軍議
「もちろん、殲滅できるならそれが最善ですね」
ヴァレンティーナとウーコンは俺には笑っているように見える。
横を見るとシロウも心なし表情が明るいように感じる。
イザベラとノラは蒼ざめている。
ジョナサンは・・・わからない。
「元々、連携が期待できるメンバーでもないし、十万が相手では連携できても効果は薄いでしょう。
時間稼ぎだけなら円陣を組んで背中を守る手もありますが、ヴァレンティーナさんやウーコンは突撃型なので、自由に暴れてもらった方がいいでしょう」
「おお、任せとけ」
うん。頼もしいと言っていいんだろうな。
「そう言ってもらってありがたいが、私とジョナサンは大群相手の連携は決めてある。ジョナサンが私の背中を守って、私が斬りまくるって感じだな。結局は自由にやらせてもらうわけだが、そんな感じで戦わせてくれ」
「姉さんの背中は俺が守る」
おお、ジョナサンが喋った。
「ジョナサンは意外と魔法も使えるから、土の魔術や風の魔術で守ってくれるんだ」
「わかりました。それでお願いします。それと」
俺は青い顔の二人を振り返った。
「イザベラは空だ。オークの届かない所で魔法を撃ちこんでくれ。無理することはないから、魔力量に気を付けてな。一応、バッグを渡しておく。結構マナポーションが入ってるから使ってくれ。
それからノラ」
「はいです」
「まず、赤の魔剣をシロウに貸してやってくれ」
「は、はいです」
顔が益々青い。
「ウーコン、構わないよな」
「ああ、俺は構わないが」
「ノラは膂力が有るから、魔剣でオークをなで斬りにすることはできるだろうが、どちらにしても多勢に無勢で包み込まれる。いくら魔剣が有って相手を斬れても、自分の身を守れるとは限らない。だから、イザベラと一緒に空で待機して、イザベラの補佐をしてくれ。イザベラも一人じゃ心細いだろうから」
「はい、わかったです」
「ありがとう、心強いわ」
二人の顔色が多少ましになった。
「多分オークメイジも居るだろうから、空でも安全とは限らない。慎重にな」
「わかったわ」
俺はまた振り向いた。
「さて、後はシロウだが、赤の魔剣が加われば、二万はいけるだろう」
「大丈夫でしょう」
軽く言われてしまった。
「まあ、実際はやってみないとわかりませんが、期待してください」
おおいに期待するぞ。
「それと、この魔道具をお渡しします」
バッグから小さい道具を取り出した。
「こっちの部分を右の耳に引っ掛けるようにします。つけてみて下さい」
全員がその道具を耳にひっかけると、シロウは少し下がって距離をとった。
「これは小型のテレフォンのようなものです。イザベラとノラが空に居るなら、全体を見て指示できるところは指示してください」
耳の部分から針金のようなものが口元に伸びていて、その先の黒い球状の物に話しかけると、声が全員に届くようだ。離れていてもシロウの声がよく聞こえる。
「わかったです。これが秘密兵器ですね。みんな、軍師ノラの言うことをよく聞くです」
ノラの表情が明るくなった。調子に乗っているくらいがいいのかもしれない。
「おお、ノラの声を聞くと力が出るぞ」
ウーコンが獰猛な顔で笑った。
ちょっと怖いな。
「で、肝心のリードはどうするんだ」
ヴァレンティーナがきょとんとした表情で聞いてきた。
「ああ、説明が遅れてすみません。いい剣と防具が間に合ったので、俺もヴァレンティーナさん達みたいに斬りこませてもらいますよ。」
「おお、頼もしいな。
そうだ、斬り込み隊には言っておくが、深入りは禁物だぞ。できれば集団の端に位置して暴れた方が、多少とは言え囲まれにくい」
うーん。この人がそれを言うとは思わなかった。脳筋と言うわけではないんだな。
「何か失礼なことを思わなかったか」
「いえ、とんでもないです」
慌てて、ノラのような口調になってしまった。
「イザベラとノラは深く入り込む者が居たら注意してやってくれ」
「はいです」
役割が分かってくると何とかなるような気持ちになってくるな。
「何か聞いておくことや、言っておくことは無いか」
見回すが、特にない様だ。
「じゃあ、イザベラ。ギルドに連絡してくれ」
「えっ、私がするの」
「ああ、一番冷静そうだ」
「へへ、そうかな。わかったわ」
バッグからテレフォンを取り出した。
「パーティキントウンのイザベラよ。スタンピードの情報よ。ギルド長をだして頂戴。
そうよスタンピードよ。モンスターはオーク。十万の大群よ。今、ジェミニと合同で居るから、足止めする予定よ」
イザベラはヴァレンティーナを振り向いてテレフォンを渡した。
「ヴァレンティーナ、ちょっと出て頂戴。私の言うことは信用できないみたいなの」
いささかむっとしているようだ。
確かにスタンピードと言えば、ギルドとしても驚くだろうな。
「ヴァレンティーナだ。そうだ。オークのスタンピードだ。イザベラの言うとおりだ。とっととベンジャミンに代われ。
私だ。そうだ、十万はいるな。ちょっと待て、イザベラに代わる」
「イザベラ。ギルド長のベンジャミンだ。説明してやってくれ」
テレフォンをイザベラに戻した。
「イザベラです。場所はコーゴーチ高原。そうです、盆地を登ったその先に十万のオークが犇めいています。まだ、動きは見えませんが、こちらから先攻する心算です。
キントウンとジェミニの7人だけですが、ヴァレンティーナさんのほかにドラゴンスレイヤーのウーコンやシロウが居ますから。
もう、こっちは殲滅する気でいますよ。
ええ、私は普通の冒険者なので、無理はしません。空中から魔法を放つくらいです。
はい、そうですね。変化があれば連絡します。そちらも準備をお願いします」
テレフォンをバッグにしまった。
「連絡はついたわ。無理はするなって言ってたけど、ヴァレンティーナさん、別に無理とかじゃないんでしょ」
「そうだな。無理する心算はないな。ただ、殲滅が目標というだけだ」
うーん。まあ、本気なんだろうな。
「慌てることもないが、油断している豚どもを驚かせてやろう」
ただ、戦いたいだけに見える。
「よおしやってやるぞお」
おお、ジョナサンが喋ったぜ。
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