表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まあ、いいか【連載版】  作者:
元神の企み。そして――
146/152

人外達の遊戯1

 


 ネルヴァは神力を、リゼルは魔力を——。

 各々回復させた直後帝都全体を揺らした巨大地震にジューリア以外の面々が腰を低くした。前世生まれ育った国が地震大国と世界的にも有名なせいか、室内全体が揺れてもジューリアは地震が来た程度にしか思わない。が、すぐに側にいたヴィルに抱き締められた。



「ヴィル?」

「ジューリア何やってるの」

「あ……地震が起きてるなあって」

「呑気な」

「前世のせいかな。私が生まれた国は地震大国って言われてたもん」

「ただの地震じゃない」

「へ」



 間抜けな声を発し、ヴィル以外は一様に険しさの増した表情で揺れが収まるのを待っていた。

 漸く揺れが消えるとそれぞれ立ち上がり、同じ方角を見始めた。ジューリアだけが感じられないのなら、神族の可能性が高い。ヴィルに問うてみれば案の定だった。


 しかし。



「神力じゃない……魔力かとも言われると違う気がする」

「どういうこと?」

「……分かれば直接言うよ」



 曖昧な言葉を使うということは、つまりそういうことで。言い様のない力にネルヴァもリゼルも口を開かない。

「一旦外に出てみる?」とジューリアが提案すれば、それしかないと二人が頷いた。ネルヴァはミカエルに振り返り「君は引き続き治療を。魔族のお嬢さんも此処にいなさい」とビアンカに告げ、先に出て行ったリゼルに続いた。



「ヴィル、私も出たい」

「ジューリアが? 兄者達が戻るのを待とう」

「な、なら、少しだけ! 外の様子が分かったらすぐに戻る!」



 ただの地震なら宣言通りすぐに戻ると約束し、渋るヴィルを連れてジューリアも大教会の外に出た。先に出て行った二人がまだいて驚くと共に、視線の先を辿ったジューリアとヴィルも言葉を失った。

 帝都を象徴する城の半分が崩壊していた。周囲を覆う砂塵は薄くなっていることから、地震発生と共に崩れたと見ていい。耐震性が皆無だったのかと吃驚するジューリアの予想をネルヴァが否定した。



「違う。さっきヴィルが言っていたように何とも言い難い力が城の方から感じる。城の崩壊はその力のせいだろうね」



 表現の難しい力をジューリアが感じたくても魔力操作の練習を初めたばかりのせいで何も感じられない。無言のままリゼルが消えれば、肩を竦めたネルヴァが後に続いた。きっと城へと飛んだ。外を見たらすぐに戻ると言った手前、自分もとジューリアは言えなくなり、部屋に戻ろうとヴィルに呼び掛ける。

 これがヘルト達の仕業にしろ、最も狙われているジューリアを室内にいさせるのが先決としたヴィルは小さな身体を抱き上げ建物内に戻ったのだった。

 元いた部屋に戻るとベッドに腰掛けていたビアンカが早速外の状況を訊ねてきた。包み隠さず、見たままのことを伝えれば、テミスの治療をしていたミカエル共々身を固くした。



「城の崩壊……ユリア様が?」

「多分そうだろう。ユリアを地中へ引き摺り込んだあの黒い靄によって堕天化したなら、この妙な力の違和感にも説得がある」

「神族が堕天……」

「更に言うと黒い靄は母親が元々纏っていたものだ。ユリアとセレナ(あれ)が混ざった場合も十分有り得る」

「……」



 ヴィルの予想が当たっているなら、ユリアでもない、セレナでもない、全く別の生物が誕生してしまっている。


 


 


 ——崩壊した城へ飛んだリゼルとネルヴァの二人は、予想以上の惨状が目の前に広がろうと特に反応を示さず。姿と気配を隠す結界を張ったまま、呆然とする人間達を横目に温室があった方向へ向かっていた。



「特に力の気配が濃い。恐らく発生源は温室の地下。ユリアが引き摺り込まれた場所さ。……さて、一体何が出て来るのやら」



 天界の長い歴史に於いて神族が堕天した記録はない。人間界に最も強い神族と魔族がいることが奇跡に近く、そこに人間も入れば、気の遠くなる昔に討伐されたルシファー以来の協力体制となるだろう。二人の左右を忙しなく人間達が通り過ぎて行く。

「あ」と発したネルヴァが足を止め、釣られてリゼルも止めた。向こう側から騎士二人に支えられて崩壊した現場へと急ぐシメオンを発見したのだ。側にはマリアージュもいる。シメオンより前に、リューリューという魔法使いをリゼルが重傷に追い込んだ。その為の治療で呼ばれていたのだろうか。



「シメオン! 今は安静にして! 私が治療しても貴方が休まないとっ」

「私の怪我より、現状を把握することが先決だ。うっ……」



 騎士二人が傷の痛みに呻いたシメオンを気遣い、一旦足を止め地に座らせた。その間、マリアージュが治療を開始。



「今のシメオンが行っても足手纏いになるだけよ。貴方が優先するべきは、傷の手当。現状把握も今後も傷を癒してからよ!」

「マリアージュ、私は、私にはそんな時間は」

「シメオン!」

「城の崩壊は勿論のこと、それと、ジューリアが……っ」



 シメオンの口から出たジューリアの名前にリゼルが少しだけ反応した。ネルヴァもあの時一緒にいたから知っている。重傷を負ってもシメオンなら死なないと心配をしなかったジューリアは、自分に伸ばされた手を払うかの如く父親を拒絶していた。前世と今世の感情が混ざってしまっているせいでジューリアの頑固さには魔族も神族もドン引きする程だ。あれだけ拒絶されてもまだジューリアを心配するシメオンにリゼルが興味を示したのは、ネルヴァにも分かる気がした。


 ジューリアの名前が出るとマリアージュが顔色を変え、シメオンの話を聞くと悲痛な面持ちを浮かべた。



「シメオン……」

「ジューリアが何と言おうとあの子は、私と君の娘だ。魔族の餌になど、絶対にさせるものかっ」


  「これを見たってお嬢さんは気持ちを変えないだろうねえ。あれだけ意思の固い人間はそうはいない」



 他人が何を言おうとジューリアは意志を変えない。初志貫徹を貫ける人間は果たして何人いるのか……。



「はあ」

「どうしたの。らしくないね」

「あの娘が前世と今世の父親は違うと気付かない限り、今のままがずっと続く」



 前世の父親と今世の父シメオンは全く異なる人間。前者は兎も角、後者は七歳までは深い愛情を注がれたのだ。ジューリアとて違うとは分かっている。



「分かっていても、一度切り捨てた相手をお嬢さんは決して許さない。魔族に欲しいくらいじゃない?」

「ああ。役人に欲しいくらいにな」



 冷酷無慈悲な魔族と言えど、ジューリアと同等の意思の固さを持つ者はそういない。人間を止めたくなったら何時でも魔界に迎えるという趣旨の発言をしたリゼルに銀瞳が珍しいと向いた。



「リゼ君が人間に興味を持つなんてね。でも残念。お嬢さんはヴィルが一番好きみたいだから、ヴィルが馬鹿をやらかさない限り、お嬢さんを魔界になんて送らないよ」

「さてな。そろそろ行くぞ」

「はーい」



 決死の思いでジューリア救出を宣言するシメオンとそんな夫を心配そうに……でも希望を持って見つめるマリアージュ等の横を通り過ぎた。満身創痍の状態では、ジューリアを攫ったことになっている魔族の気配を感じられないらしく、何事もなく温室へと足を進めた。

 その後も人間達が多忙に動き回る側を無言のまま歩を進め、そして、少し前までいた温室に到着した。否、正確には温室があった場所だ。

 震源地はここと見ていい。言い様のない力を最も濃く感じ、温室のあった場所には巨大な穴が出来ていた。距離を置いて調査をしている人間達に気付く。穴の周囲を漂う力が濃すぎて迂闊に近寄れないのだ。ネルヴァとリゼルが穴の中を覗き込むも、どこまでも続く暗闇は見ているだけで引き摺り込まれてしまう吸引力があり、そっと後ろに下がった。



「はあ」

「溜め息なんて吐いて。怖いものでも見た?」

「後ろにいる奴を()()()()()言っているのか?」

「当然」



 だよ、と言いながら振り向いたネルヴァとまた溜め息を吐いて振り向いたリゼル。両者の視線の先には、調査をしていた人間全てを肉塊へと変えた存在がいた。

 片手で首を締めながら、腕と足を千切っては捨てている存在は視線に気付いたのか、二人を見た。


 黒い髪、瞳、肌。ユリアの面影を残しながら、その実全く異なる。片手で持っていた死体を抛った存在は聖母の如き慈愛に満ちた微笑みを見せ付けた。



「リゼ君何か感じる?」

「知らん」



 ユリアのヨハネス(我が子)を愛する気持ちは群を抜いて強かった。目の前の存在が発する母の気配は、成る程、ヨハネスへの愛情が悪い意味で変化してしまったようで。ネルヴァもリゼルも母親の愛情を欲する時期は遠い昔に消えている。この場にヨハネスやビアンカ、リシェルがいなくて良かった。ジューリアは微妙だ。


「来るぞ」とリゼルが口にした直後、ユリアの面影を残す存在は目と鼻の先に移動していたのだった。






読んでいただきありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あけましておめでとうございます。今年も更新ありがとうございます。 地震大国だろうと震源地での巨大地震でこの反応は正常性バイアスがかかってる人なのでは… リゼルが一度も怪我をしたままの娘を治さず気に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ