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(わたくしはこのお屋敷のメイドとして雇われたのでは…?え、選定の儀?聞いておりませんけれども)
それがディアの頭の中に初めに浮かんだ感想だった。
ふとクリスティーナの顔が思い浮かぶ。
あの、理想の令嬢そのものを具現化したような彼女。
貴族然とした外見に優雅な仕草、しっかりと他者や状況を観察し優しく道行を照らす手腕。
どれも王城に上がっていた際にディアーナが欲しくてたまらなかったもので、完璧ではなくとも近づけるように日々努力を重ねていた。
まあ、いくらやっても合格を出さずいい顔をしない王城の指導者の鼻を明かそうと全力で立ち向かえば、課題はさらに増えてディアーナの心身を蝕んだだけだったが。
本当のところディアーナは優秀だったので王子妃教育の過程は早期に終了していた。
ならば何故いつまで経っても王城へ通わねばならなかったのか。
その理由は第一王子、ひいては王家に軽んじられている令嬢への嫌がらせと、いつまで経っても第一王子が教育課程を完了できないことの鬱憤晴らしでしかなかったのだがディアーナ自身が知るはずもない。
どうにもならない要素の外見だって今よりましになるよう道具に頼ったこともあった。
やはり年頃の娘が受ける外見への嘲笑は思った以上に堪えるものだったからだ。
しかしいくらやっても軽薄な黄色と言われた髪色は変わることなく…寧ろ悪化したため、それ以降はしていない。
瞳に至ってはグラスをかけるくらいしか思い当たらず、公式の場で色付きのグラスをかけて誤魔化し続けるわけにもいかないため実行にも至らなかった。
だからこそ目にした瞬間、ディアにはないものを沢山持っている彼女に強烈に惹かれた。
(けれどないものはないのよ。持ちえないものを求め続けるより、わたくし…私はここで出来ることを増やしていきたい)
俯いてしまっていた顔を意識的に持ち上げ、ディアは目を見開いて今目の前にあるものをしっかりと認識する。
その目に映っているのは選定者が過ごす屋敷と、その選定者に付く侍女だ。
嫌悪感さえ覚えるあの王城内の指導者たちではない。
「カナリア、私が選定者であるという客観的な証拠はありますか」
ディアがカナリアに真っ直ぐに向き合い尋ねる。
「……、御座います」
目を見張り、右足を一歩後ろに下げたカナリアはゆっくりと頭を垂れ、ディアの問いに答えた。
「わたくし共竜族は選定者様のみが持つことのできる、身分証のようなものを感知することが可能でございます。そして現在、お嬢様もお持ちでいらっしゃいます」
「私が持っている?…そう言えばこれは肌身離さず着けているように言われたけれど」
クリスティーナにここまで送ってもらった際、去り際に言われたことがある。
曰く、左手のブレスレットはお守りになるからどんな時でも決して外さぬようにと。
もし万が一失くしてしまったとしても持ち主の元に戻るようまじないもかかっている代物だから、そうなっても驚かないようにとも言われている。
「確かに私が一目ぼれして城下町で衝動買いしてしまうほど可愛いのだけれど」
身分証の代わりになるほどの物かと、ディアはおもむろに左腕を目線の高さまで掲げて袖を捲り上げ、手首に光るそれをしげしげと観察してみた。
それは色石たちが細い紐で編みこまれたブレスレットで、中央には少し大きめの石が留まっている。
願いが叶うとか幸運を運んでくるとかで、城下だけではなく王城内でも密かに話題になっていた品だ。
お茶会などでマウント合戦に使われていたそれをディアは外出の際に偶然見つけて買い求めていた。
思わず手を出してしまった理由を挙げればいくつか思いつくけれど、大きな理由は一つだけ。
中央のラベンダー色の石に惹かれたのだ。
いくつも並ぶ同じ型のブレスレットはどれも配色が違っていて、目移りしてしまいそうな品揃えだったのにディアの目はこのブレスレットにくぎ付けだった。
遠目にラベンダー畑を眺めているような色に、液体にミルクを流し入れたように入る柔らかな縞模様。
最初はおいでおいでと手招きされているように感じ、すぐにこの手の中に閉じ込めて連れて帰らなければならないような焦燥感に変わり、気が付けば自分で会計を済ませていた。
後にも先にも衝動買いをしたことなど、今回と母が存命だった時に旅先で見つけた小鳥くらいなものだ。
その小鳥も母が亡くなるとすぐに居なくなってしまったが。
「いけませんお嬢様!」
思いに耽っていたディアはカナリアの叫びに似た声に現実に引き戻された。
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