決定権がオレにある模様。



「今の所、俺は部活に入る気はない。自由気ままに学生生活を過ごす所存です! アキラもそうだよな? な?」


「なに言うてるねん。学生生活の華は部活動やで? 青春を謳歌する仲間を集めて、顧問の先生に頼らない独立不羈の部活を作るんや!」



 今の所は部活に入る気はない、か。

 いまのところ、ね。



 押し合いへし合いしつつ、こちらに詰め寄る二人に、オレはこう答えた。


『少し考えさせてもらえますか?』


 と。






 ーーーーーーーーーーーー






 二人揃って職員室を出る。

 結構時間も経ったし、部活が休みのせいもあって、廊下に生徒の影はまったく無い。

 並んで歩きながら下駄箱を目指す。



「……まったく、なんでキッチリ断ってくれないんだよ。絶望した! アキラの返事に絶望した!」


 道すがら、ひたすらぶつぶつと文句を言ってるコーイチを、まあまあとなだめる。



「だいたい進級危ないんでしょ? 少しくらいカッキーのご機嫌も取らないと」


「進級できるかできないかで確率は2分の1だから別に危なくねえよ」


 いやそれ十分危ないから。



「それに、はっきりと部活を創ります、とは言ってなかったじゃない」


「……それにしちゃ前向きな発言が多かったけどな」


「そうだったっけ?」


 しれっと答えつつ、カッキーとの遣り取りを思い出す。


 ――文科系でいくとしても、何をやる部活かくらいは考えないといけない、とか。

 ――人数が集められるかも、やってみないと分からないし、とか。

 ――試験や体育祭も控えているし、やっぱり時間が欲しい、とか。


 ……うん、前向きだったかも。



「あれか、PNPに釣られたのか。まさか親友に売られるとはな。ああいいさ、アキラは俺を売って得たPNPで存分に遊び倒すがいいさ!」


 あー、PNPを貸してくれるとか言ってたな。

 別にそれに釣られた訳じゃないのに。



「そんなんじゃないってば。カッキーも言ってたじゃない、適当でいいって。創るだけ創って、やりたい事ができたら抜けちゃえばいいよ、コーイチは」


「……ふむ」


「サッカーやりたくなったらサッカー部に入ればいいしさ、気楽に考えようよ」


 それまではオレと一緒でもいいじゃない。

 という言葉は心の中に飲み込んで、と。



「それに仮にも先生を殴っちゃってるんだよ? ここで点数稼いでおかないと」


「ヤツラも俺を殴ってたけどな。でも確かに一理ある。流石だなアキラ、しかも抜けちゃえばいいとか悪だなアキラ」


 コーイチが悪そうな顔でニヤリとした。



「人を集めるからには、それなりに続けるつもりだけどね。コーイチは自由にしていいよ」


 顧問をやったって事実があればカッキーも校長先生に許してもらえるだろうし。



「アキラを置いて抜けるとか無いけどな、まあ気楽に考えるか」


 !!

 なんでコーイチは、人を喜ばせるような事を不意に言うかな。

 しどろもどろになりながら、コーイチがしたいようにすればいいと思う、と応えるのがやっとだった。



「んじゃ、無駄に時間もくった事だし」


「うん」


「さっさと帰るか」


 !!

 なんでコーイチは人を怒らせる事を不意に言うかな。



「冗談だアキラ、その手を下ろすんだ。当方に逃走の準備あり!」


「……まったく」


 手を下ろしたのに、コーイチは階段を小走りで駆け下りて行く。あ、3段抜かしとか危ないってば!

 これで本当に逃げて帰っちゃったら絶対に許さないんだけど。

 流石にそんな事はなく、下駄箱で待っていてくれた。



 それにしても。

 ここ最近妙に避けられたりして、ちょっとヘコんでいたけど。

 カッキーに呼び出された後はコーイチも割りと普通だし。

 それに部活か……。


 おっと、手招きされてる。

 急がなくちゃ。






 ーーーーーーーーーーーー






「まずはメシ食ってからだな。アキラ、ヤックでいいか?」


「ヤックってハンバーガーの!?」


「うむ」


「ファーストフードってやつだな!」


「うむ……って何でそんなにハイテンションなんだよ」


「そういう所、あんまり入った事ないから!」


「マジかよどういうお嬢様だよアキラ爆発しろ」


「えっと、喫茶店なら1回だけある。ンドゥールだったかな?」


「あんなサンドイッチ一つが480円もするトコに入れるかばかやろうヤックでいいんだよ学生は!」


「別にそんなに怒らないでも……」


「まあいい。金持ちお嬢様のアキラに、俺がヤックでの作法を教えてやる」


「あ、うん、ありがとう」


「カウンターに行って『スマイルひとつ、席までお願いします』と言ってから適当に空いている席に座るんだ。わかったな?」


「うん、わかった!」


「上級者になると、スマイルみっつ特盛りで、とやるんだがな。アキラは初心者だから一つにしとけ」


「わかった、まずはコーイチが手本を見せてね」


「えっ」


「コーイチが手本を見せてね」


「………………」


「 手 本 を 見 せ て ね 」

少し前に、本作の主人公アキラのイラストを頂きました。

作者様の許可を得て、活動報告にて公開中となっております。

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