↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

2話 錬金と贖罪の香水


錬金術の本を読み始めて、錬金術の練習を続ける事数週間。

時間が掛かるのは相変わらずだが、ようやく簡単な武器や薬、防具の合成が出来るようになってきた。

不格好ではあるが試作品として冒険者や旅人の客に安い金で配布し、給金以外にも金を稼げるようになってきた今日この頃であるが。


目の前の鬼の形相の宿屋の女将ララエラ。

それに対し俺は正座でララエラに相対していた。


「なんであたしが怒っているのか、アンタには分かるかい?」


・・・さぁ皆目見当もつかない。

夜更かしで寝坊したあれ以来、俺は一寸の寝坊もなく宿屋業務に勤しんでいる。

勤務態度も一層真面目、仕事もちゃんとこなしているつもりだ。

一体、何が気に食わないのかさっぱりだ。


「マジで言っているなら本当にここから追い出すよ?」


「生言ってすいませんでした。俺の自室が恐ろしく汚いからです。」


俺は一生ものの土下座をかます。


「錬金術とやらに没頭するのはいい。

アンタが配布している武器とか防具とか耐久性はいまいちだけどそんじょそこらの同じ品質の物よりかは見栄えがいいって評判だし、薬も低級だけど効き目が店の物とほぼ同じだってもっぱらの評判だ。

しかも安価だっていうんで、それ目当てでうちに来る奴らも増えた。実際それでうちにも利益が増えている。それはいいさ。」


そうそう、俺がそんじょそこらの屑鉄を引っ張ってきて武器・防具の合成訓練しつつその試作品を安価で配布しているおかげで客足がさらに増えているんだよな。

薬も冒険者ギルドに依頼して薬草を冒険者に取りに行かせて、それを錬金でポーションを精製、それを冒険者に安価で振る舞っている。

大体馬小屋かエコノミーみたいな安い部屋を取るような初心者冒険者相手にだけだけど。

確実に宿の利益は増えている。


悪いことは一つも――


「ないと思っていたのか?」


「あ、悪魔たん。」


デデーンと謎の効果音が鳴り響きそうなくらい威圧感を出しているララエラに対し、俺はそう言葉を紡ぎ出す他なかった。

女将のララエラはオーガ族っていう鬼の血を引いた種族らしいからね。仕方ないね。

さて、ふざけてばかりだと、岩盤浴ならぬ壁浴をさせられそうなので現状を説明しておくとしよう。


そう、俺は錬金にかまけるがあまり自室の清掃を怠っているのだ。


「怠っているだぁ・・・?!」


訂正。していない。

錬金術を学習し始めてから殆どしていない。

最初こそ、そこらの錬金素材を引っ張ってきて消費しようと思っていた。

だが、金属類は上記でも言ったとおりそんじょそこら屑鉄だ。屑鉄からはそれなりに粗悪な武器や防具しか生まれない。

しかも錬金術を始めて二か月経つか経たないかの初心者錬金術師が作成したような物だ。

いくら見栄えが良くても初心者にしか貰われず。

全部が全部掃ける訳もなく。

不良在庫として部屋を圧迫している。

一応、薬草みたいな生ものは使い切れない分は乾燥させたり、分解して薬粉としてきちんと場所を分けて保管してはいる。流石に害虫でも湧いたりしたら事だからな。


そんなこんなで俺は堪忍袋の緒が切れたララエラに絶賛説教されているという訳だ。完全に自業自得です、はい。


「いくら自室だからって部屋の中をあれほど物で溢れさせる奴がどこにいるってんだい!!うちの宿屋にバイオハザードでも起こすつもりか!!」


あぁまたもやララエラの雷が落ちた。




「今日の業務はいいから、部屋を今日中に片づけな。いいね。」


ララエラはそう言い放ち、バタンと乱暴に部屋の扉を閉めた。

荒々し気に歩くララエラの足音が遠くなっていき、聞こえなくなった後俺は静かにため息をついた。


「やっちまった・・・。」


確かに、最近の俺は色々とズボラだった。

何かに夢中になると私生活が乱雑になるのは、異世界に転生しても性根は変わらんらしい。


事実、この世界に来るまでの俺の生活は乱れに乱れまくっていた。

借りていたアパートはただ仕事の合間の休憩場所としての機能しかしておらず。

食べ物やそれらの入っていた容器こそ置きっぱなしにはしなかったが、何か月も部屋の掃除をせず部屋中を埃であふれさせたのもしばしばだった。

その悪癖が今回、錬金術に夢中になった上で出てしまった。


業務停止してまで最優先でやれと言われた以上、早急に取り組まなければ。


まだ衣食住を失う訳にはいかんのだ。


――――――――


不良在庫として残っていた粗悪品の武器、防具は一度分解して鉄のインゴットへ加工しなおし、不純物っぽいものがごく少量ずつ取れたのでこれは取っておいて。

積りに積もった埃は、性質としては繊維質と砂利、その他成分で構成されているから糸に作り直してと。

錬金術を何とか駆使しながら、売れるもの、再使用できるもの、完全廃棄するものを仕分けをし、半日ほどでようやっと部屋が綺麗になった。


「流石に疲れた。」


ずっと錬金術を行使したり、掃き掃除をしたり、物を移動させたりで流石にへとへとだ。

時刻は既に夕方に差し掛かろうとしていた。


「もう夕方か。」


今日中に片づけるよう言われたが、何とかタイムリミットまでは間に合った。

鉄のインゴットは明日、ギルドか商店街の武器屋か防具屋に売りに行くとして。


想定より大分時間余ったな。


部屋の詫びとして今すぐにでも店の手伝いでもしにいくか?

いや、今日のララエラの機嫌はすこぶる悪い。

きっと今手伝いに行っても掘り返されてねちねちと嫌味を言われることだろう。

そんな中で働くのは精神的につらい。

特に今は精神的にも肉体的にも疲弊している状態だ。耐えられる自信はない。(自業自得だけど。)


となると何かお詫びの印に何かを渡すとかか。

女将が喜びそうなものか・・・・。


宝石、アクセサリー、とかが定番だが、ララエラには当てはまりそうにないな。実際、派手なアクセサリー類なんざつけていない。せいぜい、耳につけている無骨な輪ピアスぐらいか。


むぅ、分からん。

ここ二か月宿屋で過ごしているが、女将が好きそうなものなんぞ見当もつかんぞ。


いつも身だしなみには気を配っているから化粧品とか、か?

いや、化粧っけなんてないな。持っている気配もない。

むしろあの美人さはナチュラルな気がする。



となれば、香水か何か、か?



通り過ぎ様にほのかに香っているのを感じたこともあるし、その線が最も近いか?


・・・・よし。香水を作ってみるか。


確か、薬草の中に香水向けの物があった筈だし、本にも作り方が記載されている筈だ。


善は急げだ。




客が寝静まった夜。


「ララエラさ~ん。」


俺はそーっと、厨房の水場で料理の乗っていたであろう皿を黙々と洗っているララエラの遠く背後から覗くように声をかける。返事はない。だが視線は感じる。一応、俺の存在は認知しているようだ。


俺は覗き見るのを止め、おずおずと出て頭を下げながら言葉を紡いだ。


「片づけは一応終わった。綺麗だとは思う。迷惑かけた。ごめんなさい。」


俺の言葉に皿を洗いながら、ララエラは「はぁ」とため息を吐く。


「本当に済んだんだね?」


「なんなら確認しに行ってくれて構わない。ただ、部屋にあるインゴットは明日ギルドか商店街に売りに行くから明日までどかすのを待ってほしい。」


「それくらいならいいよ。全く、錬金術をやるなとは言わないけど、せめて小まめに掃除ぐらいしな。部屋の汚さは宿の評判にも繋がるんだ。気をつけな」


「次はないからね。」と釘を刺される。


「面目ない。次はないよう気をつけるよ。・・・それで、ララエラさん。今回のお詫びでだ。渡したいものがあるんだ。」


「渡したいもの?」


「ああ、これなんだが。」


俺はララエラの言葉に首を縦に振り、香水の入った小瓶を手渡した。


「へぇ、錬金術っていうのは女ものも作れるのか。」


「薬の錬金術の応用でな。一応色んな香水が作れるんだ。」


「嗅いでみても?」


「もちろん。そのために渡したんだ。」


俺の渡した香水をララエラは一滴手の甲に垂らし、そして嗅いだ。



反応は―――




―――あまり芳しくなかった。



「・・・・どうしたんだ。あまり気に入らなかったか。」


俺の問いにララエラは「いや」と首を振る。


「そんなことはないさ。出来はいい方だろう。店に売っていても遜色はないんじゃないか?ただ、あたしはこの匂いが、ペパーミントの匂いがあまり好きじゃなくってね。少しばかし、ね。」


ああ、そうか。

くそ、失念していた。

一言香水って言っても様々な匂いがあるし、人によって好きな匂いは千差万別だ。

俺が好きな匂いがララエラにとっても好きな匂いとは限らない。嫌いな匂いだってある訳だ。

普段香水なんぞに縁がないのに、香水なら何でも喜ぶだろうと、何の考えもなく作った俺のノンデリさに腹が立つ。


これじゃ詫びどころか逆効果だ。


ララエラはというと香水の瓶を懐に仕舞いつつ水場に戻り皿洗いを再開し始めた。


機嫌は、よろしくはないだろう。


無言の時間。

絶妙に気まずい雰囲気が続く。


そんな空気の中、皿を洗い終え、食器棚にしまう音だけが無常に響く。


皿を収納し終えたララエラが俺の横を通り過ぎようとしていた。

視線は俺に合っていない。ただ移動先を見据えている。


あぁどうしたものかと。

このまま機嫌を損ねた状況を続かせたくない俺は必死に考えを巡らせる中――


「・・・あたしはマリーゴールドが好きだ。」


ぼそりと。

ララエラは呟くようにそう言い、俺の横を通り過ぎた。


「え・・・?そいつは――」


俺は聞き返すように言葉を何とか紡ぐと、


「あたしが好きな花だよ。雇い主の好きな花くらい覚えておきな。」


それだけ言うと顔を赤らめながら奥へと消えていった。



ぽつんと一人残される俺。



「これは、一応、許された、のか?」



とりあえず、これ以降、なるべくララエラの機嫌は損ねないように部屋はこまめに掃除することと、女性の好みは予めリサーチをしておこうと心に決めたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。