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本日二本目です。

まだの方は前のお話からどうぞ。




「では我々は扉の外でお待ちしておりますので…」


「いえ、このまま選定者屋敷にお帰り頂いて結構です」


あまりにきっぱりと、しかも遮るように言い切られたので今度はディアも含めて四人が反応を示した。

一番反応が激しかったのは当然の事ながら護衛の二人だ。


「我々はアカーテ伯爵家より選定者様をお守りするよう命じられている。それを反故にする権限はそちらにはないはずだが」


「部屋には入るな、待つことも許さないから帰れなどと、この後の選定者様の安全はどう確保するつもりだ」


この場の体感温度が上がったように感じられる。

事態は差し迫っているように思われた。

ディアは表情を動かさぬように気を付けながらデイジーに視線だけ送る。

それにデイジーは少しだけ顎を引いて応えた。


「私としては伯爵の気遣いを無駄にしたくはないので、護衛の二人も引き連れていこうかと思っていましたが…そちらの方針なら致し方ありませんね。貴方達は戻っていて」


それを聞いた護衛たちは難しそうな顔をし、案内人は口元を緩ませるという正反対の反応を返す。

別にディアはこの学校に巻かれた訳ではないので、どこでへ戻れとは指示していない。

若干肩を落として来た道を引き返そうとする護衛二人にデイジーがするりと近づき頭を下げて見送ったのをしっかりと確認してから、ディアは一歩案内人に近づいた。

そして言うのだ。


「私の護衛を返したからには、勿論選定者である私と侍女の安全はそちらが担保してくれるものだと解釈します。もし何かがあってしまったら…こちらにアカーテ伯爵家が押し寄せてしまいそうだもの、そんなことにならないように協力してもらえますね?」


背を向けている護衛にも聞こえるように若干大きめの声を出すことを意識しつつニッコリ、と音が付きそうなほど大袈裟に笑みを作って視線はしっかり案内役の顔に固定する。

伯爵家と言ったのは伯爵ご本人だけの話ではないからだ。

かの家が抱えている私設部隊は割と多岐にわたるようで人数もそれなりだと聞いている。

それは当然国の許可を得ているため、この国で知らない者などディアのような外部の物を除いていないはず。

案内役は緩めていた口元を今度は引きつらせ「…はぁ、」と返事だか溜息だかわからない音を出して、逃げるように学長室の扉をノックした。


「学長、お連れしました」


『どうぞ』


向こう側からの返答を待って開かれた扉の先には応接セットとマホガニーの執務机が置かれ、その前に姿勢の良い壮年の男性が立っていた。

勧められるままにディアが応接用のソファに腰掛けると学長が手を胸に当て恭しく頭を垂れた。


「お初にお目にかかります。わたくしはこの学び舎で責任者を務めております、ゼルド・スターガーネットと申します。選定者様にお目にかかれたことを光栄に思います」


挨拶を受けたディアは薄く笑みを浮かべたまま鷹揚に頷く。


「私は当代の選定者のディアです。お役目を果たしにまいりました。今日はこちらで候補者たちと引き合わせてくれるとか」


サラッと自己紹介だけしてサクッと本題に入る。

丁度目の前に湯気を立てた紅茶が置かれ、学長が座ったところである。

ここにきてからそれなりに時間が経っているからだろうか、早くしなければ、という意志が自分の中に強く感じられるのだ。

自分の感情のはずなのに何故か後頭部の後ろ辺りから眺めているような感覚に襲われている。

どこか本を流し見している時のように感じていた。


「ははは、これは熱心な選定者様だ。それでは早速ではありますが、候補者たちに会いに行きましょうか」


熱い紅茶をぐいと飲みほしてから学長はソファを立って扉の前でディアたちを待っている。

まさかこんなに早く対応してくれるとは思わなかったが、こちらの意を汲んでくれるのなら乗らない手はない。

ディアは、はしたなくない程度に目の前の紅茶を飲み干すとみっともなく見えない程度に急いで学長の後に続く。

案内してきた人物達はもうそこには居なかった。

忍び笑いを漏らす学長に先導されたディアとデイジーはすまし顔で歩き続け、やがて巨大な壁を通り抜けて演習場に出る。


「ただ今の時間はこちらで実践的な授業を行っております」


その言葉がディアの耳に届いたかどうか。

ディアは既にこぼれんばかりに目を見開き、目の前の授業という名の演習を見つめていた。

竜のサイズは人間の社会でいう大型犬ほどだが、牙をむき出しにして飛び回り炎を吐く様は現実のものとは思えなかった。


「キレイ…」


ディアの口から思わず思考が零れるが、これにも本人は気付いていない。

丁度オレンジ色の竜が対峙する竜の真上から炎を吐いたところだった。


(これが、竜族。これが、竜族の戦い方。これが…わたくしの日常となるのね)


「あれはオリヴィエ・スペサタイトですな。ガーネットの一族で炎による攻撃を得意としております」


見入っているディアに学長が教えてくれた。

そうこうしている間に演習は終了したようで竜たちが教師と思しき人物の前に集まっていった。

演習を見終えて声を出そうとしたディアはいつの間にか息を詰めていたことに気付く。

肺に溜まったままの空気を押し出しきってから思いっきり吸い込んだ。

乾燥していて砂ぼこりの匂いのする空気だったが、嫌いではない。

王子殿下の婚約者として王城に上がる前の幼少期は、王都から離れた領地で毎日のように野原を駆け回っていたのだ。

ここには草も木も生えてはいないけれど、ここでなら生きていけると感じた。

澱んだ空気の王城内とは比べるまでもなく、好ましいからだ。


けれどもいくらディアがそれらを好意的に思っていても、あちらも同じとは限らない。

現に竜たちの視線の中には怪訝そうなものや嫌悪感を浮かべているものもある。

それ以前に興味がないのかディアを注視していない者さえいた。


「ニンゲンが何の用だよ」

「あれが当代の選定者とかどうなんだろう」

「先代様が間違えたのかもしれないよ、あの人そそっかしいし」

「馬鹿言わないでよ、お姉様が間違えるわけないじゃない!あのニンゲンがズルしたのよ!」

「………すー」


風に乗ってそんな声が聞こえてくる。

ディアはそれを当然だと思っているし、陰口や嫌がらせなら今までの方がよほど悪質だった。

つまりは何とも思っていなかった。

後ろに控えるデイジーのこめかみには青筋が浮いていたのだが、気付いているのはのほほんと構えている学長と人型を取っている教員だけである。

こちらもまた、ディアーナは気にしていない。


「聞いていた通り、いきなり打ち解けるのは無理よね」


誰にともなくディアがそう零し、おもむろにくるりと振り返ってデイジーに笑みを向けた。

デイジーが嫌な予感に肩をひくりと震わせる。

ここ数日で彼女の笑みには色々と押し切られてきたからだ。


「私、早く彼らを知りたいの。知らないことには竜王陛下を選ぶこともままならないから。だから…ごめんね?」


デイジーが口を開くより早く、ディアは学長に告げた。


「彼らが人間を嫌悪する理由は知っていますが、私は彼らに危害を加えたり不快なことをしたりするつもりはありません。お互いに分かり合う場を設けねばいつまで経っても王竜選定の儀は終わらず、この国は困ったことになるのでしょう?それはお役目を任された私にとっても本意ではないのです」


学長は同じ顔のままディアの話を聞いている。


「どうせお互いを分かり合う努力をするというのなら、私もこちらでお世話になります。時間もないことですし、そちらの方が効率的でしょう?」


満面の笑顔で言い切ったディア。

周りは唖然としていて、口がぽかーんと開いてしまっている者までいる始末だ。

デイジーの青筋はすっかりどこかへ消え、代わりに目を見開いて上がっていた肩を落とした。




やっとこさ候補者たちと会えました。

登場人物が増えてくるので人物紹介をするかもしれません。

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